『緊急提言」

京都議定書  米国の離脱と日本の立場
日本がいかにして21世紀環境外交のリーダーシップをとるか?

   森田 左京



<要旨

@米国が京都議定書から離脱し、世界には日本のリーダーシップを求める声もある。

A日本が議定書で定められた6%の二酸化炭素排出の削減は、逆に5−8%増加
し、すなわち90年ベースで11−14%の排出量増加となる見込み。これは炭素換
算で3300−4200万トンに相当する。

BCDM(クリーン開発メカニズム)を使ってでも、5000万トンの排出削減
が出来れば、日本は21世紀の環境外交でリーダーシップをとることも可能である。

Cブラジルでのユーカリ植林であれば、14年間に300億ドル(約3.7兆
円)の投資で、年間5000万トン(合計7億トン)の炭素固定が実施できる。

D  成長したユーカリをパルプ原料、建材、バイオマス燃料などとして売却すれ
ば、投資額のうち可成の部分は回収できる。



<ブラジルと京都議定書

4月8日付の新聞にサルネイ・フィーリョ環境大臣が「気候変動と京都議定書」と題した論文を寄稿している。ブッシュ大統領の発言を痛烈に批判した上で、3月29、30の2日間にわたりカナダ政府の提唱で開かれた米州閣僚会議で環境省を主体とするブラジル代表団が主役を演じた事件について述べている。それによると、   「米国の代表団は地球温暖化問題に関しては、なんら削減の約束にふれることのないテキストを提出してきた。
これに対し、ブラジルはラテンアメリカとカリブ諸国(NAFTAのメンバーであるメキシコも含む)を動員して二つの行動をとった。

1.米国の代表団が提案したテキストの放棄と、最終発表に地球の気候変動に関して参加国の意見の一致は見られなかったことを加えた。

2.京都議定書の批准および実効の約束を再確認し、米国およびカナダを除く32カ国の閣僚および代表が署名した宣言をメディアに発表した。  この中で署名各国は先進諸国が京都で行った約束を実行することを勧告してい る。

さらにブラジルの立場については 「ブラジルは持続可能な発展を可能とする、地球規模の問題の解決に向けての各国の努力の重要性を理解する。われわれは最近の米国の声明を危惧の念をもって見ている。ブラジル政府と環境省は、京都議定書の実施を断固として支持し、気候変動の緩和に向けて積極的に行動していく。議定書は最後の手段として、現在および未来世代の生活の質の大幅な改善のために全世界の社会の要望に応えるものである。」と極めて明確である。
  

<ブッシュ政権  京都議定書から離脱>

ブッシュ大統領は「世界の80%が参加しないような議定書は支持できない。われわれの経済を損ない、米国の労働者を傷つけるような計画を受け入れるつもりはない」と言っている。世界の80%が参加しないことに不満の意を表わしているが、数字を見ると大した根拠がないことが理解できる。
   
現在60億人の世界人口で、人間の活動により二酸化炭素を年間60億トン(炭素換算)大気中に放出している。一人平均は1トンである。しかし内訳をみると、人口20%を占める先進国が、炭素の80%排出している。12億人で48億トンであるから、一人平均は4トンとなる。一方途上国は世界人口の80%を占める48億人が、炭素の20%12億トンを排出しているので、一人平均は0.25トンである。

平均で比較すると先進国の住民は途上国のそれの16倍の炭素を排出している。米国は一人あたり5.5トンを排出しており、カナダも似たようなもので5トン近い排出である。米国の大統領が途上国が削減義務を負っていないのだから、京都議定書に反対と言うのは、まさに言いがかりであり、途上国側の反発は当然である。

ブッシュは炭酸ガスの排出と地球の温暖化の関連について科学的に解明されていないと強弁しているが、それならば途上国人口一人当たりの排出量は米国のそれを超えないと約束すればよいのか、そうでなくて、米国の排出量の25分の1しか出していない途上国に更なる削減を求めようというのでは、お前たちは現在以上の発展はあきらめろと宣告するのと同じである。

前述の米州閣僚会議で米国とカナダを除く全員が反対したのは、世界が相手でも同じ結果になると思われる。ただ気になるのは日本が玉虫色かも知れないことである。ブッシュが地球温暖化問題で国益を表にたてて京都議定書を否定するのは、米国は世界のリーダーの座を降りたことを意味しているのではないだろうか。
   

<COP6までの経緯>

EUなどが「米国抜きの発効」を主張し始めたことに日本政府は警戒しているといわれている。当面米国の離脱回避を説得するよう努力するというのが、日本政府の基本姿勢だろう。しかし多くのニュースは短期間にブッシュ政権の立場が変ることは考えられないと伝えている。

