<出稼ぎ高齢者の見た日本>
心の日本°≠゚各地旅行
- ブラジルに祖国再発見 (11)
11月1日(木)付けニッケイ新聞より転載
「二人であっちこっち旅行してきましたよ」と、今年九月半ばに帰ってきたばかりの平川清さん(七六、山梨県出身)は愉快そうに語る。
四百万円に上る旅行費用は、全てデカセギしながら稼いだ。四百万といえば九万レアル近い金額であり、聖市内に新築2LDKアパートでも買えそうだ。それをあえて、夫婦で日本を見ることに使っている。 五年間のデカセギの間、二年に一度ぐらい、二カ月間程度旅行して回った。屋久島を皮切りに、九州一帯、四国、中国、近畿、関西と西日本全体だ。鹿児島の桜島、出雲大社、高野山、伊勢神宮、奈良や京都の寺社仏閣などの有名な歴史的名所を"制覇"してきた。
職場が大阪市吹田市の警備会社だった関係もあって、西日本中心になってしまい「計画では関東以北も見れるはずだったんですが」とぜいたくな嘆きをもらす。同じ職場にいた六人の一世のうち、三人までが「日本を見に来た」と宣言していたという。決して彼だけの特別なケースではなさそうだ。
「とりあえずの生活には困らない。けど、日本を旅行するほどの金はない。そんな人、多いでしょ」。平川さんは「だったら、日本で働きながら旅行して、今の日本の姿を見てきたらいい」と考える。日本などには、外国でアルバイトして旅費の足しにしながらその国を旅行するワーキング・ホリデー制度があるが、いわばそのデカセギ版だ。
聖市在住の沢田和子さんは一九八六年から十年間、付き添い婦として働いてきた。夫がアルツハイマー病にかかっていることが分かったのをキッカケに、仕事を辞めて帰ってきた。その半年後、記憶が不確かになりはじめた夫と"最後の日本旅行"を楽しんだ。「いっさい仕事しないで、二人で温泉や梨狩り、観光地巡りをして遊んでばっかりいました」と懐かしそうに語る。アパートを借りて半年滞在し、二百万円ぐらい使った。
スザノ市福博村の杉本鶴代さん(七二、宮崎県出身)は九一年、夫と二人で二カ月かけて日本縦断旅行した。夫の郷里の北海道から始まり仙台など数カ所を訪れながら、鶴代さんの生まれた宮崎県まで歩き回った。
「北見のいとこが、北海道のあちこち案内してくれてね。とってもよかったわ」と声をはずませる。「おかげで病院で稼いだお金、全部使ってきちゃいました」。
旅行で歩く日本は、職場で見るそれと別物のようだ。
第三回で紹介した峯村康さんは、気晴らしによく温泉宿へ通った。「田舎のひなびた露天風呂巡りが最高ですよ。古き良き日本が凝縮されたような感じで、ブラジルでは味わえない情緒がある。日本人に生まれてよかった、と心底思いました」
一世は日本で働いてばかりいるわけではない。貪欲に日本全国を歩き回って見識を広めている人もいる。
前述の平川さんは、郷愁を強く持つ一世の夫婦に、特に戦前移民にデカセギを積極的に勧めている。というのも、「我々のような戦前移民が持ってる日本のイメージは、現実からかけ離れてしまった」からだ。 一九三五年、十歳の時に親に連れられて移住してきた平川さんのような戦前派には「子供のころに考えていた日本を、自分の目で再確認したかったんですよ」という動機が強い。デカセギはその手段にすぎない。
平川さんの家族は一九三六年にスザノの福博村に入植し、一時はモジに百三十アルケールの土地を購入してバタタ(ジャガイモ)栽培を手がけ、「コチアの"番付"で東の大関になったことがある」という。このように、若き日々を植民地で過ごした。
「旅行して感じたことから、今の日本を自分なりに理解する。そうしたら、子や孫に伝える日本のイメージが明確になるんじゃないかと思った」と力説する。そうやって今の日本を見ることが「ブラジルの日本人意識を再生する」ことにつながると考えを広げる。
"ブラジルの日本人意識"とは何だろう。平川さんは「ブラジルから来た日本人は、もっと"本当の"日本人意識を持っている」と表現する。 例えば、朝八時から仕事開始の場合、平川さんは二十分前には現場に現れ準備し、八時から作業を始める。在日日本人は「八時ぴったりにきてね、それから準備するんだ」という。「それまでは一緒だったのに、高度経済成長期の後、仕事に対する姿勢が変わったんじゃないかな」と推測する。
デカセギ経験を通じて"日本の日本人と我々は違う"という意識が生まれ、そこからもっと"本当の"日本人意識をもったブラジルの日本人を"再生"する考えに広がる。日本には失われてしまったが、ブラジルには残っている。それを活性化させたい、という考えだ。 「それが一線をしりぞいた人たちの最後の勤めじゃないかな」
移民は植民地に日本の農村を模した共同体をつくった。今でも入植当時の雰囲気を残す所がまだまだある。そこには日本で失われてしまったものが、実は残っているのかもしれない。(深沢正雪記者)
出稼ぎ高齢者の見た日本(最終回)>> |