ブラジル関係図書紹介

   桜井 敏浩


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 1999年−2006年文献へ



アマゾン 日本人移住八十周年 2012/8
移民画家 半田知雄 −その生涯 2013/5
マリアナ先生の多文化共生レッスン −ブラジルに生まれ、日本で育った少女の物語り 2013/7
天使見た街 A sedução dos anjos (写真集)2013/8
文化資本としてのデザイン活動 −ラテンアメリカ諸国の新潮流2013/7
ブラジル略語集 ポ日両語 − 2013 年度版 2013/3
ボサノヴァの真実 −その知られざるエピソード 2013/2
日系ブラジル移民文学 U −日本語の長い旅 [評論] 2013/2
ラテン・クラシックの情熱 スペイン・中南米・ギタ ー・リュート 2013/5
旅立つ理由 2013/3
世界の絶景アルバム101 南米・カリブの旅 2013/3
ブラジルにおける公教育の民主化 −参加をめぐる学校とコミュニティの関係 2012/12
[新版]ラテンアメリカを知る事典 2013/3
地球時代の日本の多文化共生政策−南北アメリカ日系社会との連携を目指して 2013/3
進化する政治経済学 −途上国経済研究ノート 2013/3
実業家とブラジル移住 2012/8
千鳥足の弁証法 −マシャード文学から読み解くブラジル世界 2013/3
日系ブラジル移民文学 T −日本語の長い旅 [歴史] 2012/12
日本からブラジルへ−移住100年の歩み 2012/12
ブラジルの日本人 日本のブラジル人 2012/8
アマゾンばか 2013/2
大きな音が聞こえるか 2012/11
世界の作家32人によるワールドカップ教室
言葉図鑑 にほんご・えいご・ポルトガルご・スペインご 2013/3
ピダハン −「言語本能」を超える文化と世界観 2012/3
ブラジル・カルチャー図鑑 −ファッションから食文化をめぐる旅 2012/3
遠い声 −ブラジル日本人作家 松井太郎小説選・続 2012/7
トランスナショナルな「日系人」の教育・言語・文化 −過去から未来に向かって 2012/6
日本のエスニック・ビジネス 2012/11
「移民列島」ニッポン −多文化共存社会に生きる 2012/110
カンタ・エン・エスパニョール! −現代イベロアメリカ音楽の綺羅星たち 2012/10
ブラジル 跳躍の軌跡  2012/8
地球時代の「ソフトパワー」一 内発力と平和のための知恵 2012/3
VIVA O BRASIL! −アミーゴからの贈り物  2011/9
楽々サンパウロ 2011/2012 2011/12
ドゥラードスの記憶 −ブラジル・南マット・グロッソ州 ドゥラードス市滞在記 2012/5
ラテンアメリカ・オセアニア 世界政治叢書6 2012/4
ブラジルの不毛の大地「セラード」開発の奇跡 −日伯国際協力で実現した農業革命の記録 2012/7
南米日系人と多文化共生 −移民100年・・・その子孫たちと現代社会への提言  2010/5
次なる経済大国 −世界経済を繁栄させるのは BRICsだけではない2012/2
ブラジルの民族系民間企業 −経済成長下、力をつける企業アクター2011/3
ブラジル経済の基礎知識 第2版 2011/7
グローバル化の中で生きるとは 日系ブラジル人のトランスナショナルな暮らし  2011/7
バイオエネルギー大国ブラジルの挑戦 2012/1
パンタナール −南米大湿原の豊穣と脆弱 2011/9
写真は語る 南アメリカ・ブラジル・アマゾンの魅力  2012/4
ラテンアメリカにおける従属と発展 −グローバライゼーションの歴史社会学  2012/4
ブラジル文学序説 −文学を通して見えてくる この国のかたちと国民心理 2011/6
アマゾン、シングーへ続く森の道 2012/3
開高健とオーパ!を歩く 2012/2
ブラジルに流れる「日本人の心の大河」 2011/12
ブラジルを識る100キーワード  “100 palavras para conhecer melhor o Brasil 2011
日本小百科 ブラジル語版 “JAPAO MINI ENCICLOPEDIA DO JAPAO”2011/3
大アマゾンを翔る 2011/6
現代ラテンアメリカ経済論 2011/4
ブラジル日本人移民百年史 第三巻 生活と文化編(1)2010/12
ブラジルにおける経済自由化の実証研究   2011/3
ブラジル人生徒と日本人教員の異文化コミュニケーション
南アメリカの街角にて −青春随想録 2010/10
ポ日英医学用語辞典 2011/1
ブラジルの人種的不平等 −多人種国家における偏見と差別の構造2011/1
ブラジルの流儀 −なぜ「21世紀の主役」なのか2011/2


文学の心で人類学を生きる −南北アメリカ生活から帰国まで十六年2010/11
2020年のブラジル経済 2010/11
地域経済はよみがえるか ラテン・アメリカの産業クラスターに学ぶ−シリーズ「失われた10年」を超えて−ラテン・アメリカの教訓 第2巻 2010/12
ロスト・シティ Z −探検史上、最大の謎を追え 2010/6
アマゾンからの贈り物 −矢毒クラーレの旅 2010/4
ブラジル ナショナルジオグラフィック世界の国 2010/12
ハゲとビキニとサンバの国 −ブラジル邪推紀行 2010/10
ブラジルへの郷愁 2010/10
リアル・ブラジル音楽 2010/8
ガリンペイロ( 採金夫)体験記 アマゾンのゴールドラッシュに飛び込んだ日本人移民
ソトコト』 2010年9月号 「特集 環境大陸 ブラジル入門 2010/9
うつろ舟  ブラジル日本人作家 松井太郎小説 2010/8
ブラジルの日系人 2010
最後のアマゾン/天野尚写真集 2010/7
三井のアルミ製錬と電力事業 2010/6
ラテンアメリカン・ディアスポラ 2010/1
ラテンアメリカ 出会いのかたち 2010/3
アマゾン 民族・征服・環境の歴史 2010/5
中南米の音楽―歌・踊り・祝宴を生きる人々 2010/3
コーヒーのグローバル・ヒストリー 赤いダイヤか、黒い悪魔か 2010/2
新興国ブラジルの対外関係 ―世界金融危機を踏まえて 2010/3
マンガ 平生釟三郎 ―正しく強く朗らかに 2010/3
ブラジルを知るための56章 【第2版】 2010/2
ラテンアメリカ世界のことばと文化  2009/7
アマゾン文明の研究 ―古代人はいかにして自然との共生をなし遂げたのか 2010/3
講座 トランスナショナルな移動と定住 ―定住化する在日ブラジル人と地域社会  2009/12
ゴキブリ経営法 −激動のブラジル社会で生き残った「しぶとさ」2010/2
ジャポネース・ガランチード ― 希望のブラジル、日本の未来2010/1
ブラジル技術移住者が見た世界 2009/5
南へ ― 高知県人中南米移住100年 2009/11
ブラジル紀行 バイーア・踊る神々のカーニバル 2009/10
ラテンアメリカにおける日本企業の経営 2009/3
安心社会を創る―ラテン・アメリカ市民社会の挑戦に学ぶ  2009/7
ブラジル史 2009/7
ブラジルから遠く離れて 1935−2000 クロード・レヴィ=ストロースのかたわらで 2009/5
移民の譜(うた) ―東京・サンパウロ殺人交点2008/6
「出稼ぎ」から「デカセギ」へ ―ブラジル移民100年にみる人と文化のダイナミズム 2009/3
ブラジル日系・沖縄系移民社会における言語接触 2009/6
地球時代の多文化共生の諸相-人が繋ぐ国際関係 2009/3
ラテンアメリカの民衆文化 2009/3
ラテンアメリカ経済成長と広がる貧困格差 2009/3
「帝国アメリカ」に近すぎた国々 ラテンアメリカと日本 2009/6
図説ラテンアメリカ経済 2009/4
100年 ―ブラジルへ渡った100人の女性の物語
ブラジルの都市問題 ―貧困と格差を越えて 2009/1
21 世紀ラテンアメリカの左派政権:虚像と実像 2008/11
「もうひとつの失われた10 年」を超えて―原点としてのラテン・アメリカ2009/2
アメリカス世界のなかの「帝国2005/11
サンパウロへのサウダージ 2008/11
ブラジル人児童と先生のためのポルトガル語コミュニケーション2009/5
ブラジル人の就職に役立つ会話集 2009/4
ブラジル ナショナル・プロジェクト3社の社史
   
日本ウジミナス五十年のあゆみ [鉄は日伯を結ぶ 2008/4
    アマゾンアルミ・プロジェクト 30年の歩み 2008/3
    日伯農業開発協力株式会社社史 −ブラジル・セラード農業開発協力事業30年の記録
逆さまの地球儀 ―複眼思考の旅 2008/12
移民環流 ―南米から帰ってくる日系人たち 2008/11
遠くにありてつくるもの ―日系ブラジル人の思い・ことば・芸能 2008/7
社会の鏡としてのブラジル文学 ―文学史から見たこの国のかたち 2008/9
アマゾン源流「食」の冒険 2008/6
日本で最初の喫茶店「ブラジル移民の父」がはじめた ―カフエーパウリスタ物語 2008/11
新たな交流に向けて - 日本ブラジル交流年・日本人ブラジル移住100周年記念特集誌 2008/12
燃料か食料か ―バイオエタノールの真実 2008/7
日本から一番遠いニッポン ―南米同胞百年目の消息 2008/6
中南米が日本を追い抜く日 ―三菱商事駐在員の目2008/6
アメリカ帝国のワークショップ ―米国のラテンアメリカ・中東政策と新
   
自由主義の深層 2008/6
夢の彼方への旅 2008/6
サンパウロ市生まれの二世たちの眼差し ―ブラジル社会への同化2008/6
ブラジルの歴史 2008/6
比較政治―中南米  2008/3
ラジル 巨大経済の真実 2008/6
海外派遣者ハンドブック−ブラジル編 2008/3
グローバル化時代のブラジルの実像と未来 2008/4
愛するブラジル 愛する日本 2008/6
目で見るブラジル日本移民の百年 −ブラジル日本移民百年史別巻 2008/4
超積乱雲 2008/3
ペレ自伝 2008/4
世界史史料 7 −南北アメリカ 新住民の世界から一九世紀まで   2008/3
ジャパニーズ・ディアスポラ  2007/8
悲しい物語 ―精霊の国に住む民 ヤノマミ族 2008/4
ボサ・ノーヴァ詩大全 2006/2
ラテン・アメリカ 朝倉世界地理講座―大地と人間の物語 14 2007/7
遠くて近い国 ―シニア・ボランティアの見た21世紀ブラジル 2007/8
グローバルとローカルの共振 ―ラテンアメリカのマルチチュード 2007/11
ブラジル経済の基礎知識 2007/11
貧困の克服と教育発展 ―メキシコとブラジルの事例研究 2007/10
女たちのブラジル移住史 2007/8
知っているようで知らない ラテン音楽おもしろ雑学事典 2007/11
鉄の絆 ウジミナスにかけた青春 2007/9
もっと知りたいブラジル マジア・ド・サンバ 知られざるリオのカーニバ   
     2007/8

トランスナショナル・アイデンティティと多文化共生 ―  グローバル
    時代の日系人
2007/4
黒人差別と国民国家 ―アメリカ・南アフリカ・ブラジル 2007/3
アドニスの帰還  2007/9
黒ダイヤからの軽銀 ―三井アルミ20年の歩み 2006/9
鈴木悌一 ―ブラジル日系社会に生きた鬼才の生涯 2007/7
世界の食文化 L 中南米 2007/3
日系人とグローバリゼイション ― 北米、南米、日本 2006/06
はまの大きな菩提樹 A FRONDOSA ÁRVORE DE HAMA
ブラジル北東部の風土と文学 2006/12
地球時代の南北アメリカと日本 2006/11
講座 世界の先住民族 ―ファースト・ピープルズの現在 ― 08 中米・カリブ海、南米 2007/1
ブラジルにおける違憲審査制の展開 2006/11
 


                   


アマゾン 日本人移住八十周年
ポルトガル語書名:“Amazônia 1929-2009  - 80 anos de Imigração Japonesa na Amazônia”
   

ニッケイ新聞編集局報道部編 ニッケイ新聞社 2012年8月 276頁。
日本では(公財)海外日系人協会が3,500円+送料で受託販売。申し込みは電話045-211-1780 info@jadesas.or.jp へ)

1929年に129人のブラジル移住から始まったアマゾン移民の歴史を、数多くの写真(一部カラー)とともに記録し、全編を日本語・ポルトガル語で記している貴重な文献。

発刊について「挨拶」、節目の年、新たな一歩をというアマゾン各地での「式典編」、9箇所の移住地を訪ねて、それぞれの地であった移民の困苦の歴史、活躍とアマゾン開発とブラジル社会への貢献の多くのエピソードを、関係者へのインタビューと収集した資料・写真から綴った「移住地を訪ねて 連載編」、そしてアマゾンへの日本人入植の歩みを年表で示した「成功を支えた人々 表彰、歴史編」から構成されている。 〔桜井 敏浩〕

〔(社)ラテンアメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

 

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移民画家 半田知雄 −その生涯
 

 田中 慎二 サンパウロ人文科学研究所(ブラジル日本移民百周年記念 『人文研研究叢書』第9号) 2013年5月 492頁

  

ブラジルの風物と移民の生活をテーマに描くとともに、『移民の生活の歴史』(家の光社 1970年)はじめ評論や著作においても活躍した日系コロニアの良心といわれる画家の生涯。

11歳の時に栃木県から家族と移民、伯剌西爾時報社に入社し、聖州(サンパウロ州)義塾で多くの仲間たちとの交流を経て感化を受け、画家への道を歩みはじめ、日系画壇聖美会を結成し、さらに文化運動と活躍の場を拡げる。しかし太平洋戦争の勃発と敵国となったブラジルでの日系社会の暗黒時代を迎え、戦後の勝ち負け抗争などの混乱期を経て刊行物の発行に関わり、その後美術活動を再開、文化振興会を設立し、サンパウロ市400年祭のパビリオンとしてイビラプエラ公園に日本館を建設することに美術展示場主任として参画、1956年に初めて日本に帰国して、東京の三越はじめ各地で個展を開くことが出来、帰途欧州を周った。ブラジルに戻ってすぐサンパウロ日本文化協会(文協)の設立があり、1965年に設立されたサンパウロ人文科学研究所(人文研)には、専門委員、2年後に日本に帰ったアンドウ・ゼンパチ氏の後を受けて専任研究員となり、人文研の日本人移民史、日系社会についての調査研究の多くに執筆者として関わっている。

その後も画家としての活動とともに、戦前移民の物品資料収集・保存の必要性を訴え、1978年の皇太子ご夫妻(現天皇皇后両陛下)のブラジルご訪問時に文協ビルに「移民史料館」の開所に漕ぎ着けた。その後も1996年に90歳で没するまで、夫人に先立たれながらも画作を続け、個展を開催し、日系社会の将来について考察、開陳し、多くの人達からコロニアの良心と慕われた生涯を、膨大な資料の検証と関係者へのインタビューで纏めた労作。 〔桜井 敏浩〕

(入手の問い合わせは同研究所 contato@cenb.org.br
  

〔(社)ラテンアメリカ協会 Webサイト「掲示板」→ 「図書案内」に収録〕
 

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マリアナ先生の多文化共生レッスン −ブラジルに生まれ、日本で育った少女の物語り

 
右田マリアナ春美  明石書店 2013年7月 254頁 1,800円+税


熊本県からの日本移民とブラジル人女性との結婚で生まれたマリアナは9歳の時にデカセギ家族として来日、滋賀県で小学校3年生に編入されたが、日本語がまったく通じない彼女にとって周囲の人とのコミュニケーションが出来ず孤立感に苦しむが、大変な努力で徐々に学力もつき、時に陥る挫折感を乗り越えて中学、高校に進学する。ラテンアメリカの少女が幼児の時から当たり前に付けているピアスを、単に学校の規則を理由に一律禁じるなどの文化のギャップや、ブラジル人とのハーフであることの周囲の違和感などは相変わらず経験するが、アルバイトで外国人(ブラジル人)子女の相談員をしたことをきっかけに教員になるべく短大に入学、国語の教員資格を取るべく教育実習はかつての母校の中学に赴く。22歳で日本国籍を取得(ブラジル国籍を破棄する届けを出すことにほかならなかった)、愛知県で語学相談員に就き、在日外国人の様々な事例の相談に応じている。

マリアナが日本に来た日から強烈に感じたカルチャーショック、学校や地域社会での外国人に対する理解、包容力のなさ、現場で苦闘する教師などの中で、家族の就労や周囲との関係の変化の苦しみが率直に綴られている。家族や周囲の教師等に支えられて、自分のやりたい仕事を見つけ、今ではかつての自分の姿にも似た、学校で困惑、苦労、迷っている外国人の子供たちの相談に情熱を傾けているが、随所にブラジル系のみならず在日外国人の問題が触れられ、日本国内での外国人の置かれている境遇への理解を深めさせてくれる。  〔桜井 敏浩〕

 

〔(社)ラテンアメリカ協会 Webサイト「掲示板」→ 「図書案内」に収録〕
 

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天使見た街 A sedução dos anjos (写真集)
 

原 芳市 Place M 2013年8月 83頁 4,600円+税

   

リオデジャネイロのカーニバルに惹かれ、2004年から06年の間、毎年リオに通い、現地の人達と積極的に交流して撮った写真の中から厳選した55点のカラー写真集。

カルナバルのチームの行進の大集団の中で踊りに没頭する踊り子たちが天使に見え、エスコーラ・ジ・サンバ(サンバ学校と約すよりはサンバ連の方が適切)に入り込んで、街で出会った女たち、男たち、子供たちを写真に収めていくうちに、聖書の「わたしたちは見えるものではなく、見えないものに目を注ぎます。見えるものは過ぎ去りますが、見えないものは永遠に存続するからです。」(コリントの使徒への手紙U第4章18節)の思いになってきた、リオの街で天使に導かれていたと思うようになったという。

写真家のこういった心情に至るリオ滞在のエピソードは、巻末に6頁にわたる「あとがき」で日本語だけに留まらず、ポルトガル語、英語の全訳付きで綴られているが、書名のとおり取り上げられた写真、特に少女や踊り子を撮った写真の表情は、確かに天使を見たという書名のとおり、実によい顔をしている。 〔桜井 敏浩〕
 

〔(社)ラテンアメリカ協会 Webサイト「掲示板」→ 「図書案内」に収録〕
 

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文化資本としてのデザイン活動 −ラテンアメリカ諸国の新潮流
 

鈴木 美和子 水曜社 2013 年 7 月 193 頁 2,500 円+税


「デザインには社会を変える力がある」という観点から、デザイナー達の実践は社会に変化を与え、持続可能な社会への転換にデザインは何が出来るかを、ブラジル、コスタリカ、アルゼンチンの事例から日本でのデザインの実践の教訓を 得ようと試みた、著者の博士論文を基にその後の調査結果を加えたものである。

デザインを無形文化資本として捉え、それが活用されることによって社会が変化し、持続可能な社会の構築に貢献する様子を描くとして、まず工芸活性化とデザインの工芸化が結びつき、振興政策が行われているブラジルの事例、著者もか つて青年海外協力隊員としてコスタリカ工科大学でのインダストリアルデザイン活動の経験を踏まえて、国内産業育成、起業のためのデザイン活動、地域連携や ネットワーク化が進むアルゼンチンのデザイン活動の事例を見た後に、それぞれからデザイン活動の意味と役割を比較して、持続可能な社会形成のためのデザイン活動とその政策のあり方を導きだそうとしている。  〔桜井 敏浩〕
        

〔『ラテンアメリカ時報』 2013年夏号掲載 (社)ラテンアメリカ協会発行〕

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ブラジル略語集 ポ日両語 − 2013 年度版
 

ブラジル日本商工会議所・サンパウロ新聞・ニッケイ新聞・PWC(会計用語集)編 ブラジル日本商工会議所発行 2013 年 3 月 332 頁


ブラジルのメディアでよく使われている政党名、税金、経済、IT用語の略語約 2,000 を収集し、原語と簡単な説明を付した初版(2002 年)から 10 年が経過し、この間に新たに使われるようになった用語を加え、使われなくなった用語は削 り、既掲載用語の見直しを行って計 2,600 語を取り上げたもの。合わせ「会計用語集」もポ日語と日ポ語が付けてあり、いずれもブラジル語で実務に携わる者には極めて有用な辞典である。    〔桜井 敏浩〕


日本での入手問い合わせは、
サンパウロ新聞東京支社へ。
電話(03)5663-7596、Fax 5633-7597 spshimbun@tokyo.email.ne.jp
頒布価 7,000 円+送料

 

 

〔『ラテンアメリカ時報』 2013年夏号掲載 (社)ラテンアメリカ協会発行〕

 

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ボサノヴァの真実 −その知られざるエピソード
 

ウィリー・ヲゥーパー 彩流社 2013 年 2 月 462 頁 3,000 円+税

 

いまや日本でもあちこちで、ブラジルとは無関係の思いがけないところでも流さ れているボサノヴァは、実はブラジル庶民の伝統的な音楽ではなく、1958年に創られたといわれる。リオデジャネイロの中産階級の音楽家の間から生まれ、ブラ ジル各地の音楽や米国でジャズやラテン音楽などの影響を受け、盛衰の歴史を超えて半世紀を経た現在、ボサノヴァはいまや世界的な市民権を得て多くのファンが いる。

本書はボサノヴァに魅せられブラジル音楽評論の道に入って 10 余年の著者が、 ある程度はボサノヴァについての認識を持っている読者に、あらためて「ボサノヴァはブラジルの音楽である」という原点に立ってブラジルからの視点でボサノ ヴァの生まれた背景、定義、分類を詳述し、トム・ジョビン、ジョアン・ジルベルト、ヴィニシウス・ヂ・モライスの3人の出会いがボサノヴァを誕生させたという通説 に対する見解をはじめ、有名のみならず無名でも評価すべきボサノヴィスタたちの活動、米国はじめ海外に渡ったボサノヴァの作曲家、演奏家、歌手たちとブラジル との往来、世界に広がったボサノヴァ(中にはブラジル人が知らないボサノヴァのスタンダード曲もあるという)、ボサノヴァをはじめいろいろなジャンルの音楽を 融合する MPB(ブラジル・ポピュラー音楽)の中に昇華されていること、1964年の軍政の始まった前後と時を同じくしていったん衰退したボサノヴァが 70 年代 後半に復活し、今日に至り活躍している現役、直系、継承者やブラジル国外で活躍しているミュージシャンたち、ボサノヴァの新解釈、他ジャンルとの融合の試みに まで言及している。最後に日本におけるボサノヴァの歴史を、60 年フランス、ブラジル、イタリア合作映画『黒いオルフェ』の挿入歌「カルナバルの朝」「フェリシダーヂ」の大ヒットでボサノヴァが知られるようになり、ブラジルからのミュージシャンの来日、渡辺貞夫はじめ自身のジャズ等にボサノヴァを取り入れ始める日 本人ミュージシャンが出始めた黎明期、本格的にブラジル・日本のボサノヴァ・ミ ュージシャンが往来するようになった 70年代の普及期、アントニオ・カルロス・ ジョビンの最初で最後の来日公演や小野リサのデビューに象徴される 80 年代の 発展期、シュハスカリア(ブラジル風焼き肉レストラン)の開店が相次ぎ、サッカー等を通じてブラジルへの関心が広まって、ブラジルのボサノヴァ・ミュージシャ ンの来訪や日本人ミュージシャンのブラジル渡航が盛んになった 90 年代の多様期、ジョアン・ジルベルトの来日公演、ブラジルでボサノヴァの後継者と評価され るまでに認められている臼田道成はじめ、小野リサ以外にも多くの実力あるボサノ ヴァ・ミュージシャンが輩出し、さまざまな店でBGM で流されるようになった円 熟期の 2000 年代に至るまで、日本でのボサノヴァの流れを概観している。

全編にわたってボサノヴァについての実に豊富かつ様々な事象の蘊蓄が満載されていて、ボサノヴァの全容を知るうえで貴重な文献だが、それと同時にブラジルをボサノヴァを通じて理解するためにもきわめて有用な手引き書である。 〔桜井 敏浩〕
 

〔『ラテンアメリカ時報』 2013年夏号掲載 (社)ラテンアメリカ協会発行〕

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日系ブラジル移民文学 U −日本語の長い旅 [評論]
 

細川 周平 みすず書房 2013 年 2 月 784 頁 15,000 円+税)

これまで日系ブラジル文化の音楽、映画、芸能等について論じた書物を出してきた著者による、既紹介の第T巻に続く日系ブラジル移民文学の大部な総合的研 究書の第U巻。第T巻では日系ブラジル人による文芸の 100 年の軌跡をジャンル別に追った「歴史」編だったが、この第U巻では概念、同人誌、題材、作品、 人物などを個別にあたり「、耕す」では戦前の農村文学を詩歌、川柳、都々逸を例に、「争う」では戦後間もない勝ち組・負け組抗争の文学と論争的な『コロニア文学』 (1966 〜 77 年 ) の創刊から移住の終わりかける時期の文学を、「流れる」では、移民の移動体験、居場所のなさを戦前戦後の数編から、「乱れる」では奔放な女 性の性遍歴を扱った2編を取り上げ、「渡る」では海を渡った移民が、日本の風土で生まれた俳句、短歌をいかに移植したかを、最後に付論「対蹠地にて」では、 かの石川達三の『蒼氓』ほか2編の日本での小説により論じている。

日系ブラジル移民の文学に関わる膨大な資料に目を通して、その全容を記録しようとした、著者の 20 年にわたる調査の貴重な記録と解析の集大成であり、偉大なる労作である。 〔桜井 敏浩〕
 

〔『ラテンアメリカ時報』 2013年夏号掲載 (社)ラテンアメリカ協会発行〕

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ラテン・クラシックの情熱 スペイン・中南米・ギタ ー・リュート

渡辺 和彦 水曜社 2013年5月 253頁 2,300円+税


表題は、スペイン、中南米音楽とギター、リュートのクラシック系音楽の総称としての著者の造語である。クラッシク・ギターの専門誌『現代ギター』に連載したエッセィから選び加筆した31編、第一章は「スペインを聴く」、第二章は「中南米を聴く」、第三章は「ギターとリュートを聴く」から成る。

「中南米を聴く」では、半分の5編がブラジルの生んだ偉大な“知られざる作曲家”ヴィラ=ロボス(1887〜1959年)に当てられている。彼の讃から始まり、ギター協奏曲、ショーロス、弦楽四重奏曲、交響曲、ピアノ曲、ピアノ協奏曲などの作曲された経緯や特筆、欧州等の音楽家との交遊のエピソードや作品についての著者の評価が紹介されている。

続けてアルゼンチン・タンゴの異端児といわれたアストル・ピアソラを指導したアルゼンチンの作曲家アルベルト・ヒナステラに、最初は歌曲でヴァイオリン協奏曲になりジャズにまでなった名曲「エストレリータ」が有名になってしまったメキシコのポンセ(1882〜1948年)を取り上げた後、指揮者ドゥダネル等数々の世界で活躍する演奏家を輩出した、ベネズエラの音楽教育と貧困脱出プログラムを併せもった「エル・システマ」の活動やベネズエラの音楽家について述べ、ピアソラを日本で積極的に紹介した演奏家小松真知子(ピアノ)勝(ギター)と亮太(バンドネオン)一家、特にいまや日本を代表するバンドネオン奏者になった小松亮太やチェリストのヨーヨー・マの「プレイズ・ピアソラ」などの演奏により広がった日本のピアソラ受容史、さらには「ムード・ラテン音楽」の思い出に至るまで、実に多岐な音楽談義になっている。〔桜井 敏浩〕
                       
                       
〔(社)ラテンアメリカ協会 Webサイト「掲示板」→ 「図書案内」に収録〕
 

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旅立つ理由

旦 敬介 岩波書店 2013年3月 201頁 2,300円+税

 

本書はANAグループの機内誌『翼の王国』2008年4月号から10年3月号に連絡された作品に加筆修正したもの。「熱帯の恋愛詩」(ベリーズ)、「カポエイリスタの日常」(ブラジルのバイーア)、「マンディンガの潜水少年たち」(メキシコのベラクルス)、「初めてのフェイジョアーダ」(バイーア)、「ハンモックを吊る場所」(メキシコのメリダ)、「本当のキューバを捜して」(キューバのハバナ)、「ラ・プラタの遁走曲」(ウルグアイのモンテビデオ)、「眺めのいい窓」(バイーア)、「キューバからの二通の手紙」(キューバのシエゴ・デ・アビラ)、「一番よく守られている秘密」(メキシコ・シティ)、「歩く生活の始まり」(バイーア)と、ラテンアメリカが舞台の掌編が21編中11編も入っている。

ウガンダ人の女性とケニアで結婚し、子どもをもうけた日本人の「彼」が、家族とバイーアで暫く生活し、その後別れて世界のあちこちを訪れるという設定のように思えるが、とにかく上記の土地と東アフリカなどで生きる人々の生活、離郷、旅、生きる表情を、それぞれ8頁前後で綴り、各編に原色の美しいイラストレーション(門内ユキエ)が配されている。

著者は、メキシコ、スペイン、ブラジル、ケニアに住んだことがあるラテンアメリカ文学研究者。バルガス=リョサの『世界終末戦争』(新潮社、1988年)やガルシア・マルケスの『生きて語り伝える』(新潮社、2009年)、コエーリョの『11分間』(角川文庫、206年)などの訳書がある。 〔桜井 敏浩〕

〔(社)ラテンアメリカ協会 Webサイト「掲示板」→ 「図書案内」に収録〕

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世界の絶景アルバム101 南米・カリブの旅
 

武居 台三(写真・文) ダイヤモンド・ビッグ社発行 ダイヤモンド社発売 2013年3月 
255頁 950円+税


写真家が選んだ南米とカリブ海諸国25か国にある101に点在する世界の絶景を、世界自然遺産・文化遺産を主に、全ページ美しいカラー写真で紹介したアルバムと呼んでよい一冊。

沢山の写真を載せた旅行本や世界遺産紹介の写真集が巷に溢れているなかで、敢えて刊行された本書だが、撮影者の腕のよさか、どれを見ても絶景!と感じさせる実に美しい写真ばかりで、見ていくうちにまだ地球上にこんな風景があったのかと感動を与え、現地を訪れたいという旅心を催させる。                        〔桜井 敏浩〕
 

〔(社)ラテンアメリカ協会 Webサイト「掲示板」→ 「図書案内」に収録〕

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ブラジルにおける公教育の民主化 −参加をめぐる学校とコミュニティの関係
 

山元 一洋 上智大学イベロアメリカ研究所 2012年12月 52頁 −
(問い合わせは ibero@sophia.ac.jp Fax03-3228-3229へ)


ブラジルでは、公立小中学校の運営に教師、生徒、保護者、地域住民、教育専門家が関与することで民主化を図る公教育が試みられてきたが、その歴史、枠組み、サンパウロの初等学校での運営の実態を分析している。著者は上智大学大学院の地域研究専攻博士課程を修了し、現在は外務省勤務。 〔桜井 敏浩〕

〔(社)ラテンアメリカ協会 Webサイト「掲示板」→ 「図書案内」に収録〕


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[新版]ラテンアメリカを知る事典

大貫良夫、落合一泰、国本伊代、恒川恵市、松下洋、福嶋正徳編 平凡社 2013年3月 694頁 7,000円+税


1987年に初版が出て、99年に新訂増補版が発行されて以来、四半世紀ぶり久々の改訂版である。80年代後半のラテンアメリカ経済危機、累積債務問題による長期経済成長の停滞の時期は、軍政から民政への転換、左右勢力の凄まじい中米での内戦が終結する一方で、ペルー、コロンビアでの左翼武装ゲリラの暗躍、ベネズエラでのチャベス政権の発足などがあった90年代に続く21世紀のラテンアメリカとカリブ諸国の多くで劇的な変化を生じている現在、13年振りに50名の執筆者によりいくつかの新項目と33か国それぞれの政治、経済の記述を加筆し、資料編・索引を充実させた改訂版が出たことは大いに歓迎される。

