ユーカリ植林と環境問題

― ブラジルでの議論を中心にして

       桜井敏浩


 

はじめに ― ユーカリ植林のメリット・デメリット

紙の需要は、世界経済の発展にともない、着実に増大していく傾向にある。特にこれまでは消費水準が低かったアジア等の開発途上諸国での紙の需要は、今後顕著な増加をみせることが予想される。世界の製紙パルプの約90%は、木材に依存している。しかし、こ
れまで豊富にあるとみられてきた世界各地の森林資源は、主として農牧地に転用するための山焼きの拡大による森林面積の急減や、生態系保全の必要に対処して、近年環境の面から規制が強化され、伐採の制限が強化されつつある。

このような状況下にあって、増大する紙パルプ需要に応え、再生可能な資源として期待されるのが、亜熱帯を中心とする成育の早い樹種による植林木である。中でも最も有望な早生樹種として着目されているのが、ユーカリである。これまで多くの造林技術の知識の蓄積があって、製品の市場が確立しているためである。

ユーカリは、著しく生長が早く、多岐な種類の中から、あるいは同一種の中でも産地の違いで、植えようとする土地の気温や降雨量、土壌などの条件に合った樹種を選択することができる。荒廃地等劣悪な土地でも、適応力が強いので、造林適地がきわめて広い。他の早生樹に比べて、樹種の選定や植え方、管理態勢次第では、単純一斉林とした場合でも病虫害の発生が少なく、山火事にも比較的耐える力があり、また種子の採取、保存と挿し木苗の養成が容易で、大量に苗木を生産できるばかりでなく、根からある程度以上のところで切れば、切り株から芽が出て再成長し、再植の手間が省けるという特性がある。利用材積が大きく、ヘクタールあたりの林分材積は成長量の早いこととあわせ高いものになる。用途は紙パルプ原料のほか、薪炭材、電柱、鉄道枕木、坑木、合板、建築材・家具材などに使える。そのほか油成分等から塗料や香油、化粧品、消毒剤の原料が抽出できるなど、木材資源としての有用性が広い。

このためユーカリ植林は、アジア、大洋州、中南米、アフリカ、地中海周辺、北米など、世界の多くの地域で広く行われている。熱帯地方の人工林の中では、松、アカシア、チークをはるかに上回る面積が、ユーカリによって占められている。 特にブラジルでは、ほとんどの州で植えられ、現在ユーカリの植林面積はおよそ 300万ヘクタール、国土の0.35%に相当し、いまやブラジルは、世界最大のユーカリ植林国である1。

ところが、近年ユーカリ植林について、様々な批判がいわれるようになった。その多くは土地所有や利用に関わる住民政策の問題、ユーカリ材の生産・流通・消費構造等に起因する社会・経済的問題であるが、ユーカリ類の生態的特性が有害であると指摘したものがあって、ユーカリ類の造林はいかなる状況下でも好ましくないとの主張がなされている。例えば、@土壌の養分の消費量が大きく、短い期間で伐採を繰り返せば、土壌の劣化を招く、Aユーカリは、土壌水分を多く吸収し蒸散させ、水を大量に消費し、水源機能を低下させる、B外来樹種の一斉造林は、動植物の生育環境、生態系の多様性に問題を生じる、Cある種のユーカリ葉の出す化学物資が、他の生物に悪影響を与える、といった非難である。

ではこれらの問題があるとして、なぜ世界中でこれほどまでユーカリが受け入れられているであろうか? 筆者は必ずしも林業の専門家ではないが、ブラジルでのユーカリ植林木による製紙用パルプ生産の業務に関係しているところから2、 1995年 9月に、ミナスジェライス州の州都ベロオリゾンテ市でひらかれたユーカリ・セミナー3 での発表に引用されたデータを中心に、生態系への影響に関する最近のブラジルでの研究内容の一端を紹介し、あわせユーカリ植林の評価についての私見を述べたい。このセミナーでは、ユーカリに関わる環境等の問題についての研究発表と議論が行われ、ユーカリ自体が自然環境に悪影響があるとの批判は否定され、正しい植林施業を行えばほぼ問題ないとの結論に至った。ここでの議論の結論のひとつは、「ユーカリは、その植林が環境保護に注意を払いながら行われる限り、木材の必要に応ずるための非常によい樹種である」ということであった。

