在日ブラジル人社会をめぐる諸問題とその取り組み

― CBSABJAの活動を中心として ―

    清水裕幸(CBSABJA 監事)


現在日本には27万人を超えるブラジル人が長期滞在している。多くは就労のため特に近年になって大挙して来日したこともあって、いろいろな問題が発生している。本稿では諸問題を概観し、それに対する取り組みを紹介することとしたい。
 
  
在日ブラジル人の増加とその背景

   
1990年の入管法改正により定住査証発給が容易となったことから、それ以前は一時的な現象と見られていたブラジルからの出稼ぎ者の来日が恒常化した。また家族同伴や再来日する人の数が著増。ちなみに在日ブラジル人の50%強が20代と30代の年齢に集中していて、日本で毎年約4千人のブラジル人の出生が届けられている。この来日・長期滞在の傾向は衰えを見せていない。
  
  
諸問題の発生とその取り組み
  
従前の在日ブラジル人は外交官・企業派遣者・研修者・留学生など、来日前に相当の準備・心構え・予備知識を持ち、また受入れ体制がしっかりした者がほとんどで、日本での生活および社会へ溶け込みなどにさしたる問題とはならなかった。
   
これに対し、1990年以降出稼ぎを目的に来日するブラジル人は、日本語および日本での生活に関する情報・準備の不足に加えて、受入れ態勢の不備などもあって、社会・生活面の適応に苦労し、多くの問題に直面した。また、これから派生して犯罪を引き起こす青少年の増加という問題も放置できなくなっている。在日ブラジル人および中南米出身者を支援するNPO法人クルーベドブラジル・サビジャ(以下CBSABJA)に過去半年間に寄せられた電話相談件数から多い順に問題点を例示すると:
   
     (1)健康と精神的疾病(292件)、

(2)労働問題(110件):賃金、待遇、権利、事故、退職など、

(3)家庭関連法律問題(108件):離婚・別居・家出、家庭内暴力、人種差別、自殺、薬物依存、未成年犯罪など、

(4)健康保険・年金・税金関連(62件):制度内容、納税、確定申告、二重課税防止など、

(5)入国管理関連(29件):ビザ取得・更新、国籍取得など、

(6)公的書類関連(26件):旅券、出生登録、委任状、在職・在学証明など、

     (7)教育(14件)、

(8)その他(140件):社会生活一般、差別、交通関連など、の順になっている。

   
また法務省によれば、25歳以下の外国人犯罪検挙数のうちブラジル人が3割強を占めた(2001年)。青少年犯罪の問題は在日ブラジルコミュニティーで深刻な問題として取り上げられ、さまざまな防犯の取り組みが行われたところである。
   
ここで前述の調査では数字に顕著に現れていないが、特に深刻な問題と思われるのが義務教育年限の子供達の教育・不就学および青少年犯罪の問題である。自治体等の調査によれば不就学の要因は、言葉の問題、学校環境、親の意識など多岐にわたっている。子供達を放任しておけば誘惑から悪の道に染まるものが出てくることは必定である。
   
日本では、公立の義務教育学校は学齢期の外国人児童生徒を無償で受け入れる事となっているため、日本の教育を前提にすれば教育を受ける事は可能であり、また公的な支援は無いもののブラジル学校に通おうとすれば、授業料が比較的高いこと、立地が限られていることを除けば、かなりの数の学校(70校)がある。
 

新たな取り組み

在日外国人に関する諸問題は、国のレベルでも外務省を中心に少子化・労働人口の減少・外国人労働者の扱い、犯罪などの観点から検討がなされている。外相の諮問機関である「海外交流審議会」では在日外国人を専門に取り扱う体制の整備の必要性も提言されている。
  
一方、民間では、主に在日ブラジル人を対象とする食料品・物品・サービスを提供するビジネスが発生した。ブラジル・ショッピングセンターは全国に6ヶ所。ブラジル料理店は約140件もある。「在日ブラジル商業会議所」の会員企業の40%はこれらの企業が占めている。
   
また各地でNPOなどが外国人向け生活ガイドブックを作ったり、小中学校でポルトガル語を解する指導協力者などを用意して、学習支援活動を実施している。著者の家内も地元の小中学校および無償日本語教室において日本語の指導を行っている。
    
