ブラジル関係図書紹介


   桜井 敏浩


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   1999年-2006年文献

南米日系移民の軌跡  2006/09
ぼくのブラジル武者修行 ―日本人カリスマ美容師の成功物語2006/10
黒いダイア ― アマゾン見聞録 Part2  2006/06
アマゾン、森の精霊からの声  2006/11
海外・人づくりハンドブック27 ブラジル - 技術指導から生活・異文化体験まで 2006/3
ブラジルのことがマンガで3時間でわかる本 2006/5
海を渡ったサムライたち ― 邦字紙記者が見たブラジル日系社会
リオのビーチから経済学 -市場万能主義との決別 2006/3
大邸宅と奴隷小屋 ―ブラジルにおける家父長制家族の形成 上・下 2005/3
「ブラジル発見」とその時代 ― 大航海時代・ポルトガルの野望の行方 2006/3
国際経営文化論  - ラテン系諸国における経営組織文化の多面的考察 (2005/6)
白いインディオの想い出 ―ヴィラ=ロボスの生涯と作品 2004/10
熱帯の多人種主義社会 ―ブラジル文化讃歌 2005/9
現代ブラジル事典 (2005/7)
アマゾン -保全と開発 2005/3)
アマゾン河の食物誌 2005/3)
アマゾニア (2004/10)
アマゾンからの手紙 -10歳のブラジル移民 (2003/12)
テスタメント 上・下  ( 2003/2)
人間都市クリチバ ―環境・交通・福祉・土地利用を統合した
 まちづくり
 (2004/4)
ブラジル新時代 ―変革の軌跡と労働者党政権の挑戦 (2004/3)
ラテンアメリカ経済論 -現代世界経済叢書 7 (2004/3)
南米の日系パワー ―新しい文化の胎動 (2004/1)
ラテンアメリカの女性群像 -その生の軌跡 (2003/12)
カーニバルの誘惑 ―ラテンアメリカ祝祭紀行 (2003/11)
日本語から引く知っておきたいポルトガル語 - プログレッシブ単語帳 (2003/4)
ワイルド・ソウル (2003/8)
新・教育現場のポルトガル(ブラジル)語 (2003/3)
航跡 ― 移住31年目の乗船名簿 (2003/2)
ブラジルの歴史 ―ブラジル高校歴史教科書 (2003/1)
ブラジルの赤 (2002/12)
ビジネスガイド ブラジル (2002/12) 
ラテンアメリカ多国籍企業論 ―変革と脱民族化の試練 (2002/11)
ブラジルから来た娘タイナ ―十五歳の自分探し (2002/11)
サンパウロ/リオデジャネイロに暮らす(第2版) (2002/10)
アメリカ大陸日系人百科事典 - 写真と絵で見る日系人の歴史 (2002/10)
ブラジル学を学ぶ人のために (2002/8)
アジアとラテンアメリカ ― 新たなパートナーシップの構築 (2002/ 7)
風狂の記者 ブラジルの新聞人三浦鑿の生涯  (2002/6)
ブラジル大豆攻防史 ―国際協力20年の結実 (2002/5) 
ラテンアメリカの日系人   -  国家とエスニシティ  (2002/4)
ブラジルの挑戦 ―世界の成長センターをめざして (2002/3)
情熱のブラジルサッカー   (2002/3)
   サッカー狂の社会学 ―ブラジル社会とスポーツ
ブラジル「発見」500年 ― その歴史と文化  (2002/3)
カリブ・ラテンアメリカ音の地図    (2002/3) 
ブラジルの税務体系 ― 2002年改訂版 (2002/2)
ドン・カズムーロ (2002/2)
大自然の楽園ブラジルへようこそ (2001/12)
恵みの洪水 -アマゾン沿岸の生態と経済   (2001/11)
カカオ (2001/10)
ブラジル学への誘い ― その民族と文化の原点を求めて (2001/9)
ブラジルを知るための55章    (2001/5)
空飛ぶ男 サントス=デュモン   (2001/4)
ラテンアメリカ世界に生きる   (2001/3)
異文化接触とアイデンティティ -ブラジル社会と日系人 (2001/2)
改訂新版 概説ラテンアメリカ史   (2001/2)
蒼氓の92年 ―ブラジル移民の記録   (2001/1)
砂漠化と貧困の人間性 ―ブラジル奥地の文化生態  (2000/2)
日本社会とブラジル人移民 (2000/5)
ブラジル研究入門 ―知られざる大国500年の軌跡 (2000/5)
マリアの半生紀 (1999/11)   
熱帯ブラジルフィールドノート ―地球環境を考える (1999/9)

 


 

南米日系移民の軌跡』 

吉田 忠雄   人間の科学新社 307頁 2006年9月 1,800円+税


著者は明治大学教授、日本人口学会々長などを歴任し、これまで米国、カナダの日系移民についての著作を出している。移民の背景として、当時の政治、経済、文化、国際関係などの記述を交え、日本人移民が異国で忍耐、努力を重ね、日本の文化を伝えたことを、南米移民前史、それぞれ戦前ならびに戦後のペルー、ブラジルと、アルゼンチン、ボリビア、チリ、パラグァイの日系移民について、その軌跡を解説している。

