「21世紀に向けた日伯同盟」 構築のための共同報告書
  

2000年10月26日
経団連日本ブラジル経済委員会
ブラジル全国工業連盟ブラジル日本経済委員会


  
 
ワード文書ダウンロード(.exeファイル) 56KB
ワード文書ダウンロード(zipファイル) 26KB

  

  

− 目  次 −

  まえがき 2
  

  T.はじめに 2
      

  U.日伯経済関係強化の意義 3
  U.1.日伯経済関係:歴史的背景と現状 3
  U.2.90年代におけるブラジル経済・産業の変化 6
  U.3.事業環境改善のための課題 8
  U.4.日本にとってのブラジル、ブラジルにとっての日本の重要性 8
   

  V.日伯経済関係強化の可能性 9
  V.1.民営化プロジェクト、インフラ・プロジェクトへの投資 9
  V.2.ブラジルからの輸出拡大 10
  V.3.技術革新 12

          
  W.日伯経済関係強化のための戦略 13
  W.1.相互理解の促進 13
  W.2.新たな事業戦略の構築 15
  W.3.日本からブラジルへの投資の促進 17
  W.4.ブラジルから日本への輸出の促進と多角化 18
     

X.おわりに 19
  V.1.結論 19
  V.2.フォローアップ 20

     


まえがき
 

経団連とブラジル全国工業連盟(CNI)は、両国間の経済関係の緊密化を目指して、1974年以来、経済合同委員会を開催してきている。特に、90年代後半に入り、レアル・プランの成功によるブラジルの経済情勢の変化を反映して、ほぼ毎年合同委員会を開催し、関係拡大の方途を探求してきた。

1999年9月2日に東京で開催された第8回日本ブラジル経済合同委員会では、日伯経済関係の再強化を目にみえる形で図ることが議論の中心となった。

80年代に低迷を余儀なくされた日伯間のビジネスは、いまだ十分に回復せず、近年の欧米企業の民営化プロジェクトへの積極的参加の姿勢に比して、日本企業のプレゼンスはブラジル国内で著しく低下しつつある。

そこで、両国産業界間のより強固なパートナーシップの確立に向けた戦略を「21世紀に向けたアライアンス」と名づけ、これを発展させていくことが合意された。
  

T.はじめに

日本とブラジルとの間に新たな形の経済関係を発展させる大きな可能性が存在することについては、十分な認識がなされている。「21世紀に向けた同盟」は、日本とブラジルが、両国間の歴史や文化的・経済的な絆のおかげで、軽視すべからざる良好な関係を1世紀以上にわたって享受してきたという認識をベースとしている。

こうした関係を再構築するためには、以下のような事実や傾向を踏まえておく必要がある。

  • ブラジル政府の利益を代表するエージェントが商談に重要な役割を果たし、ナショナル・プロジェクトをてこにして両国関係を発展させた70年代と同じモデルはもはや通用しない。民間企業間の関係が、この「同盟」関係のカギとなる。
  • 両国経済は抜本的な変革の時期を脱しつつある。この変革はプラスの構造変化をもたらした。ブラジルは経済を安定化させ、野心的な民営化計画を策定し、経済開放・自由化を進め、世界有数の直接投資受入国となって、開発を急ぐ必要に迫られている。他方、深刻なリストラを経て回復軌道に乗り始め、世界の主要投資国のひとつとなった日本は(残念ながらその優先的な投資先に中南米は含まれていない)、新たな投資先を開拓し国際的な地位を固める必要がある。
  • したがって、両国間で検討すべき貿易・投資の新たな課題、機会は数多い。農業関連からインフラ、電機電子、サービスまであらゆる分野に共同で検討すべき可能性が広がっている。
  • 9千億ドルの地域市場メルコスールの創設により、グローバル企業を目指す日本企業にとって新たな機会と課題が生まれている。メルコスールの通商協定の南米地域への拡大、米州自由貿易地域(FTAA)の創設といった動きのなかではなおさらである。
      

既に確立された大きなプロジェクトに加えて、こうした新たな動きや機会が現れてきている。真の「21世紀に向けた同盟」構築のために、新たな地域経済の視点を用いて、これまでの二国間関係に代わる関係のあり方を探る必要がある。

本報告書では、日本とブラジルとの貿易・投資関係の最近の動きを分析し、今、両国間の経済関係を強化することがいかに重要であるかを検証した(「U.日伯経済関係強化の意義」)。とりわけ、今日のブラジル経済・産業が急速に変化を遂げていることを強調した。「V.日伯経済関係強化の可能性」の章では、両国企業が本報告書に示された新たなパートナーシップを築くことのできる可能性が大きい分野を探ってみた。ブラジル側の日本企業の参画への期待が大きく、かつ日本企業の強みを活かし得る分野を、できるだけ具体的に特定することを試みた。第V章に挙げられた分野で日本企業が成功を収めるためには、日本企業自身が従来の認識・思考を改め、新たに対ブラジル戦略を立て直すことが期待される。報告書の結論として、関係強化プロセスを促進するために必要な戦略を提示した(「W.日伯経済関係強化のための戦略」)。

 

U.日伯経済関係強化の意義

U.1.日伯経済関係:歴史的背景と現状

日本とブラジルとの間には1世紀以上にわたる伝統的な友好関係があり、両国はさまざまな分野で協力してきた。この協力関係は、19世紀末の日伯友好通商航海条約に始まり、25万人以上の日本人のブラジル移住によって地歩が固められた。60〜70年代の大規模な共同プロジェクトの実施で、その重要性がさらに増すこととなった。

両国は、過去100年間に世界で最も大きな経済発展を遂げた国々に含まれる。それまで欧州やアフリカからの影響が大きかったブラジルの民族的、社会的、文化的、経済的な特徴に、日系移民は変化をもたらした。日系移民は農業、貿易、サービスなどの分野に深い足跡を残し、これらの分野における諸々の改善に貢献した。

さらに、両国は世界でも有数の効果的な戦略的関係を構築し、他国の模範となった。特に第二次世界大戦後、日本の重機の品質が国際的に知られるようになると、日本の機械類がブラジルの工業化を加速させ、ブラジルは日本にとって主要な市場のひとつとなった。