(*1) ブラジルにおけるユーカリ植林の歴史や、その紙パルプ産業での利用状況については、拙稿 「ブラジルにおけるユーカリ植林と環境問題」 『海外農業開発』 (海外農業  開発協会) 1996年7・8月号 参照。 環境問題に関する以下の紹介の一部は、同稿に拠っている。参考文献(6)参照。

(*2 ) 日伯紙パルプ資源開発鰍ヘ、日本の製紙原料の安定確保をめざすナショナル・プロジェクトとして、海外経済協力基金(OECF)、大手製紙会社15社(96年10月現在)と伊藤忠商事の出資を得て、ブラジルの鉄鉱石採掘・輸出公社リオドセ社との合弁で、ミナスジェライス州にパルプ製造を行う CENIBRA 社を経営している。セニブラ社は、全量自社林で植林した Grandis種のユーカリから、年産70万トンの晒しクラフト・パルプ(LBKP)を作る設備をもつ。生産量の約50%は日本が引き取りを保証し、他を欧米や近隣諸国・国内に輸出販売している。セニブラ事業の経緯,状況などについては、拙稿 「セニブラ ―ブラジルでの合弁事業の四半世紀」 『ラテンアメリカ・レポート』 Vol.12 No.4 (1995年12月) 参照。

(*3 ) このセミナーは、ミナスジェライス州環境保護協会(AMDA)、ブラジル農牧畜研究公社(EMBRAPA)、および植林調査協会(SI H)の共催であったが、ユーカリ植林に関わる企業や研究機関、ユーカリ植林に批判的なNGOを含む環境保護団体など、多くの人々が一堂に会した。(参考文献(6)参照)

            

1.ユーカリ植林の環境への影響をめぐる議論

(1) ユーカリと土壌養分の収奪 

「ユーカリは、樹幹や枝葉を形成するために土壌養分(窒素、リン、カリ等)を収奪し、他の植物が生存できなくなる」という非難がある。しかし、ユーカリ林の隣接地やその伐採跡地が農業に使われた場合、作物の生育が悪いというのは、次の事例からも信じ難い。生育中のユーカリ林の間で果樹、陸稲や野菜を作る試みに成功している。ユーカリの背が伸びて日照不足になるまでの間は、いわばアグロフォレストリーが成り立つという報告がある4。 そればかりか、ユーカリ伐採後に再植をしなかったところでの、雑木の繁茂は極めて旺盛であり、「ユーカリを植えた後は、何も植えられない」という非難が真実でないことを明らかにしている。

土壌養分のうち窒素、リンとカリの摂取量について、実測データをみれば、ユーカリの場合は、第1表に示されたように、トウモロコシ、大豆、コーヒー、フェジョン豆、砂糖キビ等の他の農作物の場合より少ない。このほかマグネシウムならびに石灰についても、同様の傾向がある。前記ユーカリ・セミナーで、サンパウロ大学の研究者は、「ユーカリの単一栽培は、大豆、トウモロコシ、砂糖キビ等の他の作物に比べると、環境への影響は少ない」と報告している。

(*4) 田中淳夫 「「森を守れ」が森を殺す!」
       (洋泉社) 1996年10月 P.57 による。

(2) ユーカリの水消費

「ユーカリはその成長期に多量の水分を必要とし、土壌水分を蒸発させることによって水源を涸らす」という点については、専門家はユーカリの水消費量が高いとしても、それは他の早生樹種と同じくその生長率の高さによるものであるが、それもゆっくり生長する在来種と比較したらというのであって、影響が出るほどのものでなく、いわんや近くの川を干上がらせるなどということはあり得ないと否定している5。

