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ブラジル民営化と産業再編 −リオ・ドセ社の動向を中心に


                   桜 井 敏 浩       

                         
この記事は、『ラテン・アメリカ時報』(社)ラテン・アメリカ協会刊1999年10月号に掲載されたものを、同協会のご好意により転載させて頂いております。  
                                               

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 好調なリオ・ドセ社民営化後の業績


ブラジルの鉄鉱石輸出を中心とした鉱業コングロマリットのリオ・ドセ社(CVRD)が1997年

5月に民営化して、2年4ヶ月が経過した。ブラジル政府保有の議決権株の42%を落札した

ナショナル製鉄(CSN)のベンジャミン・スタインブルック経営審議会長が主導する持ち株

会社VALEPARが、CVRDの経営権を掌握した。〔CVRDの民営化入札の経緯と結果

は、『ラテン・アメリカ時報』97年2月号および6月号の拙論参照。〕


 民営化後2年が経過し、その間のCVRDの経営は97、98年度の決算数字を見る限り、

素晴らしい業績をあげており、民営化は早くも絶大なる効果をもたらしたように思える。

すなわち97年度(暦年)の決算では、民営化後の期間は7ヶ月足らずにもかかわらず、28

億7,700万ドルの売り上げを計上し、税引き後利益は6億7,700万ドルをあげたが、98年度

は28億2,100万ドルと売り上げは微減ながら、純利益はさらに前年を上回る8億5,200万ドル

という、過去最大の利益を実現している。その主な原因は、レアル貨の切り下げ進展や鉄

鉱石価格の上昇などの外的要因もあったが、自社の持つ鉄道・港湾サービスの取り扱い

量の増加に加え、大幅な人員削減(96年度の1万5,385人が、97年度には1万865人)と下

請けやグループ各社との諸契約やそれまでの投資計画の見直しによる支出削減によると

ころが大きい。99年度上半期も、前年同期を16%も上回る純利益をあげているが、これは

今年1月の大幅なレアル切り下げに因るところ大で、費用がレアル建てであるのに対し、

輸出売り上げがドルで入ってくるCVRDにとっては、為替差益は大きなものになる。

こういった業績をみて、CVRDの民営化は成功であったと判断するのは、未だ早過ぎる。

後に述べるように、経営の形態やグループの企業育成方針について、明確な方向が見え

ないからである。



  依然明らかでないリオ・ドセ社の方向


  民営化結果から、年金基金や金融、内外の投資資金が大部分を占めるVALEPARの株

主構成をみて、かつての国営製鉄企業の民営化のその後の経緯の再来とみたものもい

る。民間部門の貯蓄が少なく、企業の資金力が慢性的に不足しがちなブラジルにおいて

は、内国資本による民営化投資は多くの場合金融資本に限られてしまう。1991年から93年

にかけて行われた製鉄8社の民営化で登場した株主は、民営化入札参加者が少ないこと

から、政府の意向にしたがって応札した公営企業年金基金やCVRDのほかは、ボサノシ

モンセン、ウニバンコ、バメリンドスといった銀行であった。これらはその後数年で、人員削

減等による合理化で黒字化し、株価が上昇した際に大きなキャピタル・ゲインを得て売り逃

げている。その後新たに参加した株主によって、設備の更新や製造工程等の合理化で経

営基盤の強化を図っていくことになるのだが、この「2段階民営化」の過程をCVRDもまた

踏むのではないかという疑いは払拭出来ない。〔同誌98年7月号掲載の拙論30頁参照。〕


 CVRDの民営化においてもまた、VALEPARグループの大半の参加株主は、人員削減

などによるコスト削減で業績を改善した後、株価の上昇をまって売却する方針であったが、

落札価格の普通株1株32レアルはあまりに高く、その後の株価がそれまでに届かないうち

に、アジア危機、ロシア危機の余波、ついには99年1月のブラジル通貨危機により、売るタ

イミングを失して、今日に至っているという見方がある。買収原資中の借入金の割合が高