(1) 日本の対ブラジル投資

日伯経済関係は60年代にスタートし、「ナショナル・プロジェクト」と呼ばれる資源・大型プロジェクトを中心に、双方にとって必要なパートナーとしての地歩を築いた。日本からブラジルへの直接投資は、80年代はじめまで順調に伸び、83年度のフローベースでは、アジアでは香港に次いで日本からの投資が多かったインドネシアやシンガポールを上回る水準であった。

日本の対ブラジル投資の特徴として、貿易依存度が比較的高かったことが挙げられる。ブラジル進出日系企業(日本企業のマイノリティ出資企業を含む)の輸出率(=輸出額の売上に占める割合)と輸入率(=輸入額の売上に占める割合)は、1995年にはいずれも19%に達した。外資系企業全体では、輸出率は12%、輸入率は11%であった。

主に価格競争力維持を目的としたアジア進出のため、日本のアジア諸国への投資は80年代はじめから90年代後半までに軒並み3〜4倍に伸びた。これに対しブラジルへの投資は、投資額自体は増加したものの伸び率は小幅に止まり、97年度にはインドネシア25億ドル、シンガポール18億ドルに対してブラジルは12億ドルと、大きく差をつけられるに至った。

またブラジルへの外国直接投資に占める日本のシェアも、51〜80年度の累計では7.97%であったのが、51〜98年度では2.23%、さらに94〜98年度だけをとると1.75%と大幅に落ち込んでいる。

99年、ブラジルは経済危機を脱するとともに、最も魅力ある投資市場として復活した。同年のブラジルへの外国直接投資を見ると総額290億ドルに上り、中国(260億ドル)を抜いて新興工業国第1位に躍り出た。この中で、日本の投資額は2億7,400万ドルで14位(前年は11位)と0.9%に過ぎず、欧米諸国の進出によりますますプレゼンスが下がっている。ブラジルの民間企業の売上高上位500社の中に、84年には日本企業10社が入っていたが、97年には5社と半減している。この間、逆に増加したのは、ドイツ、イタリア、フランスなどの欧州企業であった。

80年代のブラジル債務危機の時期に外資系企業が撤退を余儀なくされた後、90年代に入ってブラジル経済がレアル・プランの成功により回復を遂げるや、欧米企業はいち早く戻ってきて民営化等のビジネス・チャンスをものにした。これに対し日本企業は、ブラジルに対する信任が低下したことと、アジアへの直接投資の増加に伴いブラジルがグローバル戦略から欠落したことから、ブラジルへの投資が低迷している。さらに日本企業は、ちょうどバブル崩壊によるバランスシートの毀損、その後の長期にわたる経済の低迷の中で、自らの財務体質の改善に追われ、積極的に投資を考える状況ではなかったという事情も重なった。その結果、経済の自由化、レアル導入後の消費の拡大、民営化、石油部門の独占廃止、金融部門の改革などによってブラジルのさまざまな分野で花開いた事業機会に、日本企業は参画することができなかった。

(2) 二国間貿易

貿易面では、二国間のモノの動きを分析すると、注目される点がふたつある。ひとつは、90年代はじめにはブラジル側の出超であったのが、90年代を通じて黒字幅が大きく減少してきたことである。もうひとつは、輸出と輸入のいずれに関しても、ブラジルにとって日本との関係の重要性が低下したことである。1990年には日本との貿易額はブラジルの貿易総額の7%を占めたが、1998年には5%に低下した。同時に日本企業はブラジル市場におけるシェアも失った。特に機械類や自動車関連の電気・非電気機器など、成長力の大きい分野でこの傾向が顕著である。

ブラジルの対日輸出は、一次産品や中間品を生産するいくつかの分野(特に鉱業関係)に大きく偏っている。他方、日本の対ブラジル輸出は、機械類、電子機器・部品、電化製品、自動車、タイヤなど技術集約的な工業製品に集中している。

90年代のブラジルの対日輸出を分野別に見ると、鉱物・金属関係のいくつかの分野に依然として偏ってはいるが、輸出品の多角化の動きも出てきた。このなかには紙パルプ、コーヒー、野菜加工品、食肉などの一次産品、中間品もあるが、木材・家具、電機部品、靴、衣類、植物油、化粧品・香水などの製品も含まれる。

ブラジルの対日輸出は、きわめて少数の輸出企業に限られている。対日輸出の大部分は、日本の輸入業者と安定した契約関係を結んでいる特に鉱産物分野の企業を通じて行なわれている。この特徴はブラジルの対日輸出が一次産品に偏っていることによるものであるが、日本市場で成長力のある分野の小規模な輸出業者にも同じ特徴が見られ、日本市場では売上の多寡に関わりなく、輸入業者との安定した関係が進出のための重要な条件であることを示している。

日本はブラジル進出日系企業にとっての主要な市場であり、日本の商社は二国間関係に大きな役割を果たしている。一般に、日本企業が出資している企業にとって、日本は主要な輸出市場となっている。このことは一次産品の輸出企業についても、商社についても当てはまる。

ブラジルの日本からの輸入は、日本への輸出ほどには偏っていない。輸入業者のうち最も強力なグループは、自動車および電機電子分野の日本企業で占められているが、北米の多国籍企業のシェアも大きい。日本からブラジルへの輸入の特徴は、企業内貿易が大きな割合を占めることである。特にブラジルで組立てられ完成される部品・部材、中間品についてこれが当てはまる。
  
90年代の日伯間の貿易・投資関係は低調であった。厳密にいえば日本からブラジルへの輸入の増加が、両国関係における唯一の変化であった。これは、ブラジルが貿易自由化を行なった結果であるとともに、日本がブラジル市場の特に技術集約的な分野において、他国に比べて良好なパフォーマンスを示したことの表れでもある。近年のブラジルの輸出分野、輸出企業が多様化しはじめているにもかかわらず、日伯間の貿易関係は、総じて伝統的な南北間の貿易パターンを脱していない。