ユーカリの葉の蒸散作用は、他の樹木と同様の物理的、形態的特質をもっており、蒸散能力も同じである。一定流域でのユーカリ植林の水収支を調べた研究者の一致した結論は、「ユーカリは、土壌の水分を吸収する異常な能力をもっているとはいえない」ということであった。

また他の農作物と比べてみても、ユーカリの水消費量は第2表が示すように、コーヒーと同じレベルであるが、砂糖キビのレベルよりは低い。それでも水消費量を 問題にするなら、後述のバイオマスの生産のために、水分が有効に利用されている点も考慮すべきである6。

つまり、ユーカリより水消費の少ない樹木もあるし、反対により水消費の大きい樹種もあるが、他の植物や農作物に対する造林の影響は、ユーカリ自体がどうかというより、その立地の気候、特に雨量によるところが大きいといえる。乾燥した風土では湿潤の風土よりも、人工林の影響は大きく表れる7。ブラジルでの植林地の多くは、平均雨量が年間 800ミリから 1,300ミリ位のところが多く、この種の問題の実例は聞いていない。乾燥地においてユーカリが生長し、ほかの木は育たないことがあっても、そこはもともと乾燥に強い樹種しか育たない土地だということかもしれないのである。ユーカリにはかなりの乾燥地でも耐えることができる樹種もあり、スペイン、イタリア、イスラエル、モロッコ等、水の少ない国々でも盛んに植林が行われている。特にイスラエルにおいては、砂漠地帯で20〜30年の期間ユーカリ植林を行った後に、その場所を農業用地に転じて利用している。

(*5) (*4) の前掲書 P.56による。
(*6) 参考文献(4) による。
(*7 )参考文献(1) の1989年6月号掲載分による。

 

(3) ユーカリ林の生物の生息

森林の役割のひとつは、様々な昆虫、鳥や動物に食物を供給し、自然動物を保護する環境を維持することにあるという思いから、人工林、しかも比較的短期間に伐採を繰り返す産業用植林地での、自然動物の種類や数が少ないことを非難する声がある。一般的には森林は、人の手を加えなければ生物の多様性はより保たれる。反対に、特に単一樹種を植える植林地では、虫やそれを餌とする鳥や動物が少なく、下草があまり生えないというのは、造林地の特徴であって、ユーカリのみならず、日本の杉や桧などの人工林でもなんら変わることはない。もっともブラジルでの植林地は、天然林を伐採してすぐ植林地としている例は少なく、はるか昔に行われた過度の狩猟と開墾で、野生動物や昆虫が著しく減少している状態にあったところが多い。

このような植林地は、外見は森林であっても、その実態はむしろ農作物の田畑とよく似ている。田圃や畑では多くの虫や動物が生息を許されないように、7〜12年位の間隔で伐採する産業用造林地に天然林ほどの多様性と生息数が見られないのは当然だが、植林会社の調査ではそれでも少なからざる昆虫等が生息している。

ユーカリの花は、風による受粉のほか、蜜蜂などの媒介があって結実する。このため採種林では、蜜蜂を飼育することもある。ブラジルの多くのユーカリ植林地における虫に関して最大の問題は、葉切り蟻対策である。この蟻は、大量の木の葉や芽を咬み切って土中の巣に持ち帰る習性がある。それを細かく噛み砕いてキノコの菌糸を植え付けて栽培し、幼虫の餌にするのである。切り取られる植物の量は、ブラジル中南部では年間1ヘクタールあたり8トンを超えることもあるといわれ、ユーカリは導入されて歴史が長くないにもかかわらず、その葉は葉切り蟻にもっとも好まれており、ユーカリ植林地ではこの蟻の被害に頭を悩ませている。

またその葉にはユーカリ油のようなテンペル質を含むので、虫に喰われにくく、分解も遅いのが問題という指摘がある。ユーカリの葉は広葉樹に比べると分解は一般に遅いが、針葉樹よりは早く、しかも落ち葉の量が多い。このことはユーカリ林には落ち葉による有機物の堆積が多くなることを意味し、土壌の養分の回復にとって好ましい。また特に有機物の分解が早すぎて蓄積が少ない熱帯においては、この特性はむしろ歓迎すべきことといえる。8。

