<21世紀と地球温暖化問題>
日本の温暖化対策としてのブラジルでの植林
森田 左京
京都議定書運用ルール、21世紀に持ち越し
昨年11月25日から26日にかけて、すべてのメディアは、オランダのハーグで同月13日から2週間の日程で開かれていた国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)第六回締約国会議(COP6)が、多くの対立点を残したまま合意に至らず閉幕したことを伝えていた。
これまでの経緯を簡単にまとめると、80年代後半から地球温暖化問題に対する世界的関心の高まりを受けて、92年5月、国連気候変動枠組み条約が採択され、その翌月リオデジャネイロで開催された国連環境開発会議で署名のため開放され、94年3月に発効した。同条約のもとで開催された温暖化防止京都会議(COP3)は、97年12月11日、京都議定書を採択した。この概要は、目標年次を2008−2012年、基準年を1990年とし、温室効果ガスを先進国全体で基準年より少なくとも5%削減しようとするもので、国別では日本6%、米国7%、EU8%を90年比で削減することになっている。
植林などの吸収源の増減を目標達成のため勘案することとしたが、詳細取り決めについては、昨年のCOP6まで先送りされていた。柔軟性措置については、@先進国間排出権取引の導入。先進国間で数量目的を「排出権」として取引できる仕組み。A先進国間共同実施の導入。先進国で温室効果ガス削減のプロジェクトを行った場合、そのプロジェクトに伴う削減量を譲受できる仕組み。Bクリーン開発メカニズム(CDM)の導入。先進国が途上国で温室削減プロジェクトを実施する場合、その削減量を一定の認証手続きを経て譲受できる仕組み、などが決められた。
とくに、CDMは先進国から途上国に資金が導入され、ブラジルにとっては植林事業などを進める可能性も出てくるわけで、COP6の成り行きには強い関心が持たれていた。
EUと日米の対立
今回のCOP6がまとまらなかった主な理由としては、既存の森林によるCO2(二酸化炭素)吸収分をできる限り削減量としてカウントしたい日米と、森林による吸収は1990年以降の植林によるものだけを主張するEUとの意見の差が埋まらなかったことによるものである。条約事務局がまとめたデータによれば、西側先進国の98年の温室効果ガス排出量は、90年に比べ7%増えている。これを国別で見ると、日本が10%、米国が11%、カナダが13%、それぞれ増加。一方、ドイツは旧東独との統一で16%減り、英国は石油や石炭から天然ガスへの転換が進んで8%減少し、EU全体では2%減っている。日本政府は「日本は比較の基準となる90年以前にかなりの削減を行ってきた」と主張し、これ以上の削減には森林の二酸化炭素の吸収などを認めてもらいたい意向だが、EUなどはこれに反対している。数値的には、日本は6%の削減目標のうち3.7%を森林での吸収でまかなうというものである。新聞が伝えるところでは、米国はこの方式で森林による削減量を計算すると、8.7%となり、目標とする7%はなんら削減努力しないで達成できることになってしまう。カナダも同様である。
COP6の議長はオランダのヤン・プロンク環境相が務めたが、プロンク議長の提案によると、森林の吸収量は、最大3%しか認めず、さらに一律85%割り引くとのことだった。これは森林の存在だけで安心して省エネなどの国内対策を怠らないようにとの配慮だそうだが、この結果日本に認められる吸収量は約0.5%になる。
この提案に対し、25日に日本政府は森林による二酸化炭素の吸収量から5%を割り引いてカウントする修正案を米国、カナダと3ヵ国共同で提案した。これによると日本の森林の吸収量は3.5%となる。結局「京都議定書」の細かなルールを決めるための閣僚折衝が続けられたが、多くの対立点が残り、合意できずに終わったわけである。特に森林の二酸化炭素吸収量をどこまで認めるかでは、最大限認めようとする日本、米国(5%割引き)と厳しい規制を求めるEU(議長案85%割引き)が激しく対立し、決裂の主な原因となったと思われる。COP6は「中断」という形をとり、PartUが2001年前半、実際には5月に予定されている補助機関会合の会期中ボンで再開される予定である。しかし日米欧はボン会合前に、先進国間で決着することに強い意欲をみせているともいわれている。