投資面では、近年のブラジルへの多額の外国直接投資に占める日本の割合は小さく、日本からの投資残高の内訳を見ると、依然として60〜70年代の投資の特徴がそのまま反映されている。

したがって、今日行なわれていることは、過去になされたことの繰り返しに過ぎない。「21世紀に向けた同盟」を構築するための新たなイニシアチブを導入し、このような経済関係の低迷状態に終止符を打つ努力をしなければならない。
   

U.2.90年代におけるブラジル経済・産業の変化

80年代の債務危機の際に苦汁をなめた進出企業の多くには、ブラジル経済は不安定で信頼できない、またブラジルに投資してもリターンが小さいという固定観念が根強く残っている。しかし94年からカルドーゾ現大統領が指揮をとったレアル・プラン以降、ブラジルの経済・産業は確実に変化を遂げている。このブラジルの変化を日本の企業が必ずしも正当に評価していないことが、投資が戻っていないひとつの原因と考えられる。

ブラジル経済は、90年代に大幅な規制・構造の変革を成し遂げた。この変革の目的は、@マクロ経済の安定を確保し、Aブラジル経済の世界経済への統合を強化し、B政府の経済的役割を見直して、財・サービスの提供から民間部門の活動の規制へとシフトさせることであった。その結果、ブラジルが採った新たな経済発展モデルでは、内外の民間部門に投資および財・サービスの提供の主導的な役割が課せられた。

ブラジル経済の変化は以下のような点に表れている。

  • ブラジルへの外国直接投資が大幅に増大している。95年の外国直接投資フローは49億ドルで(93年の約4倍)、97年は153億ドル、99年は285億ドルに達した。98年には、ブラジルは発展途上国への外国直接投資の14%(第2位)を受け入れた。
  • メルコスールの進展によりブラジルは、国内市場のみならずその他の南米諸国の市場もターゲットにした工業製品の生産拠点としての地位を確立した。
  • ブラジルの生産性は、90年代を通じて年率7%と力強い伸びを示した。ISO9000を取得した企業は5,000社を超える。競争力の向上、品質・生産性に関する新技術の導入、新規投資などの面で成長の核となるのは、消費財(自動車関連、家庭用電子機器、家庭電化製品)、非耐久消費財(飲食料品、衛生・清掃用品)、中間財(化学品、ゴム、鉄鋼)などの分野である。これらの分野は、多国籍企業や国内の巨大企業グループに大きく支配されている。
       

このように、90年代はブラジル経済の歴史的転換点となった。国内生産と輸出の事業環境がますます改善され、民間部門が製造業投資の主役となり、産業の強化、近代化が図られ、政府のエージェントの役割低下などの動きとともに、経済の主体の顔ぶれが変化している。そのうえ、ブラジルのリーダーシップの下で、メルコスールという成長力ある消費センターを控え、南米に一大生産拠点が確立されている。

(1) ブラジルは「信頼できる」

マクロ経済面では、1994年7月のレアル・プランの導入により、ハイパー・インフレーションが克服された。しかし、国内の高金利とレアル高のために、多額の貿易赤字が続いた。税制構造に起因する問題に加えて、レアル導入後はこの貿易赤字が国内生産と輸出にマイナスの影響を与えたが、1999年の通貨切り下げによってこの影響は緩和された。切り下げにより国内生産と輸出の競争力は大きく改善され、金利は低下しつつある。さらに税制改革に向けた動きが始まれば、ブラジル経済の調整過程は最終段階に入るであろう。

短時日のうちに市場の信任を回復させたブラジルの実力は特筆に値する。さらに、レアル安による貿易収支の好転などにより短期間で目覚ましい安定回復を遂げ、先に述べたようにブラジルは世界の中で最も魅力ある投資対象国へ転身した。

(2) ブラジルは「儲かる」

ブラジルが投資先として魅力ある理由のひとつは、投資のリターンが高いことである。先進国企業全体の88〜97年の対伯投資収益率(純利益/自己資本)の平均は9.5%となっている。欧米企業は、たとえブラジル経済に若干のリスクがあっても、それに充分見合った利益が得られるのであれば、グローバルな戦略の一環としてブラジルを位置付け、事業を拡大するという姿勢であると言われ、近年、その戦略が実施に移されてきた。他方、ブラジルへ進出した日本企業の間でブラジルは儲からないという声がしばしば聞かれるが、これは80年代から90年代前半にかけての経験から来る認識であり、むしろ新生ブラジルにあった戦略を再構築する必要があると思われる。

ブラジルの構造・規制改革は、新たな事業機会を創出し、潜在的な企業の収益性を増大させた。特に以下のような変化は注目に値する。

  • 80年代末期までブラジルの通商・産業政策全般に見られた保護主義は90年代はじめに廃止され、ブラジルはメルコスールの地域経済統合プロセスをリードしてきた。
  • 国内規制に関しては、90年代はじめにまず製造部門における国の役割が縮小されたのに続き、石油・ガス分野の独占が廃止され、通信・運輸・電力分野の民営化が行なわれた。

 

U.3.事業環境改善のための課題

このように、ブラジルの経済・産業は90年代に大きく変化したが、ブラジルへの投資が安定的に増加するためには、引き続き以下のような改善が求められる。

まず、インフラのより一層の整備により、コスト・ダウンが図られれば、進出企業にとって大きなメリットとなる。日本企業がブラジルのインフラ分野に積極的に投資することが、ブラジル側から期待されている。その際、後述のとおり日本政府、ブラジル政府による金融面でのサポートも重要な役割を果たすであろう。

日本企業のブラジルへの新たな事業展開のためには、ブラジル・コストとして従来から指摘されてきた問題が解決されることが必要である。具体的には、複雑でわかりにくい税・関税体系の簡素化・透明化、他国に比べて高い税率の引き下げ、各種法律・規制・行政手続の緩和・簡素化・安定化・透明化、通関手続の迅速化、ビザ発給の迅速化、ビザの有効期限の延長などがある。

