不定期コラム 『南回帰線・北回帰線』 - 99/10
ブラジルが人種の“るつぼ”であり、様々な民族的出自をもった人々が織り成す社会であることは異論のないところであろう。企業社会もまた急速に出自の異なる企業がミックスする“るつぼ”になりつつある。 この点は、Exame誌の企業決算特集号Melhores e Maioresの1999年版をみると一目瞭然である。同誌がリストにあげる売り上げトップ500大民間企業のうち外資系は1998年決算で209社を数えた。90年時点でも外資系は146社で、その比率はアジアなどと比べるとすでにかなり高かったのであるが、10年も経ずに500大企業の4割を超えるまでに達した。97年が170社であったから、この1年間は年率23%の勢いで増えたことになる。 外資系の増加は、言うまでもなく国営など政府系企業の民営化や同族的な民族系民間企業の売却が背景にあり、M&A(合併・買収)の手法を使って欧米外資が積極的に“ブラジル買い”を進めてきてた証左である。オ・エスタード・デ・サンパウロ紙(9月28日付け)によると、海外からの今年のブラジルへの直接投資は昨年に近い250億ドルが見込まれるというし、すでに世界の500大多国籍企業のうち405社がブラジルに進出済みだともいう。 こうした傾向は、メキシコ、アルゼンチン、チリなどラテンアメリカの他の主要国にも見られる現象ではあるが、ブラジルが際立っているようだ。サンチアゴに本部を置く国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC)の調査によると、1996年時点でのラテンアメリカにおける製造業トップ100社のうちブラジルは40社と一番多い。しかもそのうち民族系民間企業17社に対して外資系は23社を数える。外資系の数が民族系を上回っているのはブラジルだけで、このリストの中でのことではあるが、メキシコ、アルゼンチンは均衡状態だし、チリやベネズエラは内資優勢の結果が出ている。 グローバリゼーションの下でドイツと米国の自動車メーカーが合併したり、米金融資本が日本の大手銀行の経営に乗り出すなど、国籍を超えた企業の連合や提携は世界的にも珍しいニュースではなくなりつつある。しかしこうした中でもブラジルの企業社会は、ブラジル資本やチリやアルゼンチン、メキシコといったローカル多国籍資本も含めて、最も急速に国籍のバラエティを高めつつあるのではないか。 出自の異なる企業が“るつぼ”の中で競争し混ざり合っている様は、これからの世界の行方を暗示する地球の縮図を見る思いでもある。という訳で、私はブラジルで起こっている現象を「コスモポリタンな企業社会の現出」と呼んでいるが、皆さんはどう思われるであろうか。近く出版されるアジア経済研究所による『ラテンアメリカ新生産システム論』にも、大きく変貌しつつあるラテンアメリカ地域の企業社会の姿が描かれている。 かつてブラジルは国際化を始めたばかりの日本企業にとって、海外経営を鍛練するビジネスマンの“道場”であった。ブラジルでの現地経営を経て、欧米での経営や本社の経営陣に携わる人材を多数輩出した。もし今日のブラジル企業社会が、世界の企業社会の縮図ないしは方向性を示すものであるとするならば、グローバルな経営の鍛練の場として活用されてもよいように思うのだが。 (1999年10月)
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