2002年はリオの国連環境開発会議から10年目、いわゆる「リオ+10」で、多くの国が京都議定書の発効をのぞんでいたが、そのためにはCOP6で各国が持ち帰って批准できるような京都議定書の運用ルールが取り決められなければならなかった。これが発効するためには、@55ヵ国以上の国が締結し、A締結した付属書T国(FCCCに参加した先進国およびロシア、東欧など市場経済への移行の過程にある国)の合計の二酸化炭素の1990年の排出量が、全付属書T国の合計の排出量の55%以上という両方の条件を満たした後、90日後に発効することになっている。付属書T国の排出量の割合は米国が36.1%、日本が8.5%、カナダが3.3%で、この3国が反対すれば、55%に達せず、議定書は発効しないことになる。
私見であるが、日米欧が合意に達しなければ京都議定書は発効せず、人類の地球温暖化対策は進行しなくなるのであるから、COP6では妥協点を見つけるべきであったと思う。EUはほぼ削減目標を達成しているのであるから、日米の立場を考慮する余裕があってもよかったのではないだろうか。
日本は6%の削減目標のほかに、90年から98年までに10%排出量を増やしている。さらに2010年までには、10%程度増加して合計では26%削減しなければならないことになる可能性もある。日本が主張する3.7%を全量認めても、日本には22.3%もの削減義務を負わせることになる。85%割引きを主張するプロンク議長の態度はいささかピューリタン過ぎたようで、「角を矯めて牛を殺す」結果になったのではないだろうか。
米国の立場も日本と似たようなもので、7%の削減目標のほかに、98年までに11%増えており、さらに11%増えるとすると合計29%にもなる。森林による吸収の割引き率を多少妥協しても、二酸化炭素の最大の排出国である米国を取り込むことの方が、COP6の目的に適ったのではないかとも思われる。
日本については次のような問題もある。プロンク議長が出した調整案では、先進国の二酸化炭素(CO2)などの削減目標が達成できない場合、「罰則を伴う強制的措置」を適用することを大半の国が求めていると強調し、「勧告」にとどめるべきだとする日本の主張を退けた、との報道が伝えられた。罰金などの強制的措置については米国、EU、途上国などが賛成しており、日本が反対するのは、ゴルフで「OBをしても、ノーペナにしてくれ」と頼むようなものだろう。約束はするが、最初から守らないと言っているみたいで、京都会議の議長国の発言としてはそぐわない気がする。
日本の温暖化対策としてのブラジルでの植林
私は昨年の本誌10月号に「原子力発電とユーカリ−21世紀の日伯関係構築の可能性」と題する小論を寄稿し、日本が省エネや燃料転換によっても二酸化炭素排出の削減目標達成が困難な場合、ブラジルにおけるユーカリ植林に頼るべきだと指摘した。「土地・太陽・水」という光合成の基本条件で、世界でもっとも恵まれているブラジルでの炭素固定は、地球の反対側という距離的な不利に関係なく、日本側の必要を満たすだけでなく、投入される資金はブラジルで最も緊急な社会問題である「土地なし農民」の雇用の解決にも大きく貢献できること、その結果21世紀における新しい日伯関係が構築できる可能性について述べた。また、プロジェクトの経済性については、日本での火力発電で二酸化炭素を回収して、地中貯留あるいは海中処理する場合のコスト3乃至4円/kWhに対し、ブラジルのユーカリ植林による二酸化炭素の固定では1円/kWh以下で収まるという試算も示しておいた。しかし、私の記事に対する反応は今一つで、難しすぎると言われることが多い。書いている本人には当たり前のことだが、電力単価など一般の人には縁のない話しかもしれないと反省して、今回はブラジルでの植林による二酸化炭素の固定の問題を今までと違う観点から取上げてみようと思う。
