ブラジルの再生可能エネルギー

 
カーボン・ニュートラルの農村電化


   森田左京 



(1) 再生ネネルギーと電化問題

化石燃料が枯渇することは明らかであり、その時点で核融合エネルギーを制御・利用する技術が確立できていなければ、人類は太陽エネルギーを起源とする再生可能エネルギーに頼る以外生存し続ける手段はない。

この視点から考えると、ブラジルは世界でもっとも「土地・太陽・水」に恵まれた国の一つであり、食糧生産においても現在世界最大のフロンティアとなっている。13億人の人口を抱える中国が、補完的なパートナーとしてブラジルに熱い視線を送るのも容易に理解できる。
    
ここで「土地」というのは、(利用可能な土地面積 × 地価)を意味する。近年、米国の大豆農家が1万ヘクタール単位でブラジルの農地を買収している。オハイオ州の農地価格ヘクタール当たり6,400ドルに対し、ブラジルでは160ドルである。当然生産コストは下がり、國際競争力は増大する。ブラジルの大豆生産が間もなく米国を凌駕するのは当然であり、後述する植林に関しても同じことが言える。
    
1992年にリオで開催された「国連環境開発会議(地球サミット)」では環境問題が至上のテーマで、環境政策の根本原則が決まり、1997年の地球温暖化防止京都会議(COP3)で京都議定書が調印された。しかし今日までに、米国は離脱を表明し、オーストラリアこれに追従する、カナダは国論の統一ができずに混乱しているなど、京都議定書を巡って先進国がまとまっていない。
    
一方、地球サミット当時、先進国の途上国に対するODAは、GDP0.3%であったのを0.7%を目標として増額するはずだったが、10年過ぎた現在、逆に0.2%に減ってしまっている。途上国の先進国に対する不信が高まっている中で、20028月から9月にかけて、ヨハネスブルグで国連の「持続可能な開発に関する世界首脳会議」(World Summit on Sustainable Development - WSSD)が開催された。
    
「リオ+10」とも呼ばれるように、環境問題の「認識」の次元であった地球サミットから10年経って、今回のサミットは数値目標を明確に掲げるまでには至らなかったものの、いよいよ「実行」段階に入ったことが認められる。「実施文書」が採択されたことは、その表れであろう。
    
「実施文書」の第2章は「貧困の撲滅」と題され、持続可能な開発のため、特に途上国において、世界が直面している最大の挑戦であると定義されている。2015年までに、一日当たり1ドル以下の収入しかなく、また、安全な飲料水を飲めない人々の人口比率を半減させることを目標に掲げている。エネルギー問題に関して、農村電化および分散化エネルギーシステムの推進、再生可能エネルギー、特にバイオマス(木質燃料)の持続的かつ効率的な利用の増大が謳われている。
    
IEAの発表(The World Energy Outlook 2002)によれば、現在16億人の人々が電気の恩恵を受けておらず、この状態を変えるために、余程ドラスティックな対応をとらない限り、今後30年経っても、未電化人口は14億人という。電化速度と人口増加率がほぼ同じためである。
    
この小論では、ブラジルの再生可能エネルギーと農村電化を主なテーマとして考察することにする。
    
   
(2) ブラジルの一次エネルギー
     
ブラジルの一次エネルギー供給量は1997年には石油換算で 約25,000万トン、このうち石油、天然ガス、石炭、ウラン燃料などの非再生型エネルギーが41パーセントに対し、再生可能エネルギーは水力発電、薪炭、サトウキビ(アルコール、バガス)などで59パーセントとなっている。
   
ヨハネスブルグのサミットで、EUは2010年までに世界全体で一次エネルギー消費の15%を再生可能エネルギーとすることを主張、ブラジルも同様の提案をしたが、米国、日本などの反対で目標設定には至らなかった。上記の数字からも分かるように、再生可能エネルギーに関して、ブラジルは世界でもっとも恵まれた国の一つである。
   