もともと昨年11月のCOP6では日米両国はEUと対立しており、その結果COP6はまとまらず、結論は今年7月のボンでの会議に持ち越された。ここで昨年のハーグでのCOP6を振り返ってみる。

昨年11月25日から26日にかけて、すべてのメディアは、オランダのハーグで同月13日から2週間の日程で開かれていた国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)第六回締約国会議(COP6)が、多くの対立点を残したまま閉幕したことを伝えていた。
 
これまでの経緯を簡単にまとめると、80年代後半から地球温暖化問題に対する世界的関心の高まりを受けて、92年5月、気候変動枠組み条約が採択され、その翌月リオデジャネイロで開催された国連環境開発会議(いわゆるリオ・サミット)で署名のため開放された。そして同条約は94年3月に発効した。同条約のもとで開催された温暖化防止京都会議(COP3)は、97年12月11日、京都議定書を採択した。

この概要は、目標年次を2008−2012年、基準年を1990年とし、温室効果ガスを先進国全体で基準年より少なくとも5%削減しようとするもので、国別では日本6%、米国7%、EU8%を90年比で削減することになっている。

植林などの吸収源の増減を目標達成のため勘案することとしたが、詳細取り決めについては、昨年のCOP6まで先送りされていた。柔軟性措置については、@先進国間排出権取引(ET)の導入。先進国間で数量目的を「排出権」として取引できる仕組み。A先進国間共同実施(JI)の導入。先進国で温室効果ガス削減のプロジェクトを行った場合、そのプロジェクトに伴う削減量を譲受できる仕組み。Bクリーン開発メカニズム(CDM)の導入。先進国が途上国で温室効果ガス削減プロジェクトを実施する場合、その削減量を一定の認証手続きを経て譲受できる仕組み、などが決められた。とくに、CDMは先進国から途上国に資金が導入され、ブラジルにとっては植林事業などを進める可能性も出てくるわけで、COP6の成り行きには強い関心が持たれていた。

    

<COP6破綻の理由>
     
昨年のCOP6がまとまらなかった主な理由としては、既存の森林によるCO2(二酸化炭素)吸収分をできる限り削減量としてカウントしたい日米と、森林による吸収は1990年以降の植林によるものだけを主張するEUとの意見の差が埋まらなかったことによるものである。条約事務局がまとめたデータによれば、西側先進国の98年の温室効果ガス排出量は、90年に比べ7%増えている。これを国別で見ると、日本が10%、米国が11%、カナダが13%、それぞれ増加。一方、ドイツは旧東独との統一で16%減り、英国は石油や石炭から天然ガスへの転換が進んで8%減少し、EU全体では2%減っている。日本政府は「日本は比較の基準となる90年以前にかなりの削減を行ってきた」と主張し、これ以上の削減には森林の温室効果ガスの吸収などを認めてもらいたい意向だが、EUなどはこれに反対している。数値的には、日本は6%の削減目標のうち3.7%を森林での吸収でまかなうというものである。新聞が伝えるところでは、米国はこの方式で森林による削減量を計算すると、8.7%となり、目標とする7%はなんら削減努力しないで達成できることになって
しまう。カナダも同様である。
   
COP6の議長はオランダのヤン・プロンク環境相が務めたが、プロンク議長の提案によると、森林の吸収量は、最大3%しか認めず、さらに一律85%割り引くとのことだった。これは森林の存在だけで安心して省エネなどの国内対策を怠らないようにとの配慮だそうだが、この結果日本に認められる吸収量は約0.5%になる。

この提案に対し、25日に日本政府は森林による二酸化炭素の吸収量から5%を割り引いてカウントする修正案を米国、カナダと3ヵ国共同で提案した。これによると日本の森林の吸収量は3.5%となる。結局「京都議定書」の細かなルールを決めるための閣僚折衝が続けられたが、多くの対立点が残り、合意できずに終わったわけである。特に森林の二酸化炭素吸収量をどこまで認めるかでは、最大限認めようとする日本、米国(5%割引き)と厳しい規制を求めるEU(議長案85%割引き)が激しく対立し、決裂の主な原因となったと思われる。COP6は「中断」という形をとり、PartUが2001年7月にボンで再開される予定である。しかし日米欧はボン会合前に、先進国間で決着することに強い意欲をみせているともいわれていた。
  

