目立たないことを良しとしてきたブラジル外交が、カルドーゾ(1995〜2002年)、ルーラ(2003〜10年)両大統領のそれぞれ2期計16年の間に目立つ外交、その守備範囲を大きく拡げる外交へと変貌した。特に先進国だけで牛耳ってきた国際金融においてもG20などの場で新興国、主要開発途上国のリーダーとしてのブラジル外交は目覚ましい。本書はこの近年のブラジル外交の動向を専門分野の異なる6人の研究者が分析したものである。 「統合EUとブラジル ―新コロンブス・ルートを形成」(日経新聞 和田昌親)は、ブラジルにとって拡大するEUが“見えない対米カード”になり、欧州からの企業進出や資金流入がかつて収奪されていた時代を逆のいわば“新しいコロンブス・ルート”が開かれつつあり、日本にとってはブラジルと欧州との間の大西洋が“見えない海”になってくることへの警鐘を鳴らしている。 「米国とブラジル ―グローバルな『大人の関係』」(上智大学 子安昭子)は、従前いわれてきたようにブラジルは反米だけではないし、といって親米でもない、南米やアフリカをより重視するルーラ政権の外交政策も、いまや2国間の意見の相違と協力関係だけでは済まない局面をもっていることを、「ポルトガル語圏諸国とブラジル ―共通の言語・文化を活かして」(上智大学 西脇靖洋)は、ブラジルとポルトガルとの関係、アフリカやアジアにあるポルトガル語圏諸国との関係の深化と発展を、CPLP(ポルトガル語諸国共同体)の動きとともに紹介している。 「中国とブラジル ―補完関係と競争関係」(国際貿易投資研究所 内多 允)では、21世紀に急増した中国の頼もしい輸出市場としての存在感だけでなく、中国製品のブラジル国内や第三国市場での激しい競争という面もあることを明らかにしている。 最後の「メルコスールとブラジル ―関税同盟の内憂外患」(上智大学 堀坂浩太郎)は、ブラジル外交の最優先事項というメルコスール(南米南部共同市場)との関係は、関税同盟として問題を先送りしながらベネズエラの加盟を認めたことで、ただでさえ域内に摩擦要因を多数抱えているのに構想どおりに進展するか?ブラジル外交の方向が問われていることを指摘している。 21世紀に入って大きく国際的影響力を増したブラジルの対外関係を知る上で、それぞれに興味深い分析である。 (申込先:国際貿易投資研究所 電話 03-5563-1251 メール itipost@iti.or.jp 送料無料)〔桜井 敏浩〕 〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕
大正海上火災ほか保険会社の役員を歴任し、川崎造船(現川崎重工)の社長としての再建、日本製鉄会長、貴族院議員、二・二六事件後に発足した広田弘毅政権の文部大臣等々、経済界を主に教育界、政界や公的職務など、実に多くの分野で活躍した偉人の生涯を紹介している。 人の一生の第一期は自己を教育する時代、第二期は社会で働く時代、第三期は自己の事業より離れて他人のために尽力する時代という「人生三分論」を実践し、60歳を超えてからは国へ、社会への奉仕に務め、また世間の要請に応えるべく、様々な分野に関わったが、やはり一番力を入れたのは「教育こそが日本をつくる」という信念のもと、長く高等学校長をも務めた甲南学園での理想の学園造りだった。
また海外へも早くから目を向け、大正13年(1924年)にヨーロッパ、米国、ブラジルへ8ヶ月におよぶ視察旅行を行い、昭和9年(1934年)にはブラジルでの憲法での移民制限にともなう日本からの移民受け入れ制限を撤廃させるべく、経済使節団を率いてブラジルに渡り、半年にわたって交渉を行って綿花の大量輸入約束と引き換えに日本の主張を実現している。昭和初期に日本とブラジルの懸け橋ともなったのである。 〔桜井
敏浩〕 〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕
「ブラジルの魅力に目覚めるための56章」としたいくらいだと著者がいう、ブラジルの面白さと奥深さを伝えたいという意欲あふれる日系三世による解説書。2001年に出て好評だった『55章』を加筆修正し、いくつかの章を書き下ろして差し替えた改訂版。
〔『ラテンアメリカ時報』
2010年春号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕
『アマゾン文明の研究
―古代人はいかにして自然との共生をなし遂げたのか』
南米の古代文明はアンデス地帯と西海岸だけでなく、アマゾン各地で古代人の大規模な居住地、道路網、運河網、堤防システム、農耕地あるいは養魚場が発見されているが、その他地域の文明との違いはアマゾンの自然環境を大きく改変しながらも、それを破壊することなく自然との共生を図ったことで、その伝統は現在のアマゾン先住民にも伝わっているというのが本書の主題である。
『講座 トランスナショナルな移動と定住
―定住化する在日ブラジル人と地域社会』
長年の経営の経験から、様々な事態に備えて出来る限りの手を打っておくこと、経営者に不可欠な強運、創造性、戦略性という三要素、人の過去の言動や性格、状況を考慮して判断するという思考、業界との競争法、そしてそれらの経験から編み出した“ゴキブリ経営法”やハイパーインフレ下での原価・収益の考え方など、ブラジルでの中小企業の地を這う商売の実態と対応策を詳述している。 創立20周年を迎えた頃、同族会社が二代目、三代目になって成功裏に続く例は少ないと、ブラジル第二位の菓子メーカーに成長したラッキー社の売却を決心し、スナック菓子でも大手のペプシコに持ちかける。それも米国本社を意識してメキシコのウォールマートに売り込みをかけるなど、自社の魅力、存在感を高めて有利に買わせることに成功したのである。 これまでの大企業の人が書いたブラジルでの経営法に見られない、生々しい具体的な経営体験が述べられていて、面白い経営指南書になっている。 〔桜井 敏浩〕
〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕 『ジャポネース・ガランチード
― 希望のブラジル、日本の未来』
パラナ州選出の上野アントニオ連邦下院議員、サンパウロ州レジストロでブラジル初の紅茶栽培を成功させた岡本寅蔵・久江夫妻、アマゾンほかブラジル各地へ巡回医療を行った細江静男医師、天皇陛下や皇族方のブラジルご訪問の際の警護武官を務めた西 礼三サンパウロ州軍警察官、洋蘭の大量栽培法を実現させた高梨一男氏、セラード農業開発の本格化以前に入植しコーヒー農園を造った下坂 匡氏や農務大臣特別補佐官として関わった山中イシドロ氏、サンタカタリーナ州の村で果物・野菜栽培の傍ら剣道場を作った尾中弘孝氏、JICAの技術協力でブラジル農務省に派遣され、同じ州のサン・ジョアキンにブラジルで初めてリンゴ栽培を成功させた後澤憲志博士とその教えを受けた日系農家の人たち、サンパウロ州教育局が日本人移民100周年記念取り上げた「ビーバ・ジャポン」プロジェクトを主導し、今は日本から帰ってきた日系人子弟の教育に携わる日野寛幸氏など、様々な分野でブラジル社会に貢献する日系人を訪ねて、聞き取りを行っている。 〔桜井 敏浩〕
農業やその後商業に転じた者が大半であった日系移住者の中で、日本の大学で化学を学んで来た技術移住者の目から見たブラジル企業や社会、米国の大学生活についての随想に加えて、3年間働いたマタラゾ財閥家の盛衰、日本とブラジルの農地改革の比較、日本移民がブラジルに持ち込んだ柿、リンゴなどの栽培の苦労、そして在住者ならではのブラジル各地の紀行など、多彩な内容になっている。 〔桜井 敏浩〕
高知新聞が創刊105年を記念して、2008年に100周年を迎えた高知県人のブラジル移住者の足跡を追った連載記事の集成。
記者を9ヶ月間派遣し、ブラジル各地での同県人の汗と涙の人生から何かを学びたいと取材したが、本書のもう一つの特色は、高知出身で笠戸丸の最初の組織移住者集団を率いた“
移民の父” といわれる水野 龍の足跡を辿ったことである。 ブラジル各地にいる高知県人移住者の過去と現在、そして今は日本に来ている“ 出稼ぎ” 日系人の現状まで広く取り上げており、地方紙の特色を活かした総合取材の好企画である。 〔桜井 敏浩〕
〔『ラテンアメリカ時報』 2009/10年冬号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕
カトリック化したとはいえ、彼らの間で脈々と伝わり、儀礼が行われているカンドンブレは、ヨルバ(ナイジェリア、ベニンにかけて住む人たち)の多神教、神話とすべて繋がっている。このヨルバの音楽や踊りなどから先に入った著者であるからこそ、サルバドールのカトリックとカンドンブレが融合した祭りやカンドンブレの言い伝え、儀式に入っても、その背景がよく理解できる。サルバドールのカーニバルや多くのミュージシャンとの交流の姿も、ジャズから一貫して音楽、それもアフリカ系音楽に関わってきた著者ならではの肌で感じ取った感覚で見たブラジル紀行になっている。 巻末にバイーア音楽を彩る音楽家たちと、著者を含む6人の日本人評論家が推薦する「ブラジルを体感するためのディスクガイド」も付いている。残念なことに色彩豊かな筈の本文中の写真がモノクロになっているが、アフリカ系音楽のルーツをよく知っている写真家のバイーアの探訪はふつうのブラジル紀行とはひと味違う世界を見せてくれる。 〔桜井 敏浩〕
1980年代半ばから2006年に至る間に日本企業の経営・生産システムの国際移動の研究と現地調査を重ねてきた研究グループが「適用・適応のハイブリッド」モデルによる、2000〜06年の間に行ったメキシコ、ブラジル、アルゼンチンでの製造業工場とベネズエラでの帝国石油の石油開発事業の現地調査結果から、日本式経営がどのように導入されているか? アジア等他地域での日本企業経営と何が異なるか?などを、14人の経営・企業等研究者が分析している。 日本型生産システムの適用度を、作業組織とその管理運営、生産管理、部品調達、参画意識、労使関係、親−子会社関係の 6項23 の視点から評点を出し、これまで調査してきた世界での平均、アジアや欧米での数値とラテンアメリカの平均を比較し、各論としてメキシコ、ブラジル、アルゼンチンの国別日系工場の特徴を挙げ、自動車産業についてはトヨタ(ブラジル、アルゼンチン、メキシコ)、日産(メキシコ)、ホンダ(ブラジルの二輪・四輪、メキシコ)、デンソーを、電機では東芝(ブラジル)と三洋電機(アルゼンチン)のケース分析を行っており、ブラジル等では欧米企業の新しい生産戦略も紹介している。〔桜井 敏浩〕
〔『ラテンアメリカ時報』 2009年秋号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕
シリーズ「失われた10 年」を超えて―ラテン・アメリカの教訓3部作の『ラテン・アメリカは警告する』(2005 年)に続く第2冊目。新自由主義経済の負の経験を乗り越えようとするラテンアメリカに、2008 年米国発のサブプライム・ローン破綻に端を発する経済危機が襲い、分断・対立・競争を原理とする「競争」による混沌とした不安社会から脱却するために、安心社会に向けて連帯・参加・協同を原理とする「共生」への模索が始まっている。 第T部の新自由主義以後の参加的・連帯的社会形成、社会関係資本への注目、福祉社会の可能性と貧困政策についての理論編と、第U部のペルーでの住民参加、メキシコのエンパワーメント、ブラジルの NGO による教育実践、エクアドルの多民族共生、ブラジル南部クリチバ市が行った人間生活中心の都市計画、アルゼンチンの地域通貨、日本への移民労働者の貢献という実践編から構成されている。 ラテンアメリカでの多様な社会の課題とそれらへの挑戦の試みは、現代日本への示唆が込められているという編者、執筆者の意気込みが感じられる。 〔桜井
敏浩〕 〔『ラテンアメリカ時報』 2009年秋号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕 『ブラジル史』
ブラジル植民地史・ポルトガル近世史の研究を続けてきた著者(東京外語大名誉教授)による植民地期から近代を経て現代に至るまでの通史。 第一部「植民地期」では、1500年のポルトガル人カブラルのブラジル到達以前の先住民社会からポルトガル人等の入植と総督制や奴隷の導入、砂糖プランテーションの拡大、内陸での金鉱の発見などによる植民地化の進展を、第二部「近代」では1822 年のペドロ王太子の独立宣言から第一、第二帝政、旧共和制を通じてコーヒー産業が勃興しブルジュアジーが力を得ていく過程を、第三部「現代」は、1930 年から45 年まで続いたヴァルガス独裁政治、第二次世界大戦終結時から1964 年の間の左右ポピュリズム政治、64 年のクーデタから85 年の民政移管までの軍事政権による開発独裁、85 年の民主主義の復活からカルドーゾ、ルーラ政権に至る現在までを、分かりやすく概説している。
大学での教科書を意図して執筆されたもので、政治のみならず、経済、社会、文化面についてもふれることで歴史全体を概観し、現代の問題点の背景が理解できるようになっている。 〔桜井
敏浩〕 〔『ラテンアメリカ時報』 2009年秋号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕 『ブラジルから遠く離れて
1935−2000 クロード・レヴィ=ストロースのかたわらで』
本書は2007年に東京で開催された映像展示展をドキュメント化したもので、二人のサンパウロ市街の写真の対比を交えつつ、今福が選んだレヴィ=ストロースの『悲しき熱帯』等の文章と彼の文章の抜粋を綴っている。〔桜井 敏浩〕
新宿でかつて移民送り出しを行い、その業務を担当していたことのある国際協力事業団の総裁がホームレスの男に刺殺された。 一方サンパウロで警察や司法の手から逃れている過去に悪辣な犯罪的行為を行った者を追い詰め惨殺する秘密私刑組織に日系老人が射殺され、両者とも戦前使われた旧百円紙幣が絡んでいた。 過去のリオ・グランデ河の移住地で起きた一家殺しや、続いて東京とサンパウロで次々に起きる殺人事件の謎をそれぞれ追う日本とサンパウロの新聞記者が、その背景にはブラジルへの日本人移民史の暗部である勝ち組と負け組の抗争と、その混乱期に勝ち組の間で荒稼ぎした偽皇族や無知な移民に旧円紙幣を売りつけた詐欺事件、そして戦後トルヒーリョ独裁時代に送り込まれ惨状をきわめたドミニカ移民が関係していることに辿り着く。 東京とブラジルでのいくつもの事件と、それらに関わる意外な関係者達を登場させながら、日本人移民史の中で暗躍した者達と彼らへの復讐を行っていく過去の被害者の子弟、事件の解明に迫る日系人記者とその恋人などの日本・ブラジル両国にまたがる複雑な交錯を描いて、一気に読ませる長編サスペンスである。 こういった移民や日本への出稼ぎ南米人、ブラジル人の日常生活を交えた題材での描写は、得てして誤解や現実とは違う表現の著作が少なくないが、本書はきわめて正確かつリアリティがある。それは著者が実はブラジル移民を追った『蒼茫の大地』(講談社文庫 1994年)、『日系人 その移民の歴史』(三一新書 1997年)やドミニカ移民のドキュメンタリー『ドミニカ移民は棄民だった』(明石書店 1993年)などの著作のあるノンフィクション・ライター高橋幸春だからである。過去の日本政府の移民政策を絡ませた復讐劇としては、アマゾン移民を扱った『ワイルド・ソウル』(垣根涼介 幻冬舎 2003年)がありこれも面白いが、本書は移民史を本格的に取り込んだ、サスペンスとして一読に値する。 http://www.bizpoint.com.br/jp/reports/sakurai/sk15_01.htm#ワイルド・ソウル 〔桜井 敏浩〕
〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕 『「出稼ぎ」から「デカセギ」へ ―ブラジル移民100年にみる人と文化のダイナミズム』
ブラジル社会人類学者である著者が、両国間の移民の社会文化史を追うことにより、ヒトの移動によってもたらされた社会と文化の変容を考察した力作である。 〔桜井
敏浩〕 〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕
ブラジルへの1908年の最初の笠戸丸移民の4割は沖縄県出身者であり、現在日系人の1割を沖縄系が占めるブラジルの日系社会には、ポルトガル語、日本語、琉球語のバリエーションのダイナミックな言語接触があり、またアイデンティティの問題にも錯綜や軋轢が見られる。 現地語の中での生活を始めた移民は、母語日本語(沖縄のウチナと沖縄の人がいう日本本土のヤマトゥグチ)にポルトガル語の単語を混ぜる独特のコロニア語が広まる。この「言語」をめぐる移民史、沖縄系移民の言語状況、日系移民社会での日本語観を概観し、言語調査の実施と談話資料の収集によって見えてきた日系社会における言語の実態からその特徴を明らかにし、これに言語生活調査にもとづく日系と沖縄系移民社会の談話の実例を紹介している(音声資料のDVDが付いている)。 本書は、海外移民社会における日本語の実態を知らしめるとともに、単一言語で均質な言語共同体を前提とする日本語観を相対化させ、日本語・国語問題をあらためて考えさせてくれる、実証による示唆に富んだ研究論文集である。 〔桜井 敏浩〕
〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕
「第1部 多文化共生政策」では、日本と移民受け入れ国であるブラジル、アルゼンチンの多文化共生政策の比較、「第2部 多文化共生の諸相」では、実際に試みられている多文化共生教育、在日日系南米国籍者のビジネスへの挑戦、定住化にともなう日本の制度との共生、地域社会の南米出身者による宗教行事の受容に至る過程、日本からの創作民謡のブラジル文化との共生実現、「第3部 多文化共生の歴史と概念」では、インカ、アステカそれぞれの周辺諸民族との関係かの古代国家の特質、メキシコの地方先住民の地域アイデンティティと多文化共生の歴史、江戸時代の国学形成による異相との共生を探求している。 「第4部
多文化共生の懸け橋」は、現在パラグアイ、ベネズエラ、ボリビアと3人いる日系人大使との対話を通じて、多文化共生の中で生きてきた日系人の体験を語らせている。外国人との共生が本格的に始まろうとしている日本が、ラテンアメリカの多文化共生の経験からモデルないし知恵をくみ取る手がかりを得ようとする15本の論考はそれぞれに興味深く、編者の適切な解説がより理解を深めてくれる。 〔桜井
敏浩〕 〔『ラテンアメリカ時報』 2009年夏号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕
今やスペイン語圏のみならず世界に輸出され多くの視聴者を惹きつけているメキシコのテレノベラ(TVドラマ)、同じくメキシコのプロレスとは違うという格闘技ルチャ・リブレ、ラテンアメリカ諸国で最も重要な宗教行事の一つ「死者の日」に対して、メキシコ社会に浸透してきたハロウィーン、メインストリームの美術に対するに民衆の間で生まれた美術を対比させる例としてのサンタ・ムエルテ(骸骨像)の図像表現、「強きを挫き弱きを助ける」貧しき者の味方として民衆から支持を受けている義賊伝説、民族衣装を織ること着ることからその意味とメッセージ性を読み取ることが出来るマヤの民族衣装、欧州で広く流布されたギアナやアマゾンの先住民に居るとされた無頭人などの怪物人種イメージ、選手の出身階層や人種がチームの試合運びにも微妙な影響をもたらすペルーでのサッカー事情、ペルー各地の箱形祭壇や焼き物、人形などの民衆芸術、タンゴ専門のダンスホールであるミロンガとアルゼンチン・タンゴの発生から現代に至る変容、かつて戦後の日本でも風靡した米国文化を具現する代表的な雑誌『リーダーズ・ダイジェスト』ブラジル版の日用品広告に見る米国式生活様式導入の考察、カトリックなどと関わり合いの深いラテンアメリカの食文化と地方料理の背景など、12 編の論考は「民衆文化」の名の下に一定の方向性をもっており、これまでに類書の少ないラテンアメリカ文化論になっている。 〔桜井 敏浩〕
〔『ラテンアメリカ時報』 2009年夏号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕
ラテンアメリカ諸国の経済の多様性、先コロンブス期から新自由主義経済に至るまでの経済発展の歴史的過程、全般ならびに主要国の経済の現状、貧困格差、経済開放にともなう産業構造の改革、再び注目されるようになった一次産品輸出、大規模開発による環境、左派政権の台頭という今日の問題を4つの章で解説した後に、1980 年代後半以降に本格化した民営化の動きと域内だけに留まらず世界で活動する主要企業、注目企業という、変わりつつあるラテンアメリカ経済の実態を紹介し、最終章でラテンアメリカと日本の経済関係について、移民とデカセギ、ODA、貿易を取り上げている。 〔桜井 敏浩〕
〔『ラテンアメリカ時報』 2009年夏号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕
国際金融危機は人災であると弾じる序章から始まって、1970年代から80年代にかけて先行的に取り入れたチリとメキシコと90年代のワシントン・コンセンサスにより各国が受容した新自由主義経済の経緯と結果を解説し、21世紀に入っての新自由主義への反旗としてのベネズエラのチャベス、ボリビアのモラレス、エクアドルのコレア、ニカラグアのオルテガなどの反米中道左派政権を紹介している。次いでラテンアメリカの安全保障を規定しているリオ条約(米州相互援助条約)と日米安保条約を比較し、これらの状況を踏まえた日本の対ラテンアメリカ政策のシナリオと、ラテンアメリカから示唆される日本のODA、農林業改革、安全保障についての提言を試みている。 〔桜井 敏浩〕
〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕
内容は、 1.「一次産品輸出から輸入代替化工業」、2.対外債務危機、インフレ、通貨危機を扱った「マクロ経済の諸問題」、3.ネオリベラリズム、経済改革などの「経済自由化」、4.ポピュリズムと大きな政府、財政、社会保障、左派政権の躍進を採り上げた「経済発展と政府」、5.国営、民族系、多国籍企業を考察する「経済発展と企業」、6.教育、技術を含む「人的資本と技術開発」、7.貧困削減のために試みられた政策を含む「貧困と格差」、 8.「農業と農村」、9.貿易、資本と人の移動から見る「経済の グローバル化」、10.その歴史と1990年代以降の統合、インフラ協力を扱った「地域統合」、11.復権した「新一次産品輸出経済」、 12.危機に瀕する自然、都市環境の悪化、環境保全への挑戦といった重要な課題がある「開発と環境」、13.貿易、投資、ODAで見る「日本とラテンアメリカ」
と、いずれもラテンアメリカ経済の発展と構造の変化の全体像を、簡潔な文章と多数の図表により、分かりやすく解説している。ラテンアメリカ経済を知るうえでの副読本的な資料集として有用である。〔桜井
敏浩〕
ブラジルへの初期の日本移民先駆者の婦人たちがどのような思いで生きてきたかを記録し、国際人として生きてきた日本女性の生き様を知ってほしいという意図から、両国語で刊行されたうちの日本語版。 日本からブラジルへ移民した人々のほとんどは、父が夫が成功を夢見て反対する家族や妻を同行したものである。過酷な労働の中で、家事、育児に苦労を重ねた女性の内助の功によって日系社会は発展してきた。北はアマゾンから南部州まで、100人の女性の証言を各2頁で綴り、日本人移民史年表を付けている。 女性たちの生き様は男性以上に逞しく、日系団体の催しの裏方や農協、文化団体で活躍する行動力と包容力を兼ね備えた姿は、移民史料がとかくこういった市井の側面に触れていなかっただけに貴重な記録である。 〔桜井 敏浩〕
さらに現代ブラジルの貧困問題を政治地理学的に解析し、いくつかの都市で採られるようになった住民「参加型予算」の動向と課題、土地無し農村労働者運動(MST)の事例と教訓、それに対するにサンパウロ州リベイロンプレット市グアタパラの事例といった新しい問題が紹介されている。 昨今のラテンアメリカのいわゆる左傾化という政治の動向が貧困格差の是正、都市の課題解決につながる望ましい動きとは楽観出来ないという編者の意図のとおり、都市問題の複雑さ、立場の違いによる利害の不一致など解決が難しいことの一端が窺える。 〔桜井 敏浩〕
21 世紀に入ってラテンアメリカでは左派政権が数の上では主流になった。ここで「左派」というのは、伝統的な左派政党、民族主義とポピュリズム、農民運動や先住民運動等の社会運動にそれぞれ起源をもつ政権を意味するが、現代ラテンアメリカの左派政権はチリ、ブラジル、ペルー、コスタリカといった穏健左派と、キューバ、ベネズエラ、ボリビア、エクアドル、それにアルゼンチンの急進左派に二分できる。 本書はラテンアメリカ全体の左派政権登場の新たな波についての解説とともに、これら9カ国の政権の成立の背景と基盤、その社会、経済、外交政策、課題を、それぞれの地域専門家が分析したものである。 左派政権が多数出現したのは、一向に解消されない貧富の格差や、1990 年代の新自由主義への反動、強大な米国への反発といわれているが、大統領選挙時やその後の言説と実際の政策との間には各国で差違があり、上記二分法では収まりきれない多様性があることが分かる。一人歩きした観がある「左派政権」という虚像に対し、それぞれの国の事情を背景にした現代ラテンアメリカの諸問題の実像を知るために適切な解説書である。〔桜井 敏浩〕
〔『ラテンアメリカ時報』 2009年春号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕 『「もうひとつの失われた10
年」を超えて―原点としてのラテン・アメリカ』
構造改革は何をもたらしたか? という観点から、新自由主義改革より大量失業を生じ雇用対策に追われたアルゼンチン、グローバリゼーションの荒波に翻弄されたフジモリ政権下での小零細企業の経験を、現地調査による事例をまじえて分析している。さらに新自由主義とポピュリズム、ブラジルのレアル・プランに見られる「社会自由主義」の開発パラダイムを比較分析した後、ラテンアメリカからアジアに至るまで広く適用されたIMF モデルを批判し、1970 年から90 年にかけて主要国で実施された労働改革−雇用の柔軟化の理論と現実に近年のラテンアメリカの左傾化の一因を見、経済自由化と通貨・金融政策による資本流入のマクロ経済への負の効果までを解析し、新自由主義とその補正に因る「政治的景気循環」サイクルを批判している。 前書『ラテン・アメリカは警告する「 失われた10 年」を超えて―ラテン・アメリカの教訓』(内橋克人・佐野誠 新評論 2005年)に続くもので、新自由主義サイクルの罠にはまり「低開発」社会への道を迷走する日本や先進工業地域と、膨大な農村の貧困地域を抱える中国のブラジル化、そしてアジアの格差拡大など、これら東アジアの「ラテンアメリカ化」を警告する。 〔桜井 敏浩〕 〔『ラテンアメリカ時報』 2009年春号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行
アメリカス世界の中で、米国の"帝国"としての諸相を「セオダー・ルーズヴェルトとアラモ」(島田眞杉京都大教授)から始まり、「ブラジル帝国の建国と記憶のかたち」(金七紀男)、「メシカの年次祝祭における支配原理の表出」(山本匡史)ほかの歴史、「反米・反帝国主義者チャベス大統領の歴史認識」(野口茂)や「<帝国>と宗教―ブラジル・プロテスタント教会の成長戦略」(山田政信)などの現在に至る論考が12編、「国際的労働力の移動―資本主義世界経済における周辺国としてのブラジル」(矢持善和)や「マリアノ・アスエラのメキシコ革命小説『虐げられし人々』を再読する」(片倉充造)など、6編の南北アメリカの歴史、経済、政治、言語、文化、芸術等の論考を収録している。
〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕
1930年代のブラジル旅行とアマゾンの先住民族との出会いを描いた『悲しき熱帯』(1955年)を著したフランスの世界的な社会人類学者であるレヴィ=ストローズによる1930年代半ばのサンパウロ写真集に、現代日本の気鋭の文化人類学者である訳者のブラジル省察、写真とをコラボレートさせた写真と文章の本。 時代は違っても、二人の文化人類学者がサンパウロの街路にSaudade(喪失と憧憬の感情)を感じ取った静かな、知的刺激に満ちた探求の随想である。 〔桜井 敏浩〕
『ブラジル人児童と先生のためのポルトガル語コミュニケーション』
約30万人いるといわれる在日ブラジル人のかなりの人たちが、数年間の"デカセギ"から滞在が長期化、定住化が増大している。それとともに以前にも増して深刻な課題になってきたのが、その子弟の教育問題である。しかも、昨今の世界同時不況による企業の生産縮小によって雇用や就労条件などで真っ先にしわ寄せを受ける非正規労働者が大半の彼らにとって、月に一人当たり4,5万円はかかるといわれるブラジル人学校へ子弟を通わせることの負担は大きく、少なからぬ子供たちが学校へ行かなくなるか、日本の公立学校への転入学を余儀なくされている。 日本の公立学校に入る場合は、日本語がよく出来ない保護者と当の児童、ポルトガル語を解さない教員にとっては、初めての登校時に学校生活がどういうものか? どのような手続や持ち物などの準備をしたらよいか? などから始まって、学校生活の中での行動や会話、先生や友達との付き合い方など、互いに意思の疎通に苦しむ場面が多い。 本書は、このような学校現場での様々な場面での初期段階でのやり取りを、日本語と片仮名の発音付きポルトガル語の対訳で聞く・答えるという問答集の形で懇切に示しており、互いの言語が判らなくても、指さしで意思を通わせることが出来るように工夫されている。巻末には、「先生のためのポルトガル語教室」とブラジルの国情、社会、文化、教育制度の概説と日本における日系ブラジル人児童教育の課題を指摘した「ブラジルを識るための10章」も付されており、教員等のポルトガル語とブラジルへの理解を助けている。 こういった現場レベルでの対話の成立こそ、在日ブラジル人の子供たちの不登校を減らし、周囲の日本人の子供たちや教員、父兄との交流を円滑にする身近な国際化の実践に寄与することは間違いない。〔桜井 敏浩〕
〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕
失業した彼らに対して、ブラジルで募集して就職を斡旋した派遣業者も、これまで有用な低廉労働力として使ってきた企業も直接雇用ではないとして、その再就職の世話には冷淡である。日本で数年働いてきたとはいえ、多くは主に機械的な作業を担当してきたこれらブラジル人の多くは日本語も十分ではなく、ハローワークや行政機関に行っても思うように意思の疎通を図れないことが、厳しい雇用情勢のなかで一段と再就職を難しくしている。 本書は、こういったブラジル人がハローワークに行って仕事を探す、相談員とやり取りをして仕事の内容や条件を確認する、実際の雇用企業へ赴き面接を受ける、履歴書や求職申込書を作ってみるなどの、最も基本的な行動を取る際の、最小限必要な会話と資料のポルトガル語・日本語の対訳集である。ブラジル人がこれを用いて会話し、あるいは該当する文を指さしすれば、葡語の分からない日本人もまた葡語発音の振り仮名により会話し、指さしすることで意思の疎通が出来るように工夫されている。 この本の執筆・出版の動機は、現場レベルで具体的に困窮の極みにある在日ブラジル人を支援したいという温かい思いにある。ブラジル人の窮状に対する多くの言葉による同情や提言よりも、いま必要なのは現実の問題打開のためにすぐ実際に役立つツールの提供である。本書が在日ブラジル人はじめ彼らと接触する行政の担当者の座右に置かれて威力を発揮することが望まれる。 〔桜井 敏浩〕
〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕 『日本ウジミナス五十年のあゆみ
[鉄は日伯を結ぶ]』
「50年の進歩を5年で」を標榜し基幹産業育成を図ったクビチェック大統領から一貫製鉄所建設への協力要請に応じて、1957年に日本ウジミナスが設立され、以後50年の建設、経営、拡張への協力、国営化とインフレによる日本出資比率低下、外貨危機による返済遅延、民営化等々の苦難の時代を経て、経営状況が様変わりし累損解消から新日鉄の直接参加など日本ウジミナスがウジミナス経営の存在感増すに至った経緯を詳述。 (連絡先:日本ウジミナス梶@電話 03-3201-6501) 『アマゾンアルミ・プロジェクト 30年の歩み』
わが国のアルミ資源の安定確保を目指したナショナル・プロジェクトが幾多の困難を乗り越えて成果を上げるに至るまでをまとめた社史。工夫をこらした豊富な資料は、非鉄業界に縁のない読者にも理解しやすい。 (連絡先: 日本アマゾンアルミニウム梶@03-3278-8831) 『日伯農業開発協力株式会社社史 −ブラジル・セラード農業開発協力事業30年の記録』
(連絡先:代表清算人 永井 英 snagaijadeco@msg.biglobe.ne.jp) ― (社)日本ブラジル中央協会
〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕
地球儀を逆さにすると欧米や日本などが赤道の下になり、南米やオーストラリア、南部アフリカが上になるが、時としてこういった視点で世界を見る複眼的な思考が必要と、日本経済新聞のサンパウロ特派員をはじめニューヨーク、ロンドンに駐在した著者が多岐な題材を駆使して国際人の必要条件を説く。 北では非常識とみなされることは南では常識ことを、豊かなアルゼンチンの経済破綻、ブラジル経済の復活、NAFTAに入ったメキシコなどを概観した後、1980年代の累積債務問題について、「貸した側が悪い」「国は国、個人は個人」という"南の論理"、中南米特有の借金感覚という、異なる借金文化を紹介する。禁酒・禁煙運動、セクハラ防止、環境保護などをヒステリックな段階まで進んでしまうアングロサクソンに対し、それらでも何らかの逃げ道を残し、人生をエンジョイするのがラテン系とするなら、日本人はアングロサクソン流の規律への過剰反応が見られるものの、本来は村社会やお祭り好きな点でラテン的、玉虫色解決など許容範囲広い、柔軟な思考が出来る筈という。 南北を縦断する旅をすれば、「ラティーノ」が次第に人種構成でも、文化でも大きな部分を占めるようになってきた米国の実態に気がつく。かつての米国の"裏庭"では、ボリビア、エクアドル、ベネズエラ等の国々で左翼政権が次々に出現し、南の国々は自己主張を強めているのである。 著者の東西南北を飛び回る知的関心が旺盛な旅は、読む物を飽きさせないが、やはり気になるのはいびつな国際化といわざるをえない、外から見た日本の将来である。逆さまの地球儀の下にわずかに見える日本が、本当に米国追随一辺倒でよいのか? という点は、外交、安全保障だけでなく、経済、通商、金融分野でも「居心地のよさ」を捨て、米国に率直にものをいい、地域全体、他国の繁栄のためにコストを払う時期に来ていると指摘する。外を知り、内を知れば知るほど、世界から取り残された日本が心配であり、「非グローバル主義」といわれても仕方がない面を、日本語を解さない外国人には不親切、不便極まりない成田空港や、すぐれた技術力を持ちながら国際標準から外れ鎖国状態である情報通信の例を挙げて分かりやすい。 難民に優しく、待ったなしの外国人労働者の受け入れ体制を作り、日本流でよいからとにかく英語で情報の発信・受信をできるようにすることを説き、最後に「少子化日本の生きる道は3K―改革、開放、国際化である」という、知日派の前英国大使の言葉で締めくくっている。〔桜井 敏浩〕 〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕
祖国敗戦を認識しても、日系ブラジル人としてすぐに新たな帰属意識を心の底から受け入れた訳ではない、むしろブラジルにいるからこそ「日本人」という出自を気にする離郷経験の心向きと行動との結びつき(迂回)を、移民の作った短歌、俳句、川柳から探っている(第T部)。この迂回が顕著に出てくるのがことばであり、外国語となった日本語にポルトガル語からの借用が頻繁に用いられる、いわゆるコロニア語が出来た。一方、著者は1920年代に青年移民が持ち込んだ弁論大会から、日本語が少数民族語になったブラジルでの民族思想の表現を、また日本語が先住民ツピ族のことばと同じ源から発しているという新聞人香山六郎の説を検証することによって、戦後暫くまでブラジルでは正式の国民のメンバーとみなされていなかった日本人が、ヨーロッパ人の到来・移民より先にいた部族の兄弟であるという政治的含みをもった主張を生み出したことを例証している(第U部)。 第V部は、『サンバの国に演歌は流れる ―音楽にみる日系ブラジル移民史』(中公新書、1995年)などの著書のある著者の得意分野である芸能分野からの検証である。「マダム・バタフライ」を演じた3人の日本人歌手に対する邦字紙とポルトガル語紙の記事比較、近年多くなってきたカルナバルへの日系人の参加、日系ブラジル人の間で移民史の有名無名人の物語を語る創作浪曲は、本書のテーマである情けに浸った典型的芸能として最後に論じられている。 これまでの移民史研究にない、移民たちの心に生じた矛盾を包含する心意・心象を見据えた興味深い史料である。 〔桜井
敏浩〕 〔『ラテンアメリカ時報』2008/9年冬号(No.1385)掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕
『社会の鏡としてのブラジル文学
―文学史から見たこの国のかたち』
本書はブラジル文学を詳細に時代区分し、1500年から現代に至るまで、それぞれの時代の特質、歴史的・社会的背景を解説して、代表的な文学作品の著者、著作、その時代性と意義などを紹介している。日系コロニアの日本語文学の章も設けられており、田所教授(京都外国語大学)の収集した膨大な文献・資料からの豊富な引用訳文、資料写真、年表、邦訳文献・参考文献リスト、索引も付されていて、ブラジル文学の背景にある時代性と思想、文化性も分かり、全体像を掴むよい手がかりとなる労作である。 〔桜井
敏浩〕 〔『ラテンアメリカ時報』2008/9年冬号(No.1385)掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕
豊富な著者のアマゾン体験の中での見聞と写真は、読者にあたかも一緒にアマゾン河の探索旅行に行ったような気分にさせてくれる。 〔桜井 敏浩〕
〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕 『日本で最初の喫茶店「ブラジル移民の父」がはじめた
―カフエーパウリスタ物語』
1908年の笠戸丸によるブラジルでのコーヒー豆採集の労働者として日本人移民事業は、失敗に終わって会社は倒産したが、後に「ブラジル移民の父」といわれる水野龍はサンパウロ州政府との移民送り込み契約を果たすべく尽力していた。サンパウロ州政府はその功績を認め、事業継承移民会社の救済とブラジル・コーヒーの日本での宣伝の意味で、水野にコーヒー豆の12年間の無償供与を行った。 そのコーヒー豆の販売のために明治43年に設立されたのが「カフエーパウリスタ」であり、同年箕面に、半年遅れて銀座に、次いで道頓堀に焙煎、販売とコーヒーを飲ませる店を開業した。社名は第二次世界大戦中に日東珈琲と変えざるをえなくなったが、喫茶店は現在も銀座8丁目の中央通りに面して健在である。 水野龍によって日本移民のコーヒー農園労働の辛苦と努力を伝え、サンパウロ州政府の負託に応えるべく起業されたカフエーパウリスタだが、まだ日本人がコーヒーに馴染みが薄かった明治末期から大正時代のハイカラ嗜好にのって銀座に華開いた新しい文化の象徴として、多くの著名人、芸術家、作家などを惹きつけた日本の喫茶店文化の草分けとして、またコーヒーとともに供したケーキや洋食などにより、日本の食生活の洋風化にも大きな影響を及ぼした。 筆者は日東珈琲の前社長。日本移民の貢献に対してサンパウロ州政府の好意により始まったカフエーパウリスタが、日本でコーヒーを普及させ世界第3位の消費国までにし、日本の食品業界の多くの人材を送り出したことを、様々な資料により愛着を込めて描いている。〔桜井 敏浩〕 『新たな交流に向けて - 日本ブラジル交流年・日本人ブラジル移住100周年記念特集誌』
〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕
世界的な地球温暖化傾向への警告として、エタノールなどのCO2をこれ以上増やさないエネルギーへの関心が高まっている。最近の原油価格の高騰が、これら再生可能エネルギーの採用を大きく後押ししている。 ブラジルは第一次石油危機の直後の1975年に国家プロアルコール計画を採用し、主にサトウキビを原料とするアルコール(エタノール)を燃料とする自動車の普及に力を注いできた。その後補助金による支援は無くなったものの、現在ガソリンにエタノールを25%程度混入しており、またいかなる割合でガソリンとエタノールを給油してもエンジンが自動的に対応するフレックス車の普及により、広くエタノールが使われている。広大な農耕可耕地をもつブラジルは、サトウキビによるエタノール生産では、トウモロコシによるエタノールを生産する米国に次いで世界2位だが、輸出余力という点では量的にもコスト的にも断然世界一である。 一方、米国のブッシュ政権は国内産業界の経済的利益から、先進国の中で唯一京都議定書の枠組みを拒否しているが、この数年はエタノール使用の推進を打ち出している。 本書は、ブラジル、米国、中国のそれぞれの国でのエタノール生産、EUでのバイオ燃料政策、東南アジアでのパーム油によるバイオ・ディーゼルの生産を紹介し、米国の環境政策とバイオ燃料をめぐる産業間の対立と協調、エタノールと米国のトウモロコシ生産、価格の変動、そしてセルロース系の非食料原料によるエタノール生産開発の現状と環境・食料への影響を、7人の研究者が分析しているが、まさしく「燃料か、食料か?」「エタノールの生産とその使用をめぐる世界の情勢はどうなっているか?」という今日大きな関心を集めているこの非化石燃料の実情を理解する上で、極めて適切な一冊である。 〔桜井 敏浩〕 〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕
ボリビアの奥アマゾン河上流の僻地には、今なお日本名の地名や姓をもった人たちがいる。ペルー移民のアマゾン・ゴムブームを目指したアンデス下りの日本人の末裔たちだが、現地の女性と結婚して出来た二世、三世には日本語はもとより日本文化・慣習の痕跡はほとんどない。ペルーには日系二世の闘牛士がいるが、当時のペルー社会の排日気運の残りから日本人の血が入っていることは恥ずかしかったという。ブラジルでは勝ち組テロの記憶、在日ブラジル人若者の社会問題、アマゾン移民の現実、邦字紙記者仲間を取り上げているが、そこに共通するのは移住者が常に直視させられる「同化」か「非同化」という自問である。 ブラジルの勝ち組・負け組抗争にしても、負け組が現実を認識してブラジル社会への同化で生きていかなければと考えたのに対し、勝ち組みは日本民族の独自性を維持していこうという考えだったのだが、それは現在それぞれの文化の違いを認め合いつつ共存していこうというグローバリゼーションの流れに通じるものがあると解するなど、日本も移民労働者の大量移入が真剣に考えねばならなくなっていきている現在、興味深い事例が多く一読に値する。 〔桜井 敏浩〕 〔『ラテンアメリカ時報』2008年秋号(No.1384)掲載
(社)ラテン・アメリカ協会発行〕
世界の食料庫となってきたブラジルの農畜産、チリのワインや養殖鮭の対日輸出の苦労、日本市場の見えざる非関税障壁に阻まれるアルゼンチンの農牧産品、パナマ運河拡張の一大プロジェクト、世界が注目する地下資源を持つチリ、バイオエタノールの輸出国ブラジル、風力発電や自動車用水素燃料を進めるアルゼンチン、石油の国家管理を強化するベネズエラ、カストロ後のキューバなど、商社マンならではのビジネス最前線での動きが紹介されている。しかし、かつて新自由主義の実験場だったチリ、初の先住民大統領を選んだボリビア、テロとの闘いに注力したペルー、コロンビアなど、政治や社会の変化にも目を配っている。ブラジルの知られざる先端産業―航空機製造、金融や税務面で優れたブラジルのIT、情報通信産業への参画経験は、中国や南アフリカなどの新興国で活かせるはずであり、グローバル展開に繋がるとしている。 商社マンが見た資源、エネルギー、食糧の宝庫であるラテンアメリカが、いま経済成長、民主化のパワーによって大きく躍進しようとしている姿を読者に生き生きと垣間見せてくれる。 〔桜井 敏浩〕
著者はニューヨーク大学で中米史、ラテンアメリカ史を講じる優れた歴史家だが、米国の外交政策とその意思決定の背後で、政治家、政府・軍事関係者だけでなくキリスト教のニューライトや市場経済主義者なども大いに影響を及ぼしていることを、チリのピノチェト政権の分析で明らかにしている。 現代ラテンアメリカの新しい世代の桃カ翼柏ュ権には、例えばベネズエラのチャベスとチリのバチェレの如く多くの相違がある。しかし、それぞれの政治スタイルや政策は異なっていても、「米国の裏庭」状態を弱めるために地域統合を前進させ、投資資源を米国以外に多角化し、成長だけでなく公平さを促進する経済政策などは共通していると見られることの背景を知るに、本書の緻密な分析は極めて重要な示唆を与えてくれる。 〔桜井 敏浩〕 『夢の彼方への旅』
ロンドンの寄宿学校で暮らす少女マイアは、考古学者の両親を事故で亡くし、マナウス郊外で天然ゴム事業を経営する遠縁に預けられるべく、家庭教師のミントン先生とともにブラジルへ向かう。ゴム景気でアマゾン河中流のジャングルを切り開いたマナウスは、ヨーロッパ文明を持ち込んだ美しい町だが、養親一家はマイアのために送られてくる養育費目当てで引き受けたであり、双子の姉妹がことある毎に意地悪をする。しかし、ミントン先生や博物館長の理解もあって、マイアは次第にアマゾンの自然と人、生活に魅せられ、調査中に事故死したイギリス人博物学者の遺児フィンと知り合い、先住民とも馴染むようになる。 フィンの亡き父は貴族の次男で、長男が落馬死で跡取りがなくなった祖父が、血筋の続く後継者を求め連れ帰るべく探偵を雇ってマナウスまで探索の手を伸ばしてきた。その情報提供者への懸賞金に双子の姉妹は色めきだちマイアの行動を探り、ついにその居場所を突き止め通報するが、実はそれはフィンが旅芸人一座から抜け出したクロヴィス少年を身代わりに立てて、マイアと博物館長の協力を得て仕組んだことだった。 イギリスへ帰り貴族家の孫の演技をするクロヴィス。他方亡きインジオの母の郷里のシャンティ族の地に向かうフィンとマイン、それを追うミントン先生と彼女に好意をもつようになった博物館長。 彼らはシャンティ族に迎えられ、その仲間として扱われて幸せなひとときを過ごすが、"救出"に来た河川警察に連れ戻される。マインとミントン先生はこの行動で遺産管理人から帰国を命じられ、クロヴィスの告白によって祖父が倒れたとの急報に責任を感じたフィンとともにイギリスに戻るが、最後は3人は再びアマゾンに戻ることができるようになる。 マイアやフィンの数奇な出自とそれから生じるミントン先生やクロヴィス、養親一家などを巻き込んだドラマを、アマゾンに暮らす先住民の自然との共生生活、マナウスの社交界、20世紀初めのゴム採集業などを背景において、ストーリー展開は飽きさせず児童書ながら大人にも一気に読ませる。 〔桜井
敏浩〕 〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕 『サンパウロ市生まれの二世たちの眼差し ―ブラジル社会への同化』 横田パウロ "O Olhar dos Nisseis Paulistanos" Paulo Yokota
単なる自伝ではなく、例えば農業協同組合を含めた日系コミュニティの企業、日本からの進出企業がなぜ成功例が少ないか? 日本とブラジルの交流、グローバリゼーションが進む中でのブラジルとアジアの関係などについて、エコノミストとしてかつ政府内部関係者としての立場にいたことがある筆者の識見が随所に窺え、植木茂彬元鉱山動力大臣や、日系初の弁護士の一人である芳我貞一氏へのインタビューも収められていて、日本ブラジル関係を知る上でも有用な資料になっている。日葡語二カ国語。 (サンタクルス病院への寄付者に贈呈されているが、特別注文での取り寄せについてはJBコミュニケーション東京支店 電話 03-5685-6891 天野営業部長へ) 〔桜井 敏浩〕 〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕 『ブラジルの歴史』
歴史叙述に力点を置いているが、ブラジル史の中心的なテーマ、例えば奴隷制の性格、独立後にブラジルが分裂しなかった事由、権威主義体制から民主主義への移行の特徴などの議論と著者の見解を組み合わせている。 ブラジル史はともすれば、進化の過程であると捉える視点と、政治や社会に対する国家優位から起きる様々な問題が時代を通じて繰り返されてきたという「惰性」を強調する見方が多いが、著者はこれらとは反対に、時代を追って叙述することにより、同じ状況が続き現状追認がなされながら、政治、社会・経済は変化することを示そうとしている。 巻末には、部分的に異論があることを指摘した訳者解説、参考文献リスト、年表が付いている。同じ訳者・出版社による高校教科書訳『ブラジルの歴史』(2003年)という良書が出ているが、より深くブラジル史を知りたいという読者には本書とあわせ一読を薦める。 〔桜井 敏浩〕 〔『ラテンアメリカ時報』 2008年夏号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕 『比較政治―中南米』
本書はラテンアメリカ政治の第一人者である著者(政策研究大学院大学教授)が、中南米の政治を比較政治学、政治体制論によって20カ国を全体として比較し、また政治変動という点で典型的なパターンを示している5カ国を事例に取り上げ解説したものである。 まず、中南米の経済、社会、政治状況の現状を概観して、本書の焦点を明らかにし、比較政治学の中での中南米の軍事政権型、個人独裁型の権威主義体制論、民主化論、ポピュリズム体制の起源、展開、挫折、ポピュリズムという"ガス抜き"を持たなかった小国での内戦と革命、中南米での民主化の進展などを概観している。 その後アルゼンチン、ブラジル、メキシコ、ペルー、ニカラグアについて、それぞれ異なる政治的背景、推移を述べ、最後に現代中南米政治で最も目立った現象である、民主主義の持続、先住民の政治的復権、"左派"の復活を考察する。
比較政治学の精緻な理論を知ろうという放送大学の教材だが、一般読者にも理解しやすい説明になっている。 〔桜井
敏浩〕 〔『ラテンアメリカ時報』 2008年夏号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕
1950年代から今日に至るブラジル経済の変化を概観した後、ハイパーインフレと対外債務問題を克服して真の大国への道を歩み始め、鉄鉱石のほかにも無尽蔵な地下資源、石油自給、世界の食料供給図を塗り替えるアグロ・インダストリー、世界を動かすバイオエタノールといった巨大なポテンシャリティを持ち、主要外資が相次いで参入する第三次ブラジル進出ブームの実情、これらを受けて国際的にも展開する産業界、一方で中国製品の流入ラッシュといった、かつてと大きく変容したブラジルを紹介している。 しかし、税制、金利、大きな政府、為替の過大評価等の経済の問題点、構造改革の必要性が依然としてある一方で、様々な分野に豊富なビジネス・チャンスが存在し、カントリーリスクが著しく改善し、政治は極めて安定度が高いことを指摘している。 終章で真の経済大国に向かう今後の展望と、進出を志す日本企業への具体的なアドバイスとして、事前調査をきちんと行うこと、ブラジルを経営の世界戦略の中で位置づけを明確にし、投資規模は「小さく産んで大きく育てる」日本方式を改める、本社の直接管理をやめ人の問題を含め現地化を図ることなどを強調しているのは至言である。〔桜井 敏浩〕
〔『ラテンアメリカ時報』 2008年夏号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕
まずブラジルの労使関係を、雇用と労使関係、労働法制、貧困と治安、企業の社会責任、日本人派遣者の心得7カ条で概説し、次いで雇用、労務管理、労使関係、マネジメント、異文化理解と摩擦、派遣者の日常生活を、それぞれ豊富な事例で解説している。 資料編として近年の個別労働法制改革の内容、現地労働事情と現地駐在に関するアンケート、ブラジル関係情報・資料などを付けている。ブラジル企業問題に詳しい小池洋一立命館大学教授を主査に、日伯紙パルプ、本田技研、丸紅、YKKなどの企業や経団連、日本労働組合総連合会国際局、在外企業協会の実務家が参加した委員会で取りまとめた。 ブラジルでの社会慣行・文化の違いや労使双方の理解不足から、派遣者が経験する恐れのあるトラブルの豊富なケーススタディは大いに参考になる。 〔桜井 敏浩〕
〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「ラテンアメリカ参考図書案内」に収録〕
広大なブラジルの多様な社会、経済、政治、文化を網羅的に取り上げ、全体としてブラジルの実像と未来像を見ようと試みたものだが、多岐にわたるテーマはそれぞれに興味深い。
「ブラジル民族文化研究センター( http://www.centro-do-brasil.com/ )」は、ブラジル文学を日本に精力的に紹介している田所 清克京都外国語大学教授が主幹となって1988年に創設された関西のブラジル文学、地域研究を勉強する人たちの集まりである。 日本ブラジル交流年・ブラジル日本人移住100周年とセンターの30周年への各界からの祝辞、毎日新聞社が所蔵する日本人ブラジル移住の貴重な写真の紹介、移民、社会・資源、文化交流、企業での経験、文学、音楽、教育など多岐にわたる分野を、延べ50人余が寄稿している。巻末には、「当センター推薦 ブラジルを知るための100点」という様々な分野の参考図書リストも載せられている。 ブラジル好き、ブラジル研究に情熱をもつ人たちの熱気が随所に感じられる構成、文章ばかりである。〔桜井 敏浩〕
〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「ラテンアメリカ参考図書案内」に収録〕 『目で見るブラジル日本移民の百年
−ブラジル日本移民百年史別巻』
笠戸丸移民以前の先駆者、第1回の笠戸丸移民とその頃のコロノ(コーヒー農園の契約労働者)時代、日本人移住者の独立を目指しての開拓、教育、文化活動を含む日伯関係の幕開けから、戦時中と戦後のナショナリズムの狭間の排日運動、勝ち組・負け組騒動や祖国帰還を謳った詐欺事件などの困苦、在留から永住への変化と戦後移民の到着、二世の台頭と一世の成熟による日系社会の安定と発展、農業、日本企業進出と地場産業の拡大、スポーツや文化などでのブラジルへの貢献、グローバル化の中のニッケイと、それぞれに写真を集大成し、日本語とポルトガル語で簡単な解説を付けてある。巻末に地図と日本移住史年表も収録されている。 100年に及ぶブラジルでの日本人移民の足跡を物語る、実に貴重な写真が数多く収録されていて、移住の実態を目で理解するためにも有用で一見を薦めたい。 〔桜井 敏浩〕
〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「ラテンアメリカ参考図書案内」に収録〕 『超積乱雲』
そして終戦、サンパウロ州に旅行中だった武司は、勝ち組による敗戦認識者へのテロ抗争に巻き込まれて監獄入りを余儀なくされる。 遙々トメアスから面会に来た登与子と武司は結婚したものの、武司は旅を続け自分を見極めたいとボリビア、ペルーへ向かうが、リマでの勝ち組騒動の後、あらためて登与子への思いを自覚しアマゾンに戻って再会するまでの波乱の家族史を描いたものである。 アマゾン移民や勝ち組・負け組抗争のいきさつなど、現地に長くいる著者ならではの細部にわたる記述は、まさにひとつの移民史である。 〔桜井 敏浩〕
〔『ラテンアメリカ時報』 2008年夏号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕 『ペレ自伝』
1940年にブラジルのミナスジェライス州の田舎町で貧しい黒人サッカー選手を父として生まれたが、膝の故障で挫折を余儀なくされた父の指導もあってフットボールの才能を伸ばし、ブラジル有数の名門クラブの一つサントス FC に入り16歳で公式戦出場、その黄金時代形成に大きく貢献した。4年に一度のワールドカップ大会にブラジル代表として4度出場、3度の優勝に貢献、生涯1363試合に出場、1281得点という前人未踏の記録を打ち立てた、フットボール史上不世出の名選手であることはよく知られている。 そのペレの誕生、幼少期、サントス入団、ブラジル代表としての4度のワールドカップ、サントス退団後に移籍した米国のニューヨーク・コスモスでの活躍、引退、そしてビジネスに手を染め、今日までを細部に至るまで詳細に述べている。 常に「美しさ」を追求したフットボールの克明なゴールの記憶以外に、二度の結婚、家族、なかでも息子の逮捕、ビジネスでの失敗、そして少なからぬ女性とのゴシップなど、私生活についても包み隠さず語っており、純粋で誠実な人柄は、サッカーファンでなくても魅力を感じさせる。
〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「ラテンアメリカ参考図書案内」に収録〕 『世界史史料
7 −南北アメリカ 新住民の世界から一九世紀まで』
マヤ、アステカ、インカ文明に関する記述から始まり、ラス・カサスによるインディアス論争、ジャガイモ、トウモロコシをはじめ旧大陸になかった新しい食物の発見、イエズス会の布教村、植民地社会の形成、ハイチが先鞭を付けた各地域の独立と革命、貿易と大土地所有制、ラテンアメリカにおける国民統合、そしてパナマ運河建設にみられる米国の膨張と米州関係に至るまで、米州の歴史を形成した様々な史料が収められている。それぞれの分野の専門家が原史料から新たに訳し解説を付している。 コロンブス到来前から20世紀初めまでの、それも南北アメリカの長い歴史を凝縮したことから、それぞれの史料抜粋と解説とを合わせても2頁足らずであり、いささか物足りなさを感じさせる部分もあるが、アメリカ大陸の歴史の流れを原資料の一端に触れて読むことができ、是非手元におきたい有用な史料集である。 〔桜井
敏浩〕 〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「ラテンアメリカ参考図書案内」に収録〕
他方、現在北米で進んでいるアジア系アメリカ人研究の中でしか日系人研究が行われ、北米以外の国に住む日本人、日系人に焦点が当てられない、日系アメリカ人研究ではあっても日系人研究ではない状況になっている。 本書は、アジアの移民先駆者の起源、日本社会から移民が出て行った歴史、日本人移住の事例として満州、フィリピン、ブラジル、カナダ、ペルー、ボリビアでの歴史と現状を考察し、日本に回帰した日系ブラジル人、シンガポールで働く日本人女性を取り上げ、各地域で多様な現実に直面していく中で、新たに創られ変容していく文化的アイデンィティを、17人の研究者が分析している。 〔桜井
敏浩〕 〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「ラテンアメリカ参考図書案内」に収録〕
しかし、この地帯で金を採掘しようとするガリンペイロのならず者が、1993年のある日突然ハシムー村を襲い、16人のヤノマミ族を殺戮し家々に火を放った。ヤノマミの男たちは顔と身体を黒く塗った戦いに臨む姿で、ガリンペイロの侵入に抵抗するべく立ち上がる。 広大なアマゾンに住む他の民族も、再び襲われた時には共に闘うと約束し、部族の違いを超えて力を合わせることになった。1987年から99年にかけて、ヤノマミ族が住む土地に、彼らの人口の5倍にも相当する3〜4万人のガリンペイロが侵入し、1500人もの命を奪っている。 著者はリオデジャネイロ州教育長官を務めるブラジル教育界の第一人者だが、アマゾン河流域等で起こったゴールドラッシュの中で拡大した先住民の大量虐殺を糾弾して本書の筆を取った。エドムンド・ロドリゲスによる挿絵と簡略な文、全文の葡語対訳、訳者による字句の詳細な注釈とブラジルの先住民問題の解説が付されている。 (桜井 敏浩)
本書は著者が選び抜いた35曲のそれぞれにブラジル語歌詞(コード付き)に日本語訳を付け、曲の成り立ち、作詞作曲者についての解説、その曲に関わる思い出や出来事などの補遺・研究を付けてある。 誰でも知っている「イパネマの娘」*やフランス映画『黒いオルフェ』の主題歌「カーニバルの朝」などをはじめとする名曲の対訳と解説は、パラパラと拾い読みしても楽しく、特にポルトガル語を学んでいる人には堪えられないだろう。写真や当時の新聞報道、似顔絵、それに人名索引もあり、日本でも愛好者が少なくないボサ・ノーヴァが、最適の人に紹介されたことは喜ばしい。
〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「ラテンアメリカ参考図書案内」に収録〕
「総説」では、地質・地形、気候、植生、土壌などを地下資源と農牧林産物を中心に見た上で、開発問題の多面性、統計データによる社会の特質を明らかにしている。「中部アメリカ」では、先スペイン期の環境利用と自然観、文化から始まり、植民地時代以降の開発と環境、農村と社会問題、民主化過程、経済成長と貧困、文化的アイデンティティ、アフリカ系文化の影響を取り上げている。「南アメリカ」では、先スペイン期の環境利用とその後の各地での環境と開発、スペイン人の侵略から今日に至るまでの国家と民衆、国際関係を解説している。 大判で大部の本だが、各項目毎に読んでもそれぞれに内容の濃い解説が続いていて、読み応えがある。是非座右に置いて時々紐どきたい有用な一冊だが、個人で購入するには価格が高いのが難である。
〔桜井 敏浩〕
著者はブラジルに、1970年代のいわゆる「日伯蜜月時代」とそれに続く80年代の現地経済混乱による「日伯関係空白の時代」の一時期を、野村貿易のベロオリゾンテ、リオデジャネイロ駐在員として過ごし、退職後2003年から3年間、国際協力機構(JICA)派遣の日系社会ボランティアとして再びブラジルで生活した。その間、故郷の和歌山の地方紙に投稿した報告に加筆修正した、全67編の見聞録である。 歴史と文化とそれを背景にあるブラジル人の生活と性格、日系移民の過去と現在、そしてそのブラジル経済・社会への貢献、農牧業や工業の変化、人種差別の有無、農地改革や縁故主義、最近のブラジルの産業や社会変化のトピックスなど、広範な話題をそれぞれ2乃至4頁の短い文章で紹介している。しかし、多くのこの種の滞在記や見聞録とは異なり、相当ブラジル事情に通暁していなければ書けない、しっかりした裏付けがあることが窺え、内容の濃い、分かりやすい解説書になっている。秋田市にあるこの地方出版社は、これまでも中隅哲郎氏の『ブラジル学入門』、『ブラジル観察学』、『ブラジル日系社会考』はじめ10余点の優れたブラジル関係書を出版している。
〔桜井 敏浩〕 〔『ラテンアメリカ時報』 2008年春号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕
マクロ経済の変化を読み解き、政治・社会情勢も安定して持続的な安定成長軌道に乗ってきた経済を概観し、高いポテンシャルをもった主要産業動向とその成長可能性を、自動車産業、電気・電子産業、大豆、食肉、エタノール、農畜産物、鉱物資源という天然資源を例に取り上げている。また、経済のグローバル化で変貌する企業動向として、欧米企業の投資動向、近年やっとビジネス拡大に動き出した日本企業、想像を超えて国際化が進むブラジル企業を分析し、それらの裏にあるルーラ政権の外交・通商政策、メルコスールと南米統合への険しい課題を解説している。そしてビジネスアプローチに必要な実務知識として、税務・会計、労務、企業設立手続、資金調達と対外送金、貿易システムと知的財産権問題に至るまで、基礎知識を網羅したきわめて有用な解説書。 〔桜井
敏浩〕 〔『ラテンアメリカ時報』 2008年冬号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕
メキシコとブラジルにおいて、弱者のための教育普及に、政府、地方自治体、NGO等が、どのような課題を掲げ、どのように活動してきたかを、両国での就学促進のための家計補助プログラムの評価、批判的検討、オアハカ州ミッヘ族の3つの村を例にメキシコ先住民地域における競争的な教育発展の事例、同じくメキシコでの先住民2言語教育の理想と現実、ブラジルにおける初等教育の地方分権化とサンパウロのファベーラでの住民運動を紹介することによって解説している。 貧困からの脱却には教育の普及が必須といわれながら、実際にその実現に立ち向かうと様々な問題に直面することがよく分かる。 〔桜井 敏浩〕
〔『ラテンアメリカ時報』 2008年冬号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕
「ブラジルに移住した日本人の人生はすべてドラマになっている」 と編者 はいうが、1932年から97年に至る間に移住した、無作為に選ばれた年齢も境遇も異なった6人の女性が書いたという異色の移住史。 10歳の時に移住、インテリの父たち家族と開墾の苦闘の中で妹を失った、執筆者中最高齢の85歳。早い時期から商売に転じた人、アマゾンで農場経営に携わり夫とアマゾンを信じて身を捧げてきた生涯だったという人、1965年に邦字紙の記者として2年間のつもりでブラジルに渡ったが、「日本にないモノがあって楽しくて」ブラジルに留まったという現代女性など、6人の 執筆者はまったくの素人であるが、それぞれの苦楽の生き様は読む者に深い感銘を与える。〔桜井 敏浩〕 〔『ラテンアメリカ時報』 2008年冬号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕
これら5章の音楽の発祥、歴史的な変遷、偉大な作詞家、作曲家、演奏家たちやエピソードなど、著者の長年のラテン音楽との深い関わりで蓄積した"雑学"が楽しく、ふんだんに盛られている。それぞれの章の終わりに、その音楽を味わいたいならこの2枚と、著者推薦のCDも挙げられている。 〔桜井 敏浩〕 〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「ラテンアメリカ参考図書案内」 に収録〕
1961年から操業開始までの3年間、「地球の裏側に溶鉱炉をぶっ建てる」という未曾有の合弁大プロジェクトであるウジミナス製鉄に現地で関わった著者は、「その土地を愛し、その人を愛し、その仕事を愛する」ことが海外技術協力には必要という。仕事の合間には時には柔道を通して現地の人たちとの触れ合いもあり、日本の鉄鋼業が海外に進出した先駆者の苦労と働きがい、喜びを綴っている。 〔桜井 敏浩〕 〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「ラテンアメリカ参考図書案内」に収録〕
第一部は著者がサンバの世界に出会った経緯、第二部はブラジル人とサンバ、そして名高いサンバ学校「マンゲイラ」の歴史、第三部はリオのカーニバルの歴史、参加するサンバ学校、パレードの構成とその審査の詳細、カーニバルの舞台裏というべき諸作業とそれらを支える裏方の人たち、それら作業と練習を一年中見せるサンバ・シティといった構成で、サンバの楽しさ、面白さ、奥の深さを知ることができる、実に楽しい一冊。 〔桜井 敏浩〕 〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「ラテンアメリカ参考図書案内」に収録〕
第2部では、移民集住地での行政や NPO の取り組みを通じての「多文化共生」を紹介しているが、オランダのアムステルダム市の事例以外は、東海地方から三重県にかけての日系デカセギ労働者集住地域を中心に、自治体の外国籍住民施策、定住化が進む日系ブラジル人家族の生活史、NPOによるネットワーク形成、ブラジル人学校に通う日系青少年の社会文化的適応と、日本の公立学校における日系南米人の統合、同じく日系南米人の医療問題などを取り上げている。 グローバル化が進むにしたがい、民間レベルでの人の移動とそれにともなう共生について、いろいろな切り口から分析していて実情を知るうえで興味深い。 〔桜井 敏浩〕 〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「ラテンアメリカ参考図書案内」に収録〕
米国におけるアフリカ系市民、黒人が多数を占める南アフリカにおける人種や国民的・階級的アイデンティティを考察した著者は、ブラジルにおける類似の人種不平等が必ずしも問題にされていないことに気がつく。ブラジルの歴史・文化的遺産、すなわち植民地政策、奴隷制度、人種混淆まで遡り、1822年のペドロ一世による帝国としての独立、奴隷制の廃止、共和制移行を経て、強固な国民国家建設がなされたが、米国や南アフリカのように地域間対立も人種間紛争も経験しなかった分、公の人種支配はなかったのである。黒人の移民流入は禁止されたが、国内においては、アフリカ系であることや皮膚の色による制約の公式法制化は否定されてきたことにより、”人種天国”であると米国の黒人からもみられていた。しかし、奴隷制が非常にゆっくりと進行したため、人種秩序が揺るぐことなく、読み書きできない者には選挙権が与えられないことなどによって、黒人が不利益を被り、非公式な人種差別は明白に存在し続けたのだが、共和制国家の下で国民を結束させるため、ナショナリズムと人種民主主義が提唱され、そのイメージが一致したおかげで社会的・人種的秩序は紛争なしに、国民国家としてのブラジル国が確立したのである。 1970年代以降、ブラジルの人種関係について、それまでの楽観的な見方を修正する学術報告が次第に増え、また経済的、社会的にアフリカ系人が圧倒的に不平等な状態に置かれていることが統計などで明らかにされ、人種的抗議行動も起きてきていて、米国や南アフリカに比べればブラジルの人種的寛容度は高いというものの、現実に不平等がないということを意味しない事実を、本書は歴史的背景と経緯によって明らかにしている。 〔桜井 敏浩〕 〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト http://www.latin-america.jp/ 「掲示板 ラテンアメリカ参考図書案内」に収録〕
強盗犯の少年やその恋人、勤め先の社長、ブラジル人の子供たちのために学校を運営する夫婦たちの協力を得ながら、ジト伍長の行方を追うエルザだが、デカセギで貯めた金を持って帰国した直後に一家で惨殺された日系人の事件も関わって、意外に身近なところにジト伍長がおり、また警察の強盗犯の少年の現場検証の無神経なやり方に、日頃味わらされている差別感の鬱積を爆発させたブラジル人の騒動の中で、信頼し交流していた人の素顔が明らかになるというどんでん返しの結末にむかう。 言葉、文化、価値観や発想の異なるブラジル人と周囲の日本人の間の取り持ちをさせられる”担当者”兼司法通訳という立場のエリザを中心に、犯罪サスペンスながら日本でのブラジル人社会の諸相がよく描かれている。 〔桜井
敏浩〕 〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト http://www.latin-america.jp/ 「掲示板 ラテンアメリカ参考図書案内」に収録〕
1970年代はじめに、日本の業界は国内製錬に見切りをつけ、アルミ資源を海外に求め業界共同プロジェクトが志向された。幹事会社は輪番制で、住友電工がインドネシアのアサハン計画を、三井アルミがアルミナ部門を担当する日本軽金属とともにアマゾン計画を主導した。アマゾン河中流域の豊富なボーキサイト鉱と廉価なツクルイダムの水力発電を利用し、河口のベレーン市近郊に、ブラジルのリオ・ドセ社との合弁でアルブラス(アルミ製錬)とアルノルテ(アルミナ製造)事業を立ち上げようというもので、1976年にガイゼル大統領の訪日を機に、海外経済協力基金の出資、日本輸出入銀行と国際協力事業団からの特利融資を行う"ナショナル・プロジェクト"として行うことで、両国政府間合意、日本政府閣議了解が得られ着手された。 しかし、その後ブラジルのインフレ、為替の大幅変動等、日本側の円高の進行、アルミ業界を取り巻く環境の悪化、それらに起因するアルノルテ計画への参加大幅縮小など、実に多くの問題に遭遇したが、現在は日本のアルミ新地金の1割近くを安定供給するまでになり、アルブラスも業績好調で配当を行うまでになっている。 〔桜井
敏浩〕 〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「ラテンアメリカ参考図書案内」に収録〕
本書は、自身もブラジルでの日本語普及等文化活動に努め、人文研の理事である著者による渾身の伝記であり、経済的成功に背を向けブラジルと日本を文化で結ぼうと、日本人を代表する如き気迫を持って行動した鬼才の生涯を詳細に伝えている。 (本書は、"ブラジル日本人移民百周年記念「人文研研究叢書」 第6号"として発行されたもので、市販はしていないが、サンパウロの人文研 centro-nipo@terra.com.br もしくはブラジル日本商工会議所事務局 secretaria@camaradojapao.org.br が受託頒布している。本代 50レアル) 〔桜井 敏浩〕
ラテンアメリカは、トウモロコシ、ジャガイモ、サツマイモ、ピーナッツ、トウガラシ、トマト、カボチャなどの穀類、野菜、香辛料、カカオ、パイナップル、パパイヤ等の果実類や嗜好品のタバコ、コカなど、実に多くの原産地であることは知られている。この広大な地域に、先住民、欧州からの征服者、植民者やアフリカから連れてこられた奴隷、東欧、中東、アジアを含む世界各地からの移民など、様々な文化が融合して多彩な食文化が展開しているのだが、日本では部分的にしか知られていない。 まずは、トウモロコシ、ジャガイモ、マニオク(マンジョカ/ユカ)という三大主食、コロンブス到達以前と以後の食文化の変化、戦前の農村部を中心にしたブラジル日系人家庭の食生活を解説しているが、大きな部分を占めるのは、17カ国20地域の食文化と酒の紹介である。ラテンアメリカの主要国(ペルーやアマゾンは、さらに地域を区分している)はもとより、中米やカリブの島嶼国の知られざる食文化、醸造・蒸留以前の製法で作った酒、メキシコのテキーラや同じサトウキビを原料としながら製法に違いがあるラムとブラジルのピンガ、移住者が持ち込んだワインに至るまで、現地で長く生活した24人の広範な分野の人たちによる解説は、それぞれが読み物としても興味深い。 〔桜井
敏浩〕
ロサンジェルスの全米日系人博物館の企画による、国際日系研究プロジェクトの成果の一つ。グローバル化が日系人のアイデンティティに及ぼした影響について、第1部「グローバル化と日系人アイデンティティの形成」は、南北アメリカにおける移住と日系人の文化や社会の成立に関する歴史的考察、第2部「日系人アイデンティティの形成」は、ラテンアメリカではペルー、ボリビア、パラグアイ等を事例に、日系人コミュニティの形成と相互のつながりを、社会的慣行、家族、宗教、教育、政治、経済の面におけるアイデンティティを分析している。 第3部「日系人アイデンティティの形成阻害」は、ペルー、ブラジル、アルゼンチン等でのジェンダー、日系映画制作者の作品に見る人種やエスニシティ、日本への"デカセギ"現象の経済学的視点からの考察と、その就労問題と子女の教育、日系であっても"外国人"視される中での日本での多文化共生の可能性、ラテンアメリカへの移住者の中で多い沖縄出身者と本州出身の日本人とのアイデンティティを含む諸問題を取り上げている。第4部「回顧と展望」は、3人の在米編者がこれらの論考を分析している。 7ヶ国18人の研究者による20の充実した事例研究中心の考察は、近年の日系社会、在外・滞日日系人の変化を知るうえで有益な資料である。 〔桜井
敏浩〕 〔『ラテンアメリカ時報』 2007年夏号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕 『はまの大きな菩提樹 A FRONDOSA ÁRVORE DE HAMA』
サンパウロ州の奥深くに日本人が多く入植したアリアンサ移住地があり、そこに共同で農業生産活動を営みながらバレー団を持っていることでも知られる弓場農場がある。創設者の弓場
勇さんの夫人であり、著者勝重さんの母であるはまさんは、父が行きたがっていたブラジルに、医師の養女となって16歳でアリアンサ移住地に入り、そこで弓場
勇氏と知り合う。
本書は北東部社会の文明史と風土的特性、ブラジル地方主義についての概説の後に、偉大な4人の作家の代表作を取り上げ、それぞれの作品について背景、意義、社会性などを読み解いている。長年にわたって特に北東部出身の作家の著作を研究し、日本での紹介に努めてきた著者は、これらの文学を通じてブラジル人の思考や行動様式、国民性、ひいては感性と美学を知ることを期待している。 〔桜井
敏浩〕 〔『ラテンアメリカ時報』 2007年春号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕
第1部「グローバリゼーションと米州国際関係」では米国外交とそのラテンアメリカの位置づけ、南米南部の非核化を通じての信頼醸成と地域統合の進展を、第2部「南北アメリカ社会の変容」では北米での人種問題の歴史的展望、米国最大のエスニック・マイノリティ集団であるラティーノの存在、南北アメリカを結ぶ麻薬ネットワークを概観し、第3部「南北アメリカと日本」ではNAFTA、メルコスール以後の諸国の状況から、日本とメキシコ間のFTAのあり方を、またIDBグループと日本との開発面での協力を、最後に1990年の日本の入管法改正以降のデカセギ日系人激増による南北アメリカの日系社会への影響、日本社会に多文化を形成しつつある動きを紹介している。〔桜井 敏浩〕 〔『ラテンアメリカ時報』 2007年春号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕 『講座 世界の先住民族 ―ファースト・ピープルズの現在 ― 08 中米・カリブ海、南米』
第1部中米・カリブ海ではメキシコのウィチュルなど7族、グアテマラではキチュなど 2族、ドミニカのカリブ、第2部の南米ではチリのマプーチェと都市のインディオであるチョロ、ボリビアのアイマラ、パラグァイのグアラニー、ペルー・アンデス東斜面のアシャニンカ、ブラジルのパノ系先住民、そしてベネズエラのヒビという、この地域の13カ国・地域に居住する17民族を、17人の文化人類学者が取り上げ解説している。 メキシコ以南のラテンアメリカ、カリブには、現在3,000〜4,000万人の先住民が居住するといわれているが、それぞれが多くの共同体を形成し、それぞれの地域で異なる歴史をたどり、その結果として現在の姿も大きく異なっている。また、近年はボリビアにおける先住民出身のモラエス大統領の出現に見られるように、先住民運動を指導してグローバリズムと対峙するなど、あらためて先住民族の動向が注目されるようになった。 異なる地域を専攻し様々な研究テーマをもつ研究者が、それぞれの民族の生き様を活写しており、編者の丁寧な解説も付いているので、大部な本であるが特に予備知識がなくても関心をもった項を拾い読みすれば、それなりに興味深い読み物になっている。〔桜井 敏浩〕 〔『ラテンアメリカ時報』 2007年春号掲載
(社)ラテン ・アメリカ協会発行〕
日本ではブラジル憲法についてはこれまで断片的な解説と日本語訳はあったが、憲法学としての本格的な研究成果はほとんど目にしない。本書は違憲審査制の実態についての、気鋭のイベロアメリカ法学者の労作である。独特の形態をもつブラジルの意見審査制が、広大な領土を統治しなければならず、潜在的に拡大を狙っている州権力が相手の連邦制の体制維持機能、憲法に書き込まれた制度を支持する憲法体制維持機能、その憲法下で統治する政府の政策支持機能、憲法で保障される経済的利益、非経済的自由権といった権利が下位の規範に侵害された場合を救済する権利保障機能をも持つという指摘は興味深い。ブラジルは、50万人もが弁護士資格をもつといわれ、連邦最高裁が受理する事件は年間約10万件もある訴訟大国だが、違憲審査制を通じてブラジルの法曹界の思考様式を知ることは、ビジネス紛争の予防、発生した紛争処理のためにも参考になろう。 〔桜井 敏浩〕
〔『ラテンアメリカ時報』 2007年冬号掲載 (社)ラテン・ アメリカ協会発行〕
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