ヴィニシウスはフォルマリズムから出発した詩人・文学者であったが、生活の糧は外交官で稼ぎ、50年代中ごろからは作詞家として200曲もの名曲を残している。一般のブラジル人には、作曲家カルロス・ジョビンの親密なパートナーとして活躍したボサノヴァ作詞家として有名である。一方、ネルーダは作家ガルシア・マルケスが(スペイン語という壁を越えた)「20世紀最高の詩人」と呼んだ、チリの国民詩人であり、1971年ノーベル文学賞を受賞し国際的に認知されている。 そのネルーダが亡くなったのは、1973年9月23日、ピノチェットによる軍事クーデターの12日後のことであった。親友の死に憤激したヴィニシウスは追悼詩群を書上げ、「パブロ・ネルーダ博物誌」(滴istoria Natural de Pablo Neruda”)にまとめる。この初版が、バイーアのマクナイーマ出版社から上梓されたのは1974年。バイーアの画家カラザンス・ネトが表紙を担当した手作り版の印刷数はわずか300部であったが、最近、名編集者ルイス・シュワルツ率いるCia.das Letras(文芸出版社)により原版に忠実に復刻され、出版された。ベストセラーとはなっていないが、読書界では静かな話題となっている。 最初の詩を試訳してみよう。拙い訳だが、こんな感じだ。
日本でも作家五木寛之がエッセイ「三人のパブロ」(1973年)において三人を統一的にとらえていたが、このヴィニシウスのネルーダ追悼詩集は政治的なプロテスト詩では全くなく「喪失の表現」(詩人グラールの序文)であり、食と性への讃歌でもある。なにしろ平和な時期の二人に共通していたことは、グルメ、酒好き、女好き、そして文学、であったからだ。軍政の言論統制を見越して私家版でしか出版できなかった貴重本が、32年ぶりに商業出版され、詩人の知られざる側面が明らかになった。ヴィニシウス信奉者には嬉しい”事件”である。 【(社)日本ブラジル中央協会発行 会員向け隔月刊誌
『ブラジル特報』 2007年3月号掲載】 |