<京都議定書発効の条件>
  
2002年はリオの国連環境開発会議から10年目、いわゆる「リオ+10」で、多くの国が京都議定書の発効をのぞんでいたが、そのためにはCOP6で各国が持ち帰って批准できるような京都議定書の運用ルールが取り決められなければならなかった。これが発効するためには、@55ヵ国以上の国が締結し、A締結した付属書T国(FCCCに参加した先進国およびロシア、東欧など市場経済への移行の過程にある国)の合計の二酸化炭素の1990年の排出量が、全付属書T国の合計の排出量の55%以上という両方の条件を満たした後、90日後に発効することになっている。付属書T国の排出量の割合は米国が36.1%、日本が8.5%、カナダが3.3%で、この3国が反対すれば、55%に達せず、議定書は発効しないことになる。
 
私見であるが、日米欧が合意に達しなければ京都議定書は発効せず、人類の地球温暖
化対策は進行しなくなるのであるから、COP6では妥協点を見つけるべきであったと思う。EUはほぼ削減目標を達成しているのであるから、日米の立場を考慮する余裕があってもよかったのではないだろうか。

日本は6%の削減目標のほかに、90年から98年までに10%排出量を増やしている。さらに2010年までには、10%程度増加して合計では26%削減しなければならないことになる可能性もある(この数値については環境省検討会の推計を用いて後述)。日本が主張する3.7%を全量認めても、日本には22.3%もの削減義務を負わせることになる。85%割引きを主張するプロンク議長の態度はいささかピューリタン過ぎるとも言え、「角を矯めて牛を殺す」結果になったのではないだろうか。
 
米国も似たようなもので、7%の削減目標のほかに、98年までに11%増えており、さらに11%増えるとすると合計29%にもなる。森林による吸収の割引き率を多少妥協しても、二酸化炭素の最大の排出国である米国を取り込むことの方が、COP6の目的に適ったのではないかとも思われる。
 
日本については次のような問題もある。プロンク議長が出した調整案で、先進国の二酸化炭素(CO2)などの削減目標が達成できない場合、罰則を伴う強制的措置を適用することを大半の国が求めていると強調し、「勧告」にとどめるべきだとする日本の主張を退けた、との報道が伝えられた。罰金などの強制的措置については米国、EU、途上国などが賛成しており、日本が反対するのは、ゴルフで「OBをしても、ノーペナにしてくれ」と頼むようなものだろう。約束はするが、最初から守らないと言っているようなもので、京都会議の議長国の発言としてはそぐわない気がする。
  

<米国離脱後の日本の立場>

4月3日の朝日新聞は「米国抜きでも京都議定書発効が重要」という見出しで次のように伝えている。
 
『環境NGOの世界自然保護基金(WWF)のインターナショナル気候変動・国際開発政策コーディネーターのリアム・サルターさんが3日記者会見し、「米国抜きでも京都議定書を発効させることが重要で、日本が世界をまとめる唯一の国としてリーダーシップをとるべきだ」と訴えた。』
 
NGOの訴えで日本政府が動くとは考えられないが、もっと本質的な問題は、日本が京都議定書で定められた90年ベースで6%の削減の約束を守れそうもないからである。
3月16日付の朝日新聞の記事を引用する。

「2010年の温室効果ガス排出量増加  環境省検討会推計  削減の目算狂う
政府の地球温暖化対策で、現行の温室効果ガスの削減計画を実行したとしても、2010年には排出量は減らず、逆に5−8%増えてしまうことが15日、環境省の検討会で示された推計で明らかになった。
1998年に決めた計画では、化石燃料などエネルギー消費にかかわる二酸化炭素(CO2)の排出分を増減ゼロとする目標を掲げているが、推計ではプラス9.4%になった。政府は今後、温暖化対策の大幅な強化を迫られそうだ。
排出予測が増加に転じたのは、原発の増設数を2010年までに20基としていた想定を7−13基に下方修正するなど前提条件を変更したため。京都議定書に定められた日本の削減目標である90年比マイナス6%を達成するためには、排出量を実質11−14%減らさなければならない。」

COP6の説明の中で述べたように、削減目標が達成されないと、日本が求めた「勧告」では済まず、「罰則を伴う強制的措置」を適用されるのでは、日本がリーダーシップをとることなど想像もできないだろう。
日本政府の本心としては、京都議定書でなくて、パリかローマ議定書なら米国に歩調を合わせて降りてしまいたいところかも知れないが、千年の歴史を誇る日本の古都で議長国を務めた京都議定書では引くに引けず、進退極まったところではないだろう
か。