数多くの専門家を動員し、ラテンアメリカに関わるこれだけの基礎資料集を纏め、大部になって価格も決して安くない事典を上梓することは、旧版に加筆することを中心にせざるを得なかったとはいえ、編者、執筆者、出版者にとって大変なことであり、ラテンアメリカを総合的に知る類書が無い(かつてラテン・アメリカ協会から『ラテン・アメリカ事典』が1996年版まで刊行されていた)今となっては、極めて有用な手元に置いておきたい手引き、情報源である。

 構成は、「総論」として「多様性と創造性の世界」(大貫)、「イメージから対話へ」(落合)、五十音順で428頁を当てた「項目編」、3地域と33か国の自然・地理、住民・社会、歴史、政治、経済、日本との関係等の概要が分かる「地域・国名編」、そして基本的なデータ、略年表、文献リスト、URLリスト、世界遺産一覧表の「資料編」、「索引」から成る。〔桜井敏浩〕

〔『ラテンアメリカ時報』 2013年春号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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地球時代の日本の多文化共生政策−南北アメリカ日系社会との連携を目指して

浅香 幸枝 明石書店 2013年3月 251頁 2,600円+税

   
南北アメリカの日系移民を文化を運ぶ人と捉え、彼らの移動、漂泊と定住、そのトランスナショナル・エスニシティを考察することで、地球時代の日本人の海外発展のあり方の中から多文化共生政策を提案しようとする研究書で、著者の名古屋大学に提出した博士論文である。

第1部で日本とラテンアメリカ関係145年の歴史的背景をみて、第2部では各地の日系社会の概要と組織的形成の中心になったパンアメリカン日系協会と海外日系人協会の歴史、果たした役割を紹介している。第3部では日本の多文化共生概念の発生、事例を述べた後、多文化共生政策の決定過程を検証し、その問題を挙げている。特に1990年の「出入国管理法」の改訂がもたらした南北アメリカの日系社会の大きな変化、日系人の流入増大によって日本社会も多文化共生を考えねばならなくなったこと、その中でインターネット時代の組織と機能を活かしたネットワーク作りなどを挙げて、日本での多文化共生による新たな文化・社会の創造を目指す試みが進んでいることを論述し、個人・家族・地域社会・国民国家・国際レベル、そしてインターネットレベルそれぞれでの21世紀の日本の多文化共生政策を提言している。〔桜井敏浩〕
 

〔『ラテンアメリカ時報』 2013年春号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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進化する政治経済学 −途上国経済研究ノート
 

山崎 圭一 レイライン 2013年3月 383頁 2,500円+税


ブラジル経済、財政、環境問題についての研究成果(例えば『リオのビーチから経済学』(新日本出版社 2006年など)も多い気鋭の開発経済学者が、大学での講義用テキストとして、また途上国政治経済学に関心をもつ一般読者向けとして纏めた総合的内容をもつ解説書。

第T部の経済学の基礎理論、途上国開発論、環境の経済理論に続く第U部では、途上国経済政治社会の実態を南アフリカ等アフリカとブラジル経済、アジア各国素描で、第V部政策論では著者がこれまで研究してきたブラジル、メキシコの都市問題とラテンアメリカの汚職・腐敗、さらにはODAや外国人労働者問題に至るまで多岐に論じている。 〔桜井敏浩〕


〔『ラテンアメリカ時報』 2013年春号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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実業家とブラジル移住

渋沢栄一記念財団研究部編 不二出版 2012年8月 277頁 3,800円+税


第T部では、19世紀後半から20世紀初頭にかけてブラジル移住を推進した4人の実業家、すなわち岩崎久彌がブラジル東山農場を創設(柳田利夫)、渋沢栄一の日本人植民地の開設への関わり(黒瀬郁二)、武藤山治の移住は民間資金によるべきとの持論からの南米拓殖会社設立(山本長次)、貿易拡大などの日伯交流基盤構築に努めた平生釟三郎(栗田政彦)の業績をみることによって、単に移住を余剰農村人口の捌け口ではなく国策として育てようとする雄大な構想を描いた先駆者たちを紹介している。

第U部は、ブラジル移住事業を支えた金融・海運・国際関係として、移民を取り巻く金融制度の問題(高嶋雅明)、大阪商船の積極経営にも拘わらず業績は良好でなかった南米航路(谷ヶ城秀吉)、日本のブラジル移住開始の背景にあった米国との関係(木村昌人)という、日本人のブラジル移住でほとんど取り上げられてこなかった部分を検証しており、移住史の新たな、貴重な研究である。〔桜井敏浩〕

〔『ラテンアメリカ時報』 2013年春号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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千鳥足の弁証法 −マシャード文学から読み解くブラジル世界

武田 千香 東京外国語大学出版会 2013年3月 325頁 2,800円+税

 

ブラジルで最も高い評価を受けている文豪であるばかりでなく、19世紀世界の、またラテンアメリカ最高の作家とも評されている、マシャード・ジ・アシス(1839〜1908年)の文学を、その代表作『ブラス・クーバスの死後の回想』(武田訳光文社古典新訳文庫 2012年)の物語世界を細部に至るまで独自の視点で読み解き、背景にあるブラジルの歴史、人、社会、文化を考察することによって、西洋と非西洋を合わせもつブラジル世界を総合的に読み解こうとした、ユニークなブラジル文化論。

著者は『ブラス・クーバスの死後の回想』には、ブラジルの人、文化、社会を理解する"公式"が隠されている。それは歴史、社会ばかりでなくブラジル人の社会遊泳術("ジェイチーニョ"−ブラジル・サッカー選手が審判の目を盗んで要領よく立ち回るのもその一例)や、サンバ等の音楽、カルナバル、さらにはカポエイラ(奴隷黒人から生まれた武芸)などに至る、代表的なブラジルの文化事象の特質まで見事に解き明かしているという。日本でもブラジル文化について知られるようになってきたとはいえ、まだ表面的にしか見ていないものが多い中で、著者の20余年のブラジル文学研究が生んだ独創的な切り口のブラジル文化論でもある。〔桜井敏浩〕

〔『ラテンアメリカ時報』 2013年春号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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日系ブラジル移民文学 T −日本語の長い旅 [歴史]』 

 

細川 周平 みすず書房 2012年12月 825頁 15,000円+税


これまで日系ブラジル文化の音楽、映画、芸能等について論じた書物を出してきた著者による日系ブラジル移民文学の大部な総合的研究書の第1巻で、この後Uも刊行されている。100余年のブラジル日本人移民史の中で、様々な土地、歴史の中で刊行された同人誌や邦字紙の文芸欄等に投稿された小説、詩、俳句、短歌、川柳、歌謡を丹念に追ってひたすら読み込み、6つの期間に区分して、それらの背景、時代の経過にともなう変化などを紹介し、文学史のみならずブラジル日系社会における全文学活動を詳しく解説している。

また後半の593〜809頁は、ブラジル日系社会の3つの文学賞の入選作の出版年、作者名、作品の題名、あらすじ、賞の内容を網羅したもので、その後の1906年から2011年の間の文学年表、人名索引とともに、日系ブラジル移民の文学の全容を記録しようとした、著者の20年にわたる調査の集大成であり、大変な労作である。  〔桜井敏浩〕

〔『ラテンアメリカ時報』 2013年春号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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日本からブラジルへ−移住100年の歩み』 

日伯協会編 財団法人日伯協会 2012年12月  80頁 1,500円+送料 (問い合わせは info@nippaku-k.or.jp Tel/Fax 078-230-2891 へ)

 

2011年に神戸で開催した「知られざるブラジル移住の歴史展」の内容を取りまとめた写真による解説。第1期は笠戸丸渡航とそれに先立つ4人の先駆者たち(1803〜1927年)、第2期は移住の成熟期を支えた人々(1928〜45年)、第3期は戦後の移住と日系人の活躍(1946〜2008年)に分けた展示内容を、貴重な写真多数とともに取りまとめたもの。 〔桜井敏浩〕

〔『ラテンアメリカ時報』 2013年春号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕



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ブラジルの日本人 日本のブラジル人

 

中桐 規碩 丸善書店岡山出版サービスセンター 20128  214頁 2,500円+税


著者はくらしき作陽大学で社会学を講じた後、在日ブラジル人子弟の教育活動を行っていた「エスコーラ・モモタロウ・オカヤマ」に、2010年に始まった文部科学省の「虹の架け橋教室」事業にそれが吸収されるまで、ボランティアで参加し活動していたが、その間折に触れ日本人のブラジル移民のことを調べ、書きためてきた。

日本人移民史、移民のブラジルでの生活、コーヒー栽培体制の変革、ブラジルの岡山県人の実態、海外移民の背景としての明治初期の農村の家計調査、さらに日本へのブラジル人デカセギが増えたことから、ブラジル人学校の設立の経緯や在ブラジル日本人と在日ブラジル人の移住過程の比較考察に至るまでを綴っている。
〔桜井 敏浩〕
                       

〔(社)ラテンアメリカ協会 Webサイト「掲示板」 「図書案内」に収録〕
 

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アマゾンばか』 
 

中東 照雄著・水口 謙二編 地球丸 20132月 144頁 1,800円+税


プロ魚釣り師と元釣り専門誌編集長のコンビによる、アマゾンの大物魚釣り紀行。著者の子供時代に従兄弟からルアー釣りの面白さを教わり、熱帯魚店の店員になって様々な知識と扱い方を覚え、扱う魚の約8割が南米原産と知りアマゾン行きを決行する。開高 健の『オーパ!』の釣り旅行に同行したブラジル在住の作家醍醐麻沙夫氏と会って、開高も自分も使ったというルアーを贈られ、以後8年毎年のブラジル釣り旅行にのめり込んだという。

続く第二章「ジャングルのスター」は、もちろんアマゾン河のスター、ツクナレ、ドラド、ピラニア、ピラルクなどを釣り上げるに至った旅、巨大魚との格闘から食した味まで、プロを自称するだけに迫力ある釣りの描写とこれでもかと展開する度アップした写真の迫力が素晴らしい。第三章は著編者ならではの
アマゾン釣り用道具・装備解説。LureRodReelという釣り具から、人の指をいとも簡単に食いちぎる鋭い歯と強い顎をもつ魚を釣った時に針を外す工具、豪雨や激流に耐える服装や装備、アマゾン釣りに合った漁具の使い方などの蘊蓄も載っている。


釣りもここまでやるかと思わせる、文字どおりのアマゾンばかの快著。 
〔桜井 敏浩〕  

             

〔(社)ラテンアメリカ協会 Webサイト「掲示板」「図書案内」に収録〕 

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大きな音が聞こえるか』 

坂本 司 角川書店 2012年11月 602頁 1,900円+税


ブラジルのアマゾン河中流域で毎年3月頃に出現する河水の大逆流ポロロッカでサーフィンをすることを夢みた高校生が、ついに実現するまでを描いた長編小説。

母の弟の剛が製薬会社のメディスン・ハンター(将来の薬原料・ヒントとなる植物等の収集専門家)としてベレンに赴任し、メールのやり取りでアマゾン河に関心をもった主人公の泳は、必死にアルバイトに励んで資金を貯め、28時間かかってロサンジェルス、サンパウロ経由ベレンに到達、日系ヤマモト家の世話になりつつ、マナウス近くでポロロッカのコマーシャル映像を撮りに来た米国人チームに加わることになり、ついに二度にわたって逆流の大波に乗る。

全体の半分は自宅での両親にブラジル行きを納得させるまでのやり取り、学校での友人たちとの付き合い、湘南の海へのサーフン通いなどの描写だが、それが泳の終わらない波ポロロッカ(大きな声の意味)に乗ることを実現するための必然的な伏線になっている。

ベレンで初めて見たブラジル社会の新鮮な印象、血は日本人でもブラジル人の価値観・道徳観を合わせもつ3世の子供たち、米国とブラジル人の混成グループに加わった泳と剛との愉快な交流などの描写もあって、サーフィン実現を通してブラジルの片鱗も見せてくれる、楽しい青春小説。〔桜井 敏浩〕

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕
 

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世界の作家32人によるワールドカップ教室
 

マット・ウィランド、ショーン・ウィルシー 越川芳明、柳下毅一郎監 訳 白水社 499頁 
2,800円+税


本書の原題は
Thinking Fans Guide on the World Cup、主に英語圏の作家達が書いた2006年のドイツ大会に出場する32か国のサッカー文化、歴史などの文章とドイツ大会のグループリーグと決勝トーナメントの日程、1930年〜2002年のワールドカップの1〜4位の国の試合数、ゴール数、観客動員数や、世界69の国・地域の通算成績表のデータを付けたものである。国別では、結果的に優勝したイタリアをはじめフランス、ドイツ、ポルトガルや予選リーグで敗退した日本、韓国を含む国々に、ラテンアメリカからはコスタリカ、エクアドル、パラグアイ、トリニダード・トバゴ、アルゼンチン、メキシコ、ブラジルについて記述されている。各国別記述の後に、後書きに代えてグローバリゼーションの時代におけるサッカーを読み取る『ワールドカップで勝つ方法』という項があり、これもまた面白い。 

各項はそれぞれの執筆者が自由に書いており、構成も内容も様々であるが、熱烈なサッカー好きが書いた各国選抜チームの選手の紹介や戦術の解説を期待すると大きな間違いで、サッカーを切り口にその国の政治・経済・社会構造がこうだから戦績はこうなのだといったような解説や、政治、南北問題、移民問題との関係についての言及もあって、サッカーフアンのみならず世界情勢に関心のある者にも興味深い論集である。 〔桜井 敏浩〕


〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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言葉図鑑 にほんご・えいご・ポルトガルご・スペインご
 

五味 太郎 偕成社 2013年3月 各2,200円+税

  
@なまえのことばとくらしのことば 68頁
Aうごきのことばとかざることば  72頁


いろいろな物の日本語名と挨拶の言葉を中心に「暮らしの言葉」(@)と、人、動物・物などの形や有様を表す「飾る言葉」(A)から構成され、言葉の意味を絵で知り、日本語の面白さや奥の深さとともに、それを他の3ヵ国語でどういうかを一覧で見ることが出来る。それぞれに掲載語の索引と日本語五十音表が付いている。

言葉を絵で意味を知り、言葉を覚え、指指しで会話を試みることなどで、日本語を母語とする子供たちとスペイン語、ポルトガル語を母語とする子供たちのコミュニケーションの架け橋に使われて欲しいとの願いも込められて刊行された美しい絵本。 〔桜井 敏浩〕


〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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ピダハン −「言語本能」を超える文化と世界観
 

ダニエル・L・エヴェレット 屋代通子訳 みすず書房 20123 408 3,400円+税

 
アマゾン奥地にひっそりと住むピダハン族とその周辺の部族への布教のため1977年に入り、その後30年にわたり研究を続けた言語人類学者による研究の記録と成果。 

ピダハンはアマゾンの奥地に暮らす400人を割るという少数民族だが、ピダハンの文化には、「右」「左」や数の概念、色の名前さえも存在せず、世界のほとんどの民族が持っている「神」の概念も部族の創世神話もなく、しがたいそれらを表現する言葉もない。生き抜くためには必要でない言葉、表現を持たず、神話や信仰などに関心を示さないが、十分満たされた生活と豊かな精神世界をもつ彼らの社会は、これまでの言語学の定説をも覆すものであり、彼らの文化が数百年も外部の文明の影響に抵抗できたのはまさしくそれが理由だったとのではないかと考えさせられる。我々が知らず知らずに身についた西欧的な普遍性からの見方、価値観が、それとはまったく異にする頑固な哲学をもったいわゆる“未開文明”であるピダハンの世界観に崩される過程を、著者は30年続いた奮闘も交えて、驚きと笑いで語っているが、そもそもは、キリスト教の新教福音派の伝道師として彼らの集落に入った著者であるが、ついには信仰を見失い無神論者になってしまうという衝撃的な内容をもつ。 〔桜井 敏浩〕
                           

〔『ラテンアメリカ時報』 2012/13年冬号掲載 (社)ラテンアメリカ協会発行〕 

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ブラジル・カルチャー図鑑 −ファッションから食文化をめぐる旅』 
 

麻生 雅人・山本 綾子編著 スペースシャワーブックス 201212 175 1,800円+税

  
ブラジルの生活や文化、さらに2014年のワールドカップの開催12都市のガイドブックをサッカースタジアムの姿を含め、600点以上のカラー写真と図版で見せる図鑑。現在のブラジルを理解するために有用であり、かつ眺めているだけで楽しい。

ファッション、アート・民芸品、建築・都市、食・飲み物、祭り・踊り・音楽の554の項目に加えて、コラムでエコロジー社会に向けたグリーン・エコノミー・グッズとブラジル大手の鶏肉等食品メーカーの戦略を4編、サンパウロはじめ5都市のライフスタイルの事例もついている。〔桜井 敏浩〕
 

〔『ラテンアメリカ時報』 2012/13年冬号掲載 (社)ラテンアメリカ協会発行〕

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遠い声 −ブラジル日本人作家 松井太郎小説選・続
 

松井 太郎 西 成彦・細川周平編 松籟社 20127月 333頁 1,900円+税

   
1917
年神戸市に生まれ、36年父の失業を機に一家でブラジル移住、サンパウロ州奥地で農業に従事していたが、隠居後長年親しんできた文芸活動に邁進し、コロニアの新聞・同人誌に投稿しており、2010年に同社から『うつろ舟 ブラジル日本人作家松井太郎作品選』が出ている〔協会Webサイト「掲示板」→「図書案内」で紹介〕。

続編の本書も、日本人移民の息子と娘が駆け落ちして原生林の開拓に挑むが出産とマラリアで妻子を失い、寡夫はやがて研ぎ屋として日系人移住地を旅する果てに亡妻の弟とめぐり合う「ある移民の生涯」をはじめとする日本人移民の辛酸をなめた生業と生活の挿話を綴った短編と、上記前書に収録されている「堂守ひとり語り」とともに、著者が関心をもった東北部の夜盗・殺人者を題材に描いた「野盗懺悔」「野盗一代」の東北ブラジルもの三部作と、同地で今なお人気が高いシセロ神父を称えたコルデール版(韻を踏んだ吟遊詩人語り節)の訳詞「ジュアゼイロの聖者」に至る、幅広い著作の中から選ばれた15編の短編小説が収録されており、優れたコロニア文学作家の集大成である。〔桜井 敏浩〕
                                  

〔『ラテンアメリカ時報』 2012/13年冬号掲載 (社)ラテンアメリカ協会発行〕

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トランスナショナルな「日系人」の教育・言語・文化 −過去から未来に向かって』 
 

森本豊富・根川幸男編著 明石書店 20126 262頁 3,400円+税

 
海外在住日系人がいる日本語教育、言語、文化について、32名からなる研究者の論考13編と11のコラムで構成した総合的な論考集で、具体的にはブラジルはじめカナダ、米国・ハワイ、フィリピンを取り上げている。

本書の大きな部分は、ブラジル移民と日系在日ブラジル人について割かれており、1930年代サンパウロにおける日系社会での言語使用状況と日本語教育、内陸農村地帯の日系社会子弟教育、日本語学校とそこでの教育の変遷、そして戦後多くなったバイリンガルと80年代以降の日本へのデカセギとの関連、日本での外国人のこども達の言語教育の環境、ブラジル学校の日本への進出、日本内地からの移民と異なる沖縄移民の郷里との連繋、2008年に行われたブラジル日本移民100周年記念行事にみる新たな文化の創造、日本移民史料館の記録保全への取り組みなど、さまざまな切り口での分析がなされている。巻末のハワイ、米国、カナダ、ブラジルおよび日本での日系教育史年表(18681960)も有用な資料である。〔桜井 敏浩〕
                             

〔『ラテンアメリカ時報』 2012/13年冬号掲載 (社)ラテンアメリカ協会発行〕

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日本のエスニック・ビジネス
 

樋口 直人編 世界思想社 201211月 286頁 2,800円+税

  
日本でエスニック・マイノリティが営むビジネスの実情を紹介している。浜松等で興ったブラジル人相手のビジネスの動機、機会構造、変遷(片岡博美)、在日ブラジル系メディアの担い手と興亡(アンジェロ・イシ)、鶴見など京浜工業地帯でのボリビア、ペルー等南米系の電気工事業者の起業(樋口直人)を紹介していて、身近な存在になりつつある“外国人”のビジネスの進展と変容の一端を知ることができる。〔桜井 敏浩〕                                

〔(社)ラテンアメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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「移民列島」ニッポン −多文化共存社会に生きる』 
 

藤巻 秀樹 藤原書店 201210月 315頁 3,000円+税

  
欧米諸国等に比して外国人の割合が極めて低く、同質社会の馴れ合いでやってきた日本で、好むと好まざるにかかわらず外国人受け入れが増大している。東京だけ見ても池袋(中国人)、西葛西(インド人)、高田馬場のミヤンマー人、韓国人をはじめ多国籍の街といわれる大久保などがあり、愛知県の保見団地等にはブラジル系等の南米の日系人が多く住む。また農家へのアジア各国からの花嫁が嫁いでいる新潟県南魚沼市のような例もある。
本書は、まず日本の各地、様々な仕事に入ってきている移民たちの存在、彼らの渡航目的、分布を紹介し、次いで日本人と外国人の共生には何が必要かを、実際に保見団地、大久保、南魚沼市に著者(日本経済新聞記者)が住んでみての記録と、日本各の取材を通じて聞いた移民たちの肉声を伝えようとするものである。
最終章では1990年の入管法改正をきっかけに増大した外国人に対応する政府や政党の移民政策の試行錯誤などを振り返り、これからの日本の移民政策と脱「同質社会」への道を提言している。巻末には、戦後日本の移民受け入れに関する年表(19512012年)や参考文献リスト、本書に登場する店舗・団体・人物の一覧も付けてあり、日本における外国出身者との共存を考える上で有用な情報を提示している。〔桜井 敏浩〕
                               

〔(社)ラテンアメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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カンタ・エン・エスパニョール! −現代イベロアメリカ音楽の綺羅星たち
 

ホセ・ルイス・カバッサ 八重樫克彦・由貴子訳 新評論 201210月 211頁 2,200円+税

 
アルゼンチンで活躍するジャーナリスト、コラムニストである著者による、アルゼンチンをはじめウルグアイ、キューバ、スペイン、米国、ペルー、ブラジルから来た22人のミュージシャンへのインタビュー集。
ここで取り上げられた歌手、作曲家、ギターやバンドネオン等の演奏家、シンガーソングライター、詩人たちは、ポピュラー、ジャズ、フォルクローレ、タンゴ、レゲー、ロックなどさまざまな分野にわたっており、いずれも現代のミュージシャンとして評価され、スペイン語で歌い語っていることが共通している。
アルゼンチンの音楽というとタンゴやフォルクローレと思われており、本書にもメルセデス・ソーサも登場するが、むしろジャズ系やスペイン語で歌うロックが近年注目を集めている。日本では、本書でも取り上げられているブラジルのエグベルト・ジスモンチや同じくポピュラー音楽(MPB)のカエターノ・ヴェローゾ、ロックのヒタ・リーなど以外でもブラジルのボサノバやMPBについての紹介書や音楽記事が多いが、あまり知られていないスペイン語で活躍する現代のミュージシャンの実像を、巧みなインタビューで彼らの生き様やそれぞれの音楽に賭けてきた人生を語らせており、新しい音楽動向を知ることができる。〔桜井 敏浩〕
                                 
〔(社)ラテンアメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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ブラジル 跳躍の軌跡』 
 

堀坂 浩太郎  岩波書古(新書) 2012年8月 218頁 800円+税

 

1980 年代半ば、21 年間に及んだ軍事政権から文民政権に移行したものの、ハイパーインフレや対外債務危機で経済危機に陥り混酸していたブラジルが、今は「新興国」の雄ともて噺され、BRICS の中でも最も政治リスクの小さ い国として評価されている。

1964 年の軍事政権の発足とテクノクラートに主導された経済発展と破綻による軍部の退出、80 年代から 90 年代前半にかけての文民政権時代の政治混乱と経済危機を経て、中道左派のカルドーゾ政権によりインフレを克服して現在の成長軌道の基礎を作ったが、その後継政権が左派労働者党ルーラ大統領であったにもかかわらず、財政政策、対外経済関係は維持され、著しい経済発展を実現して2期8年の最後まで高い支持率のまま任期を終え、その政権を支えてきたジルマ・ルセフ女性大統領が継承して好調を維持している。その背景には、民政移管当時から国のかたち、選挙制度、文民統制、民営化、外資導入や金融安定化システムの構築、政府・企業・市民社会の協働。貧困克服策の実施、教育改革等の制度設計改革が積み重ねられてきたことを指摘している。さらに姿を変えた資源大国として、国際プレゼンスが高まり、国際化が進展するブラジルの現在を生き生きと描き、終章で遠くても近い国にと日本・ブラ ジルの重層的関係と相互補完関係を超えた新たな結合を提起している。

本書は 1978 年からの日本経済新聞サンパウロ特派員から上智大学に転じ、一貫してブラジル政経を研究してきた 著者が、この四半世紀に民主化、債務国から債権国への転換、1995年以来3代にわたる大統領の下で劇的な変化を 遂げた発展の軌跡を、政治、経済、社会そして対外関係から分析し、分かりやすく解説したもので、変容著しい現在のブラジルを正確に理解するために、コンパクトながら核心をもれなく明らかにした優れた手引きである。 〔桜井 敏浩〕
 

〔『ラテンアメリカ時報』 2012年秋号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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地球時代の「ソフトパワー」一 内発力と平和のための知恵』 

浅香 幸枝  行路社 2012年3月 362頁 2,800 円+税


国際社会における米国の影響力が低下し、もはや軍事力や経済力というハードパワーだけで相手を圧倒する時代ではなくなったとの反省から、1989 年にハーバード大学のジョセフ・ナイ教授が提唱したのは、 相手が従いたくなるような文化、政治的価値、外交政策の3資源から構成されるソフトな力でというソフトパワーという概念だった。本書はこれを多文化共生と平和構築のために、南北アメリカ地域と日本を分 析対象に「平和構築jを目指して、経済力と文化力の2側面から政治・経済・社会・文化・哲学・教育・国際関係と多角的にソフトパワーによる平和構築の可能性を考察しようとしたものである。

人間安全保障を調う ODA を含む日本独自のソフトなパワーの源泉から始まり、ハードパワーを認識し ながらもソフトなパワーが優勢となるような地球社会の枠組み、スペイン・ポルトガルと旧植民地の文化的つながりを考察し、合弁事業や技術協力を通じたブラジル、考古学調査を通じてのペルー、タンゴを通 じてのアルゼンチンとの関係を紹介した後、ソフトなパワーとしての日系人の役割をメキシコ、ブラジル、アルゼンチンの日系人が明らかにしている。日本が不平等条約改定交渉で苦労している時に初めから平等条約を締結してくれたメキシコ、アルゼンチン、ペル一、チリの駐日大使が外交関係を通じての平和構築を述べ、最後に編者がソフトなパワ一による対等な関係で互いの文化を尊重して平和への知恵を出すことを提唱している。      〔桜井 敏浩〕
 

〔『ラテンアメリカ時報』 2012年秋号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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VIVA O BRASIL! −アミーゴからの贈り物 
 

桑嶋 周次  文芸社 2011年9月 254頁 1,500円+税


ブラジル諸事情、ブラジルでの体験に基づく見聞、ブラジルならびに日本でのブラジル人との交流で得た実に様々な分野の事項について、約190項目もの著者の見聞録、解説、所感を集大成したもの。

 「これがブラジル」「これぞブラジル人」「交通事情」「観光」「土産」スポーツと娯楽」「料理とデザート」「飲み物」という項目分類に、新日本製鉄で長く海外技術協力業務に携わり、特にブラジルへは26回も渡航したという著者が引退後に綴った短文集。著者独特の解釈による「授業では教えてくれないポルトガル語」の解説も付いているが、著者の見聞の広さ、好奇心の旺盛さは見事である。 〔桜井 敏浩〕


〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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楽々サンパウロ 2011/2012』 
 

布施 直佐  Editora Kojiro Ltda. 2011年12月 A4版224頁 定価 3,500円 (税・国内送料込み) 申込は Brazil Business Consulting 担当 倉智まで。 メール:rakurakusp@gmail.com 電話:042-400-0327)

 

サンパウロでの生活に有用な、食、ショッピング、鑑賞・エンターテイメント、観光、ホテル、スポーツ、生活準備・ソーシャルライフ、住居、交通、郵便・電話等のサービス、メディア、教育、美容、医療やビジネス事情などの情報を網羅し、さらに最低限必要な日本語・ポルトガル語の用語集や語句表現例文も載せるなども付いており、ビジネスや観光でサンパウロに住み、あるいは観光で訪れる人たちに必要な情報を網羅した便利なガイドブック。   〔桜井 敏浩〕


〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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ドゥラードスの記憶 −ブラジル・南マット・グロッソ州 ドゥラードス市滞在記
 

中村 四郎 文芸社 2012年5月 163頁 1,000円+税

    
長く公立小学校に勤務した著者が旧JICAの移住シニア専門家(現シニア海外ボランティア)として1993年から2年間、ブラジル南西部のカンポグランデ南方200数十キロの町に滞在し、同州の日本語学校の指導に当たった際の現地日本語教育状況と著者の家族との生活、日系社会の簡単な歴史と著者の感想、さらに2003年7月に2週間ほど再訪した旅の思い出を綴っている。

ドゥラードス市の日本語モデル校を拠点に、周辺の日本語学校を巡回し、それぞれの学校の日本語授業を参観し、先生たちと授業の進め方や指導の工夫を話し合っていくうちに、それぞれの日系社会状況、子弟教育の環境、日本語学校運営や日本語教師養成の課題、日本語教育の将来需要などの問題点が浮かび上がってきたことについても述べている。〔桜井 敏浩〕

          

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕
 

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ラテンアメリカ・オセアニア 世界政治叢書6

菊池 努・畑 恵子編著 ミネルヴァ書房 2012年4月 279頁 3,500円+税

    
これまで国家主権を前提にしてきた政治学が、21世紀に入って世界の政治潮流の変化により政治経済・対外関係がどう変わり、今後どうなるかを展望するシリーズのラテンアメリカ編。グローバル化の進展と地域主義の進展で、ラテンアメリカがどう変化しつつあるかを理解するのを助けてくれる解説書。  

グローバル化の進展と地域化の推進による「周縁化」からの脱却を論じた序章から始まり、第1章ラテンアメリカの「民主化・市場経済化と新しい地域主義」(畑恵子)では、グローバリズム、汎米主義と地域主義、政治体制の変遷、民主化の進展と1980年代の経済危機、民主主義の発展と新自由主義、市場経済化、新たな地域主義とその課題を、第2章「ラテンアメリカの地域主義」(堀坂浩太郎)では地域の概念に続いて第2次世界大戦後の流れの古い地域主義と、経済の国際化、域内外の市場統合の動きをともなう新しい地域主義を論じている。第3章「中米・カリブの地域主義」(松本八重子)では、その歴史的変化と発展、米国や国際政治との関係を、第4章「安全保障問題と米州地域関係」(浦部浩之)では、米州安全保障秩序の歴史と東西冷戦後の転換、暴力・麻薬・テロに対するに脆弱な民主主義、米国から離れての新たな枠組みの動きを、第5章「グローバリズムと反グローバリズム」(新木秀和)では、反グローバリズム運動の登場と新たな展開をサパティスタ運動やチャベスのボリーバル革命等を例に、その特徴と課題を論じている。   〔桜井 敏浩〕
 

〔『ラテンアメリカ時報』 2012年夏号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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ブラジルの不毛の大地「セラード」開発の奇跡 −日伯国際協力で実現した農業革命の記録

本郷 豊・細野 昭雄 ダイヤモンド社 2012年7月 252頁 1,600円+税

   
1973年の世界的な大豆不足を契機に、当時の日本政府・民間経済界に資源・食料の安定供給源を確保する動きが加速、国際協力事業団(現JICAの前身の一つ)も設立され、ブラジル国土の約1/4を占める不毛の大地セラード農業開発への協力も始まった。

本書は、1979年日伯農業開発協力社(CAMPO)への出向以来、このプロジェクトに関わってきたブラジルへの協力専門家と、JICA研究所長が纏めた両国協力による壮大な農業革命の記録である。

