第2期ルーラ政権の動向

 近藤 健 (在ブラジル日本大使館二等書記官)


 

大統領選挙とその後の情勢

2006年10月に行われた大統領選挙で、ルーラ大統領は再選を決め、2007年1月から4年間、ブラジルの政治は引き続きルーラPT(労働者党)政権に委ねられることとなりました。第一期ルーラ政権の後半から相次いだPT自身のスキャンダルにより一時は再選も危ぶまれたルーラ大統領ですが、終わってみれば、決選投票では60%以上の票を獲得し、前回2002年選挙の際とほぼ同様の差を相手候補につけての圧勝となりました。

その要因としては、社会格差是正の施策が評価され、国民の多くを占める貧困層からの強い支持を獲得、その数がスキャンダルによる失望の結果PT政権から離反した支持者数を上回ったこと、労働者階級出身のルーラ自身の庶民性、カリスマ性が対立候補の魅力を上回ったこと等が挙げられます。

選挙前の大方の見方に反して得た60%以上という明白な民意を背景に、ルーラは求心力を強めつつあり、2006年12月現在、政界における多数派工作を着実に進めています。連立与党内最大政党でありながらこれまで政府派と反政府派に分裂し、政権の不安定の元であったPMDB(ブラジル民主運動党)との連立も、ルーラ政権始まって以来初めて党の大部分が参加する形で実現し、憲法改正に必要な議会の5分の3以上を確保しつつあること、州知事の多くも政府支持に回りつつあることから、当面は政局も安定するのではないかとの見方が徐々に増えつつあります。

第2期ルーラ政権の特色

PTのスキャンダルにも拘わらずルーラが再選されたこと、加えて、PTの有力者の多くが失脚したことにより、第2期ルーラ政権は、よりルーラ色の強い、ルーラの意向が反映される政権になるものと思われます。そのルーラの今後の最大の眼目は、労働者階級から大統領に上り詰め、国民に再度の信任を得た大統領として、如何に歴史に名を残すかという点に置かれるのではないかとの見方が多くあります。

上記を踏まえれば、第2期ルーラ政権の特色として、第一に、大きな失敗をして第1期の成果を汚すことのないよう慎重にことを進める、第二に、後世に残るような目に見える成果を重視するといった点が考えられます。既に、最近のルーラの言動を見ると、時間のかけ過ぎではないかと思えるくらい慎重な組閣や多数派工作、インフラ投資の重視等にその兆候が現れているといえます。

予測される政策

以下、上記の特色を及び最近の政府の動きを基に個別の政策を予測してみます。まず、マクロ経済政策については、基本的に継続されるものと見られます。2.3%という昨年の成長率に対しては産業界や野党のみならず政府内にも不満の声が大きいのは事実ですが、例えば、大幅な金融緩和を行ってインフレが再燃するような事態は、1期目の成果を帳消しにしてしまう恐れがあり、ルーラとしては避けたいはずです。かつてのようなハイパーインフレまで至らずとも、インフレは貧困層の購買力を直撃します。ボルサ・ファミリア(貧困家庭向け補助金)、最低賃金引き上げ、およびこれにともなう年金生活者の所得増に加えてインフレ抑制による貧困層の購買力上昇こそが政治力の源泉であることをルーラは熟知しており、先日の選挙での勝利により、その確信が強化されているであろうことに鑑みれば、この緊縮的な金融財政政策と手厚い社会保障という基本政策を大きく変えることはないものと思われます。一部には、再選されたルーラ政権は左派的色彩を強め、補助金等の支出を増加させ財政を悪化させるのではないかとの見方もありますが、PT内にそのような圧力が強まるとしても、ルーラ自身は、インフレの再燃につながる政策はとらないものと見られます。