日本の炭素排出量削減目標
98年の参院選の前にNGOや学生サークルなどの団体が、「温暖化対策」などについて各政党に対して実施したアンケートの結果がある。京都議定書の温室効果ガスの削減目標達成については、「国際制度の枠組みを積極的に利用」とする自民党に対し、民主党は「国内対策だけで達成できるよう、法を定めるべきだ」と答えたとのことである。
98年といえば京都会議の次の年で、90年を基準年として日本は二酸化炭素の排出を6%削減し、さらに90年から97年までに約10%増加していることも分かっていたはずである。合計で16%の削減をしなければならない。これは炭素換算でいえば、90年の日本の排出量は3.07億トンであるから、約5000万トンになる。COP6で3.7%(約1100万トン)を森林で吸収することを認めてもらうために、悪戦苦闘した日本にとっては、5倍近い量である。98年から2010年までの間に、さらに10%増えたりすると、26%実に8000万トンを削減しなければならない。民主党はこれを国内対策だけで達成できると本当に信じているのだろうか。
また、産業構造審議会地球環境部会報告書(平成9年3月12日)によると、CO2対策技術として、@CO2の放出抑制、とA大気中からのCO2除去について述べられている。放出抑制には省エネルギー、低炭素燃料(天然ガス)への転換、非化石エネルギーの開発(自然エネルギー、原子力・核融合など)、化石燃料からの炭素除去(さきに述べた地中隔離・海中処理など)が列記されている。しかし大気中からのCO2除去については、植林(砂漠等利用)と海洋への吸収促進(サンゴ礁利用)などで、具体性に欠ける感じがする。日本にとって、将来実際に必要となると考えられる数百万トンあるいはそれ以上に及ぶ量の炭素の固定が具体的に検討されたという話は聞いたことがない。民主党の回答にも見られるように、日本の温暖化対策は小規模な植林は別として、国内の枠を外れては考慮されることがなかったものと思われる。
火力発電所と植林の組合わせ
ここで火力発電所が排出する二酸化炭素を固定するために、どのような規模の植林が必要となるか説明しておく。昨年2月中部電力が三重県に予定していた芦浜原発(2×135万kW)の建設を断念した。同じ規模の台湾の第四原発も建設を中止することになった。かりにこれを代替するために270万kWの天然ガス火力発電所を建設すると、年間に270万トン(炭素換算)の二酸化炭素を排出することになる。ブラジルのユーカリの成長は世界で最も早いものの一つであり、ヘクタール当り少なくとも年間約5トンの炭素を固定する。従って、270万トンの炭素を固定するためには、54万ヘクタールの植林が必要である。これは5400km2で、ほぼ千葉県(5156km2)、愛知県(5150km2)、三重県(5774km2)の面積に匹敵する。日本でこれだけの面積の植林が不可能なことは明らかだろう。1970年代に日伯合弁のナショナル・プロジェクトの一つとして設立されたパルプ・メーカーのセニブラ社は、その社有地20万ヘクタール(20000km2)のうち11万ヘクタールに植林し、年間80万トンのパルプを生産している。ブラジル発見以来500年経ったが、この間開発のために伐採した森林面積は300万km2に及ぶとのことである。日本では不可能な植林面積もブラジルでは微々たるものである。気温、降雨量も問題なく、ユーカリ植林はブラジルでは産業として確固たる基盤を持ち定着している。労働コストも日本と比較すれば、10分の1以下、日本企業の植林が話題となるオーストラリアと比べても5分の1以下と思う。ここでは270万トンの炭素固定の例を述べたが、日本の削減目標6%に今までの排出増加分10%を加えたものは、炭素で5千万トンになる。これを排出しないで済ませるためにはどのような手段があるのだろうか。また一旦排出した場合、どのようにして炭素を吸収し、固定するのだろうか。5千万トンをユーカリで固定するにはブラジルの恵まれた「土地・太陽・水」を利用しても10万km2が必要である。私には日本の具体的な対策を知りたいこと、まことに切なるものがある。