1990年の先進国(ロシア・東欧を含む)の二酸化炭素排出の割合は米国361%、EU24.2%、ロシア17.4%、日本8.5%、カナダ3.3%、オーストラリア2.1%、その他8.4%であり、京都議定書の発効条件は55カ国、55%だから米国抜きでも発効することはできる。米国とカナダで39.4%、これに日本が加わると47.9%で、残りの各国がすべて批准しても55%に達せず、結局発効にいたらずに立ち消えになる。もっとも、この場合世界中から総スカンをくって、日本の安保理事会常任理事国入りも夢と消えるだろう。21世紀最大のテーマである地球環境の安全保障問題に対処できない国が、安保常任理事国になってなにができるのかという疑問が先行する。京都議定書に関する日米加の3国協調は、昭和15年の日独伊三国同盟の悪夢を彷彿させるものといえよう。

 

<京都議定書発効への道>

7月にボンで行われるCOP6の継続会議(COP6.5ともいわれるが)には、日本としては旗幟鮮明にせざるをえない。ブッシュ大統領が京都議定書代替案を出すと言っているが、途上国が素直に受け入れるとは考えられない。

日本が90年ベースでマイナス6%までの削減が可能であれば、米国(あるいはカナダも)を除く世界の反対を押し切ってまで京都議定書の批准を見送る理由はないと思う。
日本が踏み切るか否かは、その削減実行の可能性(確実性)とコストの問題に帰するだろう。

先ず日本が削減すべき二酸化炭素の量(炭素換算)は環境省検討会の推計を使うと、90年の炭素排出量を3億トンとして

        11%の場合        3300万トン
        14%の場合        4200万トン

検討会の推計の内容はわからないが、森林吸収の3.7%(1100万トン)まで考慮に入れると、7月にはお互いもう少し歩み寄るとして、日本が5000万トン削減できれば、京都議定書を批准し、環境外交のリーダーシップを取ることも可能だろう。この際ブッシュ政権に追随することはやめて、京都議定書問題に関しては米国と距離をおくべきだと考える。
昨年の大統領選挙をみても、もしブッシュ候補が当時から、「京都議定書には反対する、発電所の炭酸ガス排出は規制しない」と明言していれば、果たして当選していただろうか。文頭のサルネイ・フィーリョ環境相の論文でも、ブッシュが二酸化炭素による温暖化問題を、大気汚染にすり替えるような二枚舌を使ったと指摘している。
 
今後は世界中で異常気象がすすみ、温暖化との関係が議論されることが増えるだろうが、その結論は2004年の米国の大統領選挙で米国民が審判を下すことになるものと思う。京都議定書は米国抜きで進め、やがて米国が遅れて参加するだろうという意見もあるが、この辺に根拠があるのかも知れない。


<ブラジルでのCDM  ユーカリ植林>

日本が京都議定書で認められているCDM(クリーン開発メカニズム)を使って、ブラジルで年間5000万トンの炭素の吸収・固定を目的とするユーカリの植林を行う計画案について説明する。CDMは先進国が途上国で温室効果ガス排出削減に係わる事業を行うもので、当然先進国から途上国に資本が流入し、途上国の社会開発に貢献する。
 
ユーカリはオーストラリアが原産地であるが、19世紀英国系の鉄道会社が蒸気機関車の燃料としてブラジルに導入したもので、鉄道がディーゼル電化してからは製鉄の還元剤として木炭銑の製造に利用された。現在ではパルプ原料として植林され、ブラジルは世界最大のユーカリパルプの生産国である。
土壌、気温、降雨に恵まれたブラジルでは、成長が極めて早く、苗を植えてから7年で成木となり伐採、その切り株から萌芽して7年目に成木として再び伐採というサイクルを繰返している。

1ヘクタール当たり平均して年間5トンの炭素を固定する。降雨量によっては7トン以上に達することもあるが、ここでは5トン/ヘクタール・年を用いる。14年間では70トンである。
年間5000万トンの炭素を固定するには、1000万ヘクタールの土地に植林する必要がある。これは10万平方キロメートルで、日本の国土面積の4分の1以上になる。日本では想像するのも難しいだろうが、ブラジルの国土面積は850万平方キロであるから1.2%足らずということになる。ブラジルは去年ポルトガルが発見して500年になったが、この間開発と称して伐採した森林の面積は300万平方キロに達するといわれている。10万平方キロはその3%ほどを元の状態に戻すことに過ぎない。

コストの概算としては、ヘクタール当たり土地の買収費 1000ドル、当初の植林コスト 600ドル、14年間の保育費を年間100ドルとして 1400ドル、この合計で1ヘクタール当たり3000ドルの費用が必要となる。