さらに、社会・経済環境と治安の改善は、新規投資を誘致する上で重要な条件である。こうした改善を実現するための努力を特に重視すべきである。
 

U.4.日本にとってのブラジル、ブラジルにとっての日本の重要性

日本企業が国際経済社会で生き残るためには、地球規模での生産・販売拠点の配置を図ることが不可欠であり、アジア、北米、欧州のほかに、第四の拠点としての中南米をグローバル戦略に入れる必要がある。

 従来、日本企業のブラジルへの直接投資のねらいは、日本市場への天然資源の供給と、成長力を秘めた巨大なブラジル市場への工業製品の売込みであったが、日本企業戦略の次のステップは、ブラジルを足場にしたさらなる市場の拡大にある。まずブラジル拠点からメルコスール市場への拡大である。次にメルコスールを核として南米の地域統合がさらに拡大するにつれ、他の南米諸国への広がりが期待される。さらには北米・欧州市場への市場拡大も展望され、第四の拠点たる中南米の核としてのブラジルの重要性は大きい。

他方、ブラジルにとっては、米国、欧州連合(EU)との関係が貿易・投資の面で圧倒的な重要性を持ってきた。アジアとの関係はこれまで希薄であったが、ブラジルの穀物資源や工業製品のアジア市場への輸出、およびブラジル企業のアジア進出に際して、日本が橋頭堡としての役割を果たすことは、ブラジルにとって重要であると思われる。

 このように、日本とブラジルは、それぞれの通商戦略上、互いに重要な役割を期待しており、経済関係を強化することについて双方の利害が一致しているといえる。したがって、両者は二国間関係のみを見るのではなく、地域全体ないしグローバルな視野に立って、対話を進めることが重要である。アジアのなかの日本、メルコスールないしは南米のなかのブラジルという視点を忘れてはならない。
  

V.日伯経済関係強化の可能性

ブラジル経済の構造・規制改革により、日本とブラジルとの経済関係強化の機会が新たな分野で生まれている。関係の強化は、貿易振興はもちろん、直接投資、科学技術・金融面での協力など、より深化した形での協力によって行なわれるべきである。

ブラジルのビジネス・チャンスの大きさは、市場規模を他の国・地域と比較するとよく理解できる。98年のブラジルの自動車市場は153万台と世界第8位の大市場である。96年のカラーテレビの年間需要は、米国で約2,500万台、中国で約2,000万台、日本で約1,100万台であるが、ブラジルでは750万台に達した。これはASEAN10カ国合計の約600万台を上回る。また、ビデオもブラジルで最も多かった96年に約200万台、ASEAN10カ国の合計は約100万台である。電気通信分野でも、97年のブラジルの設備投資額は69億ドルで、ASEAN10カ国合計の63億ドルを上回る。ブラジルの人口が1億6,000万人、ASEAN10カ国の合計人口が5億人であることを考慮すると、ブラジル市場のビジネス・チャンスは非常に大きいといえる。

以下は、両国間の経済関係を強化できる可能性の大きい分野である。
 

V.1.民営化プロジェクト、インフラ・プロジェクトへの投資

通信・エネルギー分野の民営化や、鉄道・道路・港湾のコンセッションを機に活発化した最近の外資のインフラ投資に、日本企業は参加しなかった。既に99年には100億ドル弱の民営化が行われているが、2000年から2001年にかけても200数十億ドルの民営化が予定されている。インフラの民営化は、当面、ブラジルで最も大きなビジネス・チャンスが存在する分野といえる。

 ブラジル政府は最近、2000〜2007年にわたる包括的な投資パッケージを用意した。総額1,810億ドルが見込まれ、うち60%はインフラ・プロジェクトに充てられる。多年度投資計画(”Avanca Brasil”)としてまとめられたこれらのプロジェクトの大部分は民間主導で実施され、政府は補助的な役割を果たすというのが、政府の考え方である。これらのプロジェクトは、「開発と統合の基軸」という広い視野のなかで、特定された投資機会から民間企業・社会が最大限の利益を得られるようにコーディネートされている。具体的には、水力・火力発電プロジェクト、空港・海港・河川港・鉄道ターミナル、鉄道・河川交通、総合ターミナル・倉庫システムなどが含まれている。連邦政府のねらいは、これらのプロジェクトの実施を可能にするために外資を誘致し、さらに南米諸国の物理的統合を目指す投資プロジェクトと結び付けるところにある。

(1) 電力分野

既に民営化が進んでいる配電部門に続いて、2000年2月に天然ガスを利用した49件のIPP案件の推進を発表するなど、ブラジル政府は発電部門の民営化も推進する意向である。

(2) 通信分野

スペイン、ポルトガル等の欧州企業が市場を押さえつつあるが、日本からも2社がブラジル企業、欧米企業と組んでオペレーションを行なっている。ブラジルは、固定電話の普及率が20%、携帯電話の普及率が10%と、先進国に比べるとまだ低く、これから伸びる余地が大きい。

(3) 石油・ガス分野

従来、ペトロブラスが独占していたが、97年以降、コンセッション付与による内外資本への開放が進められている。99年には鉱区の競売が行われ、外資20社あまりが落札した。日本企業も鉱区開発、パイプライン敷設などのプロジェクトに参画している。ちなみに2000年6月には、日本の商社5社が3グループに分かれ、国際協力銀行の融資を受けて総事業費46億ドルの油田開発プロジェクトをリオデジャネイロ州カンポス沖で進めることに合意している。

(4) 輸出・統合インフラ

 多年度投資計画に盛り込まれているプロジェクトの多くは、ブラジルからの輸出のコストを大幅に削減されることが期待される。さらに、2000年8月末にブラジリアで開催された南米首脳会議において「統合インフラ計画」が採択されたが、これによって日本からの新たな投資機会が生まれ、ブラジルにおけるビジネスや輸出のコストが削減されるであろう。

