「ブラジル人のユーモア感覚」
赤 嶺 尚 由
つい最近の本欄に「真夜中」という題で人種差別についてちょっと書いたところ、いくつかの反響が寄せられた。反響があったのは、夜遅くまで勉強する夜学生たちが授業を終えて帰途につきながら、お互いふざけ合う時に、白人の生徒達が黒人の仲間達に対して、単刀直入に黒ん坊を意味する「ネグロン」などとは言わないで、その時刻の闇の深さ、あたりの暗さをとらえて「メイアノイテ(真夜中)」と呼ぶという、この国ならではの洒落た気遣いとかユーモア感覚を高く評価してのことと思われる。その点を進出企業駐在員の夫人たちが
作っている「ブラジルを知る会」(清水裕美会長)でも紹介してみたところ、かなり共感の手応えが得られた。さらに、同会では、無味乾燥の政界に少しでも潤いを持たせるのに、ユーモアのセンスが大いに役立っている、と、およそ次のような話をした。
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ブラジル国民のユーモア感覚は、その手、いや、その口から紡ぎ出される多彩なピアーダを見ればよく分かる。しかし、この国の政界をウォッチングし始めてから三十年を越す筆者の独断偏見のそしりをあえて覚悟の上で言えば、コーロル大統領が92年にインピーチメント(政治追放)された時、有力週刊誌「ベージャ」に載った「ブラジルで政治的に右寄りの考え方をする者は、右手で盗み、左寄りの考え方をする者は、左手で盗み、そして、真ん中(中道)の考え方をする者は、両手で盗む」を超えるほど、ユーモア感覚の横溢したピ
アーダは、まだ登場していない。右を向いても左を見てもまさに不正汚職だらけといった感じのこの国の状況を映し出した最高の諺は、目下のところ、それ以外にない。
◎ 就任後まもなく債務超過に陥り、苦慮したサンパウロ州のコーバス知事が連邦政府に道路、鉄道、空港などの資産を売り払おうとした時、政界の超実力者で有毒タイプの政治家ACM上院議長が「サンパウロ州は、何でもかんでも連邦政府に引き取ってもらい、自分たちだけ早く身軽に、スリムになろうとしている」と、非難したのに対し、同知事答えていわく「心配するな。ACMがサンパウロを訪問した際に一番宿泊するのにふさわしいブタンタン毒蛇研究所だけは、誰にも売らずに抱えておくから、遠慮せずに泊りにいらっしゃい」。このピアーダもなかなか記憶から離れにくいユーモアのセンスを含んでいる。
◎ 良くも悪くもこの国のピアーダの主人公にさせられる政治家にマルフ前サンパウロ市長がいる。ただ今、別居生活に入り、離婚手続きを進めているニセーア市長夫人が一番視聴率の高いTVグローボに駆け込んで、夫のピッタ現市長とマルフ前市長の二人は、政治関係の断絶が伝えられた後も、利権面で適当に住み分けている、と蜂の一刺しみたいな暴露をして政治弾劾騒動への契機を作った時、マルフ前市長は「誰が見てもあのニセーアの顔は、まともでないよ。自分で鏡を見て、早く精神科の先生に見てもらえ。また、TVに駆け込ませたのは、コーバスだ」と非難したが、ラシオシニオ(頭の回転)の鋭いコーバス知事は、その時少しも慌てず「マルフは、その悪人面を鏡に映してみたら、自分でもさぞかしビックリするだろうから、鏡など見ずにそのまま精神科医に直行せよ」と応酬した。

◎ 建設当時のブラジリアは、病気になっても医者がいなく、病院もなくて、いったん体調を崩したら、一目散に空港に駆けつけてリオやサンパウロ方面を目指すしか方法がなかったらしい。そこで「首都ブラジリアの良医は、空港である」といったピアーダの傑作も生まれたのではないか、と思われる。
文責=ソール・ナセンテ人材銀行代表=赤嶺尚由
- Sol Nascente 2000年5月9日号 サンパウロ発第2版−
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