日本ブラジル中央協会講演会「最近の日伯関係について」

二宮 正人(サンパウロ大学博士教授、東京大学客員教授)


   
ルラ大統領の再選

ルラ大統領は10月の選挙で再選を果たし、2007年1月1日より二期目に入る。政権党であるPTや閣僚をめぐる汚職や腐敗が喧伝されたがその責任は常に大統領には及ばず、国民もそれを納得し、野党も有効な攻撃ができなかった。またルラ政権が実施していた低所得層に対する家族手当が、恵まれない人たちのための政治を行う大統領とのイメージを植えつけ、多数の低所得層の票を稼いだ。一方、安定した政治経済情勢があって、一般国民にブラジルはうまくいっているとの認識があり、再選は敢えて代える必要はないとの反応でもあった。では大多数の国民はルラ大統領の二期目に何を期待しているのかといえば、やはり社会政策の強化であるものの、その財源をいずこに求めるかが問題である。

       
今後の国内経済発展の見通し

ブラジル経済は、昨年2.5%、今年は3%の成長と見られている。他の新興国の8〜10%といった高度成長に及ばず、この点では不満足ではあるが安定しているといえる。しかし、今後の問題は無いわけではない。まず増税が俎上に上がっている。また最近の為替相場のレアル高の傾向から、輸出部門が困難な情勢になってきている。特に農産物輸出部門の不満が募っている。しかし、1999年の大幅切り下げのようなことは起きないだろう。

        
対外政策

ルラ大統領第二期で、対外政策に変化があるとは考えられない。その証左として、外務大臣は留任の予定である。対米政策は多くのラテンアメリカ政権の左傾化反米化がいわれているが、ブラジルには当てはまらない。駐米大使は交替するが、特に政策の変更とは考えられない。



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12月18日午後2時30分〜4時 在京ブラジル大使館地階ホールにて
清水会長(右)の挨拶。中央は講師の二宮教授、左は小林理事・イベント企画委員長

 

ただ、アメリカはブラジルの国連常任理事国立候補を支持していないし、ハイチへの派兵は必ずしも好意的には見ていない。

メルコスルについては一部では後退しているように見られているが、ブラジルの政策は変っていない。グループのリーダーとしてこれを大事にし、4カ国にベネズエラも加わった今後の発展を支援して行く姿勢に変りはない。

対アジア政策は、4、5年前に対中国輸出が対日輸出額を逆転してから、それまでの日本を最重視した政策から明らかに大市場の中国重視に変化している。ルラ大統領のアジア訪問も、インド、中国その後に日本という順番だった。中国は、派手なパーフォーマンスでブラジルにおけるプレゼンスを急激に大きくしている。ブラジリアでの中国人の数、パウリスタ通り近辺の中国企業の漢字看板等、目を瞠るものがある。日本語を学ぶ者よりも、中国語を学ぶ者が圧倒的に多くなった。しかし、最近中国との折衝で大豆のマーケット・クレームや航空機製造会社エンブラエールの工場進出への規制等、ブラジルのフラストレーションを惹起する問題も生じており、対中国関係に慎重な見方も出てきている。

   
日本との関係

ルラ大統領自身は親日家である。少年のころ東北ブラジルから出てきた時に、日系人の下で働いていたことがあり、その家族の暖かい扱いには今でも感謝しており、さらに身内に日系人と結婚した親戚もいる由である。

日本との経済関係では、1970年代に密接な関係が発展したが、1982年のメキシコに端を発した外貨危機にブラジルも巻き込まれて累積債務問題が顕在化し、以後ブラジルの国際関係が正常化したのは10年も後であった。ブラジルがこの停滞の10年が終えるころ、今度は日本がバブルの崩壊に直面した。日本が活力を回復するにはこれも約10年を費やしているので、ブラジルと日本両国の停滞で「失われた20年」があったといえよう。この空白の期間に、欧米各国企業は積極的にブラジルに進出した。パブリック・セクターの民営化には、それまで見られなかったスペイン企業も進出したが、日本企業は後塵を拝した。

しかし、最近日本企業も積極的になってきているのは幸いである。特に資源関係、自動車産業への投資が目立つ。自動車産業では現在年産7万台程度であるが、これを10万台に乗せる計画が進行している。今後のビジネス・チャンスとしては、エタノールとCO2排出権売買も有力であろう。またデジタルTVの日本方式採用は、今後の両国産業の協力の契機となり得ると期待される。



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在日ブラジル人問題

現在、在日ブラジル人は30万人を超えている。1980年代の半ばから増加し、1990年の入国管理法の改正以降急増した。30万人となると種々の問題が生じてくる。過日、河野法務副大臣は「入管法の改正は失敗だった」と言明したが、日本に外国人労働者を受け入れる総合的体制が整備されていなかったのが問題の源である。

雇用条件や社会保険等問題は少なくないが、深刻なのはブラジル人の犯罪である。かってはブラジルでは日系人には犯罪者はいないといわれ、それが日系人の誇りであったが、日本では残念なことに、青少年犯罪では在日外国人の一位である。これに関連して、日伯間で犯罪人引渡し協定を締結せよとの運動が、静岡でブラジル人のひき逃げで死亡した被害者の家族によって推進されており、70万人の署名を集めた。ブラジル憲法は、麻薬のケースを除き、自国民を他国に引き渡すことを禁じており、また日伯両国刑法にも量刑の差があって代理処罰も納得が得られず難問であるが、現在ではこれが考えられる唯一の解決方法である。

在日ブラジル人の子弟の教育の問題もある。両親の雇用環境、学校でのイジメ、日本社会の閉鎖性、日本語能力の不十分等で、学校に行かない学齢期の子供は約1万人と推定されている。これは危険な非行予備軍である。関係当局や地方自治体、学校、地域NGO等多くの人がこの問題に取り組んでいるが簡単には解決できない。

    
日本とブラジルの友好関係

移民の受け入れや戦後のララ援助等、ブラジルは常に日本に友好的であった。日本もブラジルとの関係を重視し、かっては世界で数少なかった大使館を設置した重要国であった。両国の間には戦火を交えたというような不幸な対立はなく、移民を通じて強く結ばれている。2008年の移民百周年を控えて両国の友好関係をより強固にするときである。

(本稿は12月18日の講演の概要である。取りまとめ・文責 小林 利郎)

 

【(社)日本ブラジル中央協会発行 会員向け隔月刊誌  『ブラジル特報』 2007年1月号掲載】

 


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