ブラジル熱帯サバンナでずっと農業不適地といわれてきたセラードが、土壌改良や熱帯性気候に適応した大豆等作物品種の開発、流通インフラ整備の進展により、両国の協力により試験的実施から入植者を募り、事業地を拡大し、ついには世界有数の穀倉地帯に変貌させるまで、様々な技術、営農、流通などの課題に挑戦し、尽力した多くの関係者へのインタビューによって、“セラードの奇跡”を可能ならしめた人と組織を明らかにしている。

今やセラードが世界の食料供給と価格の安定に大きな役割を果たしている一方で、生態系・環境保全に最大限の配慮をしていること、単に農業開発に留まらず、多様なアグリビジネスを発展させてブラジルの成長にも大いに貢献していることも、詳細に記述されており、我が国の長期かつ最大の協力事業であるセラード農業開発の歴史と全貌を理解する上で極めて有用な記録である。  〔桜井 敏浩〕            

〔『ラテンアメリカ時報』 2012年夏号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕
 

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南米日系人と多文化共生 −移民100年・・・その子孫たちと現代社会への提言

福井 千鶴 沖縄観光速報社 2010年5月 266頁  2,000円+税

 

日本人の多くは出稼ぎに来ている南米日系人をみて、現地の日系人やその社会を思い描いていることが多いが、その歴史、生活、生業、そして現地でも日本でも抱える問題点についての知識が欠け、多くのご認識、誤解がまかり通っている。

本書は、ボリビアの移住地を初め南米各地の日本人移住地やその社会をも訪れ、移住の歴史、現代の移住地や日系人社会の様相を紹介するとともに、現地日系移住地・日系社会で生じている若者の都会への移動による空洞化や農業等の後継者不足等から衰退が進む姿を明らかにし、移住地活性化のための方策を提起している。

それとともに、南米から日本への大量の出稼ぎの背景、日本に来ての日本人社会と南米日系人との連携、日本での南米人集住地域で起きている様々な問題を明らかにし、より良い地域社会を築くための具体的な解決策を提言している。

日本国内、現地での実情を取材した上で、南米日系人社会の問題を掘り下げて、それぞれの地での地域社会での共生の推進方策を提言していて、南米日系人社会を知る上できわめて参考になる労作であり、一読を勧めたい。著者は、日本大学国際関係学部准教授。                 〔桜井 敏浩〕

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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次なる経済大国 −世界経済を繁栄させるのは BRICsだけではない
 

ジム・オニール 北川知子訳 ダイヤモンド社 2012年2月 261頁  1,800円+税)


ゴールドマン・サックスのチーフエコノミストとして、2001年に発表したG7諸国と主な新興国との関係を分析したレポートの中で、人口が多く経済的に有望なブラジル、ロシア、インド、中国の4カ国の成長が、今後数十年の世界経済の牽引役になるとして、その頭文字を取って“BRICs”と名付けたのが著者だが、そのレポートを出す前後の経緯や著者の半生を交え、この4カ国とそれに続くインドネシア、韓国、メキシコ、トルコを「成長国市場」とし、さらにエジプト、イラン、ナイジェリア、バングラデシュ、パキスタン、フィリピン、ベトナムを加えた「ネクスト11」の提起を含め、現在から今後の世界経済の展望を解説したのが本書である。

発表当時ブラジルを入れたのは語呂がいいからではといわれ、事実4カ国の中でブラジル経済についてはほとんど展望がないように見えたが、それでも2011年にはGDPがイタリアにほぼ並ぶとの予測は、2010年にイタリアを追い抜いたことで証明された。現在ブラジル通貨レアルは、BRICsの中では最も過大評価されているが、長期的に見ればインフレ抑制策の維持によって成長は持続可能としている。2010年にリオデジャネイロを訪れた際にスラム街にある旅行代理店を見たことも、ブラジル経済のデータの見方に彩りを与えてくれたという挿話を交え、ブラジルは投資という観点からは、BRICsの中で最も欧米に近く、民主的で国内資本市場が確立されていると高く評価しているが、すべてが順調に見えると欧米日の個人投資家の人気があまりに高いことは、リスクや機会、価値は常に比較評価しなければならないと指摘している。

中国の資産バブルやブラジルのレアル高による成長持続の危惧を否定するなど、全般的に楽観的すぎるきらいがあるが、グローバル化された世界経済の新たな潮流を説いていて分かりやすい。
〔桜井 敏浩〕
 

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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ブラジルの民族系民間企業 −経済成長下、力をつける企業アクター』 

堀坂 浩太郎・内多 允(財)国際貿易投資研究所 2011年3月 61頁 頒価2,000円(申し込みは同研究所


国際貿易投資研究所(ITI)では、平成20年度から「ブラジル研究会」(委員長−堀坂上智大学教授)を設け、一連のブラジル分析を行ってきたが、本書は平成22年度の成果を纏めたものである。ちなみに、これまで出された報告書は、『ブラジルにおける成長産業の動向と消費社会の到来』(2008年3月)、『ブラジルの消費市場と新中間層の形成』(09年3月)、『新興国ブラジルの対外関係−世界金融危機を踏まえて』(10年3月)で、本書は4本目に当たる。

国営企業と外資系企業が産業の中で大きな役割を果たしてきたとの印象が強いブラジルだが、近年は民族系民間企業が合併・買収なども活発に行い規模を拡大し、国内市場のみならず国際市場においても日本企業のライバルとなり、あるいはパートナーとなる事例も出てきており、軽視出来ない存在になってきている。

本書は、このブラジル民族系企業の現代の姿を焦点に、第1章でその概要と展開を概説し、ブラジルの産業が政府系企業と外資系企業、民族系企業の「3つの脚」で支えられていたのが、近年の公営企業民営化によって「2つの脚」になったこと、企業ランキング調査結果からの主要企業の交替、さらに世界金融危機以降のM&A件数などに見る変容を示し、最後にBNDES(国立経済社会開発銀行)の主要部門投資予測とPDP(生産性開発計画)における強化分野を例に将来の姿を示している。第2章ではブラジル企業の海外戦略を取り上げ、ブラジル企業の急速な国際化、海外事業戦略を紹介し、いまやラテンアメリカ最大の石油メジャーとなったPetrobras、M&Aを繰り返して今や食肉メジャーに躍進したJBS、世界第3位の旅客機メーカーに成長したエンブラエール、これもラテンアメリカ最大のバス車体メーカーのマルコポーロ、南米のみならずアフリカへも進出している建設大手のオデブレヒトを事例として紹介している。参考資料として32社からなる「企業ファイル」をつけているが、多国籍企業化しつつある民族系企業を中心に主要政府系3社を加え、企業規模、沿革、国内内事業活動、経営の特色、主な子会社群を同じ様式で列記していて、極めて有用なデータである。〔桜井 敏浩〕

   
〔『ラテンアメリカ時報』 2012年春号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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ブラジル経済の基礎知識 第2版
 

二宮 康史 ジェトロ(日本貿易振興機構) 2011年7月 208頁 1,600円+税

日本貿易振興機構(JETRO)サンパウロ事務所勤務の後、本部中南米課でブラジルを担当するブラジル専門家による総合的なブラジルのマクロ経済、主要産業の成長の可能性と企業の動向、外交・通商政策の概要と、ビジネスアプローチに必要な税務・会計、労務、会社設立、ビザ取得、資金調達と送金、貿易システム、知的財産問題についての総合的な解説書。

2007年に発行された初版の後、ルーラ政権第2期の米国発金融危機を乗り越え、IMFへの資金拠出による「債権国」化し、世界的な資源価格上昇によって経済発展を順調なものとして、同じ与党のルセフ大統領に引き継ぐまでの経済の概況を前半で判りやすく解説しており、後半ではこの成長がまだ続くブラジル市場への参入に必要な実務知識を概説していて、この1冊でブラジル経済の基礎と実務に必要な知識が得られるよう、よく工夫された構成になっている。〔桜井 敏浩〕

   
〔『ラテンアメリカ時報』 2012年春号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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グローバル化の中で生きるとは 日系ブラジル人のトランスナショナルな暮らし
 

三田 千代子編著 上智大学出版(発行)、ぎょうせい(発売) 2011年10月 332頁 1,905円+税


2009年に立ち上げた、大学の歴史学、経済学、教育学、社会学、宗教学、人類学の研究者と地方自治体や公益法人で対応している10人の専門家がアンケート調査も含め行った調査研究の結果を取り纏めたもの。

日系ブラジル人の就労に関わる日本企業の雇用政策、特に集住地での地方自治体の多文化共生に向けての対応、在日ブラジル人子弟教育とブラジル人学校、移動にともなうアイデンティティ形成、宗教生活とともに、送り出し国であるブラジルとの関係、在日ブラジル人と在日ペルー人との生活戦略の違い、在日第二世代のホームランド選択と受け入れるホスト社会の問題点の研究に加えてアンケート調査結果による解説も付して総合的に考察している。 〔桜井 敏浩〕

  
〔『ラテンアメリカ時報』 2012年春号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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バイオエネルギー大国ブラジルの挑戦
 

小泉 達治 日本経済新聞出版社 2012年1月 253頁 1,800円+税


著者は、農水省農林水産政策研究所で早くからブラジルのバイオマスエネルギー源と食料生産に着目してきた研究官。ブラジルは、1970年代から自動車燃料としてアルコール(エタノール)の大規模生産と使用に邁進してきた実績があり、現在国家戦略としてバイオエタノール、バイオディーゼル、バイオ電力を3本柱とし、再生可能燃料で世界をリードしている。

これまでブラジルといえばとかくバイオエタノールが注目されてきたが、本書はバイオ電力産業の育成、バイオ燃料の普及、ならびにバイオエネルギーの将来と食料需給に与える影響に至るまでを解説し、電力供給に不安を抱える日本が学ぶべき政策を示唆している。〔桜井 敏浩〕

     
〔『ラテンアメリカ時報』 2012年春号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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パンタナール −南米大湿原の豊穣と脆弱
 

丸山 浩明編著 海青社 2011年9月 295頁 3,800円+税


ブラジル、パラグアイ、ボリビアにまたがる世界最大級の熱帯低層湿原パンタナールの多用な生態系の包括的な保全と、地域社会の持続可能な発展について、人文地理、自然地理、農・獣医学の5人の専門家が地元の研究者と協力して10年間にわたって行った実証研究の成果。

ブラジル領南パンタナールを中心に調査を行い、第T部自然環境ではパンタナールの形成史、地形・気候と水文環境、自然環境条件の違いにともなう生物多様性分布、それらを支える生息環境、地表水と地下水の複雑な交流環境を論証している。第U部では、先住民と17〜18世紀前半に侵入した欧州人の植民による開発の歴史、導入された牧畜の盛衰と文化、エコツーリズムの発展とそれによるスポーツフィッシングにより翻弄される漁民、第V部では伝統的ファゼンダ(農牧場)経営や粗放的牧畜経営を事例により解明し、人間による自然堤防の破壊などによる水の流れの変化の伝統的な生態学的知識と科学的知識の相克を分析し、この調査結果のまとめとして生態系破壊の諸相、環境保全への取り組みと課題、持続可能な発展への取り組みを提言している。 〔桜井 敏浩〕


〔『ラテンアメリカ時報』 2012年春号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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写真は語る 南アメリカ・ブラジル・アマゾンの魅力
 

 松本 栄次 二宮書店 2012年4月 190頁 3,800円+税


ラテンアメリカ、特にブラジルを中心に地理学、地域論を研究してきた著者が、現地調査の際に撮りためた沢山のカラー写真を駆使し、第T部「南アメリカの自然と産業」、第U部「ブラジル 動き出した南米の大国」、第V部「アマゾン 開発と保全の焦点」を判りやすく解説している。

各地の自然の成り立ち、地下資源や農牧業等の産業や開発の歴史、都市の姿、人々の多様な生活の背景などがよく理解出来る構成になっていて、あたかも著者の案内でエクスカーション(巡検旅行)に加わり周遊しているようであり、これまでの地理概説書にはない、視覚でも現地の状況が把握出来るように工夫されていて、手元に置けば南米・ブラジルの各地の姿を知るのに極めて有用なデータベースとなろう。なお、それぞれの写真には撮影位置についてのGPS情報が付記されていて、Google Earthで検索すると撮影場所と方向を確かめることが出来る。 〔桜井 敏浩〕

   
〔『ラテンアメリカ時報』 2012年春号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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ラテンアメリカにおける従属と発展 −グローバライゼーションの歴史社会学
 

フェルナンド・エンリケ・カルドーゾ、エンソ・ファレット、鈴木 茂、受田宏之、宮地隆廣訳 
東京外国語大学出版会 2012年4月 348頁 2,800円+税

   
ブラジルの財務相としてレアル・プランを主導してパイパーインフレを終息し、1995年から2002年年に大統領を務めたカルドーゾは、本来社会学者であり、軍部クーデタの翌年1964年にチリに亡命しチリ大学で教鞭をとっていた際に、チリの歴史学者ファレットとともに纏めた「従属論」の古典書である。欧米中心国の搾取が周辺国を低開発に留めているとする従属論者も多いが、それでは将来も悲観的にならざるを得ない。しかしカルドーゾの従属論は途上国内部構造に着目し、中心・周辺関係だけに運命づけられない、社会集団の構造のもたらす制約と機会により構造は維持・変化するのであるから、個々の国・地域ごとに歴史的・具体的に分析しなければならないと説き、ブラジルを含む途上国が近年の成長路線に乗ることを予見していた。

本書の初版は1969年、その後出た英語版等の加筆修正も適宜取り込み、著者自身の日本語版序、恒川惠市政策研究大学院大学副学長による解説により、40年後にあらためて本書を訳出したことの今日的意味を明らかにしている。〔桜井 敏浩〕

  
〔『ラテンアメリカ時報』 2012年春号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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ブラジル文学序説 −文学を通して見えてくる この国のかたちと国民心理
 

田所 清克・伊藤 奈希砂 国際語学社 2011年6月 320頁 2,500円+税

   
日本でラテンアメリカ文学の訳書はかなり多く刊行されているが、そのほとんどはスペイン語圏のものであり、ブラジル文学の翻訳出版はかなり少ない。しかもブラジル文学全般について概観した解説書となるとほとんど見かける機会はなかった。本書は二人のブラジル国立フスミネンセ大学留学経験をもち、精力的にブラジル文学を紹介してきた研究者と翻訳者が、ブラジルの文学を、ブラジルの歴史からその起源、欧州の模倣であるバロック主義、ロマン主義との過渡期であるアルカディズム主義、奴隷解放と帝政崩壊の兆しを背景にした自然主義・写実主義、19世紀末の共和制樹立を背景に優れた詩人を出した高踏・象徴主義、カヌードス戦争勃発を背景に20世紀の幕開けとなる前近代主義、二度の世界大戦の合間に各地で多くの小説家、戯曲作家を生んだ近代主義、第二次大戦後から現在に至る新近代主義・ポストモダン以後の現代ブラジル文学の特色から文学と映画・テレビに至るまで、ブラジル史の展開に対応した文学の変容を詳細に解説したブラジル文学小史と、アレンカール、マシャード・デ・アシス、ジョルジェ・アマード、グラシリアーノ・ラーモスという4人の作家を選んで考察している。

 巻末に文学史年表、日本での主要翻訳作品案内とポルトガル語・日本語索引を付けてあり、ブラジル文学の概観を歴史的に知りたい読者には便利な解説書である。〔桜井 敏浩〕
 

〔『ラテンアメリカ時報』 2012年春号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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アマゾン、シングーへ続く森の道』  
 

白石 絢子 ほんの木 2012年3月 227頁 1,500円+税


ブラジル・アマゾンのシングー川流域の熱帯林保全と先住民の生活存続支援を主目的に1989年に創られた特定非営利活動法人「熱帯林保護団体」(RFJ)スタッフによる現地往訪記と活動の紹介。同団体の南 研子代表による『アマゾン、インディオからの伝言』『アマゾン、森の精霊からの声』がすでに同じ出版社から出ているが、著者は大学院生時代の2004年からRFJに参画し、現在も専従スタッフとして活動を続けていて、すでに7回現地へ南代表とともに赴いている。

 熱帯雨林の残る保護区の境界線にまで牧場や農場開発が迫っていて、森とともに生きる先住民の生活を脅かしている。先住民の抗議運動への関わり、インディオ長老の日本招待、開発とともに頻発するようになった山火事の実態、電力不足への対策としてブラジル政府が計画しているベロ・モンチ水力発電計画への反対署名活動、経済自立のためFUNAIが始めた養蜂への支援などの現地活動の様子を紹介し、活動を通じての問題点などを明らかにしている。〔桜井 敏浩〕
                              

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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開高健とオーパ!を歩く』 

菊池 治男 河出書房新社 2012年2月 222頁 1,800  円+税

 

1977年から78年にかけて集英社から出ている『月刊プレイボーイ』に連載された小説家開高 健のアマゾン、パンタナール釣りルポルタージュに、入社3年目の著者は開高健担当の編集者として65日間同行した。気鋭の若手写真家も同行して、当時としては空前のスケールの旅のノンフィクションは評判となり、多くの写真とともに綴られた大判単行本はかなり売れ、その後開高健による釣魚旅行はアマゾンの再訪やアラスカ、カナダからコスタリカ、スリランカ、モンゴルへとシリーズ化された。

この1977年の旅を、編集者が同行して見た小説家開高健との旅の記憶、その後十数年にわたった日本や海外への旅などを通じての開高健の言動や姿の記憶、33年後に著者があらためてブラジルを訪れている記憶を綴ったのが本書である。羽田空港からニューヨークで乗り換えリオデジャネイロ経由サンパウロに着き、一行はブラジル在住の作家醍醐麻沙夫氏の出迎えを受け、東京とシンガポールとほぼ同じ距離があるベレンへ飛び、マラジョ島を訪れ、アマゾン河を遡航してサンタレンで約3週間のアマゾンでの釣りに耽った後、陸路クイヤバへの街道を南下してパンタナールに入り、ドラド釣りに挑戦する。

2週間の滞在後ブラジリアへ寄ってサンパウロから帰国した。この間の様々なエピソード、鋭い観察眼と特異な表現力で不思議な魅力をもつ小説家の言動などが盛り込まれており、釣りを中心にした海外紀行文学を創りだし、多くの読者を魅了した開高健という作家の魅力をあらためて知らしめてくれる。〔桜井 敏浩〕 

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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ブラジルに流れる「日本人の心の大河」
 

丸山 康則 モラロジー研究所発行、廣池学園事業部発売 2011年12月 303 頁 
1,700円+税


前著『ジャポネーズ・ガランチード −希望のブラジル、日本の未来』(2010年同所発行) 等に続く、ブラジル日系人、日本のブラジルとつなぐ施設・組織の訪問記。

著者は国鉄勤務を経て横浜国立大学、麗澤大学で交通心理学などを講じた後、2005年以来ブラジルを訪れて、各地で日系人を訪ねてその感銘を著している。

今回は、パラ州のベレン、トメアスなどのアマゾンに入植した移民の奮闘の記録、胡椒栽培の挫折からアグロフォレストリーに活路を見出した篤農家などを、南部のサンタカタリーナ州で林檎栽培を劇的に改良した日系農家、リオグランデドスル州ポルトアレグレの老年医学研究所で多くの人材を育てた医師、サンパウロでの様々な分野で活躍した人達や、稲森盛和塾長(京セラ創業者)に師事するブラジル盛和会の活動、首都ブラジリアでセラード農業開発に挑戦する日系人などを訪ねる。 そして日本では、鐘紡創業者で私財を投じて大阪に國民會館建て、南米拓殖会社の設立にも携わった武藤山治氏の業績に触れ、多くの南米移民を送り出した神戸の旧国立移民収容所を、山形県鶴岡市で世界でも有数のアマゾンの民俗資料コレクションを持つアマゾン民族資料館を立ち上げた山口吉彦氏を、最後に日系ブラジル人等外国人子弟において、「鈴鹿モデル」といわれるほどになった鈴鹿市の元教育長を訪ねている。

開拓、連帯、創造、忍耐、人を育てる力を発揮し、名もなき人々による「常民文化の日本」の姿を、ブラジルの日系人との出会いの中で見つけようとする著者の熱意が感じられる記録。 〔桜井 敏浩〕              

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕
 

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ブラジルを識る100キーワード  “100 palavras para conhecer melhor o Brasil

ブラジル連邦共和国政府 文化省 編集主幹:アルナウド・ニスキエ 2011年318頁 非売品

2008年の日本人ブラジル移住100周年を記念して、アンドレ・アマド駐日大使(当時)の発案で、日本人のブラジルの理解を深めるための基本的な事項解説書を日本語・ポルトガル語対訳で刊行することになり、BNDES(国立経済社会開発銀行)やブラジル銀行の後援を受けて実現にこぎ着けたのが本書である。

ブラジルの多様性と風俗、習慣、文化の潤沢さで示す100のキーワードを、シセロ・サンドロニ ブラジル文学アカデミー会長はじめ各界の著名な識者が執筆している。内容としては、歴史、自然環境・開発、文学・芸術、民俗・文化、現代社会とブラジル人とは?などに大別されるが、まさしくブラジルの多様性と統一性を同時に達成し、人種・文化の混淆性、多彩な地域主義を網羅している(三田千代子 上智大学教授の出版記念会での解説)。

ブラジルの奥深さを、贅沢な執筆陣がそれぞれの蘊蓄で記述していて、各項毎の扉写真も装丁も素晴らしいが、ブラジルの文化、社会にある程度通じた者でないと理解が難しいかもしれない。〔桜井 敏浩〕

                       


駐日ブラジル大使館では、余部がある限  り 配布可能としているので、入手希望は大使館文化広報部 brasemb@brasemb.or.jp へ照会を

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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日本小百科 ブラジル語版 “JAPAO MINI ENCICLOPEDIA DO JAPAO
 

日本・ブラジル文化交流実行委員会編・刊 2011年3月 264頁 非売品

 

日本人ブラジル移民100周年を機に、これからの日本・ブラジル関係を担う日系を含むブラジル人子弟に、日本についての正しい理解を深めてもらうために作られたブラジル語版「子どものための日本小百科」。

日本について、概説、地理、歴史、文化、産業、暮らし、歳事から遊び、食べ物、地方毎の様子や特色などに至る項目を、簡単な説明と多くのカラー写真で、分かりやすいように編まれている。

実行委員会有志の尽力で企業等からの協賛と、国際交流基金の一部助成などを受けて1万部刷り、9千部がブラジルに送られて在ブラジル日本大使館・総領事館などから学校や公的機関に配布されたという。

日本においても、特にブラジル人集住地域の学校や図書館、地方自治体などに置けば、大いに有用な図書であるが、日頃ブラジル人と接する機会がある内外在住の日本人にとっても、日本のことを説明する上で大いに役立つだろう。

入手は、(社)日本ブラジル中央協会が実行委員会に協力して頒布しているので、協会事務局へメール、Faxで。頒布価4,000円(実行委員会・協会への寄付、協会事務手数料および日本の国内送料込み http://nipo-brasil.org/siryou.htm 〔桜井 敏浩〕
    

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

 

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大アマゾンを翔る』   

大野 義明 栄光出版社 2011年6月 279頁 1,500円+税

1961年に23歳で技術者としてブラジルに移住、5年間滞在し、その後一旦帰国したが1967年に再度ブラジルに渡って、以後約20年余のブラジル・フォルクスワーゲン(VWB)勤務をはじめ、GM、フォード、クライスラーと自動車産業で働いてきた著者によるブラジル渡航と仕事や生活の記憶。

「長く現地で暮らした著者が綴った日本人の知らないブラジル」と表紙に副題があるが、アマゾンについての記述は旅行やVWBが経営した大牧場訪問、金採掘ラッシュなどごく一部で、最初の渡航と帰国、二度目の船旅の詳細な記録が半分近くを占める。その他、ブラジルでの仕事とVWBでのQC運動担当時のアルゼンチン、チリ出張の思い出、ブラジル人の生活ぶり、日本人と大きく異なるブラジル人気質と比べた最近の日本人の意識・発想に対する私感なども交えた雑感記。 〔桜井 敏浩〕
   

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→ 「図書案内」に収録〕

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現代ラテンアメリカ経済論

西島 章次・小池 洋一編著 ミネルヴァ書房 20011年4月  279頁 3,500円+税

  
開発途上国の中でも最も早く、最も徹底して市場経済化とグローバル化、経済の新自由主義改革を試みたラテンアメリカの多用な問題と政策を、12人のラテンアメリカ研究者が総合的に解説している。変貌する経済の発展過程と今日的課題の導入部から、グローバリゼーションを市場自由化、マクロ経済問題、金融、地域統合やFTA戦略から考察し、産業と企業の発展、資源輸出の増大、農業産品輸出、開発にともなう環境保全の問題、貧困と所得分配の不平等、社会保障・扶助政策への取り組み、地方分権化の進展と課題、経済自由化政策が多くの左派政権を誕生させた政治変化を論じ、最後にラテンアメリカのポストネオリベラリズムの課題を提起している。

各章の冒頭に要旨を整理して掲げ、多くの図表やコラムによる事例や事項解説、巻末の基礎統計、年表なども理解を助ける構成になっており、この1冊を通読すれば、現代ラテンアメリカ経済開発の構造と問題、課題とそれを克服しようとする政策が概観出来る。  〔桜井 敏浩〕
  

〔『ラテンアメリカ時報』 2011年夏号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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ブラジル日本人移民百年史 第三巻 生活と文化編(1)

ブラジル日本移民百周年記念協会・ブラジル日本移民百年史  編纂委員会編 風響社 2010年12月 638頁 8,000円+税

   

2008年の日本人ブラジル移住100周年を記念して、1世紀にわたる日本移民の体験・経験を後世に残す全5巻と別巻1の『ブラジル日本移民百年史』が編まれている。本書は、その第3冊目として、これまでの移民史では周辺的な位置づけであった生活の営みと文化を取り上げている。

日系ブラジル文学史(細川周平)、日系メディア史(深沢正雪)、ブラジルにおける子弟教育(日本語教育)の歴史(森脇礼之・古杉征己・森幸一)、ブラジル日本移民の女性史(中田みちよ・高山儀子)、ブラジル日本移民・日系人の食生活と日系食文化の歴史(森幸一)の5章と地図・年表、索引、写真・図表一覧から構成されている。記述はサンパウロ州・市が中心になっているが、可能な限り各地の事情も言及しており、それぞれの章の内容、質、量とも極めて充実した労作揃いであり、画期的な歴史文献と評価されるべき移民史料である。 〔桜井 敏浩〕

    
〔『ラテンアメリカ時報』 2011年夏号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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ブラジルにおける経済自由化の実証研究』 

西島 章次・浜口 伸明   神戸大学経済経営研究所 2011年3月 159頁 非売品

 

1980年代のブラジルといえばハイパーインフレーションと対外債務累積問題をかかえる国、政府が経済や産業に介入し、自国産業の保護を行っている国という記憶が強いが、1990年代の経済改革によって、市場メカニズム重視の経済政策に劇的に転換し、貿易、資本の自由化を行い、公営企業の民営化、規制緩和、金融改革を実行し、為替の変動相場制に移行したことが、資源輸出の拡大と相俟って近年の好調な経済を実現したことの基盤になっている。

本書はブラジルの経済改革と貿易自由化の効果を経済成長との関係、生産性と産業賃金への影響、国内人口移動と成長地域、事例としての砂糖黍産業における機械化と雇用、そしてインフレ収束にともない爆発的に拡大した国内市場の姿を自動車需要から消費者金融の役割を分析した、計7本の研究論文から構成されている。

資源輸出の拡大と旺盛な国内市場の拡大を背景に、世界的に注目を浴びているブラジル経済のパフォーマンスが、今後も継続出来るのか? 社会的公正を担保した経済成長を実現出来るのか? その制約はどこにあるのか? という問題意識の基としての優れた実証研究の試みであるが、非売品であり大学等の図書館でしか見られないのは残念であるが、幸い神戸大学経済経営研究所のサイトから、全編のpdfファイルが閲覧出来るようになった。 〔桜井 敏浩〕

   
〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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ブラジル人生徒と日本人教員の異文化コミュニケーション

西田 ひろ子編著 風間書房 2011年2月 245頁 2,800円+税

 

日本有数のブラジル人集住地域の一つである静岡県西部で暮らし、日本の公立学校やブラジル政府認可・非認可のブラジル人学校に通っている児童生徒を対象に調査データを収集し、児童や教員、保護者や、周囲の養護教諭、日本人ボランティア、日系ブラジル人通訳たちがどのような問題を抱えているかを整理し、異文化間コミュニケーション問題解消のためのトレーニング・プログラムを提示している。

児童たちの日本語習得の難しさ、学科や生活面での悩み、教える教員の児童や保護者と接する中での問題、ブラジル人保護者の学校への要望など、様々な面からの調査を整理した結果を示しており、問題の所在を詳細に明らかにしている。最後にそれら質問票・インタビュー調査結果を踏まえて、ブラジル人と日本人が互いに理解を深めるためのトレーニング・プログラムの具体例を示して提案している。

まだまだ身近にある異文化への想像力と包容力が乏しい日本社会と、そこで生活し教育を受けるブラジル人たちが日本のルールを知らないことで起きている、教育現場での行き違いの実情を理解する上でも有用な調査報告である。 〔桜井 敏浩〕
                   

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

 

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南アメリカの街角にて −青春随想録』 
 

和田 進 東洋出版 2010年10月 290頁 1,600円+税

 

著者は石川島播磨重工業(現IHI)で32年間海外業務に就いたが、うち2年間をレシーフェでのポルトガル語研修とリオデジャネイロでの同社の合弁事業ISHIBRAS造船所での研修を体験した。2005年に退職後、港湾設備関連会社を立ち上げるとともに、自分史の一部としてかつて滞在したブラジルの実情と南米の素描をあらためて多くの文献を読み解き纏めたものである。

冒頭の「南アメリカなるもの」では、多様な自然環境によりいくつもの顔をもつ大陸として、長い植民地時代を経て独立し、ラテンの血を主に多くの人種と言語、文化と社会の多様性をもっていることを概説している。次いで「ブラジル、その日々」でポルトガル語勉強の体験、住んでみて見えてくるブラジル人の気質、人々の人生の一部になっているサッカーへの情熱、日系社会の状況と、レシーフェ、リオ、サンパウロ、サルバドール、ポルトアレグレ、ベロオリゾンテ、ブラジリア、マナウスの主要都市を紹介し、著者なりに秩序ある混乱の国ブラジルを素描している。後半の「南アメリカ諸国紀行」は、ベネズエラ、コロンビア、エクアドル、ペルー、ボリビア、パラグアイ、チリ、アルゼンチン、ウルグアイ各国の歴史、文化、現状とそれぞれの問題などを詳しく解説している。

南アメリカの知られざる側面を日本で紹介したいと、丹念にラテンアメリカ関係図書(2005年までに発行されたもの)を読破し、整理したもので、南米の概要を知るための入門書としては分かりやすくよく網羅している。〔桜井 敏浩〕

                      

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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ポ日英医学用語辞典
 

セルジオ・隆三・土肥編著 二宮正人編訳 2010年1月 サンパウロ 861頁


医学術語を3カ国語で引ける用語辞典。収録総語数約2万語で、ポルトガル語から日本語・英語が出る第1部“Vocabulários de A a Z”(627頁)と日本語からポルトガル語を引く第2部“Glossário” (230頁)から成る。日本語にはすべて漢字とローマ字を並記し、難しい術語も読めるのは便利である。

ブラジル在住で40年前に肝臓移植をやり遂げた土肥医学博士が、10数年間にわたってにこつこつと編んだ3カ国語辞典を、博士の急死後に遺族の懇請で弁護士である訳者が止むにやまれず後を引き受け、全面的に見直して新用語を取り込み、編纂、監修を行ったもので、「編者はしがき」に述べられているように、出版に至るまでは大変な困難がともなった労作である。編訳者は、CIATE(国外就労者情報援護センター)理事長をはじめとして、在日ブラジル人就労者に対する支援活動を長く行っているだけに、それら日本語が十分出来ない人たちにも使いやすい工夫がなされており、日本あるいはブラジルで医療・保健や介護等の分野で仕事をする人たちにとって大いに有用な辞典といえる。〔桜井 敏浩〕
 

(社)日本ブラジル中央協会で受託販売中  9,000円(税込)+送料。 
申し込みは同協会事務局
 

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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ブラジルの人種的不平等 −多人種国家における偏見と差別の構造