このように政府、民間、地方自治体はそれぞれの視点からブラジル人就労者およびその家族の問題に対処している。しかしながら、これらのステークホルダーによって社会・教育面の受入れ体制整備が行われても、最終的に問題解決の主体は家庭なり青少年本人に行き着く。大人達ばかりか、自身での解決能力の低い子供達は、より一層異文化や習慣の違いに悩んでいる。学校や日本社会からの疎外感などが原因で、登校拒否や非行、さらには凶悪犯罪にはしる青少年が急増している。また高校までの学齢期の青少年の4割が不就学とも報告されている。
    
査証更新時の窓口での指導など、子供たちに教育を受けさせるよう促す措置の必要性があげられているものの、他からの強制ではなく、かつて日本のブラジル移民が全ての投資を子供達の教育に当てたごとく、在日ブラジル青少年の親達が自覚と責任を持って子供達に教育の機会を与えることが最も重要である。いかに彼らに社会人としての自覚・尊厳・希望・目標を与えるか、自助努力させるかが鍵である。この点を着実に取り上げているのがCBSABJAである。
  

CBSABJAの活動
 
CBSABJAは、駐日ブラジル大使館の支援のもと、在日ブラジル人への支援活動をしてきたブラジル人専門家グループと日本人グループが活動を統合して拡大・充実を目指すため、昨年秋に設立・認可されたNPO法人である。主な支援活動は、「非行青少年の更正と非行防止への諸活動」「医療キャラバン隊(ポルトガル語での相談)」「日常生活等や法律に関する電話相談」「学習指導・教育相談・ブラジル教科書配布」「子供達のコミュニケーションの場つくり」「プロデビューの夢を育てるオーディション企画」「イベントや日伯交流事業開催」「他の個人活動家への支援やNPOとの連携」などである。この中から2つの注目すべき活動をここに紹介する。
   
一つは、青少年が社会性を育てるのを助けるための「JES21(青少年21世紀の希望)」プロジェクトである。自発的に社会生活態度を身に付けるのを支援するものであり、内容はスポーツ・言葉の学習・音楽や工芸の学習など、さまざまな創造的な活動を行う若者のグループを作り、その活動を通じて、非社会的行動を防止し、さらに市民としての自尊心を持ち、一人の人間として社会との共生が出来るように手助けをするものである。青少年が余暇を過ごせる場を提供し、彼らのエネルギーを芸術・スポーツ・文化活動に向けて、その能力を開発するとともに、グループ活動を行うことにより、社会性とリーダーシップの育成にも資する。またこれらの日常活動を発表する機会を設けることも重要で、群馬県大泉町では「日系ブラジル人青少年フェスティバル」を2002年以降開催している。この活動は青少年犯罪撲滅に効果をあげ、その実績が地元の評価と信頼を得て、昨年の「第2回フェスティバル」には太田市長、大泉町長をはじめとする約千人の参加を得た。静岡県焼津でも同様な活動を行う準備をしている。
    
次は「ドリームファクトリー」活動である。主な目的は、在日ブラジル人青少年に日本で大きな夢と希望をもってもらうことと、彼らのイメージアップであった。2002年に企画し全国から350組の応募があり、オーディションの末に、「天才窒刀@MC窒刀vというグループがグランプリに選ばれ1年間のソニー(SME)によるプロミュージシャンへの指導を経て、本年3月ソニーよりCDがリリースされた。このグループは誘惑に乗って非行に走る仲間達に、「誇りを持って、誘惑に乗らず自分の道を切り開け」とラップのメッセージで若者達に力強く呼びかけている。音楽以外の分野でも夢と希望を育む企画が検討されている。
      
協会の皆様には、是非一度CBSABJAが活動紹介のために隔月開催しているチャリティーディナーコンサートにご参加頂きたく、ご案内申し上げます。
   
問い合わせ:日本語03-5410-2612(土屋)ポルトガル語03-3404-270



(社)日本ブラジル中央協会発行 会員向け隔月刊誌
『ブラジル特報』2004年9月号 掲載】


ホーム】【経済評論コーナー文化評論コーナー