欧米企業はブラジルのインフラ分野に積極的に投資している。他方、日本企業は、国内のインフラ部門がこれまで民間企業に開放されていなかったため、オペレーションの経験不足が否めず、海外のインフラ分野への投資に慎重である。しかし、今後は積極的にインフラ・プロジェクトに参画して経験を蓄積し、競争力を高めることが望まれる。その際、比較優位を持つ欧米企業との連携も視野に入れるべきであろう。また日本は国内のインフラ部門の自由化をさらに進めるべきである。
 

V.2.ブラジルからの輸出拡大

ブラジルの経済発展を促進する上で、輸入の需要と対外債務をファイナンスするために、輸出の拡大を図る必要がある。日本企業との協力は、その実現に大いに役立つと思われる。

(1) 農業関連

農業関連産業には、製品・サービスの貿易、投資、科学技術・金融面での協力の可能性がある。農業関連製品・サービスの生産・消費に関しては両国は明確な補完関係にあるため、この分野では伝統的な経済協力関係が存在してきた。

貿易面では、ブラジルからの農産物輸出にマイナスの影響を与える関税・非関税障壁の削減・撤廃が主な課題である。現在、食肉、砂糖、アルコール、果実など、国際的に競争力を認められているブラジルの製品が、こうした制約の影響を受けている。ブラジルからの輸出の障壁について分析し、貿易障壁削減計画の優先目標とすべき品目を特定することが必要である。

投資面では、出発点としてまず、メルコスールが既に競争力のある世界の主要な食料生産拠点となっており、今後、先進国の国内農業政策が貿易の流れに与えるマイナスの影響が次第に弱まるにつれて、この動きはより一層確実になるということを認識しなければならない。ここでも、潜在的な投資機会は、開発と統合の基軸という論理によって実現可能になり、生産活動への投資を補完するものとして、インフラ・プロジェクトへの投資により生産後・輸出段階でのボトルネック、非効率が解消されることが、その条件となる。さらに、水産、綿花などの分野も、日本企業にとって興味深い投資対象となりつつある。

科学技術協力の面では、セラード地帯における持続可能な農業・牧畜業の研究や衛生面での協力が重要視されるなかで、伝統的な二国間の農業協力の拡大・促進が課題となっている。

二国間の協力の成功例として、日伯農業開発協力事業(PRODECER)がある。このプロジェクトのおかげでブラジルは米国に次ぐ第2の大豆輸出国となった。日本もブラジルからコーヒー、大豆、鶏肉、オレンジジュースなどの食料を大量に輸入している。今後の世界的な人口増加を考えるとき、食料供給基地としてのブラジルの重要性が高まることは想像に難くない。特に中国をはじめとするアジア地域への輸出拡大の可能性が大きいが、この地域については、欧米企業よりも日本企業のほうが経験・ノウハウを持っており、主導権を握りやすいと思われる。

(2) 製造業

自動車・同部品、エレクトロニクス、情報技術、電気機器、通信機器、食品などは、日本からの新規投資が日本や西半球を中心とする第三国市場への新たな輸出の流れを生み出すことが大いに期待される分野である。ここ数年、これらの分野に外国からの投資が活発に行なわれており、組立メーカーやターミナルだけでなく、部品・附属品メーカーも進出して、いずれの分野でもブラジルはメルコスールその他の地域をターゲットとした主要生産拠点となりつつある。つまり、これらの分野では、発達しつつある生産過程が合理的に統合され、競争力と効率性を高めつつある。そこから他の中南米市場に製品が輸出されている。日本企業は、日本への逆輸入、米国など第三国市場への輸出など、あらゆる可能性を検討すべきである。そのためにも、レアル安を活かし、価格、品質面での競争力をいかに高めるかが問われている。グローバル企業にとって、これらの分野でブラジルに投資しなければ、南米市場に参入する機会を逸し、他の市場における地位も失うおそれがある。

ブラジルから日本への輸出が近年、成長している分野については、貿易障壁を洗い出し、日本市場へのアクセスを得るための好条件を整備すべく努力しなければならない(たとえば特恵関税の設定など)。

(3) 天然資源

日本企業がナショナル・プロジェクトとして鉄鉱石、アルミ、紙パルプ等の天然資源開発を実施してきた過去の経験から得た教訓を活かして、「新ブラジル・プロジェクト」を実施する可能性も考えられる。新ブラジル・プロジェクトは、必ずしもかつてのような業界を挙げての大型案件とする必要はなく、資金調達や製品の輸出について日本のみならず第三国も視野に入れる。特に、農畜産物と同様に、今後のアジア市場における需要の拡大を考えると、「新ブラジル・プロジェクト」産品のブラジルからアジアへの輸出には、日本企業にも大いに参入の余地があると思われる。
   

V.3.技術革新

以上のような分野に加えて、高水準の技術力やアジア市場での経験など、日本企業ならではの強みを活かした、新規産業の創造にも積極的に取り組むべきである。

(1) 情報技術

この分野では、ブラジルと先進国との協力があまり行なわれておらず、日本とブラジルが他とは違った、ユニークな協力モデルを生み出すことも可能と思われる。たとえば、ブラジルでは携帯情報端末を利用したインターネット接続、データ通信サービスが始まったところである。これはまさに今、日本市場で他国に先駆けて実施されているサービスであり、世界的に見ても日本企業が実績で先行している分野なので、そのノウハウを活かしてブラジルでも主導権をとることが期待される。

(2) 輸送

輸送インフラが十分に整備されていないブラジルの状況に鑑みて、新幹線、リニア・モーターカーなどの技術を活かした高速交通システムの整備、流通センターや冷凍システム等を含めたトータルな流通システムの構築などの構想もある。また、アジアにおける日本企業の輸送ネットワークを活かして、ブラジル企業がアジア市場で事業展開を行う際に、ロジスティック・パートナーとして協力することが期待される。

(3) コンピューター・ソフトウェア

コンピューター・ソフトウェア産業も、特に合弁や事業提携の形で、日本からの投資の増加が期待される分野である。ブラジルは既に、この分野の輸出の拡大を見てもわかるように、技術面・人材面での能力を伸ばしてきている。

(4) バイオテクノロジー

この分野にも、日伯間の技術協力の可能性がある。豊富な天然資源というブラジル側の強みを活かした協力は、日本からの投資の有力な一分野となり得る。

 