<水力発電>

水力発電に関して、ブラジルは1997年のデータによれば、発電量は2,791kWh(キロワット時)で、米国の3,585kWh、カナダの3,512kWhに次いで、世界第3位である。しかし近い将来、ブラジルが世界のトップを占めることは間違いない。   
ブラジルの包蔵水力は11,400kWhと見積もられている。この内訳で、26%が運転中あるいは建設中、36%が評価済み(F/S、基本設計)、残る38%が推定となっている。
日本の全発電量は1379kWh1997年)で、米国、中国に次いで世界第3位であるが、ブラジルの包蔵水力はそれを上回っている。
   
ブラジルの統計では、電力3,090kWhが石油1トンとして計算されるので、11,400kWhは石油に換算すると、約37,000万トンに相当する。

  
<木質バイオマス>
    
ブラジルのユーカリは、英国人が19世紀に蒸気機関車の燃料用としてオーストラリアから持ち込んだものである。鉄道の電化、ディーゼル化にともない、産業用としては木炭銑の生産に使われたが、近年はユーカリ・パルプの原料として世界最大の生産を誇っている。
地球温暖化問題に関連し、大気中の二酸化炭素の固定を目的とする植林も脚光を浴び始めている。
    
WWF(世界自然保護基金)によれば、ブラジルは1500年にポルトガル人により発見されて以来、500年間に約300km2の森林を伐採してきたという。仮に、この3分の1に相当する100km2に植林した場合、どれだけのエネルギーを得られるか試算してみる。
    
1ha(ヘクタール)当たり年間の成長は35-55層積m3(層積m3は丸太を積み上げたときの容積)で、低い方の35層積m3を使うとこれは20ソリッドm3となる。これの絶対乾燥重量(BDT)は10トンである。この絶対乾燥重量の50%が炭素で、ユーカリ1ヘクタールの植林で、年間5トンの空気中の炭素(炭酸ガスであれば18.3トン)を固定することができる。
ユーカリ植林のローテーションは 
    植林 − (7年間) − 伐採/萌芽更新 −(7年間) − 伐採/改植
の繰り返しである。
   
ブラジルは北緯5度から南緯33度まで熱帯から温帯に位置し、平均降雨量は東北伯の一部を除いて1,000mm以上で、全土にわたってユーカリの生育に適している。生育量はミナス州のセニブラ社(日本資本100%のパルプ・メーカー)の例でヘクタール当たり年間絶対乾燥トン数は、上記で説明したように、10トンである。発熱量は1kg当たり4,500キロカロリーと石油の約40%であるから、ユーカリ植林1ヘクタールから年間石油4トンに相当する木質バイオマス燃料が取れることになる。
    
過去500年に伐採した面積の3分の1に相当する、100km3、すなわち1haのユーカリ植林で得られる木質バイオマスは石油換算で4億トンになる。

   
<アルコール>
  
サトウキビからのエネルギーは、石油換算で2467万トン、一次エネルギーの約10%を占めている。サトウキビの搾汁を発酵、蒸留して得られるアルコールと、絞り粕のバガスを燃料として使用するものである。ブラジル国内2万5千軒に及ぶすべてのガソリン・スタンドでは、ガソリンに24%の無水アルコールを混ぜたものと、含水アルコール100%の2種類の燃料が販売されている。
   
1998年の統計では、サトウキビの作付け面積は約500ha5km2)で、収穫は34000万トン、ha当たり68トン。収穫の半分が砂糖の生産向け、残り半分がアルコール向けで、砂糖の国際価格が高いときは、ガソリンへの添加を減らすなど、巧妙な調整を行っている。   
サトウキビ1トンからアルコールが60l(リットル)取れるので、アルコールの生産は約1000klである。1ha当たりアルコールの収量は約4kl、熱量はガソリンの63%であるから、1haから、2.5klのガソリン相当分のアルコール、すなわちガソリンに代替可能な液体燃料が取れるわけである。
   