(*8) (*4) の前掲書 P.57。 


(4) ユーカリと他の植物の共存

「ユーカリのそばでは、他の植物が育ちにくい」という説があるが、これは植林の場合、一般に植栽間隔が狭く、太陽光線が早く生長した木の枝葉に遮られて地表に届かないというだけのことである。しかし、ドセ河流域のユーカリ植林地内では、太陽光線があまり届いていないのに、他の植物が自然繁殖していることが多い。そこに郷土樹種が育っていることもある。なお前述のとおり、ユーカリ植林地の中に農耕用の畝をつくり、農業栽培を行うことも行われている。

ユーカリ林の生態系への影響を非難し判定するには、量的にも調査がまだ不十分である。ユーカリ葉のもつ化学物質が他の生態系に悪影響を及ぼすかについても、未だ十分な実証はなされていない。ユーカリの下には雑草も生えないという下層植生の欠如を指摘する報告がある9 一方、ユーカリ伐採地跡での農作物栽培の収量が、他の樹種や作物の場合に比べ低くないことから、化学物質の悪影響を否定する報告もある10。ユーカリの葉や樹皮から他の植物の生長を抑える化学物質が出されているが、そうしたアレロパシー(他感作用)は、熱帯樹種の8割がもっており、ユーカリが特別その力が強いわけではない11。 

(*9)   しかしセニブラ社の植林地では、初期成長期では、若木は雑草雑木に日光を遮られるとすぐ枯れるので、植えて1年生は少なくとも1回、場所によってはさらに1〜2回、2年生でも下草刈りを行う場合がある。生長し樹冠が広がって逆に雑草が木陰になって繁殖が難しくなれば、この下刈りは必要がなくなり、場所によって蔦切りを行うだけになる。

(*10) 日本林業協会編「熱帯林の100不思議」(東京書籍) 1993年2月 P.203

(*11) (*4) の前掲書 P.57 

 

2.炭酸ガス固定の効果

地球温暖化問題の主因は、大気中の二酸化酸素(CO)の蓄積によるといわれているが、植林がCO 固定に果たす役割は大きい。まずCO を少なくするひとつの方法は、バイオマス生産によって固定することであるが、ユーカリのバイオマス生産量については、第3表にみられるように、熱帯・亜熱帯農作物と比べても大きい。

熱帯林が光合成によって酸素を出す効果がいわれているが、植物はそのほかに呼吸により酸素を消費しているし、森林全体では枯れ葉や落ち葉が微生物や菌類によって有機物が分解される際に消費される酸素量も考慮すると、成熟した森林においては酸素収支はプラス・マイナス・ゼロの場合が多い。しかし特に生長段階の若い樹木が多い植林や二次林では、酸素収支はプラスになる。生長の早い樹木は、その過程での組織形成のために大量のCO を吸収する。荒れ地に植林すれば、さらに土壌中の炭素固定量増大にも役立つので、ユーカリ等の植林は、地球温暖化の速度を抑えるのに貢献しているといえる。1ヘクタールのユーカリ樹とその根、土壌の有機物層には、少なくとも 100トンのCO が存在するという報告もある12。

最近通産省の研究会が行った試算では、日本の紙パルプ産業が行う海外植林によるCO 固定量は、きわめて大きなものになる。すなわち、今後日本の紙パルプ産業が、紙・板紙の需要増および天然林伐採抑制等に対応していくために、必要な輸入木材チップの一部を新たに海外植林で賄うと仮定すると、2010年における海外植林の必要面積は60万ヘクタールになる。それによるCO 固定量は、植林樹種をユーカリとし、年平均生長量を1ヘクタールあたり低めに20立方メートル、絶乾比重を0.55トン/立方メートル、木材中に占める炭素含有率を50%とすると、年間約 330万トンにもなる。固定されたCO は、木材チップ、そして紙・板紙として固定され、さらにこれらの古紙が、日本が世界に誇り得る屈指の高回収・利用率によって、何回も紙・板紙としてリサイクルされるのである。したがって、海外植林がCO 低減策の一環として計画的に実施されれば、相当な効果があると考えられる13。