W.日伯経済関係強化のための戦略

以下に示された戦略は、90年代の日伯経済関係が低調に推移し、今後、関係を強化するうえでも依然として問題が残っているという認識に基づいている。しかし同時に、近年、両国経済が変化を遂げた結果、経済協力の新たな可能性が生まれており、関係強化の可能性はきわめて大きいという認識にも立っている。

前述のように、いわゆるブラジル・コストの削減、社会・経済環境、インフラや治安の改善といったブラジルの事業環境の整備が、両国関係のより一層の強化に資すると考えられる。

さらに、70年代までの両国関係の根底にあった信頼・信用関係を再構築する努力が必要であるが、同時にブラジル側で政府のエージェントが中心的な役割を果たしたかつての対話モデルに基づいてそうした関係を醸成することはもはやできないことも理解しなくてはならない。

ここに示された戦略が適切に実行されたならば、日伯関係の大幅な変化の可能性が開花し、早くも2010年代の半ばには目にみえる成果が生まれることは間違いない。日本人、ブラジル人いずれにしても、農業関連だけでなくエレクトロニクスから情報技術、通信、自動車まで「近代的」な製造業分野においても、ブラジルが近い将来、国際的に重要なモノ・サービスの生産拠点としての地位を確立しようとしている事実を見据えている人、そして知識社会への移行に伴って生じる問題に関心を有する人であれば、日伯間のパートナーシップを支持するであろう。

「21世紀に向けた同盟」構築のための戦略は、4つの柱から成る。
  

W.1.相互理解の促進

 日本企業のブラジルへの進出が欧米企業に比べてなかなか進まない理由として最もよく指摘されるのが、両国間の距離の遠さや言語・文化・歴史等を要因とする相互理解の不足、情報の欠如である。この日伯間に存在する変更が困難なハンディキャップを克服し経済関係を活性化するための方策を打ち出す必要がある。

(1) 情報交流の促進

 そこでまず考えられるのが、情報交流の促進である。日本企業のブラジル向け投資を促進するためには、ブラジル経済の安定性、ブラジル市場の高収益性を日本企業に広くアピールすることが重要である。

提言

  • 日本語ビジネス・レターの定期刊行や、既に実施されているブラジル連邦政府、中央銀行、在日大使館等のホームページ上でのデータ提供を一元化した、有用かつ最新の日本語・英語情報提供の拡充が望まれる。
  • 対日輸出および投資誘致を促進するために日本に設置された公的な出先機関(大使館商務部など)が、投資誘致セミナーや、ブラジルのイメージアップおよびブラジル産品の売り込みなどを目的としたキャンペーンなどを行うことも効果的と思われる。
  • 投資機会を掘り起こし、プロジェクトを準備し、連邦・州当局と予備的交渉を行うメカニズムを作ることも、日本の投資家の初期コストを低減するのに役立ちうる。これは大企業よりもむしろ中小企業にとって重要であろう。ブラジル投資促進庁の創設により、こうしたプログラムの推進に道が開かれる可能性がある。
  • 同時に、日本企業もこれらの情報源に積極的にアクセスし、情報収集・分析に努める必要があろう。
  • さらに、ブラジル企業の日本市場・企業へのアクセスを活発化させるため、日本貿易振興会のサンパウロ、リオ両事務所が行なっている対日アクセスのための情報提供活動を拡充し、ブラジル国内にさらにいくつかの拠点を設けるのも一案であろう。


(2) 草の根レベルでの相互理解の促進

草の根レベルで両国国民の互いの国に対する理解を促進することも、経済交流を底辺から支えるものとして重視すべきであろう。ブラジルには世界最大の日系人コロニーの長い歴史があり、近年はブラジルから日本に来て就労する日系人が急増している。

とはいえ、一般の日本人にとってブラジルは何といっても遠く、訪れたことのある人は少ない。一度でも相手国を訪れれば、見方が大きく変わることは多い。それがひいてはビジネス・チャンスにもつながる可能性がある。

提言

  • 日本の公共・民間部門が、日本に働きに来る日系ブラジル人に職業訓練・教育の機会を提供することが考えられる。これは親日派を増やすためのひとつの手段となろう。
  • 人の往来を促す手段のひとつとして、観光の促進が考えられる。ブラジル政府には、さらなる観光客の誘致を目指して、在日政府観光局を設置すべきである。

  
(3) 日伯間の経済対話の強化・体系化

  まず第一に、両国企業間の相互理解を深めるためには、従来からの日本ブラジル経済合同委員会をベースとして、定期的に意見交換の場を設けていくべきであろう。

 一方、政府間レベルでも、閣僚級の交流を増やし、信頼関係をこれまで以上に醸成する必要がある。また、政府間で従来から行なわれている政策対話に加え、2000年4月には国際協力銀行とブラジル政府との間で定期的な政策対話・情報交換を行なうための覚書が締結されたが、こうした場に民間企業の意見を反映させ、ビジネス・オリエンテッドで成果の上がるものを目指すべきである。

提言

  • 双方の主要企業の参加を確保して実質的な対話を可能にするために、主催団体は勧誘努力をより一層強化しなければならない。また、より焦点を絞った具体的な議論を行うために、双方にとって関心の大きい分野毎に分科会を組織し、継続的な対話を行うことも検討すべきである。
  • ブラジル側には、連邦政府主催、あるいは州政府との共催の投資誘致セミナーを定期的に開催したり、サムライ債発行などの機会を捉えた投資家を対象とするセミナー(IR活動)を、他の金融センターで行うのと同様、東京でも行なったりすることが望まれる。

  
W.2.新たな事業戦略の構築

ブラジルにおける日本企業のプレゼンスが近年低迷している中、日本企業の経営戦略について、グローバリゼーションとローカリゼーションの二つの切り口から、見直してみる必要があると思われる。

(1) グローバリゼーション

日本企業はブラジルに進出する際に、ブラジル1カ国だけを見るのではなく、各社のグローバルな事業戦略全体の中にブラジルを位置づける必要がある。欧米企業にとっては、ブラジルはビジネスの世界地図の中の一地域であり、一定の役割を与えられている。日本企業も他の地域と関連づけて対ブラジル戦略を構築することが重要である。

