「アジアと南米との経済交流拡大と日智両国の役割」

<1999年5月に開催された日本チリ経済委員会の
パネルディスカッションでのスピーチから>


      東銀リサーチインターナショナル
                      小林晋一郎


只今ご紹介に与りました小林でございます。
深化と拡大が顕著なメルコスルと日本・アジアとの経済関係を視野に入れながら、アジアとの貿易関係が深いチリと日本の経済協力関係構築に向けての私見を述べることと致します。

1−先ず、メルコスルとアジアとの貿易関係、メルコスルと日本との貿易と直接投資の
現状を眺める事と致します。
1997年の世界貿易マトリックスによれば、メルコスルの東アジアからの輸入は韓国、台
湾、香港、シンガポールのNIES4カ国から55億ドル、マレーシア、タイ、フィリッピン、インド
ネシアのASEANから9億ドル、中国から17億ドルで東アジア合計で81億ドル、メルコスルの
輸入に占める割合は8.5%となっています。同年のメルコスルから東アジアへの輸出は
NIES向け29億ドル、ASEANへ19億ドル、中国へ21億ドルで合計69億ドル、メルコスルの
輸出に占める東アジアの比率は8.4%です。

2−1997年のメルコスルと日本との貿易関係を同じ世界貿易マトリックスで見ますと、メル
コスルの日本からの輸入、言いかえれば日本の対メルコスル輸出は日本の全世界向け輸
出の1%に過ぎない40億ドルですが、メルコスルにとってはメルコスル輸入の4.2%に当たり
ます。 メルコスルから日本への輸出、すなわち日本の対メルコスル輸入は37億ドルでメ
ルコスル輸出全体に占める比率は4.5%となっています。
日本の全世界からの輸入の1.2%に相当します。
一方、日本からメルコスルへの直接投資の実績を日本大蔵省の資料で見ますと1951年か
ら1996年までの累計で1兆9,338億円で日本の対外直接投資に占める比率は2.5%です。
日本の対メルコスル貿易比率が1%や1.2%であるのに直接投資比率は貿易のそれを上回
っている事が分かります。

3−チリの貿易依存度、即ち、貿易の対GDP比率は1995年で48%ですが、アルゼンチン
は16%、ブラジルは15%とチリを大きく下回っています。なお、アジア各国の貿易依存度は
高く、例えば韓国で67%、インドネシアで53%です。ブラジルは年間輸出額1,000億ドルを目
標としています。
一方、東アジアの世界輸出に占める比率は17.6%、日本のそれは7.7%ですが、メルコスル
は1.5%にすぎません。これらの数字を眺めますとメルコスルと日本・東アジアの貿易拡大
の潜在力は高いと言えるのではないでしょうか。 
メルコスルの企業家とのヒアリングでは日本との経済関係で、貿易関係拡大と共にリスク
を分かち合う事業のパートナーとしての関係強化を期待しています。

4−以上で述べました事実を念頭に置いて考えますと、チリとの二国間関係の強化は勿
論の事ですが、日本とメルコスルの経済関係拡大のために、アジアとの貿易関係が深く、
太平洋に面し位置しているチリと協力関係を構築しながらチリを足場として進めることを真
剣に研究すべきではないでしょうか。
チリを足掛かりとする理由は、@チリは予てからメルコスルのゲートウェイを目指している
こと、A直接投資、特に民営化参加では言語の問題がありスペイン語をネイティブとする
人の協力が欠かせないこと、Bチリは南米大陸南端にあるとはいえ北の砂漠、東のアン
デス山脈と地形的には日本と同様島国でチリ人日本人とはフィーリングが合うこと、C南
米大陸の太平洋に面していること、を挙げる事が出来ます。

5−次ぎに中南米事業に関る日本企業の課題を述べる事いたします。日本企業200社を
対象に本年初めてに行なった中南米ビジネスに関するアンケート調査があります。この結
果を見ますと日本企業は次ぎの通りの問題を抱えている事が浮き彫りにされました。 
即ち、日本企業は中南米マーケットを他の、特にアジアの代替市場として位置付けており、
中南米に対する長期的戦略が欠けていると指摘されています。その結果、中南米取引の
人材育成がなされておらず、情報収集の体制が構築されておらず、人材不足と情報不足
が問題点として挙げられています。
これからの日本企業はアセットのリスク分散の視点からメルコスルなり中南米に対する長
期的戦略の策定とそれを実現する為の人材育成、情報入手の体制を構築する事が重要
ではないでしょうか。

6−最後にチリに対するコメントを申し上げます。 チリがメルコスルへの物流拠点や製造
拠点として機能するには道路、港湾などインフラ整備が急がれます。 北のラ・セレナから
南のプエルト・モントまでの国道5号線1,500キロの拡張整備事業のコンセッションが供与さ
れ幹線道路の整備が大きく進みました。しかし、港湾の整備はこれからです。是非とも、計
画通りインフラ整備を実現して頂きたく思います。
チリには重要な物流拠点としてイキケがあります。イキケは物流だけでなく製造拠点として
も育成されてきました。 イキケ・フリーゾーン運営会社は政府系企業でしたが民営化され
ました。 民営化され資本の論理により運営されるとより高い賃貸料を徴収できる商業用
に傾斜し製造業向けに土地を活用する事に消極的にならざるをえないと思います。 イキ
ケを物流の拠点としてのインフラ整備強化の政策やイキケをメルコスル向けの製造拠点と
して育成する産業政策が望まれるのではないでしょうか。さらに、製造拠点としてのイキケ
に関し、チリがメルコスルの準加盟国でメルコスルと自由貿易協定がありますが、イキケ
のフリーゾーンで生産された製品は関税免除の取り扱いの対象外となっていて、域外共通
関税が課せられることも指摘しなければなりません。メルコスルへの生産拠点として発展し
てゆくには自由貿易協定の適用を受け関税が免除されなければならないでしょう。現状で
は、メルコスルへの製造拠点としての拡大は大きく制約されてしまいます。イキケをメルコ
スル向けの物流拠点、生産拠点として育成して行くチリ政府の強力な政策を期待したいと
思います。

ご静聴ありがとうございました。

 




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