(*12) 参考文献(4) による。
(*13) 参考文献(2) による。

 

3.天然林の保護効果

以上みてきたように、「すべてのユーカリ植林は、生態的に多くの問題をもっている」という非難は当たらないといってよい。新たな植林においては、その生育性と市場性から、結果的にユーカリとなることが多く、開発途上の世界各地において、林業協力プロジェクトを実施し、ユーカリ類も対象樹種の選択肢の一つとして取り入れてきた、国際協力事業団(JICA)も、いろいろな分野の専門家による検討の結果、「特に荒廃地では、ユーカリ類の造林成績、種子確保の容易さ、収穫した木材の利用の確実性から、今のところユーカリが最も適した樹種だと言わざるを得ない」としている14。

熱帯地域ではほとんど植林の経験がなかったから、現地の人々が造林地をみるのは初めてだった。そこで造林地特有の現象を、ユーカリという木が引き起こした問題と勘違いした可能性が高い15。ユーカリが環境などに及ぼす影響には、立地条件や森林の扱い方によって差があり、他の樹種とは違ってユーカリそのものを有害とする議論が、しばしばその地域での社会・経済的事情によるユーカリ造林への反対運動の論拠に使われ、問題を一層複雑化している場合が多い16。土地問題は比較的少ないブラジルでも、モノカルチャー農林産品への依存が高く、食糧生産が十分でない地域では、アグロフォレストリーの推進を、技術の進展による省力化や専門下請け化による雇用機会の減少に対しては、製材等原木の多目的利用などによる新たな雇用分野の開拓の必要性がいわれるようになってきている。

ユーカリのような早生樹種の植林による最も重要な恩恵は、木材資源の供給手段の選択肢を増やしたことである。原木供給源を天然林だけに依存せず、植林によってそれぞれの用途に向いた樹種の木を調達でき、しかも一定の植林地で比較的短期間に再生させることが可能なら、それは結果的に乱伐にさらされている天然林への伐採圧力を緩和させることができる。ニュージーランドでは、自然保護団体と林産業界の間で協定が結ばれ、現在ある 600万ヘクタールほどの天然林は伐採対象とせず、永久に保存する代わりに、 150万ヘクタールほどある早生樹種のラジアータ松を主とする造林地では、徹底的に皆伐、機械化、農薬使用を含む合理化を行うこととし、これについては自然保護団体も口出ししないことにしたという17。

しかしだからといって、どこでも、どのような植え方でも、ユーカリ植林が問題ないというものではない。植林をすべきでない土地に無理に植林を行えば、環境の面でも社会的にも必ず問題が生じる。また植林木の選定、すなわち「適地適木」を考慮しないで植林を進めると、自然は手厳しい反応を示す。

単一樹種の植林でも、いくつかの点について注意と工夫をすることによって、自然環境への悪影響を軽減できる。現在ブラジルでは森林法等の規制で、水源地、河川から最低30メートルの天然林や山地の急傾斜地における永久保護地域、法定保護地域(所有土地面積の20%)を残す義務が課せられている18。これを単に所有地の中の植林に不向きな土地を主に、法定面積だけ保護地域を残せばよいということに留まらせず、積極的に、それら保護林を孤立させずに、植林地の間にあたかも自然の回廊が形成されるように配置して、それを郷土樹種林帯とすることが出来れば、自然動物の生息の条件は一層好転しよう。現在セニブラ社の自社林内でのこの試みが始められているが、これをさらに拡大し、地域の植林事業者の間で、この自然回廊の配置についての調整と工夫がなされることが望まれる。