いとみられ、また長期的に地味な鉱山会社を経営して育てていこうという産業資本の存在

感が希薄で、短期的な投資効率重視の経営陣を送り込んできた株主の構成から、配当等

よりは株式評価額の増大にともなるキャピタル・ゲイン狙いといえなくはないからである。単

純にいえば、落札時点での換算率では30ドルに相当する1株32レアル(買収総額31.4億ド

ル)という買収価格は、この1月のレアルの大幅切り下げにより、金利分を除いても倍の価

格で売らなければ、ドル建て借入金で参加した投資者は巨額の損失を生じることになる。

その後も株価は大きく上昇することなく、民営化後に放出を予定していた残余の政府保有

普通株32%の競売も、未だに実行できないでいる。


 さらに民営化後CVRDの方向を分かり難くしているのが、そのグループの扱いである。ス

タインブルック会長も経営陣も、これまで鉄鉱石等採掘とその輸送手段である鉄道・港湾

等の中核事業を中心に、連邦鉄道の民営化で手に入れて、今後の有望収益分野になり

つつあるロジスティックスを加え、経営の軸にしていく方針を明らかにしている。それ以外

の多岐に渡る関連事業の扱いについては明言を避けているが、マイナー部門の切り売り

は大いにあり得るとみられる。これまでのところ、傘下企業で売却に踏み切ったものはな

いが、植林・紙パルプにおいては、借入金負担が大きく累積債務が膨らんだバイア・スル

社を、日本が48.5%を出資しているセニブラと統合したいという提案が正式に出されてい

る。装置産業は規模の拡大によって競争力を増すという名分でのこのCVRDの提案は、

日本側の財務データの分析から「日本側株主にとってメリットがないばかりでなく、セニブラ

にとっても単独で拡張した方がそのためになる」と拒否されたが、CVRDの経営執行陣は

まだ諦めていないようである。これが問題なのは、両社の統合による日本側の発言権の

低下もさることながら、その意図が傘下紙パルプ事業の育成強化ではなく、次にそれらを

より高く売却し易くするための交渉手段強化としか思えないことにある。現に両社のすぐ近

くに立地する世界最大の市販パルプメーカーのアラクルス社からの買収提案もあり、

CVRDのトップからもこの3社の頭文字をとった「ABC構想」の実現は、ブラジル政府金融

機関BNDES(国立経済社会開発銀行)の意向であるとの主張もなされていることからも、

こうした一部傘下企業については、良好な条件が提示されれば売却を辞さないとの方針が

あることは明らかである。



 株主構成をめぐる変化の兆し

 
  VALEPARを主導するCSNの民営化時に、傘下のフィブラ銀行を通じて参加し、その後

バメリンドス銀行の持ち分を買収するなどしてその経営権を獲得したのは、スタインブルッ

ク会長の出身母体の大手繊維会社のビクーニャであった。CSNは粗鋼生産量ではブラジ

ルはもちろん、ラテンアメリカ最大(年産470万トン)であるが、薄利多売体質により利益が

少なく、その後の拡大計画のつまずきから、大きな借り入れをして買収した割には一向に

儲からないと、近年ビクーニャ内部でも不協和音が生じてきている。スタインブルック氏が

中心となって推進したCSN買収等の経営多角化戦略で著しく増大した債務負担に苦しん

でいたところへ、さらにアジア通貨危機後の為替切り下げで競争力を一層増してきたアジ

ア産繊維製品の輸出攻勢が加わり、経営基盤が揺らいできたビクーニャは、いまやその

保有するCSN株の売却を早急に行わなければならないところまで追いつめられてきてい

る。またCSN自身も、過大な設備投資やCVRD買収の際の借入金負担が、売り上げ総額

に匹敵する約27億ドルにも達しているところへ、今次のレアルの切り下げでその8割を占

めるといわれるドル債務の返済負担が増大したことから、抜本的なリストラ策が必要とい

われている。その一環として中核事業である製鉄業に経営資源を集中するために、その

保有するCVRD株(VALEPAR内でのシェアーは31%)やLIGHT(民営化で手に入れたリ

オデジャネイロ州電力会社)等の売却を行うとか、CVRD等の投資を管理する持ち株会社

を分離し、製鉄事業は売却ないし外部資本の参加を求めることを検討しているといわれて

いる。先行しているビクーニャの保有するCSN株売却の相手先として候補にあがっている