アルコール生産に向けられるサトウキビの作付け面積は、現在2.5km2だが、需要さへ見込めれば増産は容易である。最近はハイオクタンガソリンに添加してきたMTBEの地下水汚染が指摘され、この代替として、10%程度のアルコール(エタノール)をガソリンに混ぜるようになってきた。製造コストの國際競争力からみて、ブラジル産アルコールの輸出可能性は高い。
   

<石油>
   
国内の石油埋蔵量は82億バーレル、2000年の生産量は3.74億バーレル、日量102万バーレルだった。1995年の輸入依存率は44%だったが、急速に減って2000年には25%、ペトロブラス(石油公社)によれば、2005年には自給を達成すると見込まれている。オフショアの探査・開発が進めば埋増量も増えるだろうが、単純な可採年数は22年程度である。


(3)石油の枯渇とハバート曲線
    
2002年1127日付の朝日新聞に『世界の石油「あと50年」 石油鉱業連盟が試算』という記事が載っていた。これによると、「すでに発見された油田で商業生産ができる確認埋蔵量は00年末で9086億バレル。これを同年の生産量2729千万バレルで割り、確認埋蔵量の可採年数を33年とはじいた。5年前の試算より8年短いが、革新技術によって、新油田の発見率や原油の回収率が上がり、新たに17年分の生産が期待できる。
天然ガスの可採年数は61年。確認埋蔵量で45年、新技術による増加分を16年と試算している。」
   
石油鉱業連盟は「あと50年商業生産できる」と発表しているが、これは「あと50年しか生産できない」と解釈すべきだろう。
    
この章の見出しに付けた「ハバート曲線」というのは、ヒューストンのシェルの研究所に勤めていた地質学者キング・ハバートが、1956年に米国(48州)の石油産出量が1970年頃ピークを迎え、その後は生産は低下して行くという予測を発表した。多くの反論もあったが、ハバートの予言どおりになり、彼の理論が証明された。この釣鐘型のカーブをハバート曲線、ピークをハバート・ピークと呼んでいる。
    
ハバートの理論を引き継ぐ多くの研究者によると、世界の石油生産は早い予測で2004年、遅いものでも2020年にはハバート・ピークを迎えるといわれている。大雑把な数字だが、ピーク後10年で産出は10%減、20年で30%減、30年で50%減といった感じである。これだけの供給減が世界経済にどのようなマイナスの影響を与えるかは、容易に想像できる。
    
日本のように一次エネルギーの自給率が22%(1997年)で、石炭、原油、天然ガスのほぼ全量を輸入に頼っている国にとっては、まさに死活の問題である。「国家百年の計」と言うが、いかに遣り繰りしても2100年には、石油も天然ガスも使えないのが冷厳な事実として、国と国民の生存を研究しなければならないと考える。
    
1973年の第一次オイルショックの後で、「油断」(堺屋太一著)が出版されベストセラーになった。通産省の若手官僚が行ったシミュレーションをベースに、小説に仕立てたもので、中東戦争が勃発し、ホルムス海峡が封鎖され日本への石油供給はそれまでの3割となる。200日後には備蓄もなくなり、死者300万人、全国民財産の7割が失われる、この損失は39ヶ月の太平洋戦争の損失と同じだったという筋書きで、警世の書として今でも一読の価値はあると思う。
   
ハバート曲線に沿った石油の枯渇は、「油断」ほど急激なものではなく、危機対応の時間的余裕はあるものの、20世紀以来の石油文明の終末を告げるものである。充分な準備をしておくに越したことはない。
     