移民に関わる膨大な資料を目を通すことは出来ないので、インターネットで得た資料を含め入手し得たものだけを利用したというが、ラテンアメリカや日本人移住史の専門家ではないこともあって、記述が正確でない点が散見されるが、網羅的に概説した労作である。     〔桜井 敏浩〕

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「ラテンアメリカ参考図書案内」に収録〕

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ぼくのブラジル武者修行 ―日本人カリスマ美容師の成功物語

飯島 秀昭   致知出版社 2006年10月 206頁 1,400円+税


 サンパウロ市内のあちこちで“SOHO(蒼鳳)”という名の看板を見かける。著者が1979年に29歳でブラジルに移住、82年に独立して、24年間でブラジル第2位、年間売り上げ約20億円に至るまで育てた美容室チェーンである。
    
日本での修行、カリスマ美容師としてもて囃された青年期を経て、ブラジル社会で様々な困難を克服し成功するまでを綴った自伝。ブラジルでの“常識”に反してスタッフを信じることから始め、お客はじめ相手を思う心、自分たちが持っているものを最大限に活用しようという“日本の心”をブラジル人に伝えるのが SOHO の使命と信じてやってきたというが、「ブラジル人たちは、一般的に感性が豊かで創造性に優れているが、それをどうやって表現するかという具体的な手段を知らない」 「集中力はずば抜けて高いが、忍耐が苦手、持続力がない。個人主義のブラジル人が共同体意識をもって仕事をしたら、日本人以上にパワーが出るのでは」など、その間の体験で得た経営ノウハウを、様々な経験を通じて会得した処世訓とともに紹介している。 〔桜井 敏浩〕  
〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト http://www.latin-america.jp/  「ラテンアメリカ参考図書案内」に収録〕

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黒いダイア ― アマゾン見聞録 Part2』 

岸田 鉄也      リトル・ガリヴァー社 2006年6月 245頁 1,800円+税


“黒いダイア”胡椒が、アマゾン下流のトメアスで栽培され、1955年の胡椒ブーム時には収穫量は1,000トンを超え、ブラジル国内の消費量1,200トンのほとんどを賄い、翌年からは輸出が始まったが、この地に胡椒栽培を成立させたのには日本人のアマゾン移住者が大きく貢献している。
本書は、トメアスなどアマゾンで胡椒、カカオ、マラクジャ、アセロラの育成、さらにセラード農業開発に取り組んだ日本人移民の中に入って尽力し、ドミニカでの胡椒栽培等指導のため駐在中に強盗によって非業の死を遂げた国際協力機構(JICA)職員 大堂志郎氏を主人公にしたドキュメンタリーだが、一政府機関職員の事績を追うことはともかく、日系人のアマゾンやセラードでの農業の実態を取材していて、ブラジルでの日系人の農業に果たした役割の一端を知る上で参考になる。著者は、田原総一朗氏のスタッフをしていたこともあるルポライター。『アマゾン見聞録 ― ベレンからの報告』 (リトル・ガリヴァー社)の著作がある。       〔桜井 敏浩〕
                                       

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「ラテンアメリカ参考図書案内」に収録〕

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アマゾン、森の精霊からの声』 

南 研子     ほんの木 216頁 2006年11月 1,600円+税


1988年に熱帯森林保護団体“Rain Forest Foundation Japan”を設立し、アマゾンのインディオ支援、熱帯雨林保護、植林、学校建設などの活動に奔走している著者の活動記。
  
著者によれば、日本人とアマゾンは大いに関わり合いがあるといい、いまアマゾンの森林に火を放つのは、化石燃料に代わるエネルギー源として注目を集めているエタノール生産のためのサトウキビ、食用油や飼料用の大豆栽培の拡大のためだという。実証調査からのアプローチではないが、文字どおりアマゾンの膨大な水量に一滴の水を注ぐ如き活動を継続していることへの情熱が感じられる。著者には、『アマゾン、インディオからの伝言』(ほんの木)前作がある。    〔桜井 敏浩〕
   

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「ラテンアメリカ参考図書案内」に収録〕

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海外・人づくりハンドブック27 ブラジル - 技術指導から生活・異文化体験まで

二宮 正人編著 (財)海外職業訓練協会 136頁 2006年3月 1,500円+税+送料

    
ブラジルに赴任し、技術指導や企業で実務活動を行う人のための基礎的な参考情報をまとめた指南書。第一編でブラジルの経済、日伯関係、社会、駐在者の生活情報、社会保障制度、雇用、労働事情、労働裁判事情に加え、第二編で教育事情、職業能力訓練について懇切に解説している。そして第三編では、企業における人づくりの実例として、3社の事例をあげて具体的に紹介していて、ブラジルへの赴任者にとっては手頃な、しかし的確な示唆に富んだ小冊子である。

編著者は、サンパウロ大学法学部教授、弁護士でサンパウロにある日系ブラジル人支援のための「国外就労者情報援護センター」理事