のは、ブラジル最大の条鋼メーカーであるゲルダウ・グループと、世界第7位の粗鋼生産

量をもつドイツのティッセン・クルップである。ティッセンは昨年CSNと自動車用亜鉛メッキ

鋼板の合弁事業設立を通じた関係を創っており、CST(ツバロン製鉄。川崎製鉄も出資)・

アセジッタに資本参加したフランスの製鉄大企業ウジノール(同第4位)に対抗するために

も、CSNの獲得に強い興味を持っている。またゲルダウはドイツ系の純内資企業で、鋼板

への進出を意図している。そのほか、国内2位の条項メーカーであるベルゴ・ミネイラの経

営権を今年買収したルクセンブルグのアーベット(同第3位)も無関心ではないといわれる

が、これらに限らず、年間生産量200万台に届こうとするブラジルの自動車産業向けの鋼

板等の市場を狙った内外資のブラジル製鉄産業への関心は強い。

ビクーニャ保有のCSN株の譲渡については、現時点では未だ決着していない。CSNには

ブラジル最大の民間銀行ブラデスコが17.9%、国営のブラジル銀行年金基金PREVIが

13.8%の参加をしており、株主間協定で17.8%を保有するビクーニャが経営主導権を押さ

えているが、そのCSN株を獲得したことで、この株主間協定を維持出来ればCSNの経営

主導権を握ることになる。前記いずれかの製鉄企業がCSNの経営主導権を握ることに成

功した場合、スタインブルック会長はそれによりCVRD経営主導権の基盤を失うとみられ

るが、一方有力候補の2社ともCVRDの経営にはそう関心がないといわれるところから、

CSNを製鉄とその他関連投資会社に分離し、今回の売却は前者についてのみを行うこと

で、依然CVRDの経営権を放さないという見方もあり、CVRDの今後の方向はCVRD自体

に関心をもつその他の内外資本の動きとあわせて、近々表面化するとみられる

VALEPARの株主構成の変化の行方が定かにならないと見えてこない。



  製鉄産業の再編の動き

 
  このようにCVRDの株主をめぐる状況に大きな影響を与えているのは、CSNを中心とし

た製鉄企業の動向であるが、ブラジルの製鉄産業はこれから再編問題が大きな意味をも

ってくる。民営化後、ブラジルの製鉄企業は紆余曲折を経て現在主要16社が5グループに

集約されてきたが、最大のCSNでも粗鋼生産量では世界38位(98年)、ゲルダウが46位、

日本も資本参加しているウジミナスが47位など規模は小さい。これまでのところ国際市場

から比較的離れていること、国内市場が大きく成長していることから、そこそこの規模でも

やってこられたが、これからは規模の拡大を行っていかないと、とても国際競争に生き残

れないとみる危機感が、特にブラジル政府にある。入り組んだ株主関係の整理問題もあ

り、また各社の得意分野同士の競合やそれぞれの債務問題、それに大型高炉の新設と

非効率な小型高炉の廃棄を行わない限り、単なる合併による生産能力の合計が競争力

増強の意味をさしてもたないことなどを考えると、そう一気に再編へ進むとは思えないが、

方向としてはブラジルの製鉄産業は統合へ向かっており、これに欧米日の資本がどのよう

に関わってくるか、興味があるところである。〔業界再編の現況については、『鉄鋼新聞』

99年8月27日〜9月14日付連載 「再編・統合に動くブラジル鉄鋼業」 日商岩井エコノミスト

吉原多美江 に詳しい。〕


 さらにこの製鉄再編を複雑にしているのが、CVRDの製鉄産業持ち株の存在である。製

鉄民営化時に引き受け手が少なかったことから、PREVI等公営企業の年金基金ととも

に、比較的優良な経営状態にあるCVRDが買い手として動員され、現在CSTの22.9%を

はじめ、ウジミナスに11.6%、CSNに10.3%など、少なからぬシェアー(対総資本比率)を持

っていて、原料の鉄鉱石の最大供給者としての立場と、CSNがその経営主導権を握って

いることから問題を含んでいる。また互いにライバル関係にある各社に大きな出資割合を

もつPREVI等大手年金基金の存在とあわせると、製鉄業界の錯綜した資本関係〔同誌98

年7月号32頁の図参照〕は大きな矛盾を抱えており、SDE(法務省経済権利局)やCADE

(公正取引委員会)もこれを早急に解決すべき課題として、しばしば指摘している。

 