既に述べたように、ブラジルは石油枯渇に十分耐えうる基本的な条件を備えている。現在、人口は17,000万人、一次エネルギー供給量は石油換算で2億5,000万トン、一人当たり1.5トンである。将来人口が25,000万人、一人当り現在の倍の3トンになっても、国全体で75,000万トンであり、前述の試算による、水力発電による3.7億トンと、過去に伐採した面積の3分の1に相当する100km2に植林することでの木質バイオマス・エネルギーによる4億トンの合計7.7億トンで賄えることになる。
  

(4) 京都議定書のCDM(クリーン開発メカニズム)
   
ブラジルが自国のエネルギー問題を解決するために100km2のユーカリ植林を実施して年間10億絶対乾燥トンの木材をエネルギー源として生産できるが、これにはオマケがついてくる。すなわち毎年5億トンの炭素が固定できるわけである。ブラジルは排出炭素削減の義務は負っていないが、これは地球温暖化対策として将来有望な輸出商品となる。
   
さらにブラジルにとっては植林を進めなければならない国策としての事情がある。1960年当時、ブラジルの人口は6,000万人で、3,600万人が農村人口、2,400万人が都市人口だった。 現在は総人口は17,000万人となり、農村人口は昔どおりの3,600万人、都市人口は5倍以上に増えて13,400万人となっている。昨今ブラジルの最大の社会問題は治安だといわれているが、このような急速な都市人口の膨張に雇用、住宅、衛生、教育などのインフラが追いつかず、治安の悪化を招いた。
     
都市への流入は農村での単純労働は、石油文明の成果である機械化農業に取って代わられて、農村での雇用が失われたことが最大の原因である。人口の農村への還流については農業は期待できない。しかし、植林であれば、植林面積20ヘクタールに対し1人の直接労働者を必要とする。100km2の植林に対して、500万人の雇用は家族を含めれば2,000万人以上の人口を農村地帯に還流させることができる。問題は都市で電気のある生活に慣れた家族が、夜間の照明もなく、テレビもない生活を受け入れるかどうかである。そのために農村電化の必要性が重要になってくる。
    
  
ここで日本の事情を考えてみるために、米国、EU、日本の基礎的な条件を比較する。

国名

米国 EU  日本
国土面積(百万km2) 9,364 3,243 378
人口(百万人) 276 375 127
GNP(10億ドル) 7,903 8,312 4,089
人口密度(人/km2) 29 118 335
1999年炭素排出量(百万トン) 1,520 913 307
一人当り炭素排出量(kg−C) 5,509 2,435 2,415
GNP千ドル当たり排出量(kg-C) 192 110 75
ヘクタール当たり排出量(kg-C) 1,623 2,815 8,112
ヘクタール当たりGNP(US$) 8,440 25,631 108,175

    
この表の数字を比べると、狭隘な国土、過密な人口を抱えて、日本が世界で最も効率的な経済運営を行ってきたことは一目瞭然である。そのために多くの資源を世界中から輸入し、当然化石燃料も100%近くを輸入に依存するために、単位面積当たりの炭素排出量も米国やEUを大きく越える結果となっている。日本のヘクタール当たり炭素排出量8トン以上は、ブラジルのユーカリ植林による炭素固定量5トンをはるかに上回っている。
   
2001年7月ボンで行われたCOP6(Part2)までは、筆者はブラジルの植林に付随する炭素固定により、日本の京都議定書での6%削減義務(+その後の増加分、仮に10%で合計16%)のかなりの部分が日伯共同のCDMで解決できるのではないかと考えていた。EUはEUバブルという方式で、EU加盟国各国の削減率には差があるが、EU全体として8%という削減率を目標とすることにしている。EUには域内という理屈があるかもしれないが、気体には拡散する性質があるから、日本とブラジルのバブルがあっても差し支えないし、上の表の数字を見ていて、日本だけで解決できるとは思えなかった。
    
