移民史に関わる新刊書籍「移民」紹介

       伊東宏




1998年末、「ミネルヴァ書房」より「近代ヨーロッパの探求」シリーズが刊行さ

れる事になりました。このシリーズの刊行にあたって監修者である望田幸男・

村岡健次さんはその刊行の目的を「1980年代末以降の世界史的激変が{近

代ヨーロッパの見直し}に拍車をかけたのである。

この{見直し}論は、近代ヨーロッパの光とともに影をも直視し、新たな歴史像

の構築を目指したものであるが。。。ヨーロッパ近代史研究における今日的成

果を、各巻それぞれコンパクトな具体的対象に則して盛り込む事を留意したこ

とである。。。こうして各巻は、それぞれ近代ヨーロッパに関する新たな小宇宙

論的歴史像を提示するものとなるであろう」と書かれています。

このシリーズの第一巻として学会の錚々たる新鋭の学者達による「移民」が昨

年12月刊行されました。


(ISBN4-623-02928-X) (定価3600円)



序章では山田史郎教授(同志社)が「移住と越境の近代史」と題して「近代ヨー

ロッパの移民」「本書の視座」について書かれています。


第一章では北村暁夫助教授(三重大)が「ヴェーネトからブラジルへ」と題して

ヨーロッパ移民とブラジル移民の関連についてふれられ、イタリア移民のサン

パウロへの移民、ブラジル南部への入植について詳しく書かれています。


第二章では大津留厚助教授(神戸大)が「ガリツイア・ユダヤ人のアメリカ」と

題して、20世紀初頭の最大の移住者送り出し地方であった北欧オーストリア

=ハンガリー辺境のガリツイア地方のユダヤ人のアメリカへの移住史を書くと

共に、シオニズムとユダヤ民族主義についてもふれられています。


第三章では藤川隆男助教授(阪大)が、19世紀におけるオーストラリアへのヨ

ロッパ移民について書かれ、オーストラリアへの移民の歴史のみならず、その

当時の移民船の航海の様子を詳しく記述されておられれます。


第四章では柴田英樹助教授(中央大)が視点を変え、「19世紀中に多数の移

民をアメリカ合衆国へ送り出したドイツも19世紀末には外国労働力の大量輸

入国に転換する」として、あまり日本では知られていない前世紀のドイツにおけ

る外国人労働者の歴史について述べられています。


第五章では山田史郎教授(同志社)が米国移民について、ヨーロッパ移民の

アメリカ化について、「ホワイト・エスニック」(プロテスタントのアングロ・サクソ

ン系とは異なるエスニック集団)について、その形成の歴史的過程を最も黒人

労働者にその社会的立場から「近かった」アイルランド移民が、白人と非白人

の二集団にのみによって成り立つアメリカ社会でいかにして、強烈な白人アイ

デンティティを獲得していくかを描かれています。また、民主党

との歴史的な結びつきや、アイルランド移民の宗教であったカトリック教会とカ

トリック教育が公教育と対峙していく歴史が詳しく述べられています。


第六章では国本伊代教授(中央大)がラテン・アメリカへのヨーロッパ移民の

歴史を詳しく述べられる共に、教授のライフ・ワークの一つである「信念ゆえに

祖国を追われた流転の民メノナイト」とアメリカ大陸の関連についてもふれら

れ、「現代ラテン・アメリカにおけるメノナイト」についても詳しくお書きになって

います。

その内容は極めて高度であるにもかかわらず、素人にもすらすらと読める記

述で、上記の内容以外にも多くの写真と共に、「映画に見る移民」「移民をめぐ

る考察」「食文化を探る」といったコラムが散りまべられています。とにかく、ラ

テン・アメリカに関心のある全ての方々の必読の書物であると思います。単に

「移民」に関心のある方のみならず、なんらかの意味で北米やラテン・アメリカ

に関連をお持ちの方々にとっては、一つ一つのテーマは北米、ラテン・アメリカ

の正しい理解への一助となる事は間違い無いと思います。

また、近年とみにその重要性が増してきた日本における外国人労働者とその

定住化(在日の日系ブラジル労働者25万人の内ですら4割は永住を希望して

いる、という統計もあります)の過程で生ずる諸問題に対する多くの示唆をも

含むものと思います。

 

以上。



(99/08/12)

 

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