政治の動揺 次いで5月に入るや、かねてから政府の処遇に不満を抱いていた与党の一角を占めるPTB(ブラジル労働党)のロベルト・ジェファーソン党首は、政府高官やPT首脳の選挙資金調達に絡む不正、汚職を暴露した。国会にCPI(調査諮問委員会)が設けられ追及された結果、ジェファーソン議員および政府与党の最大の実力者ジョゼ・ジルセウ官房長官(当時)は議員資格を剥奪され、PTはジョゼ・ジェノイーノ党首をはじめとして、書記長、資金担当などの主要幹部が辞任。ルーラの腹心ルイス・グシケン広報戦略担当やミランダ国家人権庁長官などの大臣も辞任を余儀なくされた。さらに5人の連邦議員が辞任、12人の議員の議員資格剥奪手続きが進行中。CPIは期限の4月まで継続するが、本年に入ってからもパロッチ蔵相、パウロ・オカモトSEBRAE(小・零細企業支援サービス)長官(前PT資金担当)などルーラの腹心が追求を受けている。
外国投資家の信頼度がこれほど上昇したことは無く、これを表わすカントリーリスクは昨年末306で越年、その後もさらに低下を続け、2月10日現在230となっている。インフレ率は、政府公式指数であるIPCA(拡大消費者物価指数)が1998年以来の最低である5.69%、卸売物価の比重の高いFGVのIGP-DI(国内一般物価指数)はこの指数が創設された1944年以来の最低である1.22%となった。 IBGE(ブラジル地理統計院)によれば、ルーラ政権発足後3年間の年平均失業率は、2003年12.3%、2004年11.5%、2005年9.8%と年々低下、2005年12月は8.3%と2002年3月以来の最低となった。また、1998年以来年々減少を続けた労働者所得が、2005年は2%増加と初めて増加に転じた。 財政プライマリー収支は目標GDP比4.25%に対し、2005年実績は4.97%で1998年以来の最大となった。目標と実績の差0.27ポイントは、金額では約140億レアルで2006年予算に計上された公共投資予定額150億レアルをほぼ賄うことが可能である。
ブラジル経済低成長の原因は世界最高の高金利にあるとして、野党はもとより、政府、与党の大部分からも強い攻撃を受け、パロッチ蔵相、メイレーレス中銀総裁は四面楚歌の状態である。しかし、今日までルーラ大統領の絶対的信頼の下、パロッチ蔵相はスーパー・ミニスター的立場で経済のコントロールを維持してきた。 低成長の原因を高金利のせいにするのは、患者の高温が体温計に責任があるというのに似ているが、ブラジル内外で議論のなかで、財政に原因があるというのは有力な見解である。 上記のように財政のプライマリー収支は最近数年間目標以上を達成している。しかし、これは政府支出抑制や年金、労働、税制などの構造改革によりもたらされたものではなく、国民の課税負担増によるものであった。
ブラジルの対GDP比課税負担率は、1995年の26%から2004年に至る10年間に36%へと10ポイント増加した。今日他の新興国はアルゼンチン20%、メキシコ19%、チリ14%でブラジルの36%という数字は先進国でもトップクラスである。
プライマリー収支に含まれない支払金利を加算した名目収支は636億レアルの赤字である。プライマリー収支黒字の幻影は、支出カットの緊急な必要性を隠蔽する危険性を孕んでいる。
名目収支赤字の累積により、ブラジルの財政債務は1994年末の1,531億レアルから2005年末には10,020億レアルに増加した。このGDP比51.7%という水準は、発展途上国としてはずば抜けた数字である。(メキシコ22%、チリ10%)
0.75ポイントという引き下げ幅は、昨年9月の0.25ポイント、10月〜12月間各月の0.5ポイントと比較すれば大きいが、昨年まで毎月1回行ってきた金利決定のCOPOM会議(中銀通貨政策委員会)を本年から6週間に1回に改めた。月0.5ポイントは6週間の0.75ポイントに相当する。2004年GDP成長率は4.9%であった。昨年第3四半期のGDPは予想外の前期比マイナス成長(−1.2%前期比)となったので、2005年成長率は2〜2.5%になったと見込まれる。 米国経済は引き続き堅調、日本の回復がほぼ本調子となり、ヨーロッパも回復の兆し。9%超の高成長を続ける中国を中心に新興諸国も依然として好調で、世界経済の順風は今年も継続することが確実視されている。この追い風を背に、ブラジルも昨年の工業生産は9月で底を打ち(前月比−2.43%)、10月は0.2%増、11月は1.90%増、12月は2.24%増と回復基調を見せており、2006年のGDP成長率は3.5%〜4%が見込まれている。