日本は1990年の炭素排出量を3億トンとして6%であれば1,800万トン、16%でも4,800万トンであり、上記試算の5億トンの一部でカバーできる数量である。しかしボンの合意書を読んで目を疑ったが、CDMの上限は1%である。数量としては300万トンに合意し、批准したのであるから、2008-2012年の約束期間が過ぎなければ、この数量はいじれないのだろう。日伯共同の案は夢と消えてしまった。(2001年7月のボンにおけるCOP6.5以前に、ブラジルでの植林について述べたレポートは、
www.bizpoint.com.br の「ブラジル・環境・エネルギー」コーナーを参照されたい。)
    
日本は京都議定書に対応するために、原発20基の建設を計画していたらしいが、住民投票で否定されたり、さらに最近になって東京電力の原発事故隠蔽事件に関連して、停止をやむなくされ、その分火力発電で補わなければならない。
    
1年間停止することになった福島第一原発第1号機は46万kWと小型であるが、稼働率80%とすると発電量は年間32億kWhで、これを火力で賄うと、コンバインド・サイクルLNG火力で34万トン、石炭火力だと78万トンの炭素を排出する。今回の事件は日本のエネルギー政策を根底から揺るがすものであったと言える。
   
水力発電はカーボン・フリーであり、バイオマス発電は空気中の炭酸ガスをを固定した燃料であるから、これはカーボン・ニュートラルである。ブラジルは将来のエネルギー問題に関しては、さほど心配する必要はないが、最大の問題は「貧富の格差」や「貧困」そのものを解決することである。
    

(5) 電化による「貧困の撲滅」
    
ブラジルは一人当たりGDPのような数字を見るかぎり、中進国と考えられるが、昔からベリンディアと言われてきた。これはベルギーとインドが混在しているということで、所得配分の不公平さを示している。世銀の資料によるGini係数を見ても59.1(1997年)と南アフリカ59.3(1994年)並みである。比較のため、いくつかの国のGini係数をあげておく。日本24.9(1993年)、中国40.3(1998年)、インド37.8(1997年)、英国36.1(1991年)、米国40.8(1997年)。 また、上位20%の富裕層の所得は、下位20%の貧困層の所得の31倍(世界一ともいわれる)と極端に不平等である。
   
このような貧富の差に加えて、850万km2という広大な国土面積のため、人口過疎地域では2,000万人の国民が電化されていないと言われている。レーニンは「電化無くして社会主義なし」と言ったが、社会主義ばかりでなく、世界中どこでも電気が利用できない限り「貧困の撲滅」は絵に描いた餅に過ぎない。
    
先進国では24時間都市が出現し昼夜の別が無くなっているが、未電化地区では灯油を毎時10ミリリットル燃やして、2ワットの懐中電灯程度の明るさで夜を過ごしている。途上国の田舎で子供が水を運んでいる光景がしばしばテレビで紹介されるが、10リットルの水の入った容器を、標高差50メートルの坂道の上に持ち上げるとして、大人でも1日に何リットルが運べるだろうか。仮に、100ワットの電力が利用できるとして、電動機効率×ポンプ効率を40%、さらに管抵抗を加えても、このポンプで1日に5,000リットル、10リットルの容器で500杯分を揚水できる。電化することで、水をくみ上げるという単純な労働から、児童を解放できる。
   
国連が「貧困の撲滅」で掲げている「安全な飲料水」も水に落差を与えることで、ろ過も容易になり、またわずかな電力で酸性電解水とすることによって殺菌、消毒が可能となる。
   