 

エドワード・E・テルズ 伊藤明仁・富野幹雄訳 明石書店 2011年1月 452頁 5,200円+税

  

近年の研究で米国等の同じ移民国家と比較して、人種差別はないといわれてきたブラジルでも、いろいろな形で人種問題を抱えていることが明らかになってきた。

米国プリンストン大学教授で、サンパウロ州立カンピーナス大学、バイア連邦大学で研究したこともある社会学者が、米国の人種問題の構造と比較しながらブラジルの人種問題の特質を分析している。白人至上主義から人種民主主義、人種民主主義からアファーマティヴ・アクション(積極的差別是正措)の構築への推移、人種の分類、人種的不平等と発展、人種差別について論じ、異人種間の婚姻、

居住地の分離という現代社会が抱える問題を指摘して、ブラジルの人種関係の再検討を行った後に、差別問題解決のために適切な政策立案を提言している。 〔桜井 敏浩〕


〔『ラテンアメリカ時報』 2011年春号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕
 

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ブラジルの流儀 −なぜ「21世紀の主役」なのか

 

和田 昌親編著 中央公論新社(中公新書) 2011年2月 252頁 820円+税


ブラジルがハイパーインフレ、対外債務問題などを抱える"経済破綻の国"であったのは、つい10余年前までであった。それが今や21世紀の勝ち組といわれるまでに成長し、風格ある大国に生まれ変わろうとしている。では「ブラジルはどういう国なのか?」 人によって様々な「なぜ?」が知りたいが、本書は国民性を知るうえでの社会・生活から始まり、日本とは異なるビジネス常識を知るための経済・産業、ブラジル流とは?を知るための文化・歴史的背景、ブラジルといえばサッカー、その強さの秘密、そして途上国と先進国の両方の顔をもつ独特の政治・外交に至るまで、67の「なぜ〜なのか?」という設問に対して筆者(元日本経済新聞サンパウロ特派員、国際担当常務等歴任)なりの答えを挙げている。

ブラジルにある程度通じた者でも専門家でもすぐには答えられないテーマ −それには堅いものだけではなく、ブラジルへ行き、生活すれば身近に転がっているような疑問も多く含まれているが、それらを解いていくことによって「ブラジルの流儀」をあぶり出すことを意図している。それぞれのQ&Aと4つのコラムを面白がって読んでいくうちに、知らず知らずにブラジルの実態への理解が進む好読本である。
〔桜井 敏浩〕
 

〔『ラテンアメリカ時報』 2011年春号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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文学の心で人類学を生きる −南北アメリカ生活から帰国まで十六年 
 

前山 隆  御茶の水書房 2010年11月 313頁 2,800円+税

ブラジル日系人のエスニシティ、異文化接触について多くの著作がある著者の、研究者としての人生を綴った自伝。それぞれ異質な文化と歴史的背景をもつ3カ国、静岡大学で哲学を学んでいるうちにレヴィ=ストロースの『悲しき熱帯』に触発されて独学でポルトガル語を学び、ブラジルへ渡航して社会学を学ぶ。テキサス大学、コーネル大学、サンパウロ大学の共同研究プロジェクト「現代複合社会における文化変容」の調査員として参加し、その経験と人脈から米国へ留学し、テキサス、コーネル大学では文化人類学を学び、学位論文執筆のためにブラジルに調査のため戻り、以後ブラジル、日本、米国での教職と研究に専念した16年半の記録である。特にブラジルでの活動については、1961〜67年のサンパウロ大学での給費留学生活、フィールドに出てのブラジル各地の調査旅行、71〜73年の地方中都市調査、そして74〜77年の軍政下サンパウロ州立大学での教師生活、人文科学研究所(人文研)での活動を経て帰国するまでが詳述されている。

この間、ブラジルの日系コロニアの文学運動に積極参加し、同人誌『コロニア文学』の創刊から関わり、ブラジルの日系エスニック集団が育成した在野の研究施設であるサンパウロ人文研では、『コロニア小説選集』の編纂、第一回移民で戦前邦字紙を発行していた香山六郎の自伝の編纂なども中心になって行い、帰国後はブラジル日系人のエスニシティ、アイデンティティなどを論じた研究を著すなど、日系社会研究者としての業績は大きい。向学心、研究への熱情、そのための行動力、さまざまな社会現象への旺盛な知的好奇心が、読む者にもひしひしと感じさせ研究人生の集大成である。
〔桜井 敏浩〕    
             

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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 『2020年のブラジル 経済
   

鈴木 孝憲 日本経済新聞出版社 2010年11月 236頁 2,100円+税

    
40年余の間ブラジルとの金融ビジネスに関わり、現在もサンパウロに在住してビジネス・コンサルタントとして日本企業の進出に助言を行っている著者が、1994年のレアル・プラン以来長年続いてきたインフレを克服し、その経済政策を継承して2期8年の在職期間中高支持率を維持したルーラ政権が実施した所得格差是正策によって貧困層が消費市場に参入してきたこともあって立ち上がってきた大きな国内市場、広大な大地での近代農業と畜産の拡大によって大きな輸出余力をもつ食料やエタノール等のアグロビジネス、深海油田の開発で自給を達成し輸出国に転換しようとしている石油、鉄鉱石からウランにいたる豊富な鉱物資源、ガソリンとエタノールを自在に使えるフレックス車をはじめ工業力をも持つ巨大なポテンシャリティ、それらに着目してブラジルに重点シフトする欧米中韓企業などを生き生きと紹介する。

経済も社会も安定し、成長軌道に乗ったブラジルだが、財政や税負担、まだまだ不足しているインフラやレアル高、労働法制や治安などの課題も指摘し、ルーラの後継者であるジルマ・ロウセフ女性大統領の登場に至る経緯とポスト・ルーラの政治情勢、そして2014年のサッカー・ワールドカップ、2016年のリオデジャネイロ・オリンピックを経ての2020年のブラジル経済の予測と課題にも言及し、欧米等に比べて立ち後れた日本とブラジルとの関係についての提案を述べている。現代ブラジル経済の実情と展望を知る上できわめて有用な解説書となっている。〔桜井 敏浩〕


〔『ラテンアメリカ時報』 2010/11年冬号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕
 

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地域経済はよみがえるか ラテン・アメリカの産業クラスターに学ぶ−シリーズ「失われた10年」を超えて−ラテン・アメリカの教訓 第2巻』
 

田中 祐二・小池洋一編 新評論 2010年12月 430頁 3,300円+税

   
日本で今に至る長期の経済低迷、多くの社会経済的困難とその喪失感を、新自由主義経済の負の連鎖を先に経験したラテンアメリカから教訓を得ようとするこのシリーズは、既に『ラテン・アメリカは警告する』と『安心社会を創る』が出ており、本書が三部作の最後になる。

地域資源を活かした経済の再生とそれに大きな役割をもつ産業クラスター(集積地)の理論、グローバル化を地域開発にどう生かすかを概説し、各地での地域産業クラスターの果敢な取り組みを、メキシコのグアダラハラで「南のシリコンバレー」を創る試み、輸出指向する自動車産業、高付加価値農産物輸出を目指す温室トマト栽培、ブラジルでのバイオ産業、エンブラエル社の発展にともなう航空機製造産業、飼料から畜産加工品の製造、流通、輸出を網羅したアグリクラスター、米国の特恵輸入制度利用から世界のファッションを支える中米・カリブのアパレル、比較優位の活用から競争優位を創出したチリのワイン、協働により急速に発展した鮭養殖、環境や雇用、所得分配などの社会問題への対応を模索しているコロンビアの切り花、農村開発の代替案として取り組みが始まったペルーのアグロツーリズムといった事例で紹介している。最後にこれらラテンアメリカでの産業クラスターによる地域経済の再生に、日本経済の産業空洞化、失業と雇用の非正規化、所得格差の問題解決に学ぶべき点があるのではないかとの示唆をまとめている。〔桜井 敏浩〕  

   
〔『ラテンアメリカ時報』 2010/11年冬号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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ロスト・シティ Z −探検史上、最大の謎を追え
 

ディビット・グラン 近藤隆文訳 日本放送出版協会 2010年6月 338頁 2,200円+税

 

英国の軍人で王立地理学協会の支援を受けて1906年から14年にかけてボリビア東部とブラジル国境のアマゾン河源流地帯を探検し、第一次世界大戦で欧州最前線に従軍後、1925年にブラジルのマットグロッソ州でのアマゾン河支流上流地帯の調査に息子とともに赴いたまま行方不明になった、20世紀前半で最も名声を博した探検家のひとり、パーシー・ハリス・フォーセット大佐((自称であって実際は砲兵中佐)の活動とその人となり、そしてついに最も得意とした熱帯雨林の歩行調査の果てに姿を消した生涯を描いている。

フォーセットの生い立ち、軍人として、家庭人としての生活、アマゾン探検に対する並はずれたの行動力とその成果を軸に、同じ時期に行われた幾多のアマゾン、アンデス探検の辛苦と犠牲者輩出の軌跡とそれらとの競争を詳述しつつ、行方不明後にこれまた数多く赴いたフォーセット捜索隊の失敗や残された消息に関する情報を生涯追い求めた夫人や家族の尽力、虚偽の遺品・遺骨などの証拠発見例、そして著者自身も試みた地理学協会などの記録文書からのフォーセット隊の軌跡(他のライバルに先行されることを恐れ、ルートは隠され、親族等との手紙でも秘された)の推測と現地調査を交錯させている。「ロスト・シティZ」とは、フォーセットが堅く信じ、探検での発見の目的としたアマゾン上流にあったとされる高度な文明をもった古代集落を意味する。〔桜井 敏浩〕


〔『ラテンアメリカ時報』 2010/11年冬号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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アマゾンからの贈り物 −矢毒クラーレの旅
 

天木 嘉清 真興交易医書出版部 2010年4月 207頁 2,000円+税

 

アマゾン河流域に踏み込んだ西欧人が先住民の使っている矢毒に異常な興味を持った。狙った小動物を瞬時に動けなくする猛毒であるが、その肉を食べるに問題なく、しかも獲物の心臓は暫く活動しているので腐敗を遅らせる効果まであるその毒の原料は何か、どうやって作るのか、体内でどのように効き目が生じるのかなどについては、多くの探険家や科学者が解明を競った。これがやがて筋肉弛緩と神経の関係を解き明かすことにつながり、手術の際の麻酔に利用出来ることになって、近代医学の発展に大きな役割を果たすまでに至ったのである。

本書は麻酔の専門医が、一般読者に分かりやすく解説したもので、南米熱帯雨林の先住民が作り出し矢毒として使ってきたクラーレの使われ方、作り方、欧米で生理学者がその毒の効能の仕組みについて探求し、筋肉と神経との関係が解明される過程を描き、これが外科手術の麻酔として用いることが出来るようになった医師と患者の挑戦と、その後のクラーレに代わる新薬や筋弛緩拮抗薬の発見に努める研究者の姿を紹介している。

2010年10月には名古屋で第10回生物多様性条約締結国会議(COP10)が開催されたが、このクラーレこそ、世界的に利用されるまで発展したマラリアの特効薬キニーネと同様に、先住民の自然利用の知恵の中からもたらされた恵みの好例であり、同時に多くの未知なるものへの好奇心とその解明に努める人々の飽くなき挑戦のドラマとしても一読に値する。〔桜井 敏浩〕

   
〔『ラテンアメリカ時報』 2010/11年冬号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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ブラジル ナショナルジオグラフィック世界の国』 
 

ザイラー・デッカー著 ディビット・J・ロビンソン、ジョアン・セザール・デ・カストロ・ロチャ監修 ほるぷ出版 2010年12月 64頁 2,000円+税

   
小学生高学年から中学生くらいを対象とした紹介書だが、ブラジルの建築史専攻の学者が執筆し英米の地理学者、比較研究専門家が監修し、ナショナルジオグラフィック誌ならではの素晴らしい写真で構成していて、ブラジルについて最小限知る上では適当な読みやすい参考書になっている。

地理、自然、歴史、人と文化から現在の政治と経済に至るまで簡潔に解説が施され、それぞれにより理解を助ける重要情報を整理した2頁見開きの「見てみよう」やコラムがあり、巻末には基礎情報、歴史年表、用語解説が付されている。地形、生態系、歴史、人口、行政の1頁大のテーマ別地図や小地図、きれいなカラー写真はすべて良質で、単に児童書として大人向け図書の外に置かれてしまうのは惜しい。 〔桜井 敏浩〕

   
〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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ハゲとビキニとサンバの国 −ブラジル邪推紀行
 

井上 章一 新潮社 新書 2010年10月 190頁 680円+税

 

題名は軽薄なブラジル旅行記の印象を与えるが、著者は歴とした京都育ちの建築学者、風俗史家で、桂離宮や法隆寺、伊勢神宮などについて考察した著書多数を出している。

2004年に二ヶ月半ほどリオデジャネイロ州立大学文学部日本語学科でのフェローとしての生活した際の見聞から、日本人の「常套的なブラジル観にまったをかけること」を狙いに、身近なブラジル人の生活、行動様式などから、日本人からみれば意外なブラジル人の常識や発想を紹介している。

ブラジル男性はハゲは女性にもてると信じているのか? リオの海岸ではフィオレ・デンタル(歯間用糸のように細い紐のビキニ水着)の素晴らしい体型の娘は数少なく、ボサノヴァの名曲"イパネマの娘"に代わる中年女性のビキニ姿と海岸から南に逃避する上流階級住居、サンバとともにブラジル音楽の代表と思われているボサノヴァが、ブラジルでは外国人向けと思われているふしがあることなどから始めて、日本人とブラジル人の女性の美、男性の魅力の違い、母親が中心の家族の絆、アニメだけではないジャパン・クール、国民の大多数を占めるカトリックと日系新興宗教を含む諸宗派の奇妙な共存、日本の子供たちは誰でも知っている『フランダースの犬』や『マッチ売りの少女』がブラジルではあまり知られておらず、しかも子供には暗い、救いのない物語だと解されていること、日本人の謙虚さは卑怯だと見なされ世間体が悪くなる社会もあることを思いしらされたことなど、ブラジルについてというよりは「彼の地で自分をふりかえる、日本および日本人を見直す読み物」として面白い紀行随想。〔桜井 敏浩〕
 

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕
 

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ブラジルへの郷愁
 

レヴィ=ストロース 川田順造訳 中央公論新社 2010 年10月 233頁 2,800円+税

   
世界的なフランスの社会人類学者であるレヴィ=ストロースは、アマゾン奥地のインディオたちを調査し、それとの出会いを綴った名著『悲しき熱帯』(中央公論社)で名高いが、本書は1930年代半ばのブラジルの様々な姿を撮影した特異な写真集である。

まだ開拓の最前線都市であったサンパウロに滞在し、市の北東約300kmにあるブラジル最高峰イタティアプ山(標高2800m近い)を訪れ、大部分未開拓地であったパラナ州やゴイアス州への旅、そして鉄道と道無き道を自動車と馬、舟によってたどり着いたマトグロッソ州奥地のナンビクワラ族などのインディオ集落、そこで自然の中で生きる人々の生活の1年にわたる探検調査行の写真が中心だが、帰途立ち寄ったボリビアのコチャバンバ、サンタクルス、そしてバイアやビトリアの古き時代の写真も収録されていて、訳者の懇切な解説によりその現代的な意味も明らかにされている。

本書は、1995年に同じ訳者でみすず書房から出た『ブラジルへの郷愁』を、新たな翻訳出版権によりコンパクトな判型で刊行したもの。   〔桜井 敏浩〕

       


なお、レヴィ=ストロースのこの時のブラジル行きの際には、当時のサンパウロの写真も撮って出版して いるが、それを紹介した下記の訳書も出ている。

 『ブラジルから遠く離れて 1935−2000 クロード・レヴィ=ストロースのかたわらで』 
 『サンパウロへのサウダージ』 
クロード・レヴィ=ストローズ 今福 龍太訳・著
 

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕
   

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リアル・ブラジル音楽

ウィリー・ヲゥパー ヤマハミュージックメディア 20108 239 2,000円+税


ブラジルといえばサンバ、ボサノバが思い描けるが、それだけがブラジル音楽ではないと、様々な分野、地域の音楽を、先住民の音楽からボサノバまで、そして
MPB1960 年代半ばからブームになったポピュラー音楽)から、現代の地方色豊かなリズムや演奏グループの活動など、2010年の今の姿に至るまでの歴史を紹介している。
加えてブラジル音楽の理解を助けいっそう楽しむために、ブラジルの一般事情やインターネット、テレビ、本、映画、デザイン、料理などから日本でのコンサート事情、さらにはブラジルへの行き方と現地でのライブ情報の集め方やコンサートのシステム、現在活躍中のアーティスト、現地音楽スポットなど、現代ブラジル音楽情報を網羅した懇切な紹介書となっている。ただ徹底ガイドというなら、一方のブラジル音楽の至宝であるビラ・ロボスなどのクラシック音楽への言及がないのが残念。 〔桜井 敏浩〕
                               

〔『ラテンアメリカ時報』 2010年秋号掲載 ()ラテン・アメリカ協会発行〕

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ガリンペイロ( 採金夫)体験記 アマゾンのゴールドラッシュに飛び込んだ日本人移民
 

杉本 有朋 近代文藝社 201048 318 1,700円+税


26歳でブラジルに渡り魚卸業などに従事した後、49歳にして「一攫千金」を夢見てガリンペイロ(金掘り人)として1979年から85年の間パラー州の金山で過ごした。その後ペンション(下宿屋)を営んでいる時に滞在した山形大学の在外研究員中川重教授に勧められて書きためた記録を整理したのが本書である。

ロンドリーナの自宅からまずマットグロッソ州を経てパラー州に入り日雇い人夫などをしながらカラジャスに近いセーラペラーダ金山に潜入し、採金の仕事を始める。重労働の日々の中、さっそくマラリアの洗礼を受け一時は家に帰ることも考えたが、どうにか頑張って自分の区画を持ち、人夫を雇って採掘を始める。

近くの基地の町に小さな雑貨店を開くなどして、金を掘り当て大金を掴むという夢を追った苦難の日々が続くが、ついに5年目には資金が底をつき帰郷を余儀なくされる。その後カラジャス一帯はリオ・ドセ社(現VALE)グループの鉱業権支配が徹底し、もはや個人の採金で大きな稼ぎをすることが難しくなったという。本書はこの行状記であるが、これに77話の見聞し体験したガリンペイロの世界のルールや仕来り、人間関係から周囲の自然、行政、警察、政治家などの素描があって、それぞれにブラジルのこの世界の裏が見て取れ面白い。〔桜井 敏浩〕

                               
〔『ラテンアメリカ時報』 2010年秋号掲載 ()ラテン・アメリカ協会発行〕

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『ソトコト』 2010年9月号 「特集 環境大陸 ブラジル入門」
 

木楽舎発行 月刊 2010年9月 170頁 762円+税


「ロハスピープルのための快適生活マガジン」というこの月刊誌は、毎号環境問題などを幅広く取り上げているが、本号は「生物多様性のワンダーランド!」としてブラジル特集を組んでいる。

世界最大の氾濫平原パンタナール」の美しいカラー写真から始まり、アマゾンで天然ゴム採取人から熱帯雨林保全活動家を経て政治家となり、現在次期ブラジル大統領選挙に挑戦しているマイア・シルヴァ元環境相をはじめ、そのほか様々な立場で活動している15人のグリーン・ファイターの紹介、アマゾン先住民支援NPO団体の事務局長による現地レポート、リオデジャネイロのファベーラ(貧困層集住地域)での手工芸協同組合、日本人移住者によるアマゾンのトメアス移住地での混植農法、BOVESPA(サンパウロ証券取引所)が世界に先がけて始めた非営利の社会・環境事業への取り引きシステムの紹介、バイオ・チップや自然化粧品事業、オーガニック・マーケット、そしてブラジルから持ち帰ったエコ製品など、この雑誌ならではの新しい視点でブラジルを紹介しており、64頁にわたるカラー写真満載の大特集は、ブラジルは一応知っているという人たちにも一見を薦めたい。  〔桜井 敏浩〕

                    

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書 案内」に収録〕

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『うつろ舟  ブラジル日本人作家 松井太郎小説選』
 

松井 太郎  西 成彦、細川周平編  松籟社  2010年8月 327頁  1,900円+税

 

著者は1917年神戸市に生まれ、19歳でブラジルに渡って数十年もの間サンパウロ州の奥地で農業を行ってきたが、還暦を迎えてやっと好きな文芸の道に入ったという。これまで中短編20以上を、同人雑誌や邦字紙に発表している。

本書には中編「うつろ舟」のほか、4つの短編を収めるが、日系社会の縁や辺境の熱帯雨林、大河の河岸で生きる日系一世・二世が朽ち果て埋没していく姿や、日系共同体内での摩擦、家族や縁者間の因果応報、復讐によって最後を迎える姿など、移民の生活に根ざした題材ばかりである。

奥地の大河のほとりで訳あって漁師になった日本人をめぐるいずれも不幸な女性との出会いと別れを描いた「うつろ舟」、婚前の関係でもうけた息子に狂犬病に罹ったことを知らせようとして殺される父の物語「狂犬」、息子の財産を乗っ取った嫁が、その資産を元手に開業したスーパーマーケットに放火することで復讐する老人の怨念「廃路」、ブラジル北東部のセルトンの荒れた土地に、かつて娘への求婚の勝敗以来の嫉妬と競争意識を引きずって住み続ける二人の男が、ついに殺人と遺児の娘の自死にまで至る伝承談的な「堂守ひとり語り」には日系人は登場しないが、「神童」は、かつて父が仲人をした日系人夫婦の妻の死後、妻の連れ子の絵に才能があるアキオが親譲りの農地を失ってまでも亡き母の青銅像を墓に造り若くして死んだという話しを聞きつけ、亡父の法要に出るための旅の途上でその像を見に行くという物語で、いずれも疎んじられてきた人生の敗残者にも追悼の念をもつ著者の気持ちを彷彿させる。

本書の凄いところは、単に移民の苦労話を取り上げたのではなく、それに説話や滑稽譚のような筋書きを加えていること、自身が開拓に従事し、過酷な自然と闘って農業を営んできただけに、自然描写や労働の実態に臨場感があること、そしてしっかりした日本語と話しの筋の構成によって、一気に読ませる筆力を持っていることである。  〔桜井 敏浩〕

                    



ブラジル在住映像作家の岡村 潤氏のサイト『岡村淳のオフレコ日記』に「孤高の作家松井太郎の世界」というコーナーがあり、そこでは上記のうち「堂守ひとり語り」と「ある移民の生涯」を読むことが出来る。

http://www.100nen.com.br/ja/okajun/000182/index2.cfm
 

  

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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ブラジルの日系人

 原田 清編著 二宮正人監訳 2010年 404頁


移住100周年記念刊行書 “O Nikkei no Brasil” の日本語訳版。

第1章「世界における日本移民の歴史的発展」(吉岡黎明)は、ラテンアメリカ、ブラジル各地域の日系移民の歴史的進展を、第2章「日系人の発展および同化の過程」(原田 清)は、本書の大きな部分を占め、各分野の専門家の協力を得て、戦前、戦後、現在の進化と統合のプロセス、各分野における日系人の役割とその影響を分析、多文化・多人種社会にあって多少の差別が残存する中での日系人の進化の段階、各分野別に活動する協会、組織、人物などについても紹介、第3章「第二次世界大戦がもたらした緊迫状態」(原田清)は、戦中・戦後の日系社会での対立を臣道連盟の事例などで述べている。

第4章「ブラジル社会における日系人の地位」(原田 清)は、日系人の社会学的プロフィール、ブラジル社会のピラミッド型階級制の中における日系の位置づけと将来の日系人像を、第5章「農業における日系人の影響」(山中イジドーロ)は、ブラジル農業のおける日本人移民の歴史を意義、戦前戦後の日本政府の援助、セラード開発を含む両国の協力、日系人の実績を詳述し、第6章「商業、工業、サービス業における日系人の影響」(西田ロッケ・ツグオ)は、サンパウロ市を中心に日本人移民の商業・工業・サービス業活動への参加を述べている。

第7章「日系社会の社会福祉事業」(吉岡黎明)は、マルガリータ・ワタナベの戦中戦後の「救済会」をはじめ「サンパウロ日伯援護会」、知的障害者施設「こどものその」、「希望の家」など日系社会における福祉の将来を、第8章「医療衛生分野への日系人の関わり」(山田レナト・ツネヤス)は、移民を苦しめた風土病、病気・怪我、妊娠にともなう問題などと医療援護の進展、診療施設や病院の建設などを紹介している。

第9章「デカセギ現象の過去、現在および未来」(二宮正人)ではその経緯、日本の入管法改正による影響、CIATE(国外就労者情報援護センター)の活動、在日ブラジル人に対するブラジル政府の支援にまで言及している。第10章「日本における日系ブラジル人」(中川デシオ勇、中川・柳田郷子)は、デカセギの健康問題、ブラジルに残された子供たち、ブラジルに帰国する子供たち、日本で定住化する子供たちの問題にも触れ、一種の二重アイデンティティを作りあげる子供たちの順応への困難などを取り上げている。

第11章「都道府県県人会の貢献」(林アンドレー亮)は、日系人団体と県人会の役割とブラジル社会への貢献、県人会の将来を、第12章「法律分野における日伯交流」(渡部和夫)では、伯日比較法学会の設立・活動、在日ブラジル人就労者問題への取り組みを、第13章「日本政府の日系社会への支援」(大原 毅)は、日本政府のそもそもの海外移住問題の始まりから戦前・戦中・戦後の政策と支援を辿っている。 第14章「日系社会の将来」(上田雅三)は、顔と現在を視野に入れた日系社会とブラジル社会の文化の相互作用から将来展望への前提、日本へのデカセギ現象、日本移民子孫のブラジル人としての自覚、文化の覚醒伝承を分析し将来展望を述べている。第15章は「日系社会の著名人へのインタビュー」、第16章には2008年の「主だった日本移民百周年記念関連行事」を多くのカラー写真とともに紹介している。

ブラジルでの日本人移民の100年の歴史と、様々な問題と課題の断面、過去と現在から将来展望に至るまで、ブラジル日系社会の多くの専門家を動員して纏められた優れた総合解説書であり、関心をもつ日本の読者にも是非一読を薦めたい。〔桜井 敏浩〕

    

  
(二宮正人監訳 2010年 404頁   サンパウロのニッケイ新聞社
 電話+55-11-3208-3977 nikkeybr@nikkeyshimbun.com.br で入手可能、70レアル。日本では(社)日本ブラジル中央協会が受託販売を行っている。 6,000円+送料。連絡先 info@nipo-brasil.org Fax 03-3597-8008へ)  

     

 〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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最後のアマゾン/天野尚写真集
 

天野 尚 小学館 2010年7月 199頁 3,619円+税


自然の風景、航空・水中写真により、世界三大熱帯雨林撮影に取り組んできた写真家が、地球の大気の1/3を生み出すといわれるアマゾン河熱帯雨林が切り開かれ、貴重な生態系が失われつつある地球環境の崩壊を撮した、地球に残された“最後の楽園”の姿。

マナウスとその近郊を紹介した序章、鳥の目になる〜上空300フィートからの眺めの空撮、アラグアイア流域の最後の秘境、大湿原パンタナルの生命の楽園、ネグロ川の琥珀色の恵み・ブラックウォーターの世界と原初の風景・無垢の自然の姿、ネグロ川をジャッカミ山からの眺望・原生林に佇む弧峰、そしてアマゾンに暮らす〜生きる歓びという章立てになっていて、大判カメラによる迫力あるカラー写真が全ページに展開されている。

撮影者による簡潔な解説がそれぞれの写真に付され、また撮影方法や機材についての説明もあって撮影の困難さも分かるが、これ以上破壊を許してはいけない自然の姿、そこで生活する先住民の姿を残し、少しでも多くの人たちに知って欲しいという意図を強く訴える写真集である。   〔桜井 敏浩〕


〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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三井のアルミ製錬と電力事業
 

宮岡 成次 カルス出版 2010年6月 249頁 1,905円+税

金融と商業が中心の三井グループにあって、アルミ製錬と電力事業を行った三井アルミは、比較的短命で終わったが、九州の石炭火力を使ってアルミ製錬を行い、ブラジルでアマゾンアルミ事業を興す中核になった同社の歴史は、日本の産業史の中でも記憶に留めるべき位置を占める。

著者は三井アルミに勤務し、アマゾンアルミ事業にも深く関わった経験をもつが、社内外の資料を広く収集・解析し、これまでも『黒ダイヤからの軽銀 ―三井アルミ20年の歩み』(牛島俊行氏との共著 2006年 カロス出版)はじめ、業界専門誌に多くの連載を行っている。

本書は、三井財閥が電力事業に手を染めた時から説き起こし、戦前の電力ならびにアルミ事業への関わりについて詳述した後、戦後の財閥解体からアルミ製錬の再開、三井アルミの設立、三井5社による共同事業にアルミ製錬の本格化、そして海外事業に目を向け、アマゾンアルミ計画の中核として立案、出資、技術供与と人材派遣を行ったこと記録している。第二次石油危機後の構造不況による会社再建、高くなった電力料金に耐えきれずに国内製錬の停止、会社解散という劇的な運命を辿った。アマゾン河流域にある豊富なボーキサイト資源と安価な水力発電に惹かれて、遠くブラジルで行ったアルミナ製造のアルノルテとアルミ製錬のアルブラスは、現在も順調に操業していて、わが国のアルミ新地金輸入の約10%を賄っているが、戦前からの日本のアルミ産業の長い歴史の中から生まれてきた経緯と背景が、あらためてよく理解することができる。ほとんど個人の尽力で集大成したこの記録は、極めて貴重な産業史、企業史である。〔桜井 敏浩〕
 

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕
 

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ラテンアメリカン・ディアスポラ
 

駒井 洋監修 中川文雄, 田島久蔵, 山脇千賀子編著 明石書店  2010年1月 294頁 5,000円+税

 

国境を越えて移動する/した人々を出身地別に分析した叢書で、近代国家の体をなしてきた19世紀後半から現在に至るまでの出ラテンアメリカの状況を、11人のラテンアメリカ研究者が分析している。

19世紀以前のアメリカ大陸をめぐる人の移動を概説した序章に続き、米西戦争でスペイン領から米国の準州となったプエルトリコ、同じく実質的に米国の支配下にあって社会主義革命で独立したものの、そこから脱出した多数の人々が米国に逃れたキューバ、米国にあまりに近いという点で共通点をもち、国土の約半分を奪われたメキシコはNAFTAにより高まる経済の米国依存とメキシコ人としての誇りの相克を抱える。

近年出移民が急増したアンデス諸国の総合的側面として取り上げられたペルー、そしてブラジルとアルゼンチンなどの南米は、移民先が米国だけでなく、欧州を含む環大西洋地域全体に拡散しているという特徴がある。豊かな国アルゼンチンは、進んだ文明人=欧州人としての国民意識形成教育により常にヨーロッパ人としての意識を持ち続けてきたが、これまで大量の移民を欧州・南米から受け入れてきたのが長期経済低迷により2002年に出移民数が入移民数を上回った。ブラジルはポルトガル語圏ということもあり、米国センサスではいわゆる“ ラティーノ” には入れていないが大きな在米人口をもつ。近年は日本の入管法の改定により日系人の出移民の流れが爆発的に増え、日本の地域社会に少なからぬ影響を与えている。

また近隣国に開発フロンティアとして入り込む移民が多いことも特筆される。最終章で、グローバル時代のラテンアメリカ各国政府の国家としての出移民政策、政策の地域・国際協調、米国での多様性をもった“ ラティーノ” のネットワークの動きを紹介している。ディアスポラといっても背景も状況も多様性があり、ラテンアメリカの出移民の実態、そして米国や日本などのラテンアメリカ系移民を受け入れた社会へのインパクトへの理解を助けてくれる。〔桜井 敏浩〕
 