「排出権取引が温暖化対策の決め手」安本論文
昨年の「中央公論」9月号で、「排出権取引が温暖化対策の決め手<提言>」という論文を興味深く読んだ。筆者の安本氏は通産省からJICA理事を経て、現在(財)地球産業文化研究所の専務理事をしている方である。要点は、京都議定書に盛られた温室効果ガスの排出削減をめぐって、「環境税」導入への流れができつつある。しかし、目標達成の条件を検討していけば「環境税」ではコストが高く、効果も低いことは明らかだ、として合理的な排出削減制度の条件を列挙し、明快な解説が付されている。最も我が意を得たところは「こうした排出権取引が可能なのは、大気中の温室効果ガスの濃度を下げるためならば、排出削減が地球のどこで行われようと同じだからだ。極端な話、日本が約束した削減を地球の裏側で実行しても同じことだ。(中略)排出権取引に頼らなくては世界全体が削減費用を最小化できない」という点で、これはまさに私がブラジルでのユーカリ植林を日本のCO2排出削減に利用すべきだと主張していることそのものである。費用に関する推計について、安本氏は藤井康正東大助教授が世界エネルギーモデルを用いて行った2010年についての評価を引用している。これによれば、日本の費用は西欧とほぼ同じ炭素換算1トン当たり約300ドル、北米ではおよそその半分強。ここに排出権取引が導入されると、先進国の費用はおしなべて70ドルに、それに途上国を対象とするCDMが加わると全世界で30−40ドルに下がるという。本誌10月号に掲載した小論でも、ブラジルにおけるユーカリ植林による炭素固定コストは、土地の購入費を含む、含まないとか、成長率の仮定にもよるが、30−60ドルという試算の結果を示している。藤井助教授の論文を読んでみたくなり、インターネットでコンタクトしたところ、折り返しE−メールで同氏の論文「世界エネルギーモデルによる温暖化対策の定量的評価」が送られてきた。誌面を借りて厚くお礼を申し上げる次第である。読者の中でこの論文に興味のある方は、本誌編集部に置いておくので遠慮なくコピーを取られればよいと思う。
なお、安本論文には末尾に(本稿は筆者個人の意見にもとづく)という但し書がつけられている。同氏が専務理事を務める地球産業文化研究所は、理事長の平岩外四・経団連名誉会長・東京電力相談役以下日本のトップ財界人が理事として名前を連ねている。この論文が研究所の総意を表明するものであれば、さらに喜ばしいのだが、たとえ筆者としての安本氏個人の意見であっても、私にとってはまことに心強い論文だった。
日本の食料・エネルギー自給率
前に述べた民主党の対応のように、地球環境問題を国内ですべて処理できると思い込んで、地球規模で考えようとしない「井の中の蛙」的な意見も多いが、世の中にはできることとできないことがある。日本でもその実例は見られる。食料自給率もその一例である。穀物(食用+飼料用)の自給率は95年には30%だった。米は保護政策によって100%以上を保っているが、小麦は7%、大豆は2%に過ぎない。鶏卵は96%、牛乳・乳製品は72%と見かけの自給率は高いが、これは輸入飼料のお陰である。カロリーベースの供給熱量自給率は42%だった。最近はさらに下がって40%を切ったと新聞が伝えていた。食料ばかりでなく、燃料や鉱物資源などの輸入依存度にきわめて高い。括弧内は95年の輸入依存度(%)を示す。石炭(95.2)、原油(99.7)、天然ガス(96.4)鉄鉱石(100)、ボーキサイト(100)、銅鉱石(99.8)、亜鉛鉱(85.2)、木材(55.1)、塩(84.5)となっている。国土の3分の2が森林で、その樹木が吸収する二酸化炭素で3.7%の削減を達成することを主張しながら、国内で消費する木材の半分以上を輸入に頼っているのも妙なものである。94年の日本の一次エネルギー自給率は19.6%であり、フランスの53.6%、ドイツの45.1%をはるかに下回っている。さすがに、食料や一次エネルギーを自給しよう、すなわち国内で処理(賄う)しようという声は上がらない。少し冷静に考えれば、地球温暖化対策の二酸化炭素の吸収・固定も海外に依存せざるをえないことは明らかである。