林産資源は、化石燃料や鉱物資源と異なり、上手に使い再植を行えば再生可能な資源である。この植林を、保全すべき天然林、社会林、農業適地とは別に、特に農牧業跡地や在来種では生長できないような荒れ地を有効に利用して行えば、土地利用の観点からも、荒廃地の再生という点でも、表土の流出防止(第4表 参照)と土壌保全の面 からも有益である19。

こういった供給体制が一方で確保されることによって、はじめて天然森林資源の保全がより現実的になるのである。植林は天然林保護のための一つの有効な解決策と位置づけられるべきである。

(*14 ) 池田修一 「ユーカリ類の活用にかかるJICAの見解」 『熱帯林業』
No.28(1993年) P.84

(*15) (*4) の前掲書 P.58

(*16) 森本泰次 「ユーカリの特性とパルプ用造林」 『紙パ技協誌』 1993年3月号 P.20にある“The Eucalypt Dilemma” (FAO)1988年 の紹介による。

(*17) 熊崎 実 「国際時代における木材供給の展望」 『紙・パルプ』 1995年8月号 P.5 の 紹介による。

なお、天然林材の伐採利用をすべて悪とする主張に対しては、「天然ユーカリの中から、更新に十分配慮しながら、枯死前の立木を(択伐)利用するのが本来の林業で、人工造林は、無立木地などでの造林のほかは、天然での更新が十分進まない場合や、経営目的により合った樹種への転換が必要な場合などに行う二義的、補助的な方法と考えるべき。」との意見もある。(森本泰次 「森林の持続的利用とパルプ材」 『紙・パルプ』 1994年6月号 P.7)

(*18) セニブラ社の場合は、植林は社有地の55%に留まっている。全社有地は20万haあるが、工場から平均 130キロの範囲に散在している。

(*19) ユーカリは、年間1haあたり7トンと推定される葉,皮,根と土中の有機物質との混合により、土壌の組織・保水能力・排水性・通気性に好影響を与える(参考文献(5) による)。

 

むすび ―ユーカリ植林への積極的評価

これからの地球規模の木材資源に対応するために、ユーカリのような植林が有効な一手段であることは明らかである。とはいえ、大規模な外来樹種の単一種の植林が、生態系にどういう影響を及ぼすかはまだ判らないことも多い。植林者はもちろん、行政や研究団体、環境保護団体も協力しあって、土壌や植生、動物などとの生態系バランスの研究を進め、もっとも適した植林方法に改善し、保護林などの設定についても工夫を重ねる余地があると思われる。造林の基本は「適地適木」であり、経済条件のみならず、「土地の潜在的生産能力と、地域のニーズに最も合った土地利用」という観点をもち20、そのうえ自然条件と対応する賢明な樹種選択と、適切な施業が求められる。

世界的に紙パルプのみならず、木材資源の需要が増加する傾向がある一方で、森林資源の保護が強調され、将来の林産資源の供給不足が懸念されるときに、ユーカリのような早生樹種植林の再植による再生可能な形での林産資源の安定供給は、今後ますます重要になってくるであろう。上述の点に十分留意した植林は、同時に世界的な森林資源とそこに存在する生態系の保全に資する役割を果たすことにもなるのである。このように地球環境に貢献する度合いが大きいにもかかわらず、多額の長期資金と大きなリスクを負って実施しなければならない植林に対して、もっと正当な評価と関心が払われてしかるべきである。

(*20) “The Eucalypt Dilemma”(FAO) 1988年 P.26

 

〔参考文献〕

(1)林良次「ユーカリ物語」『紙・パルプ』(日本製紙連合会)1989年1月号〜90年 4月号

(2)紙の資源研究会「紙の資源研究会報告書 ― 21世紀の環境及び原材料確保対策」(通商産業省生活産業局紙業印刷業課)1996年6月

(3)日本製紙連合会訳・編「「持続可能なペーパー・サイクル」調査報告書」(日本製紙連合会)1996年7月

(4)Dalcio Calais,“O Eucalipto e o Meio Ambiente”,FLORESTA RIO DOCE S.A.,1994(邦訳「ユーカリ樹と環境保全」セニブラ社内資料
   