〔『ラテンアメリカ時報』 2010年夏号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕


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ラテンアメリカ 出会いのかたち
 

清水 透・横山 和加子・大久保 教宏編著 慶應義塾大学出版会  2010年3月 427頁 3,500円+税


慶応大学に所属する14 人のラテンアメリカ研究者が、それぞれなぜラテンアメリカを研究対象にし、その何に惹かれたのか、これまでのラテンアメリカに関わる体験、思い、研究者としての自分史などを、自由に綴ったものである。フィールド、政治・経済・法律、スペイン、歴史研究者と一応分けているが、研究の道に入った経緯、研究対象国との出会い、その魅力、研究の方法、現地調査の紹介、研究の課題と悩みなどを、メキシコ、グアテマラ、コスタリカ、キューバ、ボリビア、チリ、ブラジル、アルゼンチン、そしてスペインの研究の過程で得た実例を通じて、さまざまな角度から述べている。

各執筆者の体験や感想、現在進めている研究の紹介などを語りながら、ラテンアメリカ研究を深めていくプロセスや、それぞれの専門分野の問題点が盛り込まれ、実に多くの切り口をもつラテンアメリカ研究の入門書としても読めるし、読者が興味をもつ個々のテーマについて、それを専攻する研究者とともに研究アプローチに入っていくという読み方もできる。 〔桜井 敏浩〕


〔『ラテンアメリカ時報』 2010年夏号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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アマゾン 民族・征服・環境の歴史

ジョン・ヘミング 国本伊代・国本和孝訳 東洋書林 2010年5月   519頁 6,500円+税


アマゾン河口に1500年スペイン人が黄金郷を求めて到達し、以来宣教師が入り、ヨーロッパ人植民者による先住民奴隷狩り、彼らの抵抗、豊富な生物資源を探索する博物学者の活動、自動車の普及に拠るゴム・ブームの到来とゴム採取人の悲惨な生活、ブラジルのロンドニア州の語源になったロンドン大佐をはじめとする多くの探険家が入り込み、これまで存在しなかったと思われていた初期先住民文化の考古学上の発見の歴史を概説している。さらに近代以降、開発によって広範囲に生じた環境破壊問題、世界最大の水系であるアマゾンならではの多様な生物資源の存在を指摘し、いまアマゾンで何が起きているかを、著者(カナダ生まれ英国で活躍する歴史家)の長年のアマゾンでのフィールドワークによって得た知見により明らかにしている。

1970年代から本格化した大型重機など文明の利器を使った大規模な自然破壊は、世界的にも知られるようになってきたが、その背景には500年に及ぶ強欲な侵入者による自然へ冒涜や先住民の犠牲の歴史があったことを知ることができる。 〔桜井 敏浩〕


〔『ラテンアメリカ時報』 2010年夏号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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中南米の音楽―歌・踊り・祝宴を生きる人々

石橋 純編著 東京堂出版 2010年3月 260頁 1,800円+税


日本ではややもすると「陽気で明るい、音楽と踊りを楽しむ中南米の人々」という単純な思いこみが一般的だが、中南米音楽の歌詞に社会批評が込められ、リズムに深い苦悩が秘められていることがある。本書はそういった深い背景とそれを知ることによる中南米音楽の魅力を解説したもので、国際交流基金による2008 年の10回にわたった異文化理解講座の担当講師が、講義内容を発展させ書き下ろしたものである。実に様々なジャンルがある中南米音楽のうち、アルゼンチン、ブラジル、ボリビア、ペルー、ベネズエラ、ジャマイカ、キューバに、サルサやチカーノ音楽が行われている米国を加えた10章から構成されている。

その国の音楽自体がまだ日本ではあまり知られていない国については入門的な解説も付し、特定のジャンルが知られている国にはそれ以外の音楽にも言及し、広く解説書などがある国については特定の話題を深く掘り下げる工夫がなされているが、全般的には高度な中南米音楽概説書になっている。
〔桜井 敏浩〕 
                    

〔『ラテンアメリカ時報』 2010年夏号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕
 

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コーヒーのグローバル・ヒストリー 赤いダイヤか、黒い悪魔か  
 

小澤 卓也 ミネルヴァ書房 2010年2月 332頁 3,000円+税


石油に次ぐ巨大市場を形成する一次産品であり、世界経済がグローバル化した現在、生産を担う開発途上国と主な輸出先で大量に消費する先進国との南北問題の様々な事象を象徴するのがコーヒーである。アフリカで自生していたコーヒーが飲み物用として栽培されるようになった歴史から始まり、輸出農産品としてのコーヒーの特色、生産様式により大きく変わる品質や市場価値、収穫・精製・焙煎という三つの重要な要素などをはじめに解説している。ついで、コスタリカ、ブラジル、コロンビアを主に、グアテマラ、エルサルバドル、さらにベトナムなどで大きくなったコーヒー産業がラテンアメリカの近代化にどのような影響を及ぼしてきたかを明らかにしている。そしてコーヒー消費国の諸相を、世界最大の国民的飲み物とした大消費国米国、そして一大消費国である日本での歴史と缶コーヒーの発明など独自のコーヒー文化を、ラテンアメリカ近現代史専門家が世界視点から整理したものである。

世界的にもっとも一般的な嗜好飲み物であるコーヒーの世界史的意義と現状を知るうえで基本的な知識を提供してくれる。 〔桜井 敏浩〕


〔『ラテンアメリカ時報』 2010年夏号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕
 

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新興国ブラジルの対外関係 ―世界金融危機を踏まえて
 

(財)国際貿易投資研究所(ITI) 2010年3月 108頁 2,000円

目立たないことを良しとしてきたブラジル外交が、カルドーゾ(1995〜2002年)、ルーラ(2003〜10年)両大統領のそれぞれ2期計16年の間に目立つ外交、その守備範囲を大きく拡げる外交へと変貌した。特に先進国だけで牛耳ってきた国際金融においてもG20などの場で新興国、主要開発途上国のリーダーとしてのブラジル外交は目覚ましい。本書はこの近年のブラジル外交の動向を専門分野の異なる6人の研究者が分析したものである。
    
「国際金融界とブラジル ―対立、協調を経て参画の時代」(大和総研 長谷川永遠子)は、IMF体制のいわゆるワシントン・コンセンサスに象徴される国際金融界との関係が、1982年の債務不履行処理をめぐって対立関係にあったものが、88年より歩み寄りが見られ協調関係になり、さらに2005年にはブラジルの対IMF債務完済、06には全ブレディ債を前向きに償還して以降はG20などへの参加を契機にIMF支援に参画していることを指摘している。

「統合EUとブラジル ―新コロンブス・ルートを形成」(日経新聞 和田昌親)は、ブラジルにとって拡大するEUが“見えない対米カード”になり、欧州からの企業進出や資金流入がかつて収奪されていた時代を逆のいわば“新しいコロンブス・ルート”が開かれつつあり、日本にとってはブラジルと欧州との間の大西洋が“見えない海”になってくることへの警鐘を鳴らしている。

「米国とブラジル ―グローバルな『大人の関係』」(上智大学 子安昭子)は、従前いわれてきたようにブラジルは反米だけではないし、といって親米でもない、南米やアフリカをより重視するルーラ政権の外交政策も、いまや2国間の意見の相違と協力関係だけでは済まない局面をもっていることを、「ポルトガル語圏諸国とブラジル ―共通の言語・文化を活かして」(上智大学 西脇靖洋)は、ブラジルとポルトガルとの関係、アフリカやアジアにあるポルトガル語圏諸国との関係の深化と発展を、CPLP(ポルトガル語諸国共同体)の動きとともに紹介している。

「中国とブラジル ―補完関係と競争関係」(国際貿易投資研究所 内多 允)では、21世紀に急増した中国の頼もしい輸出市場としての存在感だけでなく、中国製品のブラジル国内や第三国市場での激しい競争という面もあることを明らかにしている。

最後の「メルコスールとブラジル ―関税同盟の内憂外患」(上智大学 堀坂浩太郎)は、ブラジル外交の最優先事項というメルコスール(南米南部共同市場)との関係は、関税同盟として問題を先送りしながらベネズエラの加盟を認めたことで、ただでさえ域内に摩擦要因を多数抱えているのに構想どおりに進展するか?ブラジル外交の方向が問われていることを指摘している。

21世紀に入って大きく国際的影響力を増したブラジルの対外関係を知る上で、それぞれに興味深い分析である。 (申込先:国際貿易投資研究所 電話 03-5563-1251 メール itipost@iti.or.jp  送料無料)〔桜井 敏浩〕                    

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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マンガ 平生釟三郎 ―正しく強く朗らかに』 
 

平生漫画プロジェクト 幻冬舎メディアコンサルティング 2010年3月 166頁 1,200円+税


慶応2年(1866年)に生まれ、苦学して高等商業学校(現一橋大学)を卒業し、教職を経て東京海上保険に入社、大阪や神戸の支店長、ロンドン支店監督を歴任し専務まで昇るが、他方で育英事業を早くから推進し、現在の甲南学園(大学から幼稚園まで)を創立した平生釟三郎(ひらお はちさぶろう)の伝記を漫画化したもの。

大正海上火災ほか保険会社の役員を歴任し、川崎造船(現川崎重工)の社長としての再建、日本製鉄会長、貴族院議員、二・二六事件後に発足した広田弘毅政権の文部大臣等々、経済界を主に教育界、政界や公的職務など、実に多くの分野で活躍した偉人の生涯を紹介している。

人の一生の第一期は自己を教育する時代、第二期は社会で働く時代、第三期は自己の事業より離れて他人のために尽力する時代という「人生三分論」を実践し、60歳を超えてからは国へ、社会への奉仕に務め、また世間の要請に応えるべく、様々な分野に関わったが、やはり一番力を入れたのは「教育こそが日本をつくる」という信念のもと、長く高等学校長をも務めた甲南学園での理想の学園造りだった。

また海外へも早くから目を向け、大正13年(1924年)にヨーロッパ、米国、ブラジルへ8ヶ月におよぶ視察旅行を行い、昭和9年(1934年)にはブラジルでの憲法での移民制限にともなう日本からの移民受け入れ制限を撤廃させるべく、経済使節団を率いてブラジルに渡り、半年にわたって交渉を行って綿花の大量輸入約束と引き換えに日本の主張を実現している。昭和初期に日本とブラジルの懸け橋ともなったのである。  〔桜井 敏浩〕
  

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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ブラジルを知るための56章 【第2版】
 

アンジェロ・イシ 明石書店 2010年2月 266頁 2,000円+税

     

「ブラジルの魅力に目覚めるための56章」としたいくらいだと著者がいう、ブラジルの面白さと奥深さを伝えたいという意欲あふれる日系三世による解説書。2001年に出て好評だった『55章』を加筆修正し、いくつかの章を書き下ろして差し替えた改訂版。
  
「ブラジルの現在を理解する」では人種、社会格差、治安からサッカーのワールドカップ、オリンピック開催国として背景などを、「ブラジルの魅力を満喫する」では国民性、多民族国家の形成、スポーツやテレビ、映画、音楽などまだまだ日本では知られていない魅力を、「ブラジルの矛盾を解読する」では環境、貧富の格差、先住民問題と多民族国家の実情や日本との関係を、「ブラジルの神髄を堪能する」ではブラジル式問題解決法や日本人のスレレオ・タイのブラジル像、広がる日系人の活躍の場などなど縦横に話題が跳ぶが、全体として確かにブラジルへの理解、魅力、変化が実感され、示唆に富んだ解説集になっている。 〔桜井敏浩〕

  
〔『ラテンアメリカ時報』 2010年春号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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ラテンアメリカ世界のことばと文化』 
 

畑 恵子・山崎 眞次 成文堂 2009年7月 372頁 3,000円+税

  
ラテンアメリカの言葉と文化について、言語、社会の多様性、詩、美術、音楽、先住民史、食べ物、文化や言語の混淆、言語教育、先住民や多民族政策やそれぞれの各国事情、日本でのラテンアメリカ文化などの切り口からの21本の論考を19人の専門家が執筆している。
    
「ラテンアメリカ世界への誘い」でのスペイン語浸透の歴史、ブラジル社会の多様性から始まり、「芸術と文化」はガルシア・マルケスの詩、メキシコの図像、ラテンアメリカ音楽の紹介とその国際化、パラグアイでのグアラニー語の継承を、「先住民言語文化と国民国家」では生き残りをかけた先住民言語、それとも関連があるメキシコ先住民の反乱、1920年代メキシコにおける文化の混淆、ペルーの多言語・多文化世界の選択、エクアドルのスペイン語と先住民言語の二言語教育の実践、チリでの被征服者であるマプチュ族の存在を扱っている。「言語文化の多様性」はカリブ海フランス語圏のクレオール文化と英語圏のジャマイカでの非英語的特徴、ブラジルで進化をとげつつあるポルトガル語、アルゼンチンでの二人称の使い方にみるナショナリズム等を、「越境するラテンアメリカ世界」では日本で紹介されつつあるラテンアメリカ文化と米国におけるメキシコ系住民の言語・公教育問題、スペイン語の標準語とされたカスティジャ語のラテンアメリカからの里帰りによる共通言語化、メソアメリカの主食であるトウモロコシから眺めたグアテマラなどを取り上げている。どれをとってもこの地域のことばと文化には様々な歴史や背景、それぞれの国の事情があることが分かり、ラテンアメリカの見方の幅を広げてくれる。   〔桜井 敏浩〕
  

 〔『ラテンアメリカ時報』 2010年春号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕
 

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 アマゾン文明の研究 ―古代人はいかにして自然との共生をなし遂げたのか
 

 実松 克義 現代書館 2010年3月 374頁 3,800円+税

 

南米の古代文明はアンデス地帯と西海岸だけでなく、アマゾン各地で古代人の大規模な居住地、道路網、運河網、堤防システム、農耕地あるいは養魚場が発見されているが、その他地域の文明との違いはアマゾンの自然環境を大きく改変しながらも、それを破壊することなく自然との共生を図ったことで、その伝統は現在のアマゾン先住民にも伝わっているというのが本書の主題である

本書はまずアマゾン文明の背景となる自然環境、先住民民族の文化と世界観を説明し、アマゾン古代史に関わる一連の発見、偏見と論争の歴史、近年のアマゾンについての一般的な考えが変化したのかをのべ、うち最大級の文明があったボリビア・アマゾンのモホス平原の自然環境とモホス文明の痕跡、独特の構想で創られたこのモホス文明について考察し、著者が行ったモホス平原での発掘と民族調査のデータを分析し、この古代文明の再現を試みる。そしてアマゾン各地の文明の痕跡を概括し、アマゾン地域における農業の発達と古代人の社会構想や自然観を解明し、それが示唆する文明とは何かを考察するという構成になっている。
  
宗教人類学を専門とする著者(立教大学教授)が内外の膨大な文献資料を解読し、ボリビアの地元研究家等との意見交換、そして考古学者と組んだ2006年から08年の3回の合同発掘調査によりモホス文明が存在したこと、民族調査によって現在のモホス先住民の伝統はキリスト教により大きく影響を受けたものの、「自然への畏怖」を引き継いでいること、他のアマゾン地域でも古代農業を始め定着されたという共通点があるとしている。
   
著者がいうように、ボリビア・アマゾンに大規模な古代文明が実在したことを疑う研究者は多い。アマゾン地域はその自然条件から遺物が遺り難く実証的な判断が難しい。モホスに古代の社会があったのは確かであろうが、本書の指摘する多数の土塁、運河網、農耕跡地を人工の建造物であり高度な文明の痕跡といい切るにはさらなる現地調査の成果が待たれよう。
 〔桜井 敏浩〕

  
〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕


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講座 トランスナショナルな移動と定住 ―定住化する在日ブラジル人と地域社会
    
 
第1巻「在日ブラジル人の労働と生活」、
  第2巻在日ブラジル人の教育と保育の変容」
  第3巻「ブラジルにおけるデカセギの影響」
 

小内 透編著 御茶ノ水書房 2009年12月 208,210,189頁 各3,500円+

   
在日ブラジル人の集住地での調査にもとづき、その生活と共生、地域住民意識の現実、行政の対応、労働と社会関係、ブラジル系エスニック・ビジネスの展開を論じた第1巻、日本の公立校あるいはブラジル人学校、保育所に通う子弟と保護者の意識、そこでの日本人との関係、日本の外国人教育問題の歴史と課題、本国政府による在日ブラジル人の教育支援を論じた第2巻、リピーターや定住者が増えたデカセギをブラジル側から見た帰国者の起業や再出発支援活動、ブラジル大都市近郊農村や僻地農村でのデカセギ現象の影響、教育面での帰国子女の現状、デカセギ経験者の意識、そしてブラジル人のトランスナショナルな生活世界と集住地での日本人との共生の現実と可能性を明らかにした第3巻からなる。
  
国境を越えて移動するブラジル人のトランスナショナルな生活、労働、子弟教育と地域社会との共生の現実を、延べ25人の研究者が日本の集住地、ブラジルの送り出し地での調査も交えて真摯に分析している。 〔桜井敏浩〕

   
〔『ラテンアメリカ時報』 2010年春号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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ゴキブリ経営法 −激動のブラジル社会で生き残った「しぶとさ」
 
 

深田 毅二 K&Kプレス 2010年2月 167頁 1,200円+税


著者は1956年に叔父の呼び寄せ移民としてブラジルへ渡航、サンパウロ近郊の叔父の果樹園、そして養鶏場で働きながら学校に通い、1963年に20歳で独立して兄弟と菓子製造のラッキー社を興した。製造業としての当局の許可取得、衛生局や税務署の調査に対応するためには賄賂や脱税が常識だった零細企業時代を経て、1970年代以降は成長し始めたスーパーマーケットへの製品売り込みに注力し、売掛金の山とインフレ、工場拡張にともなう公害発生、税金滞納、幹部の裏切りなど、何度も挫折の危機をむかえ、それを乗り越える度にしぶとい処世術と経営のコツを身につけていった。

長年の経営の経験から、様々な事態に備えて出来る限りの手を打っておくこと、経営者に不可欠な強運、創造性、戦略性という三要素、人の過去の言動や性格、状況を考慮して判断するという思考、業界との競争法、そしてそれらの経験から編み出した“ゴキブリ経営法”やハイパーインフレ下での原価・収益の考え方など、ブラジルでの中小企業の地を這う商売の実態と対応策を詳述している。

創立20周年を迎えた頃、同族会社が二代目、三代目になって成功裏に続く例は少ないと、ブラジル第二位の菓子メーカーに成長したラッキー社の売却を決心し、スナック菓子でも大手のペプシコに持ちかける。それも米国本社を意識してメキシコのウォールマートに売り込みをかけるなど、自社の魅力、存在感を高めて有利に買わせることに成功したのである。

 これまでの大企業の人が書いたブラジルでの経営法に見られない、生々しい具体的な経営体験が述べられていて、面白い経営指南書になっている。  〔桜井 敏浩〕

                    

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕
 

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ジャポネース・ガランチード ― 希望のブラジル、日本の未来
  

丸山 康則 (財)モラロジー研究所発行 廣池学園事業部  発売 2010年1月 351頁 1,700円+税

  

書名は「信頼される日本人」の意味で、ブラジルで日系人が誇りをもって使ってきた言葉である。著者は、交通心理学、事故予防、労働安全分野を専門とする麗澤大学名誉教授で、2008年に同じ出版社から、ブラジルで活躍する日系人とのインタビューなどで構成する『ブラジル百年にみる日本人の力』の著作を出しており、本書はそこで紹介しきれなかった「ブラジルで出会った人々」の紹介と日系人社会と日本人のあり方についての論評を載せたものである。

パラナ州選出の上野アントニオ連邦下院議員、サンパウロ州レジストロでブラジル初の紅茶栽培を成功させた岡本寅蔵・久江夫妻、アマゾンほかブラジル各地へ巡回医療を行った細江静男医師、天皇陛下や皇族方のブラジルご訪問の際の警護武官を務めた西 礼三サンパウロ州軍警察官、洋蘭の大量栽培法を実現させた高梨一男氏、セラード農業開発の本格化以前に入植しコーヒー農園を造った下坂 匡氏や農務大臣特別補佐官として関わった山中イシドロ氏、サンタカタリーナ州の村で果物・野菜栽培の傍ら剣道場を作った尾中弘孝氏、JICAの技術協力でブラジル農務省に派遣され、同じ州のサン・ジョアキンにブラジルで初めてリンゴ栽培を成功させた後澤憲志博士とその教えを受けた日系農家の人たち、サンパウロ州教育局が日本人移民100周年記念取り上げた「ビーバ・ジャポン」プロジェクトを主導し、今は日本から帰ってきた日系人子弟の教育に携わる日野寛幸氏など、様々な分野でブラジル社会に貢献する日系人を訪ねて、聞き取りを行っている。 〔桜井 敏浩〕

  
〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕 

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ブラジル技術移住者が見た世界 

  

山口 正邦 柏企画 2009年5月 281頁 1,800円+税

    
長野県出身の化学技術者で、1961年30歳の時に妻と長女を連れてブラジルへ移住し、幾つかの工場で働いた後に米国への留学を経て、自動車エンジン用プラグ製造のNGK(日本特殊陶業)のブラジル会社へ入り、ブラジル国籍を取得し28年間勤め上げ、定年後は日系社会の諸団体で活動している著者が、これまでサンパウロ新聞等に寄稿した回想とブラジル、南米や世界各地への旅行エッセィ集。

農業やその後商業に転じた者が大半であった日系移住者の中で、日本の大学で化学を学んで来た技術移住者の目から見たブラジル企業や社会、米国の大学生活についての随想に加えて、3年間働いたマタラゾ財閥家の盛衰、日本とブラジルの農地改革の比較、日本移民がブラジルに持ち込んだ柿、リンゴなどの栽培の苦労、そして在住者ならではのブラジル各地の紀行など、多彩な内容になっている。  〔桜井 敏浩〕

   
〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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南へ ― 高知県人中南米移住100年

高知新聞社編集局 高知新聞社 2009年11月 269頁 1,524円+税

 

高知新聞が創刊105年を記念して、2008年に100周年を迎えた高知県人のブラジル移住者の足跡を追った連載記事の集成。

記者を9ヶ月間派遣し、ブラジル各地での同県人の汗と涙の人生から何かを学びたいと取材したが、本書のもう一つの特色は、高知出身で笠戸丸の最初の組織移住者集団を率いた“ 移民の父” といわれる水野 龍の足跡を辿ったことである。

「皇国殖民会社」を立ち上げブラジル移民を募った水野は、当初から外務省への保証金等の資金繰りに苦しみ出航が遅れ(これがその年のコーヒー収穫期に後れを取り、移住者の生活を一層困窮させる一因になった)、転用した移住者からの預り金の返済や困窮者への対応をきちんと行わなかったことなどから、笠戸丸以降12年間に45隻、2万2千人余りのブラジル移住に関わった水野の評判は必ずしも芳しくないが、両国当局との抜群の交渉力を発揮してブラジル移民の道筋を切り開き、日本側の利益だけで送り出した満州移民とは一線を画して、ブラジルでは共存共栄の理想を目指した水野について、移民史の中では正しく評価されているとはいい難いとの指摘を紹介している。

ブラジル各地にいる高知県人移住者の過去と現在、そして今は日本に来ている“ 出稼ぎ” 日系人の現状まで広く取り上げており、地方紙の特色を活かした総合取材の好企画である。 〔桜井 敏浩〕  

                   

〔『ラテンアメリカ時報』 2009/10年冬号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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ブラジル紀行 バイーア・踊る神々のカーニバル
 

板垣 真理子 ブルース・インターアクションズ 2009年10月 319頁 2,500円+税


ジャズを撮ることから写真家になり、アフリカ音楽に魅せられてナイジェリアを取材したことから、環大西洋の文化の流れを追って西アフリカから多数の奴隷が送り込まれたブラジル東北部バイーアを訪れた。アフリカ系ブラジル人の間に伝わり、現代においてもなお脈々と行われている歌、リズムや踊り、衣装などの色は、古い時代に大西洋を越えてブラジルやキューバに持ち込まれて根付いたものである。

カトリック化したとはいえ、彼らの間で脈々と伝わり、儀礼が行われているカンドンブレは、ヨルバ(ナイジェリア、ベニンにかけて住む人たち)の多神教、神話とすべて繋がっている。このヨルバの音楽や踊りなどから先に入った著者であるからこそ、サルバドールのカトリックとカンドンブレが融合した祭りやカンドンブレの言い伝え、儀式に入っても、その背景がよく理解できる。サルバドールのカーニバルや多くのミュージシャンとの交流の姿も、ジャズから一貫して音楽、それもアフリカ系音楽に関わってきた著者ならではの肌で感じ取った感覚で見たブラジル紀行になっている。

巻末にバイーア音楽を彩る音楽家たちと、著者を含む6人の日本人評論家が推薦する「ブラジルを体感するためのディスクガイド」も付いている。残念なことに色彩豊かな筈の本文中の写真がモノクロになっているが、アフリカ系音楽のルーツをよく知っている写真家のバイーアの探訪はふつうのブラジル紀行とはひと味違う世界を見せてくれる。  〔桜井 敏浩〕

   
〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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ラテンアメリカにおける日本企業の経営
 

山崎 克雄、銭 祐錫、安保 哲夫編著 中央経済社 2009年3月 269頁 3,200円+税

 

1980年代半ばから2006年に至る間に日本企業の経営・生産システムの国際移動の研究と現地調査を重ねてきた研究グループが「適用・適応のハイブリッド」モデルによる、2000〜06年の間に行ったメキシコ、ブラジル、アルゼンチンでの製造業工場とベネズエラでの帝国石油の石油開発事業の現地調査結果から、日本式経営がどのように導入されているか? アジア等他地域での日本企業経営と何が異なるか?などを、14人の経営・企業等研究者が分析している。

日本型生産システムの適用度を、作業組織とその管理運営、生産管理、部品調達、参画意識、労使関係、親−子会社関係の 6項23 の視点から評点を出し、これまで調査してきた世界での平均、アジアや欧米での数値とラテンアメリカの平均を比較し、各論としてメキシコ、ブラジル、アルゼンチンの国別日系工場の特徴を挙げ、自動車産業についてはトヨタ(ブラジル、アルゼンチン、メキシコ)、日産(メキシコ)、ホンダ(ブラジルの二輪・四輪、メキシコ)、デンソーを、電機では東芝(ブラジル)と三洋電機(アルゼンチン)のケース分析を行っており、ブラジル等では欧米企業の新しい生産戦略も紹介している。〔桜井 敏浩〕

                    

〔『ラテンアメリカ時報』 2009年秋号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕 

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安心社会を創る―ラテン・アメリカ市民社会の挑戦に学ぶ
  

篠田 武司、宇佐見 耕一編 新評論 2009年7月 315頁 2,600円+税

 

シリーズ「失われた10 年」を超えて―ラテン・アメリカの教訓3部作の『ラテン・アメリカは警告する』(2005 年)に続く第2冊目。新自由主義経済の負の経験を乗り越えようとするラテンアメリカに、2008 年米国発のサブプライム・ローン破綻に端を発する経済危機が襲い、分断・対立・競争を原理とする「競争」による混沌とした不安社会から脱却するために、安心社会に向けて連帯・参加・協同を原理とする「共生」への模索が始まっている。

第T部の新自由主義以後の参加的・連帯的社会形成、社会関係資本への注目、福祉社会の可能性と貧困政策についての理論編と、第U部のペルーでの住民参加、メキシコのエンパワーメント、ブラジルの NGO による教育実践、エクアドルの多民族共生、ブラジル南部クリチバ市が行った人間生活中心の都市計画、アルゼンチンの地域通貨、日本への移民労働者の貢献という実践編から構成されている。

ラテンアメリカでの多様な社会の課題とそれらへの挑戦の試みは、現代日本への示唆が込められているという編者、執筆者の意気込みが感じられる。  〔桜井 敏浩〕
 

〔『ラテンアメリカ時報』 2009年秋号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕 

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      『ブラジル史

金七 紀男 東洋書店 2009年7月 304頁 2,800円 +税

 

ブラジル植民地史・ポルトガル近世史の研究を続けてきた著者(東京外語大名誉教授)による植民地期から近代を経て現代に至るまでの通史。

第一部「植民地期」では、1500年のポルトガル人カブラルのブラジル到達以前の先住民社会からポルトガル人等の入植と総督制や奴隷の導入、砂糖プランテーションの拡大、内陸での金鉱の発見などによる植民地化の進展を、第二部「近代」では1822 年のペドロ王太子の独立宣言から第一、第二帝政、旧共和制を通じてコーヒー産業が勃興しブルジュアジーが力を得ていく過程を、第三部「現代」は、1930 年から45 年まで続いたヴァルガス独裁政治、第二次世界大戦終結時から1964 年の間の左右ポピュリズム政治、64 年のクーデタから85 年の民政移管までの軍事政権による開発独裁、85 年の民主主義の復活からカルドーゾ、ルーラ政権に至る現在までを、分かりやすく概説している。

大学での教科書を意図して執筆されたもので、政治のみならず、経済、社会、文化面についてもふれることで歴史全体を概観し、現代の問題点の背景が理解できるようになっている。  〔桜井 敏浩〕 
             

〔『ラテンアメリカ時報』 2009年秋号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕 

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ブラジルから遠く離れて 1935−2000 クロード・レヴィ=ストロースのかたわらで』 
 

今福 龍太&サウダージ・ブックス (浅野卓夫)  サウダージ・ブックス発行、港の人発売 2009年5月 133頁 2,000円+税


レヴィ=ストロースは南米先住民の集落での民族学調査から「構造人類学」という方法論を確立した。1955年に刊行された『悲しき熱帯』(邦訳 川田順造訳 中公クラシックス、室淳介訳 講談社学術
文庫 『悲しき南回帰線』)は、その20年前のフィールド調査の紀行である。未開社会を分析し、欧州
文化中心を批判した文芸作品としても高く評価されているが、青年時代にこの著作に出会い、人類学者の道を歩んだ今福は、若きレヴィ=ストロースが社会学の教授として招かれた同じサンパウロ大学に 招聘され、彼が1935年のサンパウロを撮ったスナップ写真集『サンパウロのサウダージ
(今福龍太訳・編著 みすず書房 2008年 )を丹念に辿り、同じアングルでの再撮影を行った。

本書は2007年に東京で開催された映像展示展をドキュメント化したもので、二人のサンパウロ市街の写真の対比を交えつつ、今福が選んだレヴィ=ストロースの『悲しき熱帯』等の文章と彼の文章の抜粋を綴っている。〔桜井 敏浩〕


〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕
 

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移民の譜(うた) ―東京・サンパウロ殺人交点 
 

麻野 涼 徳間書店(文庫) 2008年6月 621頁 914円+税 −『天皇の船』 文藝春秋 2000年刊改題

 

新宿でかつて移民送り出しを行い、その業務を担当していたことのある国際協力事業団の総裁がホームレスの男に刺殺された。 一方サンパウロで警察や司法の手から逃れている過去に悪辣な犯罪的行為を行った者を追い詰め惨殺する秘密私刑組織に日系老人が射殺され、両者とも戦前使われた旧百円紙幣が絡んでいた。

過去のリオ・グランデ河の移住地で起きた一家殺しや、続いて東京とサンパウロで次々に起きる殺人事件の謎をそれぞれ追う日本とサンパウロの新聞記者が、その背景にはブラジルへの日本人移民史の暗部である勝ち組と負け組の抗争と、その混乱期に勝ち組の間で荒稼ぎした偽皇族や無知な移民に旧円紙幣を売りつけた詐欺事件、そして戦後トルヒーリョ独裁時代に送り込まれ惨状をきわめたドミニカ移民が関係していることに辿り着く。

東京とブラジルでのいくつもの事件と、それらに関わる意外な関係者達を登場させながら、日本人移民史の中で暗躍した者達と彼らへの復讐を行っていく過去の被害者の子弟、事件の解明に迫る日系人記者とその恋人などの日本・ブラジル両国にまたがる複雑な交錯を描いて、一気に読ませる長編サスペンスである。

こういった移民や日本への出稼ぎ南米人、ブラジル人の日常生活を交えた題材での描写は、得てして誤解や現実とは違う表現の著作が少なくないが、本書はきわめて正確かつリアリティがある。それは著者が実はブラジル移民を追った『蒼茫の大地』(講談社文庫 1994年)、『日系人 その移民の歴史』(三一新書 1997年)やドミニカ移民のドキュメンタリー『ドミニカ移民は棄民だった』(明石書店 1993年)などの著作のあるノンフィクション・ライター高橋幸春だからである。過去の日本政府の移民政策を絡ませた復讐劇としては、アマゾン移民を扱った『ワイルド・ソウル』(垣根涼介 幻冬舎 2003年)がありこれも面白いが、本書は移民史を本格的に取り込んだ、サスペンスとして一読に値する。

http://www.bizpoint.com.br/jp/reports/sakurai/sk15_01.htm#ワイルド・ソウル 〔桜井 敏浩〕

                     