  産業再編とブラジル政府の関わり

 
  こういった産業再編の兆候は、製鉄産業ばかりではない。1990年に発足したコーロル政

権がそれまでの内国産業保護策から開放経済体制に大転換して以来、ブラジルの産業の

多くは海外市場ばかりか国内市場で厳しい国際競争を強いられるようになってきた。その

ため、経営効率、財務体質や技術の脆弱性、資金調達力の不足から、倒産したり外資等

の傘下に入る企業が増加している。95年1月に発足した第一次カルドーゾ政権下では、レ

アル・プランによるインフレ抑制のため高金利や自国通貨高と景気抑制気味の通貨安定

政策が何よりも優先されたため、ブラジル企業の国際競争力は個々の企業努力によるほ

かは、さしたる政府の支援もないまま市場での厳しい競争や外資の参入にさらされてき

た。幾多の企業は外資に買収されていったが、アジア諸国に先立って金融システムの構

造改善を行った銀行業界では、すでに外資比率が30%に迫る状況になっている。

金融ばかりでなく製造業や流通業なども、合理化によるコスト削減努力とともに、競争力強

化を目的に企業の統廃合をめざす個々の企業の動きが顕著になってきており、様々な分

野で産業再編が動き出している。


 それとともに、ブラジル政府の動向も変化の兆しがみえてきた。最近明らかになりつつあ

るのが、BNDESを軸とした産業再編促進の動きである。第1次カルドーゾ政権の4年間

の経済政策は、インフレ再発を防止するための通貨安定策がすべてであり、産業政策は

民営化の推進以外はほとんど無かったといっても過言ではない。しかしブラジルのような新

興国にとっては、本来は経済の安定とともに、経済開発と成長は経済政策の両輪である

べきである。意識的な輸入増大による供給増でインフレ抑制を図るレアル・プランにあって

は、貿易収支の赤字拡大は避けられないことから、輸出の拡大は急務である。そのため

に不可欠な産業の競争力強化のため、98年にカルドーゾ第2次政権の発足を前に「生産

省」構想が打ち出された。生産省は、従来の商工省にBNDESと外国為替業務や農業融

資などを行う巨大な国営金融機関のブラジル銀行などを統括させ、ブラジルの産業力強化

を図るスーパー省を作ろうとする構想であったが、産業政策を縦横に行う強力な省をカル

ドーゾ大統領の党が掌握することになることを阻止しようと、通信民営化をめぐる盗聴スキ

ャンダルを使って反対する勢力との政治的抗争から、実現は見送られた。同構想は、ブラ

ジル銀行の移管等は見送られ権限も縮小した「開発省」という名に改められ、初代大臣に

は各党と軋轢のないキャリア外交官が任命された。とはいえ、開放経済と市場経済体制

下であっても、生産力を増強し国際競争力を強化しなければならないという政策意図が、

ブラジル政府の中で再び甦ろうとしているのは確かである。こういった動きを受けて、7月

の内閣改造で就任した新開発相やBNDES総裁の口からは、以前にも増して再編成を

促進し、そのための金融支援をする用意があるとの発言が目立ってきおり、その具体例と

して製鉄業界、石油化学、紙パルプの3業界の名をあげ、30億レアル(約15億ドル)の業

界再編融資予算を用意しているとしている。


しかしながら、開発省が産業政策について立案し、BNDESの政策金融を主な手段とし

て、ブラジルの産業再編が行われるとみるのは早計である。今のところ政府部内に具体的

な担当部局の活動の兆候は見えず、また大統領側近ないし有力政治家等の中に、その立

案・指示を行っていると思える者の姿は見えてこない。BNDESの日頃からの産業調査力

は定評があり、それをベースに政策判断を行っているのではないかと窺わせるほどだが、

その公式見解は「産業再編は、あくまで民間主導で行われるのであって、その結果に対

し支援するだけ」というものであり、基本的にはそれが事実のようである。しかしながら、ブ