(5)“Cultura do Eucalipto pela Industria Brasileia Exportadora de Celulose"(ABECEL) 1995年(邦訳「ユーカリの植栽ブラジル・パルプ輸出者協会」日伯紙パルプ資源開発且R林部1995年9月)

(6)“Por Dentro do Eucalipto”(“Fibra”CENIBRA 社内報)1995年11月号(*3) のユーカリ・セミナーの議論の一部紹介。邦訳「もっと良くユーカリのことを知ろう」日伯紙パルプ資源開発滑驩謦イ査部 1996年5月)

(7)大淵弘行「なぜ、グランディスか? ― ブラジル・セニブラ社/樹種決定の経緯」『紙パ技協誌』(紙パルプ技術協会)1993年10月号


なお、本稿の評価・意見に関わる部分は、筆者の個人的見解である。

 

(さくらい としひろ/日伯紙パルプ資源開発且謦役企画調査部長)

【『ラテンアメリカ・レポート』Vol.13 No.4アジア経済研究所1996年12月発行掲載】



 

第1表:作物別窒素・リン・カリ摂取量比較

(単位:kg/ha)

作 物

窒 素

リ ン

カ リ

ユ ー カ リ

295

 13

97

砂 糖 キ ビ

1,056

64

880

トウモロコシ

920

224

280

コ ー ヒ ー

264

24

416

フェジョン豆@

296

32

176

大    豆

1,600

 208

456

(注) ユーカリ以外の作物の土壌成分摂取量は、それぞれの年間摂取量を基に、ユーカリと同じく8年間分を出して比較している。

(1)ブラジル人が好んで食べるインゲン豆や小豆の総称

原出所ユーカリは、Departamento de Solos, Universidade Federal de Vicosa(ヴィソーザ大学土壌研究学部)―Guanhaes地域,1987年。
ユーカリ以外は、Malavolta,“Pesquisa de Campo na Escola de Agricultura Luiz de Qeroz em Piracicaba, Sao Paulo”

              

                          
           

第2表:   農林作物別年間必要水量
       

年間または耕作1サイクルあたりの水消費量

1kg の水を消費してできるバイオマス量 

耕作物 水消費量 (mm) 耕作物 成長量/kg 水

ユーカリ

800 〜 1,200

ユーカリ(2)

木質 2.9 g

コーヒー

  800 〜 1,200

カリビア松(3)

木質 2.1 g

砂糖キビ

1,000 〜 2,000

セラードの樹木

木質 0.4 g

柑橘類

600 〜 1,200

小麦

穀粒 0.98g

トウモロコシ@

400 〜 800

フェジョン豆

穀粒 0.5 g

フェジョン豆@

300 〜 600

トウモロコシ

穀粒1.08g

(注)
@ 1サイクル 6カ月(仮に2期作を行えば倍になる) 
A Grandis 種
B 早生樹種(針葉樹)

原出所: I.R.Calder, R.L.Hall, P.G.Adlard 
Grows and water use of fores plantations” John Wiley and Sons Ltd.刊 1992年 および W.P.Lima “Impacto Ambiental do Eucalipto” Universidade de Sao Paulo, 1993

                          

         

 

第3表:作物別バイオマス生産量比較

(単位:ton/ha)

作物

バイオマス生産量

ユ ー カ リ

130

砂 糖 キ ビ

800

トウモロコシ

40

コ ー ヒ ー

16

フェジョン豆

大    豆

24

(注) ユーカリ以外の作物のバイオマス生産量は、それぞれの年間生産量を基に、ユーカリと同じく8年間分を出して比較している。

原出所:第1表に同じ。

       

 

                                      

第4表:土地利用形態別表土流失量

(単位:kg/ha) 

植生

降雨による年間平均流失表土

天 然 林
         
人 工 植 林 40
     
牧   場 400
     
コーヒー畑 900
     
綿 花 畑 26,600

原出所:Secretaria de Agricultura, Estado de Sao Paulo,“A ocorrencia de erosao no Estado de Sao Paulo"

 

 

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