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕
 

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「出稼ぎ」から「デカセギ」へ ―ブラジル移民100年にみる人と文化のダイナミズム
 

三田 千代子 不二出版 2009年3月 288頁 2,000円+税

     
古から人の移動は文化に計り知れない大きなダイナミズムを及ぼす。日本にとってブラジルは70年にわたって制度的に日本移民を受け入れ、100年の人的交流の歴史をもつ唯一の国である。「ブラジルの日本人―去しり者」では、明治新政府以来の海外移民政策、ブラジルの移民受け入れ政策と日本移民の歴史、1920〜50年代のサンパウロ日本人共同体とその経済活動、ブラジルの「国民国家」形成と外国移民、第二次世界大戦後の日本移民の意識の変化とブラジルの「多人種多民族国家」受容を、「日本のブラジル人―来たりし者」では、デカセギ現象にみる両国の新たな関係の展開、神奈川県綾瀬市を例に在日日系ブラジル人社会とその文化の実情、デカセギ・ブラジル人の分布と多様な生活戦略、教育問題、そのデカセギを多く送り出しているサンパウロ州バストス市の「日本人村」の経済活動と社会組織、エスニシティの変化を論じ、最後にブラジルの日本人、日本のブラジル人について、もう一度概括している。

ブラジル社会人類学者である著者が、両国間の移民の社会文化史を追うことにより、ヒトの移動によってもたらされた社会と文化の変容を考察した力作である。 〔桜井 敏浩〕
    

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕
     

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ブラジル日系・沖縄系移民社会における言語接触
 

工藤 真由美、森 幸一、山東 功、李 吉鎔、中東 靖恵 ひつじ書房 2009年6月 447頁 
 8,000円+税

      

ブラジルへの1908年の最初の笠戸丸移民の4割は沖縄県出身者であり、現在日系人の1割を沖縄系が占めるブラジルの日系社会には、ポルトガル語、日本語、琉球語のバリエーションのダイナミックな言語接触があり、またアイデンティティの問題にも錯綜や軋轢が見られる。

現地語の中での生活を始めた移民は、母語日本語(沖縄のウチナと沖縄の人がいう日本本土のヤマトゥグチ)にポルトガル語の単語を混ぜる独特のコロニア語が広まる。この「言語」をめぐる移民史、沖縄系移民の言語状況、日系移民社会での日本語観を概観し、言語調査の実施と談話資料の収集によって見えてきた日系社会における言語の実態からその特徴を明らかにし、これに言語生活調査にもとづく日系と沖縄系移民社会の談話の実例を紹介している(音声資料のDVDが付いている)。

本書は、海外移民社会における日本語の実態を知らしめるとともに、単一言語で均質な言語共同体を前提とする日本語観を相対化させ、日本語・国語問題をあらためて考えさせてくれる、実証による示唆に富んだ研究論文集である。  〔桜井 敏浩〕

                   

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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地球時代の多文化共生の諸相-人が繋ぐ国際関係

浅香 幸枝編著 行路社 2009年3月 373頁 2,800円+税

  
日本における外国人登録者数が2005年に180カ国200万人を超え、ラテンアメリカからも日系人を多く受け入れていることから、多文化共生のモデルを解明するために南山大学の研究者を中心に組まれた共同研究の成果。

「第1部 多文化共生政策」では、日本と移民受け入れ国であるブラジル、アルゼンチンの多文化共生政策の比較、「第2部 多文化共生の諸相」では、実際に試みられている多文化共生教育、在日日系南米国籍者のビジネスへの挑戦、定住化にともなう日本の制度との共生、地域社会の南米出身者による宗教行事の受容に至る過程、日本からの創作民謡のブラジル文化との共生実現、「第3部 多文化共生の歴史と概念」では、インカ、アステカそれぞれの周辺諸民族との関係かの古代国家の特質、メキシコの地方先住民の地域アイデンティティと多文化共生の歴史、江戸時代の国学形成による異相との共生を探求している。

「第4部 多文化共生の懸け橋」は、現在パラグアイ、ベネズエラ、ボリビアと3人いる日系人大使との対話を通じて、多文化共生の中で生きてきた日系人の体験を語らせている。外国人との共生が本格的に始まろうとしている日本が、ラテンアメリカの多文化共生の経験からモデルないし知恵をくみ取る手がかりを得ようとする15本の論考はそれぞれに興味深く、編者の適切な解説がより理解を深めてくれる。  〔桜井 敏浩〕
  

〔『ラテンアメリカ時報』 2009年夏号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕 

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ラテンアメリカの民衆文化

加藤 骰_編著  行路社 2009年3月 293頁 2,600円+税


ポップ・カルチャーすなわち一般の人が担う文化については、これまで学問的研究分野としてはほとんど対象とされてこなかったが、本書ではラテンアメリカ社会で次々に創造、生産、消費、享受、支持され、圧倒的な影響力をもつ民衆文化に光を当てている。

今やスペイン語圏のみならず世界に輸出され多くの視聴者を惹きつけているメキシコのテレノベラ(TVドラマ)、同じくメキシコのプロレスとは違うという格闘技ルチャ・リブレ、ラテンアメリカ諸国で最も重要な宗教行事の一つ「死者の日」に対して、メキシコ社会に浸透してきたハロウィーン、メインストリームの美術に対するに民衆の間で生まれた美術を対比させる例としてのサンタ・ムエルテ(骸骨像)の図像表現、「強きを挫き弱きを助ける」貧しき者の味方として民衆から支持を受けている義賊伝説、民族衣装を織ること着ることからその意味とメッセージ性を読み取ることが出来るマヤの民族衣装、欧州で広く流布されたギアナやアマゾンの先住民に居るとされた無頭人などの怪物人種イメージ、選手の出身階層や人種がチームの試合運びにも微妙な影響をもたらすペルーでのサッカー事情、ペルー各地の箱形祭壇や焼き物、人形などの民衆芸術、タンゴ専門のダンスホールであるミロンガとアルゼンチン・タンゴの発生から現代に至る変容、かつて戦後の日本でも風靡した米国文化を具現する代表的な雑誌『リーダーズ・ダイジェスト』ブラジル版の日用品広告に見る米国式生活様式導入の考察、カトリックなどと関わり合いの深いラテンアメリカの食文化と地方料理の背景など、12 編の論考は「民衆文化」の名の下に一定の方向性をもっており、これまでに類書の少ないラテンアメリカ文化論になっている。      〔桜井 敏浩〕

              

〔『ラテンアメリカ時報』 2009年夏号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕 

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ラテンアメリカ経済成長と広がる貧困格差

丸谷 雄一カ   創成社(新書) 2009年3月 228頁 800円+税


専門書や大学の教材よりも広い読者層に、特定地域の国際情勢の潮流をコンパクトに伝えるシリーズの1冊として書き下ろされたもので、ラテンアメリカ経済に関心をもつ初心者にも分かりやすく、幅広い諸問題を網羅した内容の充実した概説書である。

ラテンアメリカ諸国の経済の多様性、先コロンブス期から新自由主義経済に至るまでの経済発展の歴史的過程、全般ならびに主要国の経済の現状、貧困格差、経済開放にともなう産業構造の改革、再び注目されるようになった一次産品輸出、大規模開発による環境、左派政権の台頭という今日の問題を4つの章で解説した後に、1980 年代後半以降に本格化した民営化の動きと域内だけに留まらず世界で活動する主要企業、注目企業という、変わりつつあるラテンアメリカ経済の実態を紹介し、最終章でラテンアメリカと日本の経済関係について、移民とデカセギ、ODA、貿易を取り上げている。    〔桜井 敏浩〕

 

〔『ラテンアメリカ時報』 2009年夏号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕 

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「帝国アメリカ」に近すぎた国々 ラテンアメリカと日本

石井 陽一 扶桑社(新書) 2009年6月 206頁 720円+税


メキシコの独裁者であったポルフィリオ・ディアスの言葉に「哀れメキシコよ、米国にあまりに近く、天国からあまりにも遠い」から題名を取った本書は、長くラテンアメリカ地域論としての研究を続けてきた著者が、最近のラテンアメリカの情勢を分かりやすく解説したものである。

国際金融危機は人災であると弾じる序章から始まって、1970年代から80年代にかけて先行的に取り入れたチリとメキシコと90年代のワシントン・コンセンサスにより各国が受容した新自由主義経済の経緯と結果を解説し、21世紀に入っての新自由主義への反旗としてのベネズエラのチャベス、ボリビアのモラレス、エクアドルのコレア、ニカラグアのオルテガなどの反米中道左派政権を紹介している。次いでラテンアメリカの安全保障を規定しているリオ条約(米州相互援助条約)と日米安保条約を比較し、これらの状況を踏まえた日本の対ラテンアメリカ政策のシナリオと、ラテンアメリカから示唆される日本のODA、農林業改革、安全保障についての提言を試みている。  〔桜井 敏浩〕

                 

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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図説ラテンアメリカ経済
 

宇佐美耕一、小池洋一、坂口安紀、清水達也,西島章次、浜口伸明  
日本評論社 2009年4月 128頁 2,400円+税

   
同じ出版社から出た小池洋一他編 『図説ラテンアメリカ ―開発の軌跡と展望』(1999年)を引き継ぐ全面改訂版だが、経済問題に絞っている。

内容は、

 1.「一次産品輸出から輸入代替化工業」、2.対外債務危機、インフレ、通貨危機を扱った「マクロ経済の諸問題」、3.ネオリベラリズム、経済改革などの「経済自由化」、4.ポピュリズムと大きな政府、財政、社会保障、左派政権の躍進を採り上げた「経済発展と政府」、5.国営、民族系、多国籍企業を考察する「経済発展と企業」、6.教育、技術を含む「人的資本と技術開発」、7.貧困削減のために試みられた政策を含む「貧困と格差」、 8.「農業と農村」、9.貿易、資本と人の移動から見る「経済の グローバル化」、10.その歴史と1990年代以降の統合、インフラ協力を扱った「地域統合」、11.復権した「新一次産品輸出経済」、 12.危機に瀕する自然、都市環境の悪化、環境保全への挑戦といった重要な課題がある「開発と環境」、13.貿易、投資、ODAで見る「日本とラテンアメリカ」 と、いずれもラテンアメリカ経済の発展と構造の変化の全体像を、簡潔な文章と多数の図表により、分かりやすく解説している。ラテンアメリカ経済を知るうえでの副読本的な資料集として有用である。〔桜井 敏浩〕
     

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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100年 ―ブラジルへ渡った100人の女性の物語』 

サンパウロ新聞社編 ファイル 2009年2月 215頁 1,500円 +税


ブラジルの邦字紙が2008年の日本人ブラジル移民100周年記念事業の一環として連載した「伯国の大地に生きる日本女性物語」の集成。

ブラジルへの初期の日本移民先駆者の婦人たちがどのような思いで生きてきたかを記録し、国際人として生きてきた日本女性の生き様を知ってほしいという意図から、両国語で刊行されたうちの日本語版。

日本からブラジルへ移民した人々のほとんどは、父が夫が成功を夢見て反対する家族や妻を同行したものである。過酷な労働の中で、家事、育児に苦労を重ねた女性の内助の功によって日系社会は発展してきた。北はアマゾンから南部州まで、100人の女性の証言を各2頁で綴り、日本人移民史年表を付けている。

女性たちの生き様は男性以上に逞しく、日系団体の催しの裏方や農協、文化団体で活躍する行動力と包容力を兼ね備えた姿は、移民史料がとかくこういった市井の側面に触れていなかっただけに貴重な記録である。 〔桜井 敏浩〕

                  
〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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ブラジルの都市問題 ―貧困と格差を越えて

住田 育法監修 萩原 八郎・田所 清克・山崎 圭一編 春風社 2009年1月 340頁 3,619円+税


ブラジルの都市問題を、3大都市を例に様々な切り口から13 人の研究者が分析、解説している。まず歴史編として、19 世紀から20 世紀にかけてのブラジルにおける都市化の歴史から、旧首都リオデジャネイロの都市形成と土地占有の歴史、ブラジリア建設の成り立ちと衛星都市を概説し、現代編ではまずリオのインフラストラクチャーの不備により生じる断水、停電の改善、ブラジリアにおける都市流入者の増大にともなう土地占拠と路上等でのインフォーマル労働の増加という2つの不法問題、リオとブラジリアの都市住環境開発と公共政策の比較、サンパウロの都市問題に対する州と市の役割分担、サンパウロの東洋街の新伝統行事にみる日本文化表象の形成を取り上げている。

さらに現代ブラジルの貧困問題を政治地理学的に解析し、いくつかの都市で採られるようになった住民「参加型予算」の動向と課題、土地無し農村労働者運動(MST)の事例と教訓、それに対するにサンパウロ州リベイロンプレット市グアタパラの事例といった新しい問題が紹介されている。

昨今のラテンアメリカのいわゆる左傾化という政治の動向が貧困格差の是正、都市の課題解決につながる望ましい動きとは楽観出来ないという編者の意図のとおり、都市問題の複雑さ、立場の違いによる利害の不一致など解決が難しいことの一端が窺える。 〔桜井 敏浩〕 


〔『ラテンアメリカ時報』 2009年春号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕 

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21 世紀ラテンアメリカの左派政権:虚像と実像

遅野井茂雄・宇佐美耕一編  アジア経済研究所 2008年11月 347頁 4,300円+税

21 世紀に入ってラテンアメリカでは左派政権が数の上では主流になった。ここで「左派」というのは、伝統的な左派政党、民族主義とポピュリズム、農民運動や先住民運動等の社会運動にそれぞれ起源をもつ政権を意味するが、現代ラテンアメリカの左派政権はチリ、ブラジル、ペルー、コスタリカといった穏健左派と、キューバ、ベネズエラ、ボリビア、エクアドル、それにアルゼンチンの急進左派に二分できる。

本書はラテンアメリカ全体の左派政権登場の新たな波についての解説とともに、これら9カ国の政権の成立の背景と基盤、その社会、経済、外交政策、課題を、それぞれの地域専門家が分析したものである。

左派政権が多数出現したのは、一向に解消されない貧富の格差や、1990 年代の新自由主義への反動、強大な米国への反発といわれているが、大統領選挙時やその後の言説と実際の政策との間には各国で差違があり、上記二分法では収まりきれない多様性があることが分かる。一人歩きした観がある「左派政権」という虚像に対し、それぞれの国の事情を背景にした現代ラテンアメリカの諸問題の実像を知るために適切な解説書である。〔桜井 敏浩〕

                    

〔『ラテンアメリカ時報』 2009年春号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕 

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「もうひとつの失われた10 年」を超えて―原点としてのラテン・アメリカ

佐野 誠  新評論 2009年2月 299頁 3,100円+税


日本はバブル経済収束の経済金融政策の誤りから生じた1990年代の失われた10 年に続いて、1980 年代以来の経済自由化、規制緩和、「小さな政府」推進という構造改革によりさらに失われた10 年を過ごしつつあるが、こういった問題の究極の原点は1970年代以降のラテンアメリカが経験してきたことにみられるとの認識を著者はもつ。

構造改革は何をもたらしたか? という観点から、新自由主義改革より大量失業を生じ雇用対策に追われたアルゼンチン、グローバリゼーションの荒波に翻弄されたフジモリ政権下での小零細企業の経験を、現地調査による事例をまじえて分析している。さらに新自由主義とポピュリズム、ブラジルのレアル・プランに見られる「社会自由主義」の開発パラダイムを比較分析した後、ラテンアメリカからアジアに至るまで広く適用されたIMF モデルを批判し、1970 年から90 年にかけて主要国で実施された労働改革−雇用の柔軟化の理論と現実に近年のラテンアメリカの左傾化の一因を見、経済自由化と通貨・金融政策による資本流入のマクロ経済への負の効果までを解析し、新自由主義とその補正に因る「政治的景気循環」サイクルを批判している。

前書『ラテン・アメリカは警告する「 失われた10 年」を超えて―ラテン・アメリカの教訓』(内橋克人・佐野誠 新評論 2005年)に続くもので、新自由主義サイクルの罠にはまり「低開発」社会への道を迷走する日本や先進工業地域と、膨大な農村の貧困地域を抱える中国のブラジル化、そしてアジアの格差拡大など、これら東アジアの「ラテンアメリカ化」を警告する。 〔桜井 敏浩〕                    

〔『ラテンアメリカ時報』 2009年春号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行

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アメリカス世界のなかの「帝国」

天理大学アメリカス学会編  天理大学出版部発行  むさし書房発売 283頁 2005年11月   2,100円+税


北米の視点から中南米を、中南米の視点から北米を、南北アメリカの政治・経済・文化・歴史等を比較研究するという趣旨で同大学に設けられ10年を迎えるが、本書は学外の研究者の寄稿も含めた単行本版論集。

アメリカス世界の中で、米国の"帝国"としての諸相を「セオダー・ルーズヴェルトとアラモ」(島田眞杉京都大教授)から始まり、「ブラジル帝国の建国と記憶のかたち」(金七紀男)、「メシカの年次祝祭における支配原理の表出」(山本匡史)ほかの歴史、「反米・反帝国主義者チャベス大統領の歴史認識」(野口茂)や「<帝国>と宗教―ブラジル・プロテスタント教会の成長戦略」(山田政信)などの現在に至る論考が12編、「国際的労働力の移動―資本主義世界経済における周辺国としてのブラジル」(矢持善和)や「マリアノ・アスエラのメキシコ革命小説『虐げられし人々』を再読する」(片倉充造)など、6編の南北アメリカの歴史、経済、政治、言語、文化、芸術等の論考を収録している。
〔桜井 敏浩〕

 

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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サンパウロへのサウダージ 

クロード・レヴィ=ストローズ 今福 龍太訳・著 みすず書房 2008年11月 203頁 4,000円+税

 

1930年代のブラジル旅行とアマゾンの先住民族との出会いを描いた『悲しき熱帯』(1955年)を著したフランスの世界的な社会人類学者であるレヴィ=ストローズによる1930年代半ばのサンパウロ写真集に、現代日本の気鋭の文化人類学者である訳者のブラジル省察、写真とをコラボレートさせた写真と文章の本。

時代は違っても、二人の文化人類学者がサンパウロの街路にSaudade(喪失と憧憬の感情)を感じ取った静かな、知的刺激に満ちた探求の随想である。    〔桜井 敏浩〕


〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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ブラジル人児童と先生のためのポルトガル語コミュニケーション 

田所 清克、伊藤 奈希砂、ペドロ・アイレス共著 国際語学社 2009年5月 207頁 1,500円+税

約30万人いるといわれる在日ブラジル人のかなりの人たちが、数年間の"デカセギ"から滞在が長期化、定住化が増大している。それとともに以前にも増して深刻な課題になってきたのが、その子弟の教育問題である。しかも、昨今の世界同時不況による企業の生産縮小によって雇用や就労条件などで真っ先にしわ寄せを受ける非正規労働者が大半の彼らにとって、月に一人当たり4,5万円はかかるといわれるブラジル人学校へ子弟を通わせることの負担は大きく、少なからぬ子供たちが学校へ行かなくなるか、日本の公立学校への転入学を余儀なくされている。

日本の公立学校に入る場合は、日本語がよく出来ない保護者と当の児童、ポルトガル語を解さない教員にとっては、初めての登校時に学校生活がどういうものか? どのような手続や持ち物などの準備をしたらよいか? などから始まって、学校生活の中での行動や会話、先生や友達との付き合い方など、互いに意思の疎通に苦しむ場面が多い。

本書は、このような学校現場での様々な場面での初期段階でのやり取りを、日本語と片仮名の発音付きポルトガル語の対訳で聞く・答えるという問答集の形で懇切に示しており、互いの言語が判らなくても、指さしで意思を通わせることが出来るように工夫されている。巻末には、「先生のためのポルトガル語教室」とブラジルの国情、社会、文化、教育制度の概説と日本における日系ブラジル人児童教育の課題を指摘した「ブラジルを識るための10章」も付されており、教員等のポルトガル語とブラジルへの理解を助けている。

こういった現場レベルでの対話の成立こそ、在日ブラジル人の子供たちの不登校を減らし、周囲の日本人の子供たちや教員、父兄との交流を円滑にする身近な国際化の実践に寄与することは間違いない。〔桜井 敏浩〕

                   

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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ブラジル人の就職に役立つ会話集 

田所 清克・伊藤 奈希砂、 ペドロ・アイレス国際語学社 2009年4月 125頁 1,200円+税


現在国際金融危機から世界同時不況が発生し、日本でもとくに自動車など輸出関連の製造業などが大きな打撃を受け、多くの企業・工場が操業短縮による在庫・生産調整を行っている中で、コスト削減のための雇用調整まで行っている事例は少なくない。その場合、真っ先に削減されるのが非正規雇用である派遣労働者であり、多くは日系ブラジル人等のいわゆる"デカセギ"である。

失業した彼らに対して、ブラジルで募集して就職を斡旋した派遣業者も、これまで有用な低廉労働力として使ってきた企業も直接雇用ではないとして、その再就職の世話には冷淡である。日本で数年働いてきたとはいえ、多くは主に機械的な作業を担当してきたこれらブラジル人の多くは日本語も十分ではなく、ハローワークや行政機関に行っても思うように意思の疎通を図れないことが、厳しい雇用情勢のなかで一段と再就職を難しくしている。

本書は、こういったブラジル人がハローワークに行って仕事を探す、相談員とやり取りをして仕事の内容や条件を確認する、実際の雇用企業へ赴き面接を受ける、履歴書や求職申込書を作ってみるなどの、最も基本的な行動を取る際の、最小限必要な会話と資料のポルトガル語・日本語の対訳集である。ブラジル人がこれを用いて会話し、あるいは該当する文を指さしすれば、葡語の分からない日本人もまた葡語発音の振り仮名により会話し、指さしすることで意思の疎通が出来るように工夫されている。

この本の執筆・出版の動機は、現場レベルで具体的に困窮の極みにある在日ブラジル人を支援したいという温かい思いにある。ブラジル人の窮状に対する多くの言葉による同情や提言よりも、いま必要なのは現実の問題打開のためにすぐ実際に役立つツールの提供である。本書が在日ブラジル人はじめ彼らと接触する行政の担当者の座右に置かれて威力を発揮することが望まれる。    〔桜井 敏浩〕

 

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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ブラジル ナショナル・プロジェクト3社の社史

『日本ウジミナス五十年のあゆみ [鉄は日伯を結ぶ]』

日本ウジミナス五十年のあゆみ編纂委員会編 日本ウジミナス  2008年4月 225頁 非売品

「50年の進歩を5年で」を標榜し基幹産業育成を図ったクビチェック大統領から一貫製鉄所建設への協力要請に応じて、1957年に日本ウジミナスが設立され、以後50年の建設、経営、拡張への協力、国営化とインフレによる日本出資比率低下、外貨危機による返済遅延、民営化等々の苦難の時代を経て、経営状況が様変わりし累損解消から新日鉄の直接参加など日本ウジミナスがウジミナス経営の存在感増すに至った経緯を詳述。

(連絡先:日本ウジミナス梶@電話 03-3201-6501)
  

『アマゾンアルミ・プロジェクト 30年の歩み』

日本アマゾンアルミニウム梶@2008年3月 162頁 非売品

わが国のアルミ資源の安定確保を目指したナショナル・プロジェクトが幾多の困難を乗り越えて成果を上げるに至るまでをまとめた社史。工夫をこらした豊富な資料は、非鉄業界に縁のない読者にも理解しやすい。

(連絡先: 日本アマゾンアルミニウム梶@03-3278-8831)
   

『日伯農業開発協力株式会社社史 −ブラジル・セラード農業開発協力事業30年の記録』

日伯農業開発協力株式会社 433頁 2007年12月 非売品

  
酸性土壌の荒野を一大耕地に変え、ブラジルの大豆を主要輸出産品にしたセラード農業開発事業の成功には、日本は技術、資金、経営指導など様々な分野で大きく貢献している。その推進には日伯合弁の農業開発会社CAMPOが事業地の選定と取得、入植農家の選定、技術指導等を行い大きな役割を果たしたが、その日本側出資会社の専務として、セラード開発協力に当初から長年尽力してきた足利和己氏が執筆した30年にわたる事業の詳細な記録。

(連絡先:代表清算人 永井 英 snagaijadeco@msg.biglobe.ne.jp)  ― (社)日本ブラジル中央協会
『ブラジル特報』「新刊書紹介」より転載
  

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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逆さまの地球儀 ―複眼思考の旅

和田 昌親 日本経済新聞出版社 2008年12月 247頁 1,900円+税

 

地球儀を逆さにすると欧米や日本などが赤道の下になり、南米やオーストラリア、南部アフリカが上になるが、時としてこういった視点で世界を見る複眼的な思考が必要と、日本経済新聞のサンパウロ特派員をはじめニューヨーク、ロンドンに駐在した著者が多岐な題材を駆使して国際人の必要条件を説く。

北では非常識とみなされることは南では常識ことを、豊かなアルゼンチンの経済破綻、ブラジル経済の復活、NAFTAに入ったメキシコなどを概観した後、1980年代の累積債務問題について、「貸した側が悪い」「国は国、個人は個人」という"南の論理"、中南米特有の借金感覚という、異なる借金文化を紹介する。禁酒・禁煙運動、セクハラ防止、環境保護などをヒステリックな段階まで進んでしまうアングロサクソンに対し、それらでも何らかの逃げ道を残し、人生をエンジョイするのがラテン系とするなら、日本人はアングロサクソン流の規律への過剰反応が見られるものの、本来は村社会やお祭り好きな点でラテン的、玉虫色解決など許容範囲広い、柔軟な思考が出来る筈という。

南北を縦断する旅をすれば、「ラティーノ」が次第に人種構成でも、文化でも大きな部分を占めるようになってきた米国の実態に気がつく。かつての米国の"裏庭"では、ボリビア、エクアドル、ベネズエラ等の国々で左翼政権が次々に出現し、南の国々は自己主張を強めているのである。

著者の東西南北を飛び回る知的関心が旺盛な旅は、読む物を飽きさせないが、やはり気になるのはいびつな国際化といわざるをえない、外から見た日本の将来である。逆さまの地球儀の下にわずかに見える日本が、本当に米国追随一辺倒でよいのか? という点は、外交、安全保障だけでなく、経済、通商、金融分野でも「居心地のよさ」を捨て、米国に率直にものをいい、地域全体、他国の繁栄のためにコストを払う時期に来ていると指摘する。外を知り、内を知れば知るほど、世界から取り残された日本が心配であり、「非グローバル主義」といわれても仕方がない面を、日本語を解さない外国人には不親切、不便極まりない成田空港や、すぐれた技術力を持ちながら国際標準から外れ鎖国状態である情報通信の例を挙げて分かりやすい。

難民に優しく、待ったなしの外国人労働者の受け入れ体制を作り、日本流でよいからとにかく英語で情報の発信・受信をできるようにすることを説き、最後に「少子化日本の生きる道は3K―改革、開放、国際化である」という、知日派の前英国大使の言葉で締めくくっている。〔桜井 敏浩〕                    

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

 

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移民環流 ―南米から帰ってくる日系人たち

杉山 春 (新潮社   2008年11月 254頁 1,500円+税


日本社会には39万余の南米人が暮らしている。本書は、在日日系ブラジル人をめぐる犯罪、その犯人の母国への逃げ帰り、子弟の教育や就職に立ちはだかる排他的な日本社会の現況、彼らの親たちの意識などの問題を正面から取り上げ、日本で犯罪を行いながらブラジルに逃亡した容疑者をその故郷にまで追い、デカセギからの帰国者のその後の生活と心情を現地にまで取材したドキュメンタリー。

日本人のブラジル移住が始まってから100年、一世、二世と、現在の日系人の考えや生き方は大きく変わってきていているところへ大量の日本へのデカセギの輩出は、ブラジルでの日本人共同体を変質させている。一方、日本社会ももはや否応なしに外国人労働者を受け入れなければ生産現場やサービス分野が回らない状況にあるにもかかわらず、共生の意識と態勢はほとんど進んでいない。
地方の南米人集住地域の行政、公立学校は対応に苦労しており、ボランティアの驚異的な働きに依存している現状の問題点を、多くの実例の取材と日本・ブラジルの識者へインタビューによって明らかにしている。 〔桜井 敏浩〕
                          


〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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遠くにありてつくるもの ―日系ブラジル人の思い・ことば・芸能

細川 周平 みすず書房 2008年7月 474頁 5,200円+税

  
2008年は日本人ブラジル移住100周年。離郷した日本からの移民の郷里に向け「思い」「情け」「郷愁」の探求という、従来の学術的な移民研究ではあまり掘り下げられなかった観点から調査を行った労作。

祖国敗戦を認識しても、日系ブラジル人としてすぐに新たな帰属意識を心の底から受け入れた訳ではない、むしろブラジルにいるからこそ「日本人」という出自を気にする離郷経験の心向きと行動との結びつき(迂回)を、移民の作った短歌、俳句、川柳から探っている(第T部)。この迂回が顕著に出てくるのがことばであり、外国語となった日本語にポルトガル語からの借用が頻繁に用いられる、いわゆるコロニア語が出来た。一方、著者は1920年代に青年移民が持ち込んだ弁論大会から、日本語が少数民族語になったブラジルでの民族思想の表現を、また日本語が先住民ツピ族のことばと同じ源から発しているという新聞人香山六郎の説を検証することによって、戦後暫くまでブラジルでは正式の国民のメンバーとみなされていなかった日本人が、ヨーロッパ人の到来・移民より先にいた部族の兄弟であるという政治的含みをもった主張を生み出したことを例証している(第U部)。

第V部は、『サンバの国に演歌は流れる ―音楽にみる日系ブラジル移民史』(中公新書、1995年)などの著書のある著者の得意分野である芸能分野からの検証である。「マダム・バタフライ」を演じた3人の日本人歌手に対する邦字紙とポルトガル語紙の記事比較、近年多くなってきたカルナバルへの日系人の参加、日系ブラジル人の間で移民史の有名無名人の物語を語る創作浪曲は、本書のテーマである情けに浸った典型的芸能として最後に論じられている。

これまでの移民史研究にない、移民たちの心に生じた矛盾を包含する心意・心象を見据えた興味深い史料である。  〔桜井 敏浩〕  
                       

〔『ラテンアメリカ時報』2008/9年冬号(No.1385)掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕 

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社会の鏡としてのブラジル文学 ―文学史から見たこの国のかたち

田所 清克・伊藤 奈希砂 国際語学社 2008年9月 487頁 4,500円+税

    
日本において比較的読まれるようになってきたラテンアメリカ文学の中で、スペイン語に比べるとポルトガル語を解する日本人は少ないこともあってか、ブラジル文学は依然マイナーな位置にある。大きな魅力をもったブラジルを知る上で、社会史、文化史の一つとしてその文学を知ることは大いに有益である。

本書はブラジル文学を詳細に時代区分し、1500年から現代に至るまで、それぞれの時代の特質、歴史的・社会的背景を解説して、代表的な文学作品の著者、著作、その時代性と意義などを紹介している。日系コロニアの日本語文学の章も設けられており、田所教授(京都外国語大学)の収集した膨大な文献・資料からの豊富な引用訳文、資料写真、年表、邦訳文献・参考文献リスト、索引も付されていて、ブラジル文学の背景にある時代性と思想、文化性も分かり、全体像を掴むよい手がかりとなる労作である。       〔桜井 敏浩〕
                          

〔『ラテンアメリカ時報』2008/9年冬号(No.1385)掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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アマゾン源流「食」の冒険 