とりわけブラジルは南米の地域統合の中核をなす国である。メルコスールは米州の地域経済、政治の揺るぎない現実である。新時代の南米経済の中核としてのブラジルの重要性は既に世界的に認識されている。米州自由貿易地域(FTAA)の交渉や、メルコスールとその他の中南米諸国、そして欧州連合との交渉が行なわれていることが、その証左である。日本とメルコスール諸国との関係を見直し、これらの国々との関係に高い優先順位を付与することがきわめて重要である。

提言

  • 企業は、メルコスール全体、将来的にはアンデス共同体も含めた南米全体の市場を視野に入れて、周辺国におけるビジネス基盤の強化も進め、域内の水平分業体制を構築するなどの対応を考えるべきである。
  • 日本企業はメルコスールの統合プロセスにおけるブラジルのイニシアチブを支持すべきである。


(2) ローカリゼーション

日本企業にとって、ブラジルとのビジネスは難しいとよく言われる。ポルトガル語のできる人材の不足、文化の違い、複雑で理解困難な税制、法制度など、日本企業が単独で乗り込んでいっても対応できないことが多い。

文化の違いは、両国企業間のビジネスを拡大する妨げとなる大きな要因である。文化の「隔たり」がビジネス慣行や手続にも大きな違いを生み出すことは、よく認識されている。ブラジル側の政府エージェントが中心的な役割を果たしていた関係モデルが意味を失った今は、なおさらである。

現地法人の経営陣の現地化は、現地への適応の困難を解決する手段となろう。欧米企業に比べて、日本企業は特に経営陣の現地化が遅れていると言われる。また、欧米企業の場合、本社から現法への権限委譲がかなり進んでいる。このことが現地における迅速な意思決定を可能にし、急速な事業環境の変化に機動的に対応できるようになっている。

かつては、日系人ネットワークのおかげで、日本企業が比較的低賃金で優秀な人材を採用することができた。しかし近年は、日系人子弟の日本離れが進み、優秀な人材がより待遇の良い欧米企業に流れる傾向が見られる。日本企業は人材確保のためのインセンティブを講じる必要がある。現地法人におけるトップを含めた現地の人材の登用を拡大するために、人材育成に力を入れるべきである。

提言

  • 日本企業は、ブラジル企業との連携、あるいは現地でのビジネス経験が豊富な欧米企業との連携を通じた情報収集の強化により、ブラジル独特の問題を解決することが考えられる。
  • 日本企業は、欧米企業に伍していくためにも、逐一、本社の指令を仰がなくては行動を起こせないといった日本企業のシステムを見直す必要があろう。
  • 既に採用している企業もあるが、現地採用社員の本社研修制度を拡充し、帰国後は幹部への登用を図るようにすることも検討に値する。
  • 日本に留学するブラジルの学生を本社に受け入れ、研修の機会を与えることも、米国の大学に集中しがちな留学生に対し日本の魅力をアピールし、また帰国した留学生を現地法人の戦力として活用するための有効な手段となろう。
  • 「日伯架け橋プログラム」を創設して両国企業間の能力ある人材の交流を促進し、新たなビジネスにふさわしい分野の知識を相互に深め合う。


W.3.日本からブラジルへの投資の促進

相互理解を深め、信頼を醸成したり投資家に保証を与えたりするための企業間・政府間のメカニズムを構築する必要がある。これは、投資が成果を生むまでに時間がかかり、投資家にとってさまざまなリスクが存在するインフラ分野に日本企業の投資を誘致する上で、重要な課題である。さらに、メルコスールの深化と拡大により、この地域の市場をターゲットとした製造業投資が集まる可能性がますます大きくなることにも留意すべきである。前述の通り、ブラジルは南米の生産ネットワークの中核となった。そして南米全体への統合の拡大、さらには米州自由貿易地域(FTAA)の完成へと、この流れは加速しつつある。

(1) 二国間協定

事業環境に関わる日本企業の要求を実現するために、二国間または地域間の取極めを利用することも検討に値する。たとえば、日伯投資協定を締結し、法規制の透明性確保、送金の自由、投資に関わる人の入国・滞在の保証などの条項を入れることによって、日本企業にとって継続性や透明性に欠けると思われる法規制の安定化・透明化、親子企業間のローン返済およびロイヤリティ送金の自由化、駐在員のビザ発給など、現在、日本企業を悩ましている問題の解決の一助となるであろう。

また、日本とメルコスールが自由貿易協定を締結すれば、高関税の問題は解消する。協定の締結は、象徴的な意味でも双方向の貿易・投資関係の緊密化をもたらすことが期待される。メルコスールは現在、EUとの自由貿易協定を検討しており、他方、日本も韓国、メキシコとの間で投資協定交渉を開始し、シンガポールを手始めに自由貿易協定の可能性も探っている。こうした世界的な協定ネットワークの一環として、日伯間の協定についても、中長期的な課題として検討していく価値はあろう。

提言

  • 二国間投資保護・促進協定の締結に向け、政府間で交渉を行う。
  • 日本とメルコスールとの間で、貿易、投資、経済・金融協力の3つを柱とする相互経済協定の締結に向け対話を促進する。それぞれの柱について、相互関係の強化のために、交渉テーマを設定する。
  • 日本・メルコスールの枠組みで、双方にとって関心のある品目につき関税引下げ交渉を実施する。

  
(2) 金融面での支援

 日本企業のブラジル向け投資に際しての大きな懸念は、為替、金利、資金のアヴェイラビリティといった金融面の不安定性である。ブラジルへの国際金融市場からの安定的な資金フローを継続させるために、日本政府はブラジル政府に協力すべきである。

 また、前述のように、多年度投資計画(Avanca Brasil)に基づくインフラ・プロジェクトは、今日の日本企業にとっての有力な投資機会と考えられる。ただし、中長期的な運営を余儀なくされるインフラ部門への参画に当たっては、リスクを最小化する保証・保険機能の充実が重要である。そこで、通産省の貿易保険や国際協力銀行の公的なソースの積極的な運用・活用が必要不可欠と考えられる。