1000万ヘクタールの植林で14年間に固定できる炭素の量は7億トン(年間5000万トン)、コストの総額は300億ドルとなる。金利は考慮しないで、炭素1トン当たりの固定コストは約43ドルである。このコストの可成の部分は木材として売却することで回収することができる。例えば、バイオマス燃料として利用する場合、炭素の発熱量は7000キロカロリーであるから、石油をトン150ドルとすると、単純なカロリー比では100ドルになる。仮にこの30%、トン30ドルで売れば、210億ドルの売り上げが見込める。パルプ原料であれば価格ははるかに高いが、これだけの需要は見込めそうもない。ただブラジルの紙・パが圧倒的な競争力を持つことになるのは間違いない。
 
ブッシュ大統領は「削減にかかる巨額の費用と効果が見合わない。米国の経済的利益に反する。」ということで、京都議定書を支持しないとのことであるが、ブラジルにおける植林による炭素固定は費用と効果が見合わないものとは思えない。しかも技術的に未解決な問題はまったく存在しない。ブッシュが依存する業界の石油・石炭ももともとは植物や動物だったのである。
  
14年で300億ドル(3.7兆円)は平均すれば年間2750億円となり、ODAの約4分の1、銀行の不良債券の100分の1以下である。経済大国日本にとって負担できない金額ではないと思う。これは植林にかかるコストであり、成木を売却処分すれば、相当部分が回収できるのであるから、実質負担額はさらに安くなる。
とりあえず、10年20年の時間を稼いで、その間 日本国内でCO2回収技術や地中貯留、海洋処理などの技術開発を進め、長期の温暖化対策の戦略を確立すればいいのではないだろうか。

  

<ブラジルにとってのメリット>
   
一方、この計画でブラジル側が享受できるメリットは何だろうか。現在ブラジルにとってもっとも懸念される社会問題は治安である。とくに機械化など農業の近代化により農村で職を失った農民が「土地なし組織」となって都市に流入、不法占拠を繰り返し、これに対して政府は陸軍を出動させることを含む暫定措置令を公示するなど対立が高まっている。
  
1975年から95年までの20年間に、農村人口は4000万人から3600万人に減っている。一方、都市人口は6800万人から1億2600万人へと5800万人も増大した。都市のインフラ整備も間に合わず、失業者・浮浪者・貧民窟があふれ、犯罪も多発してきている。
政府は農村において土地を与えているが、土地だけでは食べてはいけない。安定した雇用に対する展望がなければ、この問題が片付かないのは当然である。土地なし農民の多くが未熟練労働者であり、都市では簡単に仕事にありつけない。

これらの土地なし農民を植林事業に振り向けられると、かなりの雇用機会が生まれてくる。仮に20ヘクタールの植林地につき、その保育のために一人の雇用が創出できるとすれば、1000万ヘクタールでは50万人に職を与えられる。家族を含めれば200万人以上が定住できることになる。定住できなければ子女の教育問題も解決できず、将来に禍根を残すことになる。

現在ブラジルには年間約200億ドルの海外からの直接投資が行われているが、その多くが金融、通信、電力などの分野で、雇用に対する影響は底辺層にまで及んでいないのが現実である。大規模な植林事業がブラジル政府にとって社会問題解決のための大きな救いとなることは疑う余地もない。
 
  

<むすび>
  
ポルトガル語で「ウマ モン ラヴァ オウトラ」という言葉がある。日本語に訳せば、「一方の手が他方の手を洗う」ということになり、両手がなければ手は洗えない、言わば補完性の大切なことを簡単な言葉で表現している。
  
植林による炭素固定のCDMにも当てはまるわけであり、ブラジルの土地・気候条件・労働力と日本の炭素固定の必要性・資金がお互いに有無相通ずることで、地球温暖化の解決に貢献できる。

現在NAFTA(北米自由貿易協定)を拡大するAFTA(米州自由貿易協定)が交渉中で、米国は2003年にも発効させたい意向であるが、ブラジルは2005年を主張している。成立すれば8億人、13兆ドルの貿易圏が誕生するが、ブラジルの中には、AFTA成立の条件として、文頭に引用したサルネイ・フィーリョ環境大臣の論文のように、米国に京都議定書の批准を条件付けるべきだという声もある。

昭和31年(1956)にブラジルに移住して45年が過ぎた。その間ブラジルの広さ、豊かさ、可能性の大きさなどを身に沁みて痛感してきた。 私は日本人として、贔屓目ではなしに、ブラジルのポテンシャリティーを考えると、日本とブラジルの相互補完関係を確固としたものにすることは、21世紀の両国、特に日本にとって極めて大切なことだと信じている。

 
                                                おわり

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