高野 潤     平凡社 新書 2008年6月 208頁 860円+税

   
25年にわたってアンデスやアマゾンを撮り続けきた写真家の過酷な取材の旅の中で、食と酒、飲み物に焦点をあてた、まさしく冒険的食生活の紹介。アマゾン河流域に暮らす人々の主食ともいえるバナナ、ユカ(マンジョカ)、ピラニアや巨大ナマズなどの多種多様な川と湖の魚の調理法、森と川のキャンプ生活での野外料理と旅の携行食料の工夫、蒸し焼きと薫製や干物その他の保存食の知恵、旅の携行酒と自家製酒醸造、そしてコロンビアの女性ゲリラ兵士も出入りする村の食堂、町や都会のレストランの料理、市場の素晴らしい味の熱帯果物、薬効があると信じられている蛇の脂や樹皮、樹液、根茎などを紹介している。

豊富な著者のアマゾン体験の中での見聞と写真は、読者にあたかも一緒にアマゾン河の探索旅行に行ったような気分にさせてくれる。    〔桜井 敏浩〕

                         

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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日本で最初の喫茶店「ブラジル移民の父」がはじめた ―カフエーパウリスタ物語

長谷川 泰三 文園社 2008年11月 254頁 1,700円+税

1908年の笠戸丸によるブラジルでのコーヒー豆採集の労働者として日本人移民事業は、失敗に終わって会社は倒産したが、後に「ブラジル移民の父」といわれる水野龍はサンパウロ州政府との移民送り込み契約を果たすべく尽力していた。サンパウロ州政府はその功績を認め、事業継承移民会社の救済とブラジル・コーヒーの日本での宣伝の意味で、水野にコーヒー豆の12年間の無償供与を行った。

そのコーヒー豆の販売のために明治43年に設立されたのが「カフエーパウリスタ」であり、同年箕面に、半年遅れて銀座に、次いで道頓堀に焙煎、販売とコーヒーを飲ませる店を開業した。社名は第二次世界大戦中に日東珈琲と変えざるをえなくなったが、喫茶店は現在も銀座8丁目の中央通りに面して健在である。

水野龍によって日本移民のコーヒー農園労働の辛苦と努力を伝え、サンパウロ州政府の負託に応えるべく起業されたカフエーパウリスタだが、まだ日本人がコーヒーに馴染みが薄かった明治末期から大正時代のハイカラ嗜好にのって銀座に華開いた新しい文化の象徴として、多くの著名人、芸術家、作家などを惹きつけた日本の喫茶店文化の草分けとして、またコーヒーとともに供したケーキや洋食などにより、日本の食生活の洋風化にも大きな影響を及ぼした。

筆者は日東珈琲の前社長。日本移民の貢献に対してサンパウロ州政府の好意により始まったカフエーパウリスタが、日本でコーヒーを普及させ世界第3位の消費国までにし、日本の食品業界の多くの人材を送り出したことを、様々な資料により愛着を込めて描いている。〔桜井 敏浩〕

    
〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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新たな交流に向けて - 日本ブラジル交流年・日本人ブラジル移住100周年記念特集誌

(社)日本ブラジル中央協会編・発行 2008年12月 118頁

 

2008年は日本人ブラジル移住100周年の年にあたり、両国政府に
より「日本ブラジル交流年」と定められ、両国で公式記念式典が
様々な形で行われたが、創立76年となるブラジルとの民間交流
窓口である(社)日本ブラジル中央協会が、これを記念して発行し
たブラジルの総合的な概説とさまざまな分野の人によるエッセィ集。

第1部の祝辞に続いて、第U部では日本とブラジルのこれまでの
交流、今後の拡大について、概説、貿易、日本にとってのブラジル
の食糧、対ブラジル投資、ナショナル・プロジェクトの役割と展望、
ビジネスから見た交流、日系コロニア社会と在日ブラジル人問題
という他国とは異なる人的関係、日本とブラジルを結ぶ文化交流、
ブラジルの文学、映画、音楽について、それぞれ専門家が執筆し
ており、「日本ブラジル交流年」実行委員会副委員長を務めた鈴木
勝也元駐ブラジル大使(協会理事長)がこれからの100年の両国
間交流をどう盛り上げるかを総括している。

第V部「ブラジルと私」は、実に多方面の人たちによるこれまでの
ブラジルとの関わりを綴ったエッセィ集であり、日本とブラジルとの
現在に至る交流を多くの日本人が熱心に推進し、それを好意的に
見ていることを感じさせる。 〔桜井 敏浩〕

表紙(縮小)0901.JPG (23585 バイト)


(詳細はhttp://www.latin-america.jp/modules/weblinks/visit.php?lid=394
頒価
-送料込み1,300円。申し込みは同協会事務局へ
メール:
nipo-rasil@hysm.ftbb.net Fax 03-3597-8008

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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燃料か食料か ―バイオエタノールの真実 

坂内 久・大江徹男編 日本経済評論社 2008年7月 292頁  2,600円+税

世界的な地球温暖化傾向への警告として、エタノールなどのCO2をこれ以上増やさないエネルギーへの関心が高まっている。最近の原油価格の高騰が、これら再生可能エネルギーの採用を大きく後押ししている。

ブラジルは第一次石油危機の直後の1975年に国家プロアルコール計画を採用し、主にサトウキビを原料とするアルコール(エタノール)を燃料とする自動車の普及に力を注いできた。その後補助金による支援は無くなったものの、現在ガソリンにエタノールを25%程度混入しており、またいかなる割合でガソリンとエタノールを給油してもエンジンが自動的に対応するフレックス車の普及により、広くエタノールが使われている。広大な農耕可耕地をもつブラジルは、サトウキビによるエタノール生産では、トウモロコシによるエタノールを生産する米国に次いで世界2位だが、輸出余力という点では量的にもコスト的にも断然世界一である。

一方、米国のブッシュ政権は国内産業界の経済的利益から、先進国の中で唯一京都議定書の枠組みを拒否しているが、この数年はエタノール使用の推進を打ち出している。

本書は、ブラジル、米国、中国のそれぞれの国でのエタノール生産、EUでのバイオ燃料政策、東南アジアでのパーム油によるバイオ・ディーゼルの生産を紹介し、米国の環境政策とバイオ燃料をめぐる産業間の対立と協調、エタノールと米国のトウモロコシ生産、価格の変動、そしてセルロース系の非食料原料によるエタノール生産開発の現状と環境・食料への影響を、7人の研究者が分析しているが、まさしく「燃料か、食料か?」「エタノールの生産とその使用をめぐる世界の情勢はどうなっているか?」という今日大きな関心を集めているこの非化石燃料の実情を理解する上で、極めて適切な一冊である。    〔桜井 敏浩〕

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕           

 

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日本から一番遠いニッポン ― 南米同胞百年目の消息

三山 喬 東海教育研究所発行・東海大学出版会発売 2008年6月 342頁 2,800円+税

    
朝日新聞で13年間記者をした後、リマで邦字紙『ペルー新報』の記者をしながら南米取材を続けてきたフリージャーナリストによる南米日本人移民のドキュメント。

ボリビアの奥アマゾン河上流の僻地には、今なお日本名の地名や姓をもった人たちがいる。ペルー移民のアマゾン・ゴムブームを目指したアンデス下りの日本人の末裔たちだが、現地の女性と結婚して出来た二世、三世には日本語はもとより日本文化・慣習の痕跡はほとんどない。ペルーには日系二世の闘牛士がいるが、当時のペルー社会の排日気運の残りから日本人の血が入っていることは恥ずかしかったという。ブラジルでは勝ち組テロの記憶、在日ブラジル人若者の社会問題、アマゾン移民の現実、邦字紙記者仲間を取り上げているが、そこに共通するのは移住者が常に直視させられる「同化」か「非同化」という自問である。

ブラジルの勝ち組・負け組抗争にしても、負け組が現実を認識してブラジル社会への同化で生きていかなければと考えたのに対し、勝ち組みは日本民族の独自性を維持していこうという考えだったのだが、それは現在それぞれの文化の違いを認め合いつつ共存していこうというグローバリゼーションの流れに通じるものがあると解するなど、日本も移民労働者の大量移入が真剣に考えねばならなくなっていきている現在、興味深い事例が多く一読に値する。  〔桜井 敏浩〕                      

〔『ラテンアメリカ時報』2008年秋号(No.1384)掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕
  

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中南米が日本を追い抜く日 ―三菱商事駐在員の目

石田 博士構成 朝日新聞出版 − 新書 2008年6月 223頁 720円+税

    
中南米9カ国―ブラジル、チリ、アルゼンチン、パナマ、ベネズエラ、キューバ、ボリビア、コロンビア、ペルーの三菱商事のラテンアメリカ駐在員が、それぞれの任国での仕事や生活、お国ぶり、異なる人々の暮らし、その背景にある歴史からグルメ事情に至るまで、現地の生の情報を伝えることで、遠く離れた本社の社員に身近に感じてもらおうと、本社の関係部署に毎週送ったメモを基に、朝日新聞サンパウロ特派員が各地に点在する駐在員から聞いたエピソードを交え、構成したものである。

世界の食料庫となってきたブラジルの農畜産、チリのワインや養殖鮭の対日輸出の苦労、日本市場の見えざる非関税障壁に阻まれるアルゼンチンの農牧産品、パナマ運河拡張の一大プロジェクト、世界が注目する地下資源を持つチリ、バイオエタノールの輸出国ブラジル、風力発電や自動車用水素燃料を進めるアルゼンチン、石油の国家管理を強化するベネズエラ、カストロ後のキューバなど、商社マンならではのビジネス最前線での動きが紹介されている。しかし、かつて新自由主義の実験場だったチリ、初の先住民大統領を選んだボリビア、テロとの闘いに注力したペルー、コロンビアなど、政治や社会の変化にも目を配っている。ブラジルの知られざる先端産業―航空機製造、金融や税務面で優れたブラジルのIT、情報通信産業への参画経験は、中国や南アフリカなどの新興国で活かせるはずであり、グローバル展開に繋がるとしている。

商社マンが見た資源、エネルギー、食糧の宝庫であるラテンアメリカが、いま経済成長、民主化のパワーによって大きく躍進しようとしている姿を読者に生き生きと垣間見せてくれる。 〔桜井 敏浩〕


〔『ラテンアメリカ時報』2008年秋号(No.1384)掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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アメリカ帝国のワークショップ ―米国のラテンアメリカ・中東政策と新自由主義の深層

グレッグ・グランデイン 松下 洌監訳 明石書店 2008年6月 391頁 3,800円+税

  
米国は第二次大戦後共産主義封じ込めの名の下にブラジル、チリ、アルゼンチンでクーデタを奨励してきたが、合衆国が直接的な植民地主義でなく、域外の諸国を統治する超領域的帝国としての経験を大規模にしてきた地域こそラテンアメリカだったのである。1980年代にはグアテマラ、エルサルバドル、ニカラグアで残忍な「低水準」戦争を行わせた。時の政権と軍事優先主義者、軍事産業からキリスト教福音派、自由市場主義者、ナショナリストの同盟が最初に結びついたのが、レーガン政権下での中米政策であり、それは今ブッシュ政権による「テロとの戦争」に突き進み、中東―特にイラクで行われていることの予行練習だったと理解される。

著者はニューヨーク大学で中米史、ラテンアメリカ史を講じる優れた歴史家だが、米国の外交政策とその意思決定の背後で、政治家、政府・軍事関係者だけでなくキリスト教のニューライトや市場経済主義者なども大いに影響を及ぼしていることを、チリのピノチェト政権の分析で明らかにしている。

現代ラテンアメリカの新しい世代の桃カ翼柏ュ権には、例えばベネズエラのチャベスとチリのバチェレの如く多くの相違がある。しかし、それぞれの政治スタイルや政策は異なっていても、「米国の裏庭」状態を弱めるために地域統合を前進させ、投資資源を米国以外に多角化し、成長だけでなく公平さを促進する経済政策などは共通していると見られることの背景を知るに、本書の緻密な分析は極めて重要な示唆を与えてくれる。  〔桜井 敏浩〕

       
〔『ラテンアメリカ時報』2008年秋号(No.1384)掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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夢の彼方への旅 

エヴァ・イボットソン 三辺律子訳 偕成社 2008年6月 381頁 1,600円+税

ロンドンの寄宿学校で暮らす少女マイアは、考古学者の両親を事故で亡くし、マナウス郊外で天然ゴム事業を経営する遠縁に預けられるべく、家庭教師のミントン先生とともにブラジルへ向かう。ゴム景気でアマゾン河中流のジャングルを切り開いたマナウスは、ヨーロッパ文明を持ち込んだ美しい町だが、養親一家はマイアのために送られてくる養育費目当てで引き受けたであり、双子の姉妹がことある毎に意地悪をする。しかし、ミントン先生や博物館長の理解もあって、マイアは次第にアマゾンの自然と人、生活に魅せられ、調査中に事故死したイギリス人博物学者の遺児フィンと知り合い、先住民とも馴染むようになる。

フィンの亡き父は貴族の次男で、長男が落馬死で跡取りがなくなった祖父が、血筋の続く後継者を求め連れ帰るべく探偵を雇ってマナウスまで探索の手を伸ばしてきた。その情報提供者への懸賞金に双子の姉妹は色めきだちマイアの行動を探り、ついにその居場所を突き止め通報するが、実はそれはフィンが旅芸人一座から抜け出したクロヴィス少年を身代わりに立てて、マイアと博物館長の協力を得て仕組んだことだった。

イギリスへ帰り貴族家の孫の演技をするクロヴィス。他方亡きインジオの母の郷里のシャンティ族の地に向かうフィンとマイン、それを追うミントン先生と彼女に好意をもつようになった博物館長。

彼らはシャンティ族に迎えられ、その仲間として扱われて幸せなひとときを過ごすが、"救出"に来た河川警察に連れ戻される。マインとミントン先生はこの行動で遺産管理人から帰国を命じられ、クロヴィスの告白によって祖父が倒れたとの急報に責任を感じたフィンとともにイギリスに戻るが、最後は3人は再びアマゾンに戻ることができるようになる。

マイアやフィンの数奇な出自とそれから生じるミントン先生やクロヴィス、養親一家などを巻き込んだドラマを、アマゾンに暮らす先住民の自然との共生生活、マナウスの社交界、20世紀初めのゴム採集業などを背景において、ストーリー展開は飽きさせず児童書ながら大人にも一気に読ませる。 〔桜井 敏浩〕
                           

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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サンパウロ市生まれの二世たちの眼差し ―ブラジル社会への同化 横田パウロ

"O Olhar dos Nisseis Paulistanos" Paulo Yokota 

Editora JBC  2008年6月 葡語274頁・日本語訳249頁・写真16頁  
非売品 〔ポルトガル語・日本語〕

    
1964年に発足した軍事政権で、農相、企画相などを歴任し"ブラジルの奇跡"を主導したデルフィン・ネット サンパウロ大学教授の門下生として、中銀理事やINCRA(国立殖民農地改革院)総裁などとして活躍し、現在もコンサルタントの傍ら日伯21世紀協議会のブラジル側委員として、またサンタクルス病院理事長として社会貢献に努めている筆者の、二世としての人格形成、経験を中心にした半生記。

単なる自伝ではなく、例えば農業協同組合を含めた日系コミュニティの企業、日本からの進出企業がなぜ成功例が少ないか? 日本とブラジルの交流、グローバリゼーションが進む中でのブラジルとアジアの関係などについて、エコノミストとしてかつ政府内部関係者としての立場にいたことがある筆者の識見が随所に窺え、植木茂彬元鉱山動力大臣や、日系初の弁護士の一人である芳我貞一氏へのインタビューも収められていて、日本ブラジル関係を知る上でも有用な資料になっている。日葡語二カ国語。

(サンタクルス病院への寄付者に贈呈されているが、特別注文での取り寄せについてはJBコミュニケーション東京支店 電話 03-5685-6891 天野営業部長へ) 〔桜井 敏浩〕

                                                            〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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ブラジルの歴史 

ボリス・ファウスト 鈴木 茂訳 明石書店 2008年6月 544頁  5,800円+税


サンパウロ大学で長く文明史、政治史を講じたブラジルの代表的歴史家によるブラジル通史。ポルトガル領アメリカ植民地時代から独立以降の帝政時代、第一共和国とヴァルガス政権、第二次世界大戦後の民主主義の実験、1964年から21年間続いた軍事政権を経て民主化に移行し、カルドーゾ政権を経てルーラ大統領当選に至るまでを詳述している(2005年4月に加筆)。

歴史叙述に力点を置いているが、ブラジル史の中心的なテーマ、例えば奴隷制の性格、独立後にブラジルが分裂しなかった事由、権威主義体制から民主主義への移行の特徴などの議論と著者の見解を組み合わせている。

ブラジル史はともすれば、進化の過程であると捉える視点と、政治や社会に対する国家優位から起きる様々な問題が時代を通じて繰り返されてきたという「惰性」を強調する見方が多いが、著者はこれらとは反対に、時代を追って叙述することにより、同じ状況が続き現状追認がなされながら、政治、社会・経済は変化することを示そうとしている。

巻末には、部分的に異論があることを指摘した訳者解説、参考文献リスト、年表が付いている。同じ訳者・出版社による高校教科書訳『ブラジルの歴史』(2003年)という良書が出ているが、より深くブラジル史を知りたいという読者には本書とあわせ一読を薦める。 〔桜井 敏浩〕                  

〔『ラテンアメリカ時報』 2008年夏号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕
  

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比較政治―中南米

恒川 恵市 放送大学教育振興会 201頁 2008年3月 2,200円+税

    
現代の中南米において民主主義手法によって誕生した多くの"左派"政権の政策は多様である。経済不況・社会不安が長期にわたって続いていて、政治的な妥協と安定に不利な状況であるにもかかわらず、民主主義体制は持続し、従来の権威主義に逆戻りは起きていない。

本書はラテンアメリカ政治の第一人者である著者(政策研究大学院大学教授)が、中南米の政治を比較政治学、政治体制論によって20カ国を全体として比較し、また政治変動という点で典型的なパターンを示している5カ国を事例に取り上げ解説したものである。

まず、中南米の経済、社会、政治状況の現状を概観して、本書の焦点を明らかにし、比較政治学の中での中南米の軍事政権型、個人独裁型の権威主義体制論、民主化論、ポピュリズム体制の起源、展開、挫折、ポピュリズムという"ガス抜き"を持たなかった小国での内戦と革命、中南米での民主化の進展などを概観している。

その後アルゼンチン、ブラジル、メキシコ、ペルー、ニカラグアについて、それぞれ異なる政治的背景、推移を述べ、最後に現代中南米政治で最も目立った現象である、民主主義の持続、先住民の政治的復権、"左派"の復活を考察する。 比較政治学の精緻な理論を知ろうという放送大学の教材だが、一般読者にも理解しやすい説明になっている。 〔桜井 敏浩〕
   

〔『ラテンアメリカ時報』 2008年夏号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕
    

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ブラジル 巨大経済の真実 

鈴木 孝憲 日本経済新聞出版社 2008年6月 225頁 1,900円+税

    
ブラジル東銀、デロイト・トウシュ・トーマツ等にあって長く現地でブラジル経済ウォッチを続けてきた著者が、資源大国から経済大国に変貌しつつあるブラジル経済の魅力と最新動向を具体的な事例により解説している。

1950年代から今日に至るブラジル経済の変化を概観した後、ハイパーインフレと対外債務問題を克服して真の大国への道を歩み始め、鉄鉱石のほかにも無尽蔵な地下資源、石油自給、世界の食料供給図を塗り替えるアグロ・インダストリー、世界を動かすバイオエタノールといった巨大なポテンシャリティを持ち、主要外資が相次いで参入する第三次ブラジル進出ブームの実情、これらを受けて国際的にも展開する産業界、一方で中国製品の流入ラッシュといった、かつてと大きく変容したブラジルを紹介している。

しかし、税制、金利、大きな政府、為替の過大評価等の経済の問題点、構造改革の必要性が依然としてある一方で、様々な分野に豊富なビジネス・チャンスが存在し、カントリーリスクが著しく改善し、政治は極めて安定度が高いことを指摘している。

終章で真の経済大国に向かう今後の展望と、進出を志す日本企業への具体的なアドバイスとして、事前調査をきちんと行うこと、ブラジルを経営の世界戦略の中で位置づけを明確にし、投資規模は「小さく産んで大きく育てる」日本方式を改める、本社の直接管理をやめ人の問題を含め現地化を図ることなどを強調しているのは至言である。〔桜井 敏浩〕

                     

〔『ラテンアメリカ時報』 2008年夏号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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海外派遣者ハンドブック−ブラジル編』 

(社)日本在外企業協会 2008年3月 172頁 3,000円+税   申し込み:電話 03-3567-9271、Fax 3564-6836

     
日本企業のブラジル派遣者のために、日本の進出企業が経営上最も重要な課題である労務管理、労使関係の解説、事例、資料をまとめている。

まずブラジルの労使関係を、雇用と労使関係、労働法制、貧困と治安、企業の社会責任、日本人派遣者の心得7カ条で概説し、次いで雇用、労務管理、労使関係、マネジメント、異文化理解と摩擦、派遣者の日常生活を、それぞれ豊富な事例で解説している。

資料編として近年の個別労働法制改革の内容、現地労働事情と現地駐在に関するアンケート、ブラジル関係情報・資料などを付けている。ブラジル企業問題に詳しい小池洋一立命館大学教授を主査に、日伯紙パルプ、本田技研、丸紅、YKKなどの企業や経団連、日本労働組合総連合会国際局、在外企業協会の実務家が参加した委員会で取りまとめた。

ブラジルでの社会慣行・文化の違いや労使双方の理解不足から、派遣者が経験する恐れのあるトラブルの豊富なケーススタディは大いに参考になる。  〔桜井 敏浩〕

                    

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「ラテンアメリカ参考図書案内」に収録〕

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グローバル化時代のブラジルの実像と未来

富野 幹雄編 行路社 2008年4月 271頁 2,500円+税

     
ブラジルの過去から現在に至る実像を、奴隷制と奴隷貿易、移民受け入れから送り出しへの推移を述べた国際的な労働力の移動、都市と北東部、農村部の貧困問題と社会運動、人種と地域格差からブラジル社会の特徴である多様性と不平等を、「現下の諸相と将来への息吹」としてのファベーラの若者の音楽、そして観光、教育、民衆文化と政治、地方開発と地方財政、在日ブラジル人の定住化、さらにアグリビジネスの成長とアマゾン森林破壊という13のテーマで、それぞれの専門研究者が解析している。

広大なブラジルの多様な社会、経済、政治、文化を網羅的に取り上げ、全体としてブラジルの実像と未来像を見ようと試みたものだが、多岐にわたるテーマはそれぞれに興味深い。 
〔桜井 敏浩〕 

        
〔『ラテンアメリカ時報』 2008年夏号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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愛するブラジル 愛する日本

ブラジル民族文化研究センター編 金壽堂出版 2008年6月 174頁 1,800円+税


ブラジル日本移民100周年と同センターの創立30周年を記念して編まれた各界ブラジル関係者による寄稿文集。

「ブラジル民族文化研究センター( http://www.centro-do-brasil.com/ )」は、ブラジル文学を日本に精力的に紹介している田所 清克京都外国語大学教授が主幹となって1988年に創設された関西のブラジル文学、地域研究を勉強する人たちの集まりである。

日本ブラジル交流年・ブラジル日本人移住100周年とセンターの30周年への各界からの祝辞、毎日新聞社が所蔵する日本人ブラジル移住の貴重な写真の紹介、移民、社会・資源、文化交流、企業での経験、文学、音楽、教育など多岐にわたる分野を、延べ50人余が寄稿している。巻末には、「当センター推薦 ブラジルを知るための100点」という様々な分野の参考図書リストも載せられている。

ブラジル好き、ブラジル研究に情熱をもつ人たちの熱気が随所に感じられる構成、文章ばかりである。〔桜井 敏浩〕

                    

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「ラテンアメリカ参考図書案内」に収録〕

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目で見るブラジル日本移民の百年 −ブラジル日本移民百年史別巻
  

ブラジル日本移民史料館・ブラジル日本移民百周年記念協会百年史  編纂委員会編 風響社 2008年4月 251頁 1,905円+税

   
移住100周年記念事業として日系団体が総力を挙げて編纂する『ブラジル日本移民百年史』全5巻がこれから2011年末までの予定で刊行されることになったが、これはその第1冊別巻の写真集。

笠戸丸移民以前の先駆者、第1回の笠戸丸移民とその頃のコロノ(コーヒー農園の契約労働者)時代、日本人移住者の独立を目指しての開拓、教育、文化活動を含む日伯関係の幕開けから、戦時中と戦後のナショナリズムの狭間の排日運動、勝ち組・負け組騒動や祖国帰還を謳った詐欺事件などの困苦、在留から永住への変化と戦後移民の到着、二世の台頭と一世の成熟による日系社会の安定と発展、農業、日本企業進出と地場産業の拡大、スポーツや文化などでのブラジルへの貢献、グローバル化の中のニッケイと、それぞれに写真を集大成し、日本語とポルトガル語で簡単な解説を付けてある。巻末に地図と日本移住史年表も収録されている。

100年に及ぶブラジルでの日本人移民の足跡を物語る、実に貴重な写真が数多く収録されていて、移住の実態を目で理解するためにも有用で一見を薦めたい。 〔桜井 敏浩〕

                       

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「ラテンアメリカ参考図書案内」に収録〕

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超積乱雲 

 醍醐 麻沙夫 無明舎出版 2008年2008年3月 567頁 2,800円+税

    
ブラジルに在住する作家による、アマゾン河流域に入植した昭和初期に始まる日本人移民の喜怒哀楽を壮大なスケールで描いた大河小説。
   
11歳で両親、弟ともにマウエスに入植した池田登与子を軸に、一家の当初の開拓の苦闘、木島武司との結婚の約束、ベレンへの移転後野菜の栽培、販売で生活が軌道に乗り始めたところで、第二次世界大戦が勃発。ブラジルと日本は国交断絶し、日本人移民は苦難の生活を強いられる。トメアスにジュート、ピメンタ(胡椒)栽培の適地を求めて移動し、登与子の才覚によってピメンタで成功する。

そして終戦、サンパウロ州に旅行中だった武司は、勝ち組による敗戦認識者へのテロ抗争に巻き込まれて監獄入りを余儀なくされる。

遙々トメアスから面会に来た登与子と武司は結婚したものの、武司は旅を続け自分を見極めたいとボリビア、ペルーへ向かうが、リマでの勝ち組騒動の後、あらためて登与子への思いを自覚しアマゾンに戻って再会するまでの波乱の家族史を描いたものである。

アマゾン移民や勝ち組・負け組抗争のいきさつなど、現地に長くいる著者ならではの細部にわたる記述は、まさにひとつの移民史である。  〔桜井 敏浩〕

                   

〔『ラテンアメリカ時報』 2008年夏号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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ペレ自伝 

ペレ   伊藤 淳訳 白水社 428頁 2008年4月 2,800円+税

  
いわずと知れた「サッカーの王様」Pelé ことエドソン・アランテス・ド・ナシメントの自伝。

1940年にブラジルのミナスジェライス州の田舎町で貧しい黒人サッカー選手を父として生まれたが、膝の故障で挫折を余儀なくされた父の指導もあってフットボールの才能を伸ばし、ブラジル有数の名門クラブの一つサントス FC に入り16歳で公式戦出場、その黄金時代形成に大きく貢献した。4年に一度のワールドカップ大会にブラジル代表として4度出場、3度の優勝に貢献、生涯1363試合に出場、1281得点という前人未踏の記録を打ち立てた、フットボール史上不世出の名選手であることはよく知られている。

そのペレの誕生、幼少期、サントス入団、ブラジル代表としての4度のワールドカップ、サントス退団後に移籍した米国のニューヨーク・コスモスでの活躍、引退、そしてビジネスに手を染め、今日までを細部に至るまで詳細に述べている。

常に「美しさ」を追求したフットボールの克明なゴールの記憶以外に、二度の結婚、家族、なかでも息子の逮捕、ビジネスでの失敗、そして少なからぬ女性とのゴシップなど、私生活についても包み隠さず語っており、純粋で誠実な人柄は、サッカーファンでなくても魅力を感じさせる。
〔桜井 敏浩〕

                    

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「ラテンアメリカ参考図書案内」に収録〕

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世界史史料 7 −南北アメリカ 新住民の世界から一九世紀まで

歴史学研究会編 岩波書店 2008年3月 414頁 4,000円+税


米大陸全般の歴史を広い視点からたどるための史料集。 先住民文化から植民地社会形成、19世紀の経済発展と社会変容まで、重要な関連史料の抜粋邦訳が系統別にコンパクトな解説と組み合わせており、大変有用な資料集であるとともに、歴史読み物として拾い読みしても興味深い。

マヤ、アステカ、インカ文明に関する記述から始まり、ラス・カサスによるインディアス論争、ジャガイモ、トウモロコシをはじめ旧大陸になかった新しい食物の発見、イエズス会の布教村、植民地社会の形成、ハイチが先鞭を付けた各地域の独立と革命、貿易と大土地所有制、ラテンアメリカにおける国民統合、そしてパナマ運河建設にみられる米国の膨張と米州関係に至るまで、米州の歴史を形成した様々な史料が収められている。それぞれの分野の専門家が原史料から新たに訳し解説を付している。

コロンブス到来前から20世紀初めまでの、それも南北アメリカの長い歴史を凝縮したことから、それぞれの史料抜粋と解説とを合わせても2頁足らずであり、いささか物足りなさを感じさせる部分もあるが、アメリカ大陸の歴史の流れを原資料の一端に触れて読むことができ、是非手元におきたい有用な史料集である。     〔桜井 敏浩〕
     

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「ラテンアメリカ参考図書案内」に収録〕

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ジャパニーズ・ディアスポラ 

足立 伸子編著  新泉社 2008年4月 412頁 4,600円+税

    
北米の日系人たちは、第二次世界大戦中に強制収容という苦い経験から、戦後は日本人町といった民族集団居住地区は偏見を煽り人種差別の対象になりがちになることを怖れ、分散して住んでいる。そのため北米の研究者の間で「ディアスポラ」という概念が日系人コミュニティに当てはまるか論争が起きている。

他方、現在北米で進んでいるアジア系アメリカ人研究の中でしか日系人研究が行われ、北米以外の国に住む日本人、日系人に焦点が当てられない、日系アメリカ人研究ではあっても日系人研究ではない状況になっている。

本書は、アジアの移民先駆者の起源、日本社会から移民が出て行った歴史、日本人移住の事例として満州、フィリピン、ブラジル、カナダ、ペルー、ボリビアでの歴史と現状を考察し、日本に回帰した日系ブラジル人、シンガポールで働く日本人女性を取り上げ、各地域で多様な現実に直面していく中で、新たに創られ変容していく文化的アイデンィティを、17人の研究者が分析している。     〔桜井 敏浩〕
   

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「ラテンアメリカ参考図書案内」に収録〕
   

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悲しい物語 ―精霊の国に住む民 ヤノマミ族
 

アルナルド・ニスキエル      田所 清克・嶋村 朋子訳 国際語学社 2007年8月 30頁 1,000円+税


ブラジルとベネズエラの国境地帯、アマゾン河の森には1980年になって初めて白人との接触があったヤノマミ族という先住民が伝統的な狩猟採集生活を営んでいる。密林の中で先祖の祭りや儀礼を通じて、常に自然の精霊に畏敬と感謝の念をもって、自分たちの生存に必要最小限の獣を狩り、魚を捕り、マンジョカを植える平穏な生活をしてきた。

しかし、この地帯で金を採掘しようとするガリンペイロのならず者が、1993年のある日突然ハシムー村を襲い、16人のヤノマミ族を殺戮し家々に火を放った。ヤノマミの男たちは顔と身体を黒く塗った戦いに臨む姿で、ガリンペイロの侵入に抵抗するべく立ち上がる。

広大なアマゾンに住む他の民族も、再び襲われた時には共に闘うと約束し、部族の違いを超えて力を合わせることになった。1987年から99年にかけて、ヤノマミ族が住む土地に、彼らの人口の5倍にも相当する3〜4万人のガリンペイロが侵入し、1500人もの命を奪っている。

著者はリオデジャネイロ州教育長官を務めるブラジル教育界の第一人者だが、アマゾン河流域等で起こったゴールドラッシュの中で拡大した先住民の大量虐殺を糾弾して本書の筆を取った。エドムンド・ロドリゲスによる挿絵と簡略な文、全文の葡語対訳、訳者による字句の詳細な注釈とブラジルの先住民問題の解説が付されている。 (桜井 敏浩)

