「遺伝子組み換え大豆」生産解禁のインパクト

本郷 豊 (国際協力機構(JICA) 国際協力専門員)


 

<はじめに>
   
ブラジル政府は9月26日、大統領暫定令131号を公布して遺伝子組み換え(GMO)大豆の生産と販売を条件付ながら解禁した。今後、GMO大豆の生産が全面解禁されれば、数年でブラジルは米国を凌駕し世界最大の大豆生産及び輸出国となろう。ブラジルの大豆パワー、GMO解禁の背景と混乱、そして展望を紹介する。
   

<ブラジル大豆のパワー>

   
ブラジルの大豆生産量が急増している。特に90年代に入ってからその伸長が著しく、本農年度(2003/04)には6千万トンに迫る勢いである。米国が2年続きの不作とはいえ、このブラジルの生産量は米国生産量の9割に当たる。米国とブラジルの大豆生産量の合計は約127百万トンとなり、両国の生産量だけで世界総生産量の64%を占め、まさに2強時代になったといえよう(別図参照)。大豆の貿易構造も近年、激変している。1970年代半ばまでは米国1国で全大豆グレイン輸出量の80%を占めほぼ独占状態であったが、その後大きく後退し03年度には36%(約23.6百万トン)になると見込まれている。一方、ブラジルの輸出量は確実にシェアを伸ばして03年度には39%(約26百万トン)に至り史上初めて米国の輸出量を凌駕すると見られる。さらに、ブラジルは大豆粕および大豆油についても近年確実に輸出量を拡大しており、これら大豆関連3品の総輸出額は80億ドル(03年度)に達すると見込まれ、最大の外貨収入源(総輸出額の約10%強)にもなっている。ブラジルの大豆関連産業はまさしくアグリビジネスの重要産業なのである。この大豆がGMO大豆に変わるとどのようなインパクトが現れるのだろうか。

       

<ブラジルのGMO大豆解禁の背景と混乱>

   
GMO大豆とは、米国のバイオ企業である「モンサント社」が遺伝子組み換え技術を駆使して育種した「Round-up Ready (RR)」と呼ばれる除草剤耐性品種を指す。RR品種を利用すると1回の農薬散布で雑草を駆除できるので不起耕栽培が容易になり、生産費を20〜30%削減できる。農家の収入はha当たり50ドル増加するので、農家にとってRR品種の導入は大きな魅力だ。
   
農業大国米国へのキャッチアップを目指すブラジルは、技術革新への関心が非常に高く、96年にはGMO大豆の国内研究に着手。97年にモンサント社がRR品種の販売認可申請を行うと、翌年には「国家バイオ安全技術委員会」が健康上また環境的にも問題無しとの結論を出した。しかし、消費者保護団体や環境保護団体がGMO大豆栽培の禁止を求めて提訴し、勝訴。以後、農務省を中心に農業生産者団体や農業研究機関等がGMO解禁派、一方環境省を中心に消費者保護団体、環境団体、零細農家組織及びNGOが慎重・反対派となって対峙し、認可機関の権限をめぐる論争や訴訟の応酬に明け暮れて結論を出せないまま5年もの歳月が経過した。今日、GMO問題は保健・環境問題のみならず、モンサント社による市場独占への反発や政府による対応の遅れもあって社会問題、政治問題にまで発展している。
    
この間、隣国アルゼンチンおよびパラグアイから非合法的にGMO大豆が導入されブラジル国内に急速に浸透、その普及率が80%を超える州も現れた。米国以上に雑草に悩むブラジルではGMO品種導入による生産費削減効果が顕著であったため、生産農家は違法行為を承知で導入したのである。結果として02/03農年度産GMO大豆の膨大な在庫を国内に抱えた政府は、苦肉の策として03年3月に大統領暫定令113号を公布しこれら在庫大豆に限って販売を認可せざるをえなくなった。今回の大統領暫定令131号ではGMO大豆の植付け準備を進める農家の圧力を前に、大統領が現状追認の形で譲歩し、期限限定付ながら生産までも解禁する措置を取った。03年/04農年度分に限って農家手持ちのGMO大豆の植付・生産・販売を認め、販売期限の05年1月末以降は在庫を焼却することを義務づける異例の内容となっている。さらに10月27日GMO非汚染州を標榜するパラナ州が、州法をもって州内への持ち込みを禁止しブラジル最大の大豆輸出港であるパラナグア港への搬入路を断った。この強硬措置は連邦法との衝突、隣接州からの訴訟を引き起こし、またパラグアイ産GMO大豆の輸出を阻害するとして外交問題にもおよび始めた。GMO大豆のアマゾン生態系への影響を危惧する環境保護団体の抵抗も根強い。このため政府は、GMOを巡る恒久的対応方針の確立を目指して10月30日「バイオ・セキュリティー法案」を議会へ提出し問題の解決に取り組み始めた。今後04年4月の法案成立を目指して賛成・反対派入り乱れて虚虚実実の駆け引きが行われるので、同法案の行方が注目される。
  
 
<GMO大豆全面解禁のインパクト>

現在主要大豆輸出国でGMO大豆の生産を全面的に認めていないのはブラジルだけである。一方輸入国側の潮流も「GMO排除」から「許容値管理」と「表示義務」へと移行しており、世界最大の大豆輸入国中国(世界貿易量の1/3を輸入)、EU諸国及び日本もGMO大豆の消費を合法化している。ブラジルは米国やアルゼンチンとの市場競争力強化のためにも、ブラジル国内で「環境インパクト事前評価調査」や「分別流通」の実施等ある程度の条件を義務付けようが、GMO大豆生産全面解禁へ向かうものと予想される。
    
米国農務省(USDA)は今年1月、「過小評価されるブラジル農業の潜在力」と題するレポートを発表した。これによれば、ブラジルは未だセラード地帯を中心に控えめに見積もってもアメリカの現有耕地面積に匹敵する約1.7億haもの潜在的耕作可能面積があるとして、ブラジル・アグリビジネスの底力に驚嘆している。そしてこれら潜在的耕作可能地の開発促進要素中、革命的(Revolutionary)に生産を刺激する要素として第1番目にあげたのがGMO大豆の解禁である。またGMO大豆の解禁は、現在ブラジルで研究中の多くの他のGMO作物解禁への嚆矢となり、結果的に国際競争力を高めながらブラジルをして中期的に世界最大の農業生産国 へと押し上げていくだろう。

   

(1) 2003年7月国連のUNCTADが発表した年報「World Commodity Survey」では、GMOの導入を見込んでいないが、ブラジルは今後12年間で米国を越えて世界最大の穀物生産国になるであろうと予測している。


    

アメリカ/ブラジルの大豆生産量推移
(単位:千トン)
daizu0401.gif (7846 バイト)

出所:USDA:PS&D(200311)より筆者作成。2003/20004農年度はUSDA予測測値。




(社)日本ブラジル中央協会発行 会員向け誌
『ブラジル特報』2004年1月号掲載】


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