かりに、1000万トンの炭素を固定するのに、藤井助教授の推計によれば、日本国内ではトン当たり300ドルとして30億ドルの費用がかかる。CDMなどの排出権取引を利用すれば、10分の1の3億ドルで済むことになる。昨年北鮮に対する食糧支援で、国産米を使ったことに対し、外米を使えばコストは何分の1かで済むはずだと非難されていたが、炭素固定の問題も似たようなものと考えられる。
リオドセ社のセニブラ持株売却
10月号で、日本がブラジルで大規模な植林事業を採り上げるつもりがあるならば、かって日伯合弁のナショナル・プロジェクトとして発足したセニブラ社を傘下におさめるべきだと述べておいた。パートナーであるリオドセ社がその植林・パルプ部門の子会社4社を手放すこととなり、ブラジル国内外の紙・パメーカーに買収プロポーザル提出を求めた。10月末に、招待はされなかったがエンロンが入札に参加を希望しているという話が伝わってきた。エンロンは世界最大の総合エネルギー企業であり、ボリビア−ブラジル天然ガス・パイプラインをはじめ、ブラジルにおけるガス会社やガス火力発電への大口投資で活躍している。日本でも山口県宇部に石炭火力(50万kW)やむつ小川原にLNG火力(200万kW)などの発電所建設を発表している。パルプには関係ない会社であるが、あるいは植林と組み合わせて日本などで二酸化炭素吸収済みの電力を売り出す計画でも始めるのかと気になったが、幸い入札には参加しないことになった模様である。買収を希望する6社(ブラジル3社、海外3社)には経営情報が公開され、あとは買収価格の提出を待つばかりになっている。新聞によれば、3月に入札が行われ、リオドセ社のパートナーの株主が優先権を行使しない場合のみ落札者はリオドセ社の持株を取得できることになるが、合弁企業のバイアスル社、セニブラ社について、それぞれのパートナーであるスザーノ社、JBP(日伯紙パルプ資源開発)社はいずれも株主優先権を行使する意向であると伝えている。日本の地球温暖化対策の一環としても、セニブラ社の行方を関心をもって見守りたい。
2100年の地球 − IPCC第三次報告書
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は国連支援のもとで、各国から温暖化に関する専門家が集まって科学的なアセスメントを作成するものであり、88年に発足し、90年に第一次報告書を発表した。95年には第二次報告書で2100年に1−3.5℃の気温上昇を予測したが、2001年9月に公表される予定の第三次報告書では、「1990年から2100年にかけて気温は1.5−6.0℃上昇し、海面も15−95センチ上昇する」と予測。従来の予想を超えるペースで悪化すると同時に、「人間活動の影響が主要な原因である」ことを初めて明確に指摘しているとのことである。6℃の気温上昇を日本に適用するならば、緯度で約8度北上するので、青森が現在の熊本・長崎並みの気温となり、東京の気温が稚内に移動することになる。植生は10年に0.1℃以上の気温の変動にはついていけないので、日本列島の植生は一変することになる。海面上昇では最悪の場合、マーシャル群島の一部の島の80%、バングラデシュの17.5%、オランダの6%が海面下に沈むという。日本の白砂青松の海岸もほとんどが消滅するだろう。最近テレビで南極大陸の棚氷が崩れて海中に落下している映像をよく見かけるが、地球の陸地にある氷(氷冠や氷河)がすべて融けて海に注ぐと海面はいくら上昇するだろうか。答えは約80メートルであり、海抜760mのサンパウロは問題ないものの、サントス、リオなど大西洋岸の港湾都市はすべて水没する。東京、ロンドン、ニューヨークも海面下である。これは極端なケースであるが、将来、地球温暖化は人類にとって最も重要な問題であることを認識する一助にはなるかもしれない。