以前テレビが地上波であったときは、教育テレビでブラジル全土をカバーすることは不可能だったが、今は1個の静止衛星で解決する。
   
電気の利用にアクセスできることが、貧富の格差を少しでも縮める第一歩となることは明らかである。

   
(6) グリッドによるブラジルの電化例
   
最も簡単な電化は、グリッド(送電・配電網)に接続することであるが、広大な国土をもつブラジルでは簡単なことではない。
   
国連開発計画(UNDP)と世界銀行の調査報告(2000年)に次のような数字がある。東北伯のBahia, Ceara, Minas Gerais 3州の面積は合計130万km2であり、1996年に、この3州の全農村所帯数は253.8万戸、このうち未電化所帯数は124.6万戸となっている。
農村所帯の密度は1km2当たり僅かに1.95戸であり、電力会社としてはグリッド接続による電化は採算に合うものではない。1997年におけるグリッドへの接続数は25,000戸であり、このペースでは2005年までの8年間で20万戸が電化されるに過ぎず、なお105万戸が未電化のまま取り残されることになる。
   
当然のことながら、グリッド接続による電化の実現が難しいとなると、オフ・グリッドすなわち分散型発電による電化を行わなければならない。現在ブラジルでは近郊の小規模蔬菜栽培などを除けば、農業は殆どトラクターによって行われる。電化の需要は家庭内の照明や家電などのためのものが多い。したがって、1キロワットもあれば差し当たっての需要は間に合うものと考えてよい。この程度の需要が1km2に2軒ではグリッド接続は無理である。

    
(7) 分散型電源による電化
    
分散型電源としては、ガソリンまたはディーゼル・エンジン発電機や、再生可能なエネルギーである水力、風力、太陽光、バイオマスなどによる発電方式が考えられる。

ガソリンが容易に入手できるのであれば、出力1キロワットのポータブル発電機を持ち込むだけで解決できる。しかしこの方法は所得の高い国では問題ないが、低所得の国ではコスト面で負担が重すぎる。
    
世界銀行の資料に世界各国のガソリン価格を調べたものがある。これによると非産油国のガソリン価格は1リットル当たり40セントから1ドルの間に収まっている。一方世界各国の一人当たりGDPは最貧のモザンビークやエチオピアの約100ドルから、米国や日本の約30,000ドルまで300倍もの格差がある。米国のガソリン価格47セントに対し、エチオピアでは46セント、モザンビークでは56セントである。
   
ブラジルはGDPではアフリカの貧困国に比べればはるかに恵まれているが、国内の所得格差も大きく、農家・農場から安い電気を求めて、小型水力で数百ワットでも発電できないかと、しばしば相談を受けたことがある。
    
水力発電の出力は落差と流量の積で決まる。落差が変われば、出力は同じ1キロワットでも水車の仕様は変わってくるので機器の標準化には不利である。またダムに貯水しない、自流式の発電では、乾季に水が涸れると発電できなくなる。出力の調整には有利なダム式であっても、電力の95パーセントを水力に頼っているブラジルで、2001年は渇水で貯水池水位が低下し、政府は6月から8カ月間、20パーセントの節電義務を発令した。
   
電気の供給は常時保証されていなければならない。この点風力発電は風が止まると発電できなくなる。太陽光は夜間は当然であるが、日中でも雨天、曇天で出力は変動する。安定した供給を保証するためには、蓄電設備を設ける必要がある。仮に鉛蓄電池を使うとして、50キロワット時を貯蔵するのに、鉛1トンを使う蓄電池が必要になる。風力も太陽光もグリッドに接続して、システムとして火力発電の燃料や水力発電の貯水を節約する一方、出力低下時に安定供給を受けられるのであればよいが、独立型の電源としては信頼性は高くない。
   
アルコールを燃料としてエンジン発電機を運転し発電することは可能であるが、アルコールはガソリンに混入して利用されるので、ガソリン価格にリンクするのは当然である。使い勝手のよい貴重なバイオマス燃料であるが、アルコール工場での発酵工程を経なければならず、サトウキビの集荷やアルコールの配送などのコストがかかり、分散型の発電用には高級すぎると思う。


