不定期コラム 『南回帰線・北回帰線』 - (2000/03/06)
上智大学教授 堀坂浩太郎 「大手銀行に外形標準課税を」との東京都・石原慎太郎知事の“爆弾発言”が銀行業界だけでなく霞ヶ関や大手町の「中央政財界」を震撼とさせている。石原知事の提案は、これまで所得に課税していた法人事業税を、利益のあるなしにかかわらず企業規模に応じて課税しようというもの。構造改革を理由に一向に収支が改善されない(国民感情からすれば「一向に改善しようとしない」)銀行業界に業を煮やして、中央主導の行政のなかで埃をかぶっていた外形標準課税の条項を掘り起こしたというわけだ。 東京都だけではない。ここ1、2年の政治ニュースを振り返ってみると、「地方の反乱」とでも言ってもよいような動きがみられる。住民投票による香川県吉野川堰の改修工事に対する「NO」の意見表明や、三重県による芦浜原発建設計画の白紙撤回などがその例である。これまでは国の外交問題として処理されてきた米軍基地の取り扱いも、沖縄・普天間航空基地の移設は地元自治体が主導権を握っている。 教育現場で相次ぐ悲惨な事件や神奈川、新潟とつづいた警察の不祥事も「中央」主導の行政組織が制度疲労を起こしている表れかもしれない。「教育委員会」や「公安委員会」を、戦後の設立当初の主旨にもどって、地域住民選出の市民機関に改めるべきではないか、とさえ思うこの頃である。 さて日伯関係も、関係改善の活力は案外地方にあるのではないであろうか。そうした思いを強めることとなったのが、さる3月1日、静岡県浜松市の浜松商工会議所で開催された「ブラジル経済事情セミナー」への出席であった。 浜松といえば日本のなかでも就労日系人が多い地域のひとつである。同市だけで1万人、周辺の磐田市などを加えれば1万5、6000人はいよう。自動車やオートバイ、さらにそれらの部品メーカーも加わって、浜松商工会議所の会員企業は1万3500社にのぼる。その数は日本全国8番目の商工会議所とのことである。 東アジアの経済回復もあって、浜松地区の自動車関連産業は昨年、過去最高の売上高を記録したとか。挨拶に立った浜松商工会議所会頭で自動車・オートバイメーカー、スズキの鈴木修社長は「地域の産業を担っているのが日系人の方々だ」と強調してやまなかった。2月に開校したブラジル学校コレージオ・ピタゴラスの設置に当たっても、地元から温かい支援があったようだ。日系人排斥が言われたころの浜松とは市民感情も大きく変わっている。 もっとも労働の担い手として日系人の多い浜松も、ことブラジルのこととなると情報に欠け、そもそもどのような国であるのか十分には理解されていない。ということで、コレージオ・ピタゴラスの開設のため来日しているブラジル農務省元テクノクラートのイシドロ・ヤマナカさんの音頭取りで、ブラジル銀行とヴァリーグ・ブラジル航空が主催し、浜松商工会議所・浜松市・浜松国際交流協会の後援でセミナーが開かれた。 講師はレイス駐日ブラジル大使のほか国際協力銀行の清水裕幸さん(元日本輸出入銀行リオデジャネイロ主席駐在員)、それに私であった。100人を超す地元経済界の方々が出席し熱心に聞いていたのが印象的であったが、セミナー後のパーティで挨拶に立った浜松市、磐田市の両市長が50代と若く、国際交流に積極的であったのも地方の活力を感じた理由だ。磐田市の鈴木望市長は、1980年代初めにサンパウロ日本総領事館で経済担当領事として過ごした人。予期せぬ再開に旧交を温めたのだが、同市がJリーグ「ジュビロ」のホームタウンであることもブラジルを近い存在にしている。 日本の地方にも、ブラジルの場合と同様に、「中央」にいては分からない活力がある。日系ブラジル人の多い日本全国の地方都市の市長が一堂に会して、「日本・ブラジル交友市サミットを開催してみたら」と提案してみたのだが……。 |