地球温暖化問題とは優れてエネルギー問題である。人工衛星搭乗員用のNASAのデータを使うと、人間がその呼吸によって年間排出する二酸化炭素は炭素換算で100kg−Cである。人類60億人とすると、年間6億トンの炭素を排出するが、この程度であれば地上の植物や海洋が吸収してくれるので、大気中の二酸化炭素は増えることもなく、その濃度は産業革命が始まる1750年当時の280ppmvを保っているだろう。しかし石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料から蒸気機関、ガソリン機関、ガス・タービンなどを用いて動力を引き出すことを知った人類は、太古の動植物が数億年から数千万年の時間をかけてできた化石燃料を、あっという間に使い果たそうとして、自ら招いた結果が地球温暖化である。現在炭素換算約60億トンの二酸化炭素を大気中に放出し、地球環境が吸収しきれない約58%が大気中に残り、温室効果を加速させている。この250年で濃度は360ppmvに達し、さらに加速度的に増え続けている。かってローマ・クラブが指摘したように、資源は有限である。埋蔵量を年間採掘量で割って求めた可採年数は、1995年において石炭が145年、原油が45年、天然ガスが63年となっている。埋蔵量はコストの関数でもあるので、無くなりかけると増える例は見ているが、かりにそうであっても、今後可採年数がさらに750年、すなわち産業革命から1千年にわたって、化石燃料が現在の需要に引き続き対応できるとは考えられない。すべて燃やし尽くせば、炭素の排出はなくなるが、核融合技術によるエネルギー供給が可能にならないかぎり、人類の将来は悲惨なものになるだろう。
二酸化炭素排出の南北問題
冒頭に述べたように、COP6は先進国の間でも合意に至らず決裂した。もちろん、大人同士のことであるから、いずれ妥協点は見出すものと思われる。しかし、地球温暖化問題に対応するためには、京都議定書で縛られていない途上国の問題を解決する必要がある。さきに述べたように、60億人の人類が、60億トンと炭素を排出しているから一人当たりの平均は1トンになる。これが公平に1トンであれば問題はないが、国によっての格差があり、とくに先進国と途上国の差は極めて大きい。米国エネルギー省の資料に基づいて97年の各国の化石燃料の消費による炭素の排出量から、国民一人当たりの排出量を試算して、主な国の数値を下記に示す。単位はC−トン/人・年である。
米国(5.56)、カナダ(4.55)、英国(2.54)、ドイツ(2.87)、フランス(1.74)、イタリア(1.96)、日本(2.35)、オーストラリア(4.10)、ニュージーランド(2.27)、中国(0.63)、インド(0.26)、韓国(2.61)、台湾(2.63)、シンガポール(6.91)、インドネシア(0.35)、マレーシア(1.23)、フィリッピン(2.41)、タイ(0.77)、ベトナム(0.15)
この数値を眺めるだけでいろいろな問題点が見えてくる。米国が途上国も炭素の排出規制をやらなければ、京都議定書は批准しないと主張しているのは道理に適っているのだろうか。中国とインドが世界の平均の1トンまで排出量を増やすと、増加分だけで12億トンとなり、全世界の現在の排出量は20%増加する。途上国の国民の生活を豊かにするのに、エネルギー消費を増やさずに実現できるのだろうか、等々。
新しいミレニアムを迎えたが、地球温暖化対応だけでも、人類の未来には問題が山積しており、なかなか楽しい初夢というわけにはいかないようである。
(おわり)
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