一方で、先般の選挙運動の争点の一つとなった経済成長を求める圧力は強まっていますが、緊縮的経済政策と手厚い社会保障という本来矛盾する政策をとっているために、経済を刺激する投資に資金が回らないという問題を抱えています。しかも、目に見える、歴史に残る成果を期待するルーラとしては、インフラ事業にも関心を示しており、その資金をどのように捻り出すのかが課題となっています。識者の多くは、税制改革、年金改革、労働法改革といった構造改革を行うことにより投資資金の確保、経済の活性化が可能となり、持続可能な発展が可能となると指摘しています。しかしながら、これまでのところルーラ政権は、抜本的な改革を行うというよりは、徴税効率のアップ、国営銀行が持つ退職者一時金の積み立て基金(FGTS)の活用、環境アセスメントのために認可が遅れている事業の加速化といった、制度の改良、運用でなんとか目標である5%の成長を達成しようとの方向性であるようです。これについては、世界経済や輸出品価格といった外的要因が有利な間は良いが、対外脆弱性が克服されない以上、一度バランスが崩れれば深刻な影響を受けるといった悲観的見方と、5%は無理でもある程度の成長は達成可能であるといった見方等、識者の間でも意見は一致していないようです。個別の改革についても、税制改革の内、制度の簡素化については道筋もついており、ルーラ政権も取り組むだろうとの見方が多いものの、選挙戦で争点となった高税率の是正や、財政の健全化のための年金改革については、真剣に取り組むか否か、はっきりとした見通しは持てない状態にあります。

政権運営

次に、政局の安定性、即ち、第2期ルーラ政権にこれらの政策を実行する力はあるのかといった観点を見てみます。第1期政権で、PT主流派を多く登用し過ぎて連立政権全体のまとまりを欠いた失敗に学び、ルーラは極めて慎重に組閣を初めとするポスト配分、議会における多数派工作を行っています。現在党内に大統領後継候補が見当たらないことも、後継争いがないという意味では政権の安定にプラスに働いています。また、PSDB(ブラジル民主社会党)等の野党側も、選挙における明白な民意を前に、ルーラ政権の正統性は認めざるを得ず、選挙前に取り沙汰された大統領弾劾等の動きは現状見られません。しかも、野党側の次期大統領選挙(2010年)有力候補であるセーラ次期サンパウロ州知事およびネーヴェス・ミナスジェライス州知事は、州知事という立場上、選挙を睨んで州知事としての業績を挙げることに集中するものと予想され、予算を握る連邦政府との関係を徒に悪化させる可能性は当面低いものと見られています。もちろん、多党乱立の伯議会をまとめることは基本的に難しく、多数派工作に成功しつつあるといっても、そもそもポストと予算の結びつきに過ぎないこと、様々な汚職疑惑の調査が進行中であること等に鑑みれば、表面的には与野党の安定的な関係が続くものの、常に緊張感を孕んだものとなるといえそうです。識者の間では、全国市長選挙(2008年10月)が見えて来る前の2007年一杯は政局も落ち着くものの、その後は不透明になるとの見方が多いようです。

おわりに

以上の状況に鑑みれば、ルーラ政権の求心力も強まり、選挙もない2007年は、政策を実現する絶好の機会であるといえます。その一方で、2007年の状況は、国民のルーラ政権への大きな期待があった2003年(第1期ルーラ政権1年目)とは異なります。PTに対する視線が厳しいものになっていることや、野党側に有力な次期大統領候補がいるにも拘わらずPTにはルーラの後継が見当たらず、政権交代の可能性がかなり高いと見られる中、第2期ルーラ政権が早期に成果を上げなければ、国民の関心がルーラ政権から離れていってしまうことも考えられます。その意味で、この2007年という絶好の機会を活用することができるか否かが、第2期ルーラ政権の試金石となるのではないでしょうか。 

(本小文は個人の見解を記したものです。)

      
【(社)日本ブラジル中央協会発行 会員向け隔月刊誌  『ブラジル特報』 2007年1月号掲載】


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