(8) 木質バイオマスとスターリング・エンジン
   
電力を貯蔵することは極めて高価であり、安定した電力供給を保証するにはエネルギー源を貯蔵するしか方法はない。そのためには燃料が大気中で固体または液体で貯蔵できることがのぞましい。アルコールについての問題点は上述のとおりである。ブラジルで分散型電源として水力、風力、太陽光、アルコールなどを検討してみたが、結論としては木質バイオマス(ユーカリ・チップ)を燃料に使うことが、もっとも安い発電コストを得られるものと考えられる。
   
20年以上前になるが、アマゾンで石灰石採掘やセメント事業を営んでいるグループの技術担当役員と仕事で付合ったことがある。当時すでにかなり高齢だった彼が、長年のアマゾンの経験談で「アマゾンで最も安い電力は、古い蒸気機関車を買ってきて、動輪を浮かせてベルト掛けで発電機を回すことだ。燃料は森林を少し伐採するだけで、いくらでも入手できる。」と話してくれたことが、強く印象に残っている。昔はアマゾンにも鉄道があったが、道路と乗用車・トラックに代ってしまった。旅行していると、車庫に錆付いた蒸気機関車を見かけたものである。蒸気機関は効率も悪いが、乾燥した薪5キロと電気1キロワット時を並べられたら、電気を選ぶ人が多いだろうと思う。
    
木質バイオマス資源については、固体燃料、液体燃料あるいは気体燃料として利用するために、いろいろな技術が研究されているが、現在実用化されているのは、固体燃料としての、チップ化、ペレット化、炭化だけで、それ以外は実証あるいは研究段階で、ただちに農村電化に使えるような技術は確立されていない。
   
チップ化は木質原料を破砕・粉砕したもので、含水率によって発熱量は変わるが、水分0%に乾燥すれば、植物の光合成によって得られたエネルギーを100%利用することができる。ペレット化は微粒径のチップ、おが屑に圧力を加えて成形したものであるが、当然成形工程でエネルギーのロスが発生するするので、変換効率は60-80%となり、さらにペレット製造工場までの往復輸送のためのエネルギーも必要となる。 炭化により得られる木炭は、発熱量は6,500-8,000kcal/kgと大きく、重量も少なくなるが、炭化工程でのエネルギー損失は大きく変換効率は23-43%に過ぎない。
   
農業用トラクターのPower Take-off(動力取出し装置)があるので、これを使ってチップをつくるチッパーを使えば、農場内でチップを自家生産することができる。

農場内にユーカリを植林し7年目に伐採してチップ化すれば、燃料はほぼコスト・フリーと考えられるので、乾燥したチップを燃焼させて発電できる装置があれば、農村電化は大きく進むことになる。これらの条件を満足させるために、内燃機関は使えない。当然のことだが、ここで登場してくるのが外燃機関を代表するスターリング・エンジンである。
    
スターリング・エンジンはスコットランドの牧師であるロバート・スターリングにより1816年に発明された。当時、蒸気機関のボイラーの爆発事故が相次いだため安全な機関をということで開発された。動作原理は単純で、当初は空気、後にはヘリウムや水素などの非凝縮性気体を作動ガスとする密封式の往復動型外燃機関である。内燃機関と違って燃料の制限がなく、もちろんユーカリ・チップでも使用できる。詳細については「スターリング・エンジンの理論と設計」(山下巌・他著、山海堂発行)などを参照されたい。
    
発明後19世紀は蒸気機関の発達と、さらに内燃機関の出現によりスターリング・エンジンは姿を消してしまった。第二次大戦の前、オランダが植民地であるボルネオの資源調査をおこなう際、ジャングルの奥地のキャンプ地で使う携帯用の小型発電機が必要となり、どんな燃料でも使えて、騒音もないものという条件から、スターリング・エンジンと発電機の組合せが浮かび上がり、フィリップス社が1938年以来、戦争中も継続して開発が進められた。
    