 さらに、日本企業がブラジルで多様なビジネス展開を行なっていくためには、公的ソースからの現地日系企業の事業活動に対する民間銀行を活用した金融面での支援が重要と考えられる。日本政府は国際協力銀行の有するツーステップローン等の多様な金融機能を活用してこうした金融面での支援を実施し、ブラジル政府はBNDES等の公的金融機関をその受け皿として企業への円滑なチャネリングを行なうことが求められる。同時に、民間銀行によるプロジェクトファイナンス並びに資本市場でのサムライ債起債の支援なども従来より行われてはいるが、引続き大いに活用されるべきである。

提言

  • 通産省の貿易保険や国際協力銀行の公的なソースの積極的な運用・活用が必要不可欠と考えられる。
  • 日本政府は国際協力銀行の有するツーステップローン等の多様な金融機能を活用してこうした金融面での支援を実施し、ブラジル政府はBNDES等の公的金融機関をその受け皿として企業への円滑なチャネリングを行なうことが求められる。
  • 根本的な企業のリスク管理の論理に基づき投資リスクを最少化するために、BNDESは日本の官民金融機関との共同プロジェクトとして、日本の投資家に有利な金利条件を与えるプロジェクト・ファイナンスのスキームを構築すべきである。

  
W.4.ブラジルから日本への輸出の促進と多角化

貿易面では、ふたつの行動計画がある。第一に、両国の補完性を利用して、天然資源(特に農畜産物)を中心とするブラジルからの輸出を拡大する。第二に、ブラジルの輸出品の多様化を促進する。

前者については、関税・非関税障壁の削減や衛生に関する協力が、二国間関係を強化する上で、重要な役割を果たしうる。実際、農業関連の品目に関しては、ブラジルの輸出品に対する貿易障壁はきわめて高く、何らかの方法による解決が必要である。

提言

・ブラジルの輸出品が日本市場で直面している障壁を分析するために、ブラジル側に部会を設置する。ブラジル側は分析結果を日本側に提示し、双方が協力して障壁の削減に努める。

  
さらに、成長力のある工業製品が日本市場に参入できるように有利な条件を与えたり、日本側の当局がこれらの製品の輸入を促進するためにパイオニア・プログラムを実施したりすることによって、文化の違い、市場に対する理解の不足、流通制度の複雑さなど、ブラジルからの輸出が直面する主な問題の解決が容易になると思われる。

最後に、政府機関と日本の民間部門が協力して、ブラジル・ブランドを確立するなどしかるべきメカニズムを構築し、ブラジル企業の日本市場への進出を支援することが不可欠である。

提言

  • ブラジル側は、ブラジルの主な輸出促進機関をコーディネートして、工業製品の対日輸出を促進するためのプロジェクトを立ち上げる。このプロジェクトは、日本貿易振興会のブラジル製品輸入促進プログラムと密接に連携をとりながら進めるべきである。
  • ブラジル側は日本に特恵関税の設定を優先的に求める品目を特定する。
  • ブラジル企業が日本市場に参入・定着する際のコストを引き下げるため、SBCE(ブラジル対外信用保証機関)や国際協力銀行を通じて、融資・保証のメカニズムを構築する。こうしたメカニズムの有効性は、他の国々でも広範に採用されていることからも明らかである。


X.おわりに

V.1.結論

ブラジルの経済・産業は、90年代以降、変革を遂げた。ブラジル経済は今や世界中の企業に開かれており、ブラジル企業は近代化と国際化を成し遂げた。欧米諸国の有力企業はこうした変化をいち早く見抜き、ブラジルの有望な分野に次々と大規模な投資を行い、十分な収益を上げつつある。

ブラジルの企業・ビジネスマンが、かつての「信頼できない、儲からない」パートナーではなく、「信頼でき、儲かる」パートナーになったことを、日本企業は認識すべきである。そして両国は新しいタイプの関係と、これを発展させるための新しい方法を模索すべきである。この観点から、日本は通商戦略を見直す必要がある。

 日本企業のブラジルにおけるビジネス・チャンスの重点的検討分野としては、@電力・通信・石油・ガス等の民活・民営化のインフラ部門、A工業製品・農畜産物・天然資源等のブラジルからの輸出産業、Bデータ通信サービス、交通・流通システム等の新サービス産業があげられる。他方、ブラジル企業には、進出してきた日本企業に対し積極的なアプローチを行い、現在のブラジルに適したビジネス・スタイルをアドバイスしつつ取引を拡大し、グローバルなネットワークを有する日本企業を利用してブラジル製品の輸出拡大を図るといった取り組みが望まれる。

また日伯両政府は両国産業界の間のパートナーシップの形成を促進すべく、制度・金融面から日本企業の対伯投資とブラジル産品の輸出拡大を支援する施策を講じていくことが望ましい。

このような目標を実現するために、@ビジネス関係のベースとなる相互理解の促進、Aグローバリゼーション、ローカリゼーションの観点からの新しい事業戦略の構築、B事業環境の改善、Cブラジルからの輸出の促進といった課題への取り組みが望まれる。

本報告書には、以上のような考え方に沿って、日伯両国の民間企業および政府に対するさまざまな具体的な提案が盛り込まれている。重要なのは、これらの提案が実際に検討され、実行されることである。

V.2.フォローアップ

経団連とCNIは、両国政府、民間企業による本報告書の提言の実行を促すために、11月上旬にブラジルで第9回日本ブラジル経済合同委員会を開催する。

国家間の経済交流の拡充に、即効薬はない。中長期的に取り組まなければならない課題も多い。したがって、将来的に経済合同委員会をはじめとする官民のさまざまな枠組みで、本報告書の提言の着実な実施とその効果を確認していく必要があろう。

 

以 上

 

(本共同報告書は英文が正文であり、日本語版は仮訳です)

 

 

back.gif (883 バイト)戻る】【ホーム