セーラ市長は立候補表明をしていないにもかかわらず、昨年の支持率調査では、ルーラを抑えて第一選でも決選投票でも首位を続けた。 今年一杯で任期が到来するアルキミン知事は、年明け早々に3月末までに知事を辞任するという、実質的な次回大統領選への立候補宣言を行った。アルキミン知事には、ブラジル最大の産業グループ・ヴォトランチンのエルミリオ総帥が支持を表明した。最近PSDB党の大御所的存在であるカルドーゾ前大統領が、セーラを支持する発言をした(その翌日発言を取り消したが)。セーラ候補は、サンパウロ市長として任期半ばの2年を経過したが、大統領選挙に出馬のためには現職を辞任せねばならず、市長を任期いっぱい務めるといった選挙公約をどうするかの問題が残る。 PTとPSDBが注目を独占しているが、第三の名前が現れる可能性を完全に捨てきることはできず、この場合浮かび上がってくるのは、ロジーニャ現リオ州知事の夫で、前回大統領選で第3位となったアントニオ・ガロチーニョ前リオ州知事(PMDB、ブラジル民主運動党)である。彼は新しいタイプのポピュリストで、最近の支持率調査で良い結果を得たが、前回選挙で得た以上に上昇する力があるかどうかは論議の余地がある。「彼の出馬には、彼自身の党内およびエスタブリッシュメントの中に強い抵抗がある」というのがアナリストの意見である。 PMDBからは、リオグランデドスル州知事ジェルマノ・ヒゴットがすでに大統領選出馬宣言を行ったが、大統領選立候補は初めてである。 もっとも可能性あるのが、PSDBとPT間の戦いである。3月末までにPSDBは、セーラかアルキミンのいずれかを公式候補に決め、PTルーラ対PSDBの対決となる公算が大きい。PTからルーラ以外に出てくるのは難しい。ルーラ政権およびPSDB党の経済政策はすでに知られており、財政的無コントロール状態になることは考えられない」。市場が怖れるのは、「新しい候補者が不安定をもたらすこと」である。 ルーラの挑戦 昨年末、パロッチ蔵相は財政経済政策の転換を受け入れ、ルーラ大統領に5%成長を約束した。この財政緩和、成長刺激の要求に対する中銀役員会の回答が、今回の利下げに見られる予想よりはるかに厳しい通貨政策である。 昨年最後の12月の閣議で、ルーラ大統領は国庫の蛇口を開くこと、特にインフラストラクチャー向け投資の促進を指示し、補正予算で180億レアル以上が認められた。ABDIB(インフラ基礎産業協会)によれば、交通、通信、環境、国家統合、都市、鉱山エネルギーの分野の予算112億レアルのうち、12月末現在で承認済み87億レアル(78%)であるが、実行済みは未だ30億レアル(27%)にすぎない(Estadao, 2006年1月13日)。 ルーラ大統領の強みとされるものは釘olsa Familiar(家族の財布)狽ニの名称で実施されている、貧困家族に毎月95レアル与えるプロジェクトであるが、現在の対象約800万家族を1,100万家族に増加する意向を示している(Valor, 1月31日付)。一家族平均4人がこの恩恵を受けると仮定すれば、4,400万人とブラジル全人口の4分の1になる。選挙戦においては、大きな底辺の確保となる。 中小零細企業優遇措置も昨年末発表、本年から実施に移した。税制簡素化システム”シンプレス”である。税種目を統合、零細企業に1種、小企業に9種の売り上げ限度を設け、それぞれに統一税率を定めている。零細企業の年間粗売上高基準が2倍に引き上げられた。連邦税庁によれば、新措置で約15万5,000社が小企業から零細企業に移され、新たに2万4,000社が小企業に分類される。この新分類では企業にとり15〜30%の減税になる。ルーラ政権はこのように貧困者や零細企業に対する組織固めを進めている。 ルーラ再上昇 例えば2月6日のCNT/Sensusの結果では、第一次選挙でルーラ40.2%対セーラ28.6%。決選投票でルーラ47.6%対セーラ37.6%。また同じ調査の異なった組み合わせの第一選で、ルーラ42.2%対アルキミン17.4%。決選投票ルーラ51.3%対アルキミン29.7%となっている。各党の候補者は3月末までには出揃うし、不正汚職容疑でPTやルーラ政権を揺さぶっている国会のCPI(調査諮問委員会)も4月で期限が到来するので、本格的選挙戦が開始されることになる。 (2006年2月20日記、本稿は全て個人的見解に基づくものである) (たなか・まこと ブラジル日本商工会議所会頭) |
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