    
〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「ラテンアメリカ参考図書案内」に収録〕


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ボサ・ノーヴァ詩大全』 

坂尾 英矩     中央アート出版社 271頁 2006年2月 3,000円+税


著者は、ブラジルに渡航後、放送、レコード業界に入り、その後在サンパウロ総領事館の広報文化担当として25年勤め上げた。その間、多くのミュージシャンと親交を結び、ボサ・ノーヴァの黎明期、誕生、発展のあらゆる現場にいて、その本質、歴史を見てきた。

本書は著者が選び抜いた35曲のそれぞれにブラジル語歌詞(コード付き)に日本語訳を付け、曲の成り立ち、作詞作曲者についての解説、その曲に関わる思い出や出来事などの補遺・研究を付けてある。

誰でも知っている「イパネマの娘」*やフランス映画『黒いオルフェ』の主題歌「カーニバルの朝」などをはじめとする名曲の対訳と解説は、パラパラと拾い読みしても楽しく、特にポルトガル語を学んでいる人には堪えられないだろう。写真や当時の新聞報道、似顔絵、それに人名索引もあり、日本でも愛好者が少なくないボサ・ノーヴァが、最適の人に紹介されたことは喜ばしい。

* 蛇足 −この曲が、リオデジャネイロのイパネマ海岸にあるバーの常連ですでに名声があったトム・ジョビンとヴィニシウス・デ・モラエスが、いつも前を通り過ぎる「サンバのスィングのような歩き方」をしてする」十代後半の美少女に惚れて作詞・作曲したという誕生話はよく知られているが、後日既婚者であるトムが彼女を呼び出して求婚して振られたとか、この曲の世界的大ヒットを口火にしたように、不動産業者が当時すでに発展の余地がなくなっていたコパカバーナ海岸に代わって、イパネマ海岸の土地価格を吊り上げたという裏話も書かれている。              〔桜井 敏浩〕

    

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「ラテンアメリカ参考図書案内」に収録〕
   

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ラテン・アメリカ 朝倉世界地理講座―大地と人間の物語 14
       

坂井 正人、鈴木 紀、松本 栄次編 朝倉書店 473頁 2007年7月 18,000円+税

     
人間の暮らし方、文明のあり方や歴史も環境の影響を受ける。環境の制約の中でしか生きられないこの地球を、人類の歴史、環境と文明、文化、経済、資源、食、社会、病気などを骨格に解説した世界地理シリーズ。これまでの総合地理書とは異なり、歴史・考古学者が編集担当に入り、先スペイン期古代文明史、植民地時代史、近現代史、地理学、文化人類学、政治学、経済学、国際関係論、地域研究などの学者を動員した、多岐にわたる項目構成になっている。しかも、環境、開発、紛争、アイデンティティ、地域間交流などに絞りこんで中南部アメリカを見ていくことで、ラテン・アメリカ社会の特徴を浮き出させている。

「総説」では、地質・地形、気候、植生、土壌などを地下資源と農牧林産物を中心に見た上で、開発問題の多面性、統計データによる社会の特質を明らかにしている。「中部アメリカ」では、先スペイン期の環境利用と自然観、文化から始まり、植民地時代以降の開発と環境、農村と社会問題、民主化過程、経済成長と貧困、文化的アイデンティティ、アフリカ系文化の影響を取り上げている。「南アメリカ」では、先スペイン期の環境利用とその後の各地での環境と開発、スペイン人の侵略から今日に至るまでの国家と民衆、国際関係を解説している。

大判で大部の本だが、各項目毎に読んでもそれぞれに内容の濃い解説が続いていて、読み応えがある。是非座右に置いて時々紐どきたい有用な一冊だが、個人で購入するには価格が高いのが難である。    〔桜井 敏浩〕
    

〔『ラテンアメリカ時報』 2008年春号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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遠くて近い国 ―シニア・ボランティアの見た21世紀ブラジル

真砂 睦 無明舎出版 211頁 2007年8月 1,600円+税

著者はブラジルに、1970年代のいわゆる「日伯蜜月時代」とそれに続く80年代の現地経済混乱による「日伯関係空白の時代」の一時期を、野村貿易のベロオリゾンテ、リオデジャネイロ駐在員として過ごし、退職後2003年から3年間、国際協力機構(JICA)派遣の日系社会ボランティアとして再びブラジルで生活した。その間、故郷の和歌山の地方紙に投稿した報告に加筆修正した、全67編の見聞録である。

歴史と文化とそれを背景にあるブラジル人の生活と性格、日系移民の過去と現在、そしてそのブラジル経済・社会への貢献、農牧業や工業の変化、人種差別の有無、農地改革や縁故主義、最近のブラジルの産業や社会変化のトピックスなど、広範な話題をそれぞれ2乃至4頁の短い文章で紹介している。しかし、多くのこの種の滞在記や見聞録とは異なり、相当ブラジル事情に通暁していなければ書けない、しっかりした裏付けがあることが窺え、内容の濃い、分かりやすい解説書になっている。秋田市にあるこの地方出版社は、これまでも中隅哲郎氏の『ブラジル学入門』、『ブラジル観察学』、『ブラジル日系社会考』はじめ10余点の優れたブラジル関係書を出版している。    〔桜井 敏浩〕
     

    
〔『ラテンアメリカ時報』 2008年春号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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グローバルとローカルの共振 ―ラテンアメリカのマルチチュード
 

 石黒 馨・上谷 博編 人文書院 2007年11月 220頁 2,000円+税

 
本書は、グローバリゼーションが先住民にどのような影響を及ぼすかを、ローカルからナショナルへ、そしてグローバルへという社会空間の広がりが先住民にどのように影響し、先住民はそれをどのように理解し、対応しているかを検証するものである。

これをメキシコのサパティスタ運動、オアハカ先住民の米国移住、ゲレロ州先住民農村の土地紛争、メキシコ国家の国民統合策としての先住民政策、国家の干渉によるミチュアカン先住民社会の存亡、コスタリカのコーヒー栽培農民の生き残り戦略、ベネズエラ市民社会とチャベス政権のボリバル革命、そしてブラジルにおけるユニバーサル教会の土地無し民運動取り込み戦略について、10名の研究者の研究成果を載せている。   〔桜井 敏浩〕


〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「ラテンアメリカ参考図書案内」に収録〕

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ブラジル経済の基礎知識』 

二宮康史 ジェトロ(日本貿易振興機構) 204頁 2007年11月 1,600円+税

  
JETROサンパウロ・センターに2003年から4年余在勤し、BRICsの一員として注目を集めてきたブラジルの経済、産業調査の第一線で活躍してきた著者による、変容著しい最新のブラジル経済解説書。

マクロ経済の変化を読み解き、政治・社会情勢も安定して持続的な安定成長軌道に乗ってきた経済を概観し、高いポテンシャルをもった主要産業動向とその成長可能性を、自動車産業、電気・電子産業、大豆、食肉、エタノール、農畜産物、鉱物資源という天然資源を例に取り上げている。また、経済のグローバル化で変貌する企業動向として、欧米企業の投資動向、近年やっとビジネス拡大に動き出した日本企業、想像を超えて国際化が進むブラジル企業を分析し、それらの裏にあるルーラ政権の外交・通商政策、メルコスールと南米統合への険しい課題を解説している。そしてビジネスアプローチに必要な実務知識として、税務・会計、労務、企業設立手続、資金調達と対外送金、貿易システムと知的財産権問題に至るまで、基礎知識を網羅したきわめて有用な解説書。 〔桜井 敏浩〕
    

〔『ラテンアメリカ時報』 2008年冬号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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貧困の克服と教育発展 ―メキシコとブラジルの事例研究
  

米村 明夫編、近田 亮平・受田 宏之・江原 裕美・小貫 大輔  明石書店 236頁 2007年10月 4,000円+税

  
現代の人類にとって緊要な課題の一つである貧困削減のためには、基礎教育の普及が効果があると期待されている。開発途上国における教育の発展は、政府ばかりでなく教育を受ける側も重要な主体であるが、今日では経済的 貧困層、社会的・政治的弱者がその状態改善のために教育要求の自覚をもち始めて来た。このような弱者たちの要求は、政府と家族の間にある村や地方自治体、そしてNGOといった中間的主体が媒介、援助することが多い。

メキシコとブラジルにおいて、弱者のための教育普及に、政府、地方自治体、NGO等が、どのような課題を掲げ、どのように活動してきたかを、両国での就学促進のための家計補助プログラムの評価、批判的検討、オアハカ州ミッヘ族の3つの村を例にメキシコ先住民地域における競争的な教育発展の事例、同じくメキシコでの先住民2言語教育の理想と現実、ブラジルにおける初等教育の地方分権化とサンパウロのファベーラでの住民運動を紹介することによって解説している。

貧困からの脱却には教育の普及が必須といわれながら、実際にその実現に立ち向かうと様々な問題に直面することがよく分かる。 〔桜井 敏浩〕

 

〔『ラテンアメリカ時報』 2008年冬号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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女たちのブラジル移住史

小野政子/中田みちよ/斎籐早百合/土田町枝/大槻京子/松本純子、監修 日下野 良武 毎日新聞社 381頁 2007年8月 2,000円 +税

「ブラジルに移住した日本人の人生はすべてドラマになっている」 と編者 はいうが、1932年から97年に至る間に移住した、無作為に選ばれた年齢も境遇も異なった6人の女性が書いたという異色の移住史。

10歳の時に移住、インテリの父たち家族と開墾の苦闘の中で妹を失った、執筆者中最高齢の85歳。早い時期から商売に転じた人、アマゾンで農場経営に携わり夫とアマゾンを信じて身を捧げてきた生涯だったという人、1965年に邦字紙の記者として2年間のつもりでブラジルに渡ったが、「日本にないモノがあって楽しくて」ブラジルに留まったという現代女性など、6人の 執筆者はまったくの素人であるが、それぞれの苦楽の生き様は読む者に深い感銘を与える。〔桜井 敏浩〕            

〔『ラテンアメリカ時報』 2008年冬号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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知っているようで知らない ラテン音楽おもしろ雑学事典』 

高場 将美 ヤマハミュージックメディア 223頁 2007年11月  1,600円+税


ラテン音楽といっても、北はメキシコ、カリブ海から南はアルゼンチンまで広大な地域にきわめて幅広い形態の音楽があり、その境界もあいまいだが、それらの中からラテン音楽の発祥地キューバ、 メスティーソ(混血)文明のメキシコ、港町から生まれた都市音楽であるアルゼンチン・タンゴ、情熱とサウダージの響きブラジルのサンバとボサノヴァ、そしてラテン音楽の中心といってもよいカリブ海の音楽を取り上げている。

これら5章の音楽の発祥、歴史的な変遷、偉大な作詞家、作曲家、演奏家たちやエピソードなど、著者の長年のラテン音楽との深い関わりで蓄積した"雑学"が楽しく、ふんだんに盛られている。それぞれの章の終わりに、その音楽を味わいたいならこの2枚と、著者推薦のCDも挙げられている。  〔桜井 敏浩〕

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「ラテンアメリカ参考図書案内」 に収録〕

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『鉄の絆 ウジミナスにかけた青春』 

 阿南惟正 朝日新聞社 294頁 2007年9月 1,600円+税


戦後の復興が終わり、経済成長期に入った1960年代の日本が、いち早くブラジルでの製鉄所建設をめざした。八幡製鉄(現 新日本製鉄)の28歳の社員が南米一の製鉄所建設を命じられ、内陸のミナスジェライス州に赴く。文化、言語も異なり、生活環境が大きく異なる中で、次々に発生する幾多の困難を乗り越えて、赤土の高原に両国関係者が力を合わせ、情熱を傾けたウジミナス製鉄所を建設するまでの思い出の記。

1961年から操業開始までの3年間、「地球の裏側に溶鉱炉をぶっ建てる」という未曾有の合弁大プロジェクトであるウジミナス製鉄に現地で関わった著者は、「その土地を愛し、その人を愛し、その仕事を愛する」ことが海外技術協力には必要という。仕事の合間には時には柔道を通して現地の人たちとの触れ合いもあり、日本の鉄鋼業が海外に進出した先駆者の苦労と働きがい、喜びを綴っている。      〔桜井 敏浩〕

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「ラテンアメリカ参考図書案内」に収録〕

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『もっと知りたいブラジル マジア・ド・サンバ 知られざるリオのカーニバル』

佐久間 圭輔 アララ文庫 Fax 0467-44-4865、ararabunko@aol.com 163頁  2007年8月 頒価1,000円+送料  (日本ブラジル中央協会 Tel 03-3504-3866 でも頒布している)

  
著者は外語大学葡語科を卒業後、商社、電機、航空会社で長くブラジル・ビジネスに携わってきたが、その傍ら現存する最古のサンバ学校(阿波踊りの「連」のようなものか)「マンゲイラ」と日本との文化交流に邁進している。サンバに惚れ込んだ著者が、サンバの魅力を余すところなく解説している。

第一部は著者がサンバの世界に出会った経緯、第二部はブラジル人とサンバ、そして名高いサンバ学校「マンゲイラ」の歴史、第三部はリオのカーニバルの歴史、参加するサンバ学校、パレードの構成とその審査の詳細、カーニバルの舞台裏というべき諸作業とそれらを支える裏方の人たち、それら作業と練習を一年中見せるサンバ・シティといった構成で、サンバの楽しさ、面白さ、奥の深さを知ることができる、実に楽しい一冊。  〔桜井 敏浩〕

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「ラテンアメリカ参考図書案内」に収録〕

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トランスナショナル・アイデンティティと多文化共生 ―  グローバル
時代の日系人
』 
  

村井 忠政編著 明石書店 459頁 2007年4月 5,300円+税)

  
いまグローバリゼーションの名の下で、多様な国際的な人・労働力の移動が活発になっているが、本書はその中で日系人に焦点を当て、この移住がアイデンティティにどのような影響を及ぼしてきたかを考察したものである。第1部「トランスナショナル・アイデンティティ」では、米国やカナダの日系移民研究、在日朝鮮人の文学、中国からの帰国者二世の適応等に加え、堀田善衛の『キューバ紀行』 に登場する宮城県出身の両親をもつルイス・サトーとの出会いを考察した章がある。

第2部では、移民集住地での行政や NPO の取り組みを通じての「多文化共生」を紹介しているが、オランダのアムステルダム市の事例以外は、東海地方から三重県にかけての日系デカセギ労働者集住地域を中心に、自治体の外国籍住民施策、定住化が進む日系ブラジル人家族の生活史、NPOによるネットワーク形成、ブラジル人学校に通う日系青少年の社会文化的適応と、日本の公立学校における日系南米人の統合、同じく日系南米人の医療問題などを取り上げている。

グローバル化が進むにしたがい、民間レベルでの人の移動とそれにともなう共生について、いろいろな切り口から分析していて実情を知るうえで興味深い。 〔桜井 敏浩〕

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「ラテンアメリカ参考図書案内」に収録〕

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黒人差別と国民国家 ―アメリカ・南アフリカ・ブラジル

アンソニー・W.マークス 富野幹雄、岩野一郎、伊藤秋仁訳 春風社 435+72頁 2007年3月号 6,190円+税

   

米国におけるアフリカ系市民、黒人が多数を占める南アフリカにおける人種や国民的・階級的アイデンティティを考察した著者は、ブラジルにおける類似の人種不平等が必ずしも問題にされていないことに気がつく。ブラジルの歴史・文化的遺産、すなわち植民地政策、奴隷制度、人種混淆まで遡り、1822年のペドロ一世による帝国としての独立、奴隷制の廃止、共和制移行を経て、強固な国民国家建設がなされたが、米国や南アフリカのように地域間対立も人種間紛争も経験しなかった分、公の人種支配はなかったのである。黒人の移民流入は禁止されたが、国内においては、アフリカ系であることや皮膚の色による制約の公式法制化は否定されてきたことにより、”人種天国”であると米国の黒人からもみられていた。しかし、奴隷制が非常にゆっくりと進行したため、人種秩序が揺るぐことなく、読み書きできない者には選挙権が与えられないことなどによって、黒人が不利益を被り、非公式な人種差別は明白に存在し続けたのだが、共和制国家の下で国民を結束させるため、ナショナリズムと人種民主主義が提唱され、そのイメージが一致したおかげで社会的・人種的秩序は紛争なしに、国民国家としてのブラジル国が確立したのである。

1970年代以降、ブラジルの人種関係について、それまでの楽観的な見方を修正する学術報告が次第に増え、また経済的、社会的にアフリカ系人が圧倒的に不平等な状態に置かれていることが統計などで明らかにされ、人種的抗議行動も起きてきていて、米国や南アフリカに比べればブラジルの人種的寛容度は高いというものの、現実に不平等がないということを意味しない事実を、本書は歴史的背景と経緯によって明らかにしている。   〔桜井 敏浩〕                                                        

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト http://www.latin-america.jp/  「掲示板 ラテンアメリカ参考図書案内」に収録〕

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アドニスの帰還』 

 安東 能明   双葉社 354頁 2007年9月 1,800円+税

   
多くの日系ブラジル人がいわゆる出稼ぎとして日本に来ているが、その集住地ではさまざまな問題が発生している。ブラジル人専門の人材派遣会社の担当者である片桐エルザは、日本語の能力を見込まれ、警察の通訳もしている。浜松市を思わせる地方都市で起きたコンビニ強盗で逮捕された日系少年の通訳を頼まれたことをきっかけに、彼女の勤め先の会社から金を強奪してブラジルに帰っていた雄鶏と呼ばれる男の再来日を知る。そして彼女がかつてサルバドール市でファベーラ(貧民街)に住み、ストリート・チルドレンにまでなった日々に、警察官が商店主などから金をもらいストリート・チルドレンを”浄化”する死の部隊に仲間を惨殺された過去があったが、そのリーダーだったジト伍長も、ブラジルの犯罪組織からの殺し屋に追われて日系人と結婚したことでこの町に来ているとの噂を聞く。ジト伍長は整形手術で顔も変えていて、特異な入れ墨だけが手がかりだが、後になってそれも消す施術を受けていることが判る。

強盗犯の少年やその恋人、勤め先の社長、ブラジル人の子供たちのために学校を運営する夫婦たちの協力を得ながら、ジト伍長の行方を追うエルザだが、デカセギで貯めた金を持って帰国した直後に一家で惨殺された日系人の事件も関わって、意外に身近なところにジト伍長がおり、また警察の強盗犯の少年の現場検証の無神経なやり方に、日頃味わらされている差別感の鬱積を爆発させたブラジル人の騒動の中で、信頼し交流していた人の素顔が明らかになるというどんでん返しの結末にむかう。

言葉、文化、価値観や発想の異なるブラジル人と周囲の日本人の間の取り持ちをさせられる”担当者”兼司法通訳という立場のエリザを中心に、犯罪サスペンスながら日本でのブラジル人社会の諸相がよく描かれている。  〔桜井 敏浩〕  
                  

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト http://www.latin-america.jp/ 「掲示板 ラテンアメリカ参考図書案内」に収録〕


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黒ダイヤからの軽銀 ―三井アルミ20年の歩み』 

牛島 俊行、宮岡 成次 カロス出版 270頁 2006年9月  1,905円+税

   
わが国のアルミ製錬は、電力の高コストその他の問題から短期間で絶滅に近い状態に陥った、日本の産業史上まれな例であり、うち、三井グループの総力を結集して設立された三井アルミニウム工業も1989年に解散した。本書はその20年の社史だが、ブラジルにおけるアルミ製錬計画への進出の経緯と進展についても詳述しており、日本とブラジルの経済協力の実態を知ることが出来る。

1970年代はじめに、日本の業界は国内製錬に見切りをつけ、アルミ資源を海外に求め業界共同プロジェクトが志向された。幹事会社は輪番制で、住友電工がインドネシアのアサハン計画を、三井アルミがアルミナ部門を担当する日本軽金属とともにアマゾン計画を主導した。アマゾン河中流域の豊富なボーキサイト鉱と廉価なツクルイダムの水力発電を利用し、河口のベレーン市近郊に、ブラジルのリオ・ドセ社との合弁でアルブラス(アルミ製錬)とアルノルテ(アルミナ製造)事業を立ち上げようというもので、1976年にガイゼル大統領の訪日を機に、海外経済協力基金の出資、日本輸出入銀行と国際協力事業団からの特利融資を行う"ナショナル・プロジェクト"として行うことで、両国政府間合意、日本政府閣議了解が得られ着手された。

しかし、その後ブラジルのインフレ、為替の大幅変動等、日本側の円高の進行、アルミ業界を取り巻く環境の悪化、それらに起因するアルノルテ計画への参加大幅縮小など、実に多くの問題に遭遇したが、現在は日本のアルミ新地金の1割近くを安定供給するまでになり、アルブラスも業績好調で配当を行うまでになっている。   〔桜井 敏浩〕
   

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「ラテンアメリカ参考図書案内」に収録〕

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鈴木悌一 ―ブラジル日系社会に生きた鬼才の生涯

鈴木 正威 サンパウロ人文科学研究所 529頁 2007年7月

  
日本人のブラジル移住百年の歴史の中で異能の知識人として、比類なき学殖と実行力をもって活躍した鈴木悌一(1911〜96年)は、弁護士として東山事業総支配人だった山本喜誉司氏とともに戦時中にブラジル政府に没収された日本人の資産凍結を解除させ、日本移民50周年記念の「ブラジル日系人実態調査」(1964年)の中心として奔走し、またサンパウロ大学構内に日本文化研究所を設立させ、初代所長となって学内に日本研究の拠点確立を推進し、図書館の充実、紀要の刊行などに尽力した。また絵画に打ちこみ、画家の半田知雄らが創設した日系コロニアによるサンパウロ美術研究会(聖美会)やコロニア文学会の会長を歴任するなど、日系社会の学術・文化の分野で大きな業績を残した。

本書は、自身もブラジルでの日本語普及等文化活動に努め、人文研の理事である著者による渾身の伝記であり、経済的成功に背を向けブラジルと日本を文化で結ぼうと、日本人を代表する如き気迫を持って行動した鬼才の生涯を詳細に伝えている。

(本書は、"ブラジル日本人移民百周年記念「人文研研究叢書」 第6号"として発行されたもので、市販はしていないが、サンパウロの人文研 centro-nipo@terra.com.br もしくはブラジル日本商工会議所事務局 secretaria@camaradojapao.org.br  が受託頒布している。本代 50レアル) 〔桜井 敏浩〕


〔『ラテンアメリカ時報』 2007年秋号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕


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世界の食文化 L 中南米

山本 紀夫編 (財)農山漁村文化協会 2007年3月 296頁 3,200円+税

   

ラテンアメリカは、トウモロコシ、ジャガイモ、サツマイモ、ピーナッツ、トウガラシ、トマト、カボチャなどの穀類、野菜、香辛料、カカオ、パイナップル、パパイヤ等の果実類や嗜好品のタバコ、コカなど、実に多くの原産地であることは知られている。この広大な地域に、先住民、欧州からの征服者、植民者やアフリカから連れてこられた奴隷、東欧、中東、アジアを含む世界各地からの移民など、様々な文化が融合して多彩な食文化が展開しているのだが、日本では部分的にしか知られていない。

まずは、トウモロコシ、ジャガイモ、マニオク(マンジョカ/ユカ)という三大主食、コロンブス到達以前と以後の食文化の変化、戦前の農村部を中心にしたブラジル日系人家庭の食生活を解説しているが、大きな部分を占めるのは、17カ国20地域の食文化と酒の紹介である。ラテンアメリカの主要国(ペルーやアマゾンは、さらに地域を区分している)はもとより、中米やカリブの島嶼国の知られざる食文化、醸造・蒸留以前の製法で作った酒、メキシコのテキーラや同じサトウキビを原料としながら製法に違いがあるラムとブラジルのピンガ、移住者が持ち込んだワインに至るまで、現地で長く生活した24人の広範な分野の人たちによる解説は、それぞれが読み物としても興味深い。 〔桜井 敏浩〕
  

〔『ラテンアメリカ時報』 2007年夏号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕
 

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日系人とグローバリゼイション ―北米、南米、日本

レイン・リョウ・ヒラバヤシ、アケミ・キクムラ=ヤノ、 ジェイムズ・A・ヒラバヤシ編 移民研究会訳
人文書院 2006年6月 536頁 6,000円+税

     

ロサンジェルスの全米日系人博物館の企画による、国際日系研究プロジェクトの成果の一つ。グローバル化が日系人のアイデンティティに及ぼした影響について、第1部「グローバル化と日系人アイデンティティの形成」は、南北アメリカにおける移住と日系人の文化や社会の成立に関する歴史的考察、第2部「日系人アイデンティティの形成」は、ラテンアメリカではペルー、ボリビア、パラグアイ等を事例に、日系人コミュニティの形成と相互のつながりを、社会的慣行、家族、宗教、教育、政治、経済の面におけるアイデンティティを分析している。

第3部「日系人アイデンティティの形成阻害」は、ペルー、ブラジル、アルゼンチン等でのジェンダー、日系映画制作者の作品に見る人種やエスニシティ、日本への"デカセギ"現象の経済学的視点からの考察と、その就労問題と子女の教育、日系であっても"外国人"視される中での日本での多文化共生の可能性、ラテンアメリカへの移住者の中で多い沖縄出身者と本州出身の日本人とのアイデンティティを含む諸問題を取り上げている。第4部「回顧と展望」は、3人の在米編者がこれらの論考を分析している。

7ヶ国18人の研究者による20の充実した事例研究中心の考察は、近年の日系社会、在外・滞日日系人の変化を知るうえで有益な資料である。 〔桜井 敏浩〕
   

〔『ラテンアメリカ時報』 2007年夏号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕
      

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はまの大きな菩提樹 A FRONDOSA ÁRVORE DE HAMA

弓場 勝重絵・文 Sonia Regina Longhi Ninomiya訳 49頁

サンパウロ州の奥深くに日本人が多く入植したアリアンサ移住地があり、そこに共同で農業生産活動を営みながらバレー団を持っていることでも知られる弓場農場がある。創設者の弓場 勇さんの夫人であり、著者勝重さんの母であるはまさんは、父が行きたがっていたブラジルに、医師の養女となって16歳でアリアンサ移住地に入り、そこで弓場 勇氏と知り合う。

勇氏は、ブラジルに日本人の特徴を生かした新しい文化の創造−土を耕し、神に祈り、歌や芝居などの芸術に取り組むという大きな夢をもっていた。新しい文化を創るという夢を語る勇氏の求婚に、暫く逡巡した後に結婚し、以後70年の間に11人の子供たちにも恵まれ、仲間たちとの共同生活は大きくなった。

この母の養親との移住、アリアンサ移住地での生活、二人の出会いと結ばれるまでの物語を、きれいな日本語とポルトガル語(翻訳は、二宮正人サンパウロ大学教授夫人)で、勝重さんの描いた繊細なイラストとともに美しくまとめている。市販本ではないが、(社)日本ブラジル中央協会(電話 03-3504-3866、メール nipo-brasil@hsym.ftbb.net )で購入出来る(頒布価 1,000円)。サンパウロでは太陽堂(電話11-3207-6367,Fax 3206-6588)で扱っている。


     
〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「ラテンアメリカ参考図書案内」に収録〕

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ブラジル北東部の風土と文学

田所 清克 金壽堂出版 2006年12月 187頁  2,600円+税


ブラジルで最も早く植民地化が進んだ北東部は、ブラジル文化の揺籃の地であり、現在に至るも多くの文学、音楽、伝承を継承している。特に文学では、ブラジルを代表する作家を輩出しているが、それらの作品を読んでブラジルを認識しようとするには、独特の風土、歴史、文化を反映した北東部の社会、すなわちブラジルで最も貧しい地域の一つであり、土地所有の偏在、飢餓から逃れるべく都市への移住による過疎化などの問題が背景にあることを理解する必要がある。

本書は北東部社会の文明史と風土的特性、ブラジル地方主義についての概説の後に、偉大な4人の作家の代表作を取り上げ、それぞれの作品について背景、意義、社会性などを読み解いている。長年にわたって特に北東部出身の作家の著作を研究し、日本での紹介に努めてきた著者は、これらの文学を通じてブラジル人の思考や行動様式、国民性、ひいては感性と美学を知ることを期待している。 〔桜井 敏浩〕  
                        

〔『ラテンアメリカ時報』 2007年春号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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地球時代の南北アメリカと日本

二村 久則、山田 敬信、浅香 幸江編著 ミネルヴァ書房 2006年11月 226頁 2,800円+税

  
現代はグローバリゼーション、すなわち「自由貿易世界秩序の地球規模化」の時代であり、南北アメリカと日本との関係がつと重要になってきているとの認識から、8人の研究者とIDB(米州開発銀行)の実務家が、この地球時代にどのような世界戦略をもち、世界と共生していくか?を探っている。

第1部「グローバリゼーションと米州国際関係」では米国外交とそのラテンアメリカの位置づけ、南米南部の非核化を通じての信頼醸成と地域統合の進展を、第2部「南北アメリカ社会の変容」では北米での人種問題の歴史的展望、米国最大のエスニック・マイノリティ集団であるラティーノの存在、南北アメリカを結ぶ麻薬ネットワークを概観し、第3部「南北アメリカと日本」ではNAFTA、メルコスール以後の諸国の状況から、日本とメキシコ間のFTAのあり方を、またIDBグループと日本との開発面での協力を、最後に1990年の日本の入管法改正以降のデカセギ日系人激増による南北アメリカの日系社会への影響、日本社会に多文化を形成しつつある動きを紹介している。〔桜井 敏浩〕

〔『ラテンアメリカ時報』 2007年春号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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講座 世界の先住民族 ―ファースト・ピープルズの現在 ― 08 中米・カリブ海、南米

綾部 恒雄監修、黒田 悦子・木村 秀雄編 明石書店  2007年1月 335頁 4,800円+税

 

第1部中米・カリブ海ではメキシコのウィチュルなど7族、グアテマラではキチュなど 2族、ドミニカのカリブ、第2部の南米ではチリのマプーチェと都市のインディオであるチョロ、ボリビアのアイマラ、パラグァイのグアラニー、ペルー・アンデス東斜面のアシャニンカ、ブラジルのパノ系先住民、そしてベネズエラのヒビという、この地域の13カ国・地域に居住する17民族を、17人の文化人類学者が取り上げ解説している。

メキシコ以南のラテンアメリカ、カリブには、現在3,000〜4,000万人の先住民が居住するといわれているが、それぞれが多くの共同体を形成し、それぞれの地域で異なる歴史をたどり、その結果として現在の姿も大きく異なっている。また、近年はボリビアにおける先住民出身のモラエス大統領の出現に見られるように、先住民運動を指導してグローバリズムと対峙するなど、あらためて先住民族の動向が注目されるようになった。

異なる地域を専攻し様々な研究テーマをもつ研究者が、それぞれの民族の生き様を活写しており、編者の丁寧な解説も付いているので、大部な本であるが特に予備知識がなくても関心をもった項を拾い読みすれば、それなりに興味深い読み物になっている。〔桜井 敏浩〕                                

〔『ラテンアメリカ時報』 2007年春号掲載 (社)ラテン ・アメリカ協会発行〕

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ブラジルにおける違憲審査制の展開

佐藤 美由紀 東大出版会 2006年11月 315頁 9,500円+税

日本ではブラジル憲法についてはこれまで断片的な解説と日本語訳はあったが、憲法学としての本格的な研究成果はほとんど目にしない。本書は違憲審査制の実態についての、気鋭のイベロアメリカ法学者の労作である。独特の形態をもつブラジルの意見審査制が、広大な領土を統治しなければならず、潜在的に拡大を狙っている州権力が相手の連邦制の体制維持機能、憲法に書き込まれた制度を支持する憲法体制維持機能、その憲法下で統治する政府の政策支持機能、憲法で保障される経済的利益、非経済的自由権といった権利が下位の規範に侵害された場合を救済する権利保障機能をも持つという指摘は興味深い。ブラジルは、50万人もが弁護士資格をもつといわれ、連邦最高裁が受理する事件は年間約10万件もある訴訟大国だが、違憲審査制を通じてブラジルの法曹界の思考様式を知ることは、ビジネス紛争の予防、発生した紛争処理のためにも参考になろう。 〔桜井 敏浩〕

             

〔『ラテンアメリカ時報』 2007年冬号掲載 (社)ラテン・ アメリカ協会発行〕

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