1970年以降、アメリカのエネルギー庁が、大幅に燃費を節約できるエンジンということで、スターリング・エンジンとガスタービンに的を絞ったため、再び研究開発が始まった。日本でも1970年代は運輸省の「舶用スターリング・エンジンの研究開発」や、1980年代のムーンライト計画で「汎用スターリング・エンジンの研究開発」が実施されたが、その後の「ニュー・サンシャイン計画」にも引き継がれず、「実用化技術の確立に貢献した」という評価だけが残ったようである。
    
スターリング・エンジンは、内燃機関と比べると、容積・重量面で劣り、運転に際しては起動や負荷の変動に対する即応性に致命的な欠点があり、最大の需要が見込まれる自動車用のエンジンに適していないことは当然のことと理解できる。さらに将来、自動車用には燃料電池が期待されており、商品化も始まった。スターリング・エンジンは発明以来、蒸気機関、内燃機関に続いて燃料電池と三度敗退を喫することになりそうである。
   

(9) ブラジル農村電化とスターリング・エンジンの可能性
   
しかし、ブラジルの農村電化問題で辿りついたように、バイオマス(ユーカリ・チップ)しか燃料として使えないような状況であれば、戦前フィリップス社がボルネオで必要性を感じたのと同様、スターリング・エンジンと発電機の組合せが求められることとなり、再びスターリング・エンジンが浮上することも考えられる。
   
アメリカには既にバイオマス(木質ペレット)を燃料とするスターリング・エンジンで1キロワットの発電機を駆動し、40,000時間の耐用試験を行っているメーカーがある。 オハイオ州に本社を置くサンパワー社(www.sunpower.com)で、発電装置の商品名は「Biowatt」と名付けられている。
   
同社の資料(A Biomass-Fired 1 kWe Stirling Engine and Its Application in South Africa)によれば、1時間当たり1.2〜1.4キログラムのバイオマス燃料で、1キロワット時の電気と4キロワット時の熱を発生する、となっている。バイオマスの発熱量を4,500 kcal/kg とすると、発電効率は14〜19%で充分実用に耐える値だと思われる。熱はバイオマスの乾燥に利用すれば、理論値に近い発熱量を得ることができる。
     
「Biowatt」では、スターリング・エンジンはシングル・シリンダー フリー・ピストン型、発電機は永久磁石リニアー交流発電機との組合せで、極めてシンプルな構造となっている。エンジン・発電機本体の重量は20キログラムである。サンパワー社の試算では、1万台生産した場合の製造コストは1台350ドルとのことである。燃焼装置については価格は示されていない。
   
発電コストについて、サンパワー社の資料(Micro-Biomass Electric Power Generation)によれば、単機あるいは並列運転の場合でも出力に関係無く、キロワット時当たりの発電コストは燃料コストにもよるが6〜12¢(セント)となっている。これは都市の家庭向け電気料金と比べて大差はない。
    

(10) 結び
   
地球温暖化防止の視点からも、カーボン・ニュートラルのバイオマス燃料は、化石燃料よりも環境に好ましいことは言うまでもない。
   
また、2002年11月1日に閉幕したニューデリーのCOP8での南北間の対立でも分かるように、先進国の途上国に対する資金協力や技術移転なくして地球温暖化対策は解決しない。
   
先進国ではお蔵入りしたような技術でも、本稿のスターリング・エンジンの例のように、途上国では問題解決のキー・テクノロジーとなりうることもある。
   
日本のスターリング・エンジン研究開発でも既に100億円にも達する費用が投じられているという。地球上の未電化人口16億人のうち、何割がバイオマスを利用できるかは知らないが、「貧困の撲滅」に貢献する電化のために、日本が持っているスターリング・エンジンの熱交換器、シール、永久磁石などの材料、製造技術、またハイブリッド・カーや燃料電池で先端をいく電子制御技術が1キロワットの発電設備に投入されれば、大きな成果を挙げられることは疑う余地はない。
   
途上国の農村電化を前進させるためにも、日本の技術に期待するところ大なるものがある。 
   
おわり


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