ラジル政府やBNDESの行動には、時としてかなり政治的・政策的意図によると思われる

行動がみられるだけに、すべて額面どおりには受け止められない。97年のCVRD民営化

時に、公営企業の年金基金参加がCSNとボトランチンの両応札グループに鮮やかに振り

分けられたことや、政治的なスキャンダルに発展した通信民営化時の特定グループへの

露骨な肩入れ、最近のフォードのバイア州への工場進出の恩典の一つとしての破格な

BNDES融資の表明などの例があるからである。とはいえBNDESが、具体的な企業名を

あげてまで統合の圧力をかけるのは例外的事例といえよう。先のCVRDがいうBNDESの

ABC構想推進説が事実だとしても、バイアスルの最大の債権者であり、アラクルス社の議

決権株の一部を保有するBNDESが、産業再編の名を借りて債権保全のためにいってい

るとの見方も出来るのである。

今年2月、CVRDは民営化後廃止されていた専任の社長職に、ジョリオ・ダウステール前

駐EU大使を充てる人事を発表し、あわせ組織の改編を行った。これによりスタインブルッ

ク氏の主導する経営審議会が、4人の執行部門社長を直接統括する方式から、経営審

議会の下で専任社長が5部門を統括し日常経営をみる方式に戻り、民営化直後からくす

ぶっていた、スタインブルック氏とVALEPARの筆頭株主の年金基金(その最大勢力は

PREVI)との意見の不一致を埋めたといわれる。ダウステール大使の社長指名は、スタイ

ンブルック会長の側近の推薦によるものといわれるが、前政権で外相を務めて以来、ブラ

ジルで軍ともに唯一官僚ヒエラルキーを確立し、有能な人材を輩出する外務官僚を好んで

登用するカルドーゾ大統領の意向が働いているともいわれている。だとすれば、まさしく政

府が保有するゴールデン・シェアー(中核事業の転売等に関する拒否権付特別株)を具現

するものであり、ブラジル最大の輸出企業で、石油を除く地下資源の採掘に大きなシェア

ーを占めるCVRDの動向に、政府は決して無関心ではないとする意図が表れた人事と解

釈することもできる。



 産業再編の形態と内資優先の有無



 ブラジルで産業の育成や支援に際して、外資系企業の主導が確定した自動車のような

部門を除くと、いつも囁かれるのが内資優先策の存在である。CSN株をめぐって内資のゲ

ルダウか、外資のティッセンかという場面で、ブラジル政府・BNDESは民族資本のゲルダ

ウが獲得することを望んでいるというものである。憲法上の内外資差別規定はすでに廃止

されているが、資源や基幹産業になるほどこの議論が起きやすい。しかし一律にみるべき

ではなく、産業再編には3つのタイプがあって、それによって内資優遇の議論が出てくる度


合いが異なってくる。


 @民族資本が主導して再編すると思われる分野 ― 例 紙パルプ

 A内外資が伯仲している分野 ― 例 製鉄、石油化学、金融

 Bブラジルの外で再編が決まり、その結果が持ち込まれる分野 ― 例 自動車


 つまり、問題になり得るのはAの分野であり、アルミは昨今のアルコア、アルキャンという

多国籍大企業グループによる国際的な有力企業の買収競争による一層の巨大化の傾向

をみると、Bの分類になると考えられる。


 もとより今後CVRDの経営権が第3者に売却される場面が生じてきた場合には、資源ナ

ショナリズムの面でのブラジル政府の意向は当然働くものと考えられ、国内貯蓄が絶対的

に不足し、大型投資はかなりの部分を外資に依存せざるを得ないブラジルで、外資の参

入をどこまで、どの外資を認めるかは、かなり高度な政治的判断をともなうものになろう。



 日本の合弁事業との関係

 
  我が国業界とCVRDとの間には、アルミ製錬(アルブラス)とアルミナ製造(アルノルテ)、

植林と紙パルプ製造(セニブラ)等の合弁事業や、カラジャス鉄鉱山開発などの協同事業

がある。またCVRDとの関係は間接的ながら、製鉄への資本参加(ウジミナス、ツバロン)

もあるが、前述のブラジルにおける産業再編の大きな動きは、それらの事業の将来展望

をあらためて見直さなければならない状況に来ていることを意味する。すでに民営化後

CVRDの経営理念が、過去の経緯はさしおいても投資効率と経済合理性を優先させる傾

向が強まってきたことなどから、日本政府・政府機関の支援を受けて業界一致で始まっ

た、いわゆるナショナル・プロジェクトであるという側面は、少なくともブラジル側においては

変容が始まっている。


 またこれらのプロジェクトを推進した1970年代はじめとは、鉄鉱石、アルミ地金、紙パル

プなどの資源の国際需給情勢が大きく変わってきており、「それら資源は国際マーケットで

いくらでも買えるようになったので、何も投資をしてまで確保する必然性は無くなった」との

声が、日本側の株主の中に聞かれるようになった。したがって日本側に、もはや追加投資

をしてまで現地合弁事業の拡大を図ろうという意欲が減退してきているところへ、この90年

代の経済の停滞と各企業を揺さぶるリストラ優先思考が、一層ブラジルへの追加的な資

金投入を拒ませている。依然これら産業の有望性を確信し、拡大を願っているブラジル側

から見れば、それは事業のパートナーとしての義務を果たそうとしていないことを意味し、

苛立ちをつのらせている。この時期になおブラジルの将来性を確信して欧米資本が活発な

投資を行っている状況にもかかわらず、日本が新規投資はおろか、リスクがなく投資効果

の大きい既存設備の少額の拡張投資にも消極的なのは、ブラジル側にとって理解し難い

というのである。


確かに遠く輸送コストの嵩むブラジルから、これらの資源を日本にもってくるというだけの

意義は、薄れてきたことは否めない。しかしながら市場での資源供給は将来においても安

定しているとはいい切れない。折角幾多の日伯関係者の長年にわたる努力の結果築き上

げ、やっと資源の安定供給と配当実施などの果実を生むように育ってきたブラジルでの橋

頭堡の存続を、グローバルな視点から世界のいくつかの地域への生産拠点配置の一環と

してとらえれば、この10年来の経済不振を克服して再び世界規模の活動を目指すことにな

る日本企業にとって、またと得難い貴重な資産と位置づけられるのではないだろうか。

 

 

表1 - CVRDの株主構成
 
    (1998年12月現在)

普通株式に占める割合

VALEPAR (*) 42
LITEL (4大年金基金保有株) 10

小  計

52
INVESTVALE (従業員投資クラブ) 4
国庫・BNDES 〔売却予定〕 32
一般 (市中) 7
国内年金基金 3
外国投資ファンド 2
ADR (米国預託証券)  -
ゴールデン・シェア (政府保有拒否権付株) 1

100

普通株(議決権付) 64% ; 優先株 36%

 

(*) VALEPAR内構成
CSN   31%
LITEL (4大年金基金)   25
Eletron (Oportunity投資ファンド) 21
BNDESPAR (BNDES投資子会社) 11
Sweet River Investment
(米Nations 銀行)
11
INVESTVALE (従業員投資クラブ) 1
ゴールデン・シェア (政府保有拒否権付株)  1

計 

 100

資料:CVRD鉱石事業部門資料 1999年4月 他

 

表2 - CSN株主構成
(1999年2月末現在)

BRADESCO(ブラジル最大の民間銀行) 17.9 〔3.0〕
ビクーニャ (ブラジル最大の繊維財閥) 17.8 〔14.1〕
PREVI (ブラジル銀行年金基金) 13.8 〔3.0〕
DOCENAVE(CVRDの海運子会社) 10.3 〔10.3〕
従業員投資クラブ 7.9 〔7.9〕
ADR(米国預託証券) 8.3
CBS年金基金 6.9
その他 17.1

100.0

〔 〕内は、株主間協定参加比率。
資料:「再編・統合に動くブラジル鉄鋼業」吉原多美江
『鉄鋼新聞』 1999年9月6日付 より作成
      

 

表3 - 製鉄業界におけるCVRDと年金基金が
              総資本に占める比率
  
(%)
(1998年末現在)

CSN ウジミナス CST アセジッタ コジッパ
CVRD   (A) 10.3 11.6 22.9 0 〔3.4〕
年金基金   (B) 20.7 12.4 3.6 25.2

             3.7

    うちPREVI 13.8 8.1 0 13.3 2.4

(A)+(B)

31.0 24.0 26.4 25.2 7.1

                 〔 〕は間接保有。
                   資料:表2に同じ   
                 

      

  
さくらい としひろ
日本アマゾンアルミニウム鰹務取締役
本稿での見方や意見に関わる部分は、
あくまで個人としての見解である。
   


          

『ラテン・アメリカ時報』 1999年10月号掲載 
(社)ラテン・アメリカ協会

       

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