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データベース利用して 次代にのこしたい知的遺産 
   
 中隅哲郎


ブラジルはラテンアメリカでは唯一のポルトガル圏である。これはもちろんポルトガルがブラジルを植民地としたという、歴史的事実に由来している。

ではブラジルにおいてはすべての名詞にポルトガル名がついているかというと、これがそうではない。ブラジルの豊かなファウナ(動物相)、フローラ(植物相)は新大陸独特の物の名前jをポルトガル語に言いかえる事は到底不可能なのである。 むろん、パウ・ブラジル(ブラジルの木)のように最初からポルトガル語をつける場合もないではないが、むしろ例外で、インジオ語、とくにツピー・グァラ二−語をそのまま使うか、イペー・アマレロ、ジャカランダ・ダ・バイアのようにインジオ語とポルトガル語の合成語をつくる以外にない。 地名もそうだ。サンパウロとかリオ・デ・ジャネイロはポルトガル語だが、イグアスー、パラナ、クリチバ、マセイオはツピー語だ。

日本で『ポ和辞典』編さんの話しがありながら、『大武辞典』を超えるものが仲々出来ないのは、ポルトガル語そのものがマイナーな言語である以外に、ブラジルの場合はインジオ語の壁をクリアできないからと思われる。

私事だが、私は30数年ブラジルの生薬を研究してきたが、これまでに調べた薬草の数は膨大なもの。この調査で欠かせないのが植物のインジオ名とその意味で、これが大切なポイントなのである。 こうして集めた資料がかなりたまっている。本にしようかとも考えたが、そのためにはもう一度確認の作業をしなくてはならない。活字にする場合は辞書と同じで、誤りを最小限に抑えなければならない。その時間的余裕はない。

そこへコンピューターによる『ポ語辞典データベース』作成の話しがあった。なるほどデータベースなら誤りに気がついた辞典でいくらでも訂正がきく。多くの人が利用して誤りを訂正、不足している部分を補足していく方法がとれるから、時間が経てば経つほど内容は正確、豊富になり、しかもup to dateなものになってゆく。まさに印刷された辞書とは逆である。これに限ると双手を挙げて賛同した。

私はほかにブラジルの植物の分類も手がけている。仕事でなく、趣味としてやっているのだが、哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類のそれぞれに日本名をあてはめて行く作業はけっこうむづかしいし、時間もかかる。魚など淡水魚はもちろん、海水魚でもマグロのような回遊魚を除けば日本と共通している種など、ただの一種もない。ボラでもスズキでもタイでも属は同じでも種が違う。

こういう分類を今までやった分だけでもデータベースに入れておけば後続の研究者の参考になることは間違いない。一世の世代は確実に終わろうとしている。力不足であり、不完全であっても、こうした資料を知的財産として次代にのこすっことは、われわれ一世の責務ではなかろうか。そしてそのためにデータベースはまさにうってつけのメディアと思うのである。



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