新たなパートナーシップ構築への模索 - 第10回日本ブラジル経済合同委員会 - 桜 井 敏 浩 サンパウロにおいて3月17日に、日本経団連とブラジル全国工業連盟(CNI)との日本ブラジル経済合同委員会が開催され、フルナン開発商工相はじめ政府、産業界の関係者など両国から約260名の参加があった。終日、両国の政治経済情勢の分析、通商戦略と二国間経済関係の展望、ブラジルにおける投資機会とその環境整備、二国間貿易の拡大策についてのスピーチと質疑が行われ、共同コミュニケが採択された。引き続いて日本経団連ミッションはブラジリアへ赴き、ルーラ大統領をはじめ、グシケン大統領府広報長官、農務大臣、予算企画省と鉱山エネルギー省の次官、中銀理事などの要人を訪問し、さらにまた現在ブラジルで輸出拡大の目覚ましい産業の一例として、ミナス・ジェライス州にあるサジア社の大規模な食肉加工工場を見学した。 ルーラ新政権の評価 まず背景となる新政権発足直後のブラジル経済の見とおしについて、会議冒頭に大蔵省アピー次官から説明があったが、これに筆者が会合前後に各地で多くの識者と意見交換した結果と総括すると、以下のようにいえよう。
この会議で双方の関心が一致したトピックスが2つあった。一つはFTAへの関心である。ブラジルはじめ中米、南米諸国は、米国が主唱するFTAAについて2005年末までに交渉を終了することを迫られている。ブラジルとしては米国ペースで事を進められたくないため、それまでにできるだけメルコスールの強化と拡大を進め、またEUとのFTA交渉を進展させることで、交渉力を強めたいと考えている。特にもともとFTAAに反発してきたPTが政権を取った以上、なおさらである。これに加えてアジアとの通商関係の緊密化も、従来以上に重視してきている。日本と直ちにFTA交渉に入ろうというまで気運が盛り上がっていないにしても、日本がASEAN、韓国、メキシコとのFTA交渉について具体的なスケジュールを描き出してきたことに、ブラジル側も注視していることが明らかになった。 合同委員会に参加した日本経団連ミッションは、翌18日から19日にかけてブラジリアに政府要人を訪問した。 そのほか、ロドリゲス農務大臣、グシケン大統領府広報長官、ファシャード中銀理事、マシャード予算企画省次官、鉱山エネルギー省トルマスキン次官等、新政府要人への表敬訪問が行われた。 早過ぎた開催時期? ルーラ新政権が発足してわずか2ヶ月半の時期での開催は、その陣容の整備や基本政策立案の状況から見て、時期尚早との危惧があった。また本年2月から7月頃の幅での開催日程案で紆余曲折があった中で、この時期の開催が急に設定されたため、準備期間が著しく短かい会議となった。今回同様サンパウロで前回開催された第9回会議では、事前に双方事務レベルである程度のすり合わせを行い、日本側も経団連のブラジル経済委員会内に企画部会を設け(筆者も参加)、幾度となく検討会を重ねて「21世紀に向けての日本ブラジル関係の構築」提言案をまとめて臨んだ。これに比べると今回は、個別議題のスピーカーが3月に入っても決まらない部分があり、日本側の主張要点の調整、優先順位付けなどの事前調整会合が行われないまま、ほとんどぶっつけで会議に臨むなど、一般参加者レベルからみて会合への準備は不十分であったとしか見えない部分があったことは否めない。 しかしながら17日の会合が十分な質疑・時間を割く余裕がない押せ押せスケジュールであった割には、双方の議論が比較的かみ合い収斂することが出来たといってよいだろう。それはまず双方にある障害除去の必要性をそれぞれが認識し、これからどういう行動を起こすべきかについては、前回合同委員会でまとめられた『「21世紀へ向けた日伯同盟」構築のための共同報告書』が明確に示しており、これが今回会議での双方のコンセンサスとして存在したことが、議論を収斂させる上で大きな役割を果たしたことは確かである。 そしてルーラ新政権に替わって間もない時期で、ブラジル側に日本との関係に期待する風潮があらためて出てきたこと、ブラジル側に米国から迫られているFTAA交渉に対抗するため、メルコスールの結束強化とともに、EU等とのFTA締結への熱意が高まっており、その延長として日本・アジアとの関係緊密化への関心が高まってきていることなどの背景があったためと考えられる。 しかし何といっても今回会議の両国の議論を共通の土俵に上げたのは、FTAへの双方の関心の高まりとともに、折からの報道で大きなビジネス機会として、エタノールの対日輸出の話題が盛り上がったことが、少なからざる役割を果たしたことは間違いない。やはり具体的な両国相互にメリットのあるプロジェクトの存在が、かかる二国間経済委員会の活性化にとって、何よりの特効薬だといえるかもしれない。 「すべての卵を同じ篭に入れてはならない」、すなわち特定地域にすべての国家運営資金を集中すべきではないという、カナブラーバ駐日大使の指摘は正鵠を得ている。アジア―なかんずく中国一辺倒の投資は、国家のみならず企業にとってもリスクが大きい。政経情勢の変化に翻弄されることもあるとはいえ、民主主義体制の定着したブラジルの政治リスクは常に予測可能範囲にある。また日本経済が回復し、あらためてグローバリゼーションの中で市場対応や生産拠点展開を再考した暁には、アジア・北米・欧州とならぶラテンアメリカでの拠点は、何といってもブラジルが最有力候補となる。 この合同委員会は久しく途絶えていた後、1999年9月には東京で、2000年11月にはサンパウロで開催されている(注2)。原則として毎年、交互にそれぞれの国で開催しようという了解であったが、今回は引き続いてサンパウロでの開催となった。しかしこの会議の重点が、やはり日本のブラジルへの投資とブラジルからの輸入拡大に重点が置かれている傾向がある以上、日本の経済界の人々が変わりつつあるブラジルの実態を目の当たりして認識を新たにする、“百聞は一見にしかず”効果がきわめて多いことから、連続してのブラジルでの開催は十分意義があると考える。“食わず嫌い”ならぬ、古いイメージでのブラジル敬遠の風潮が、未だに日本の経済界には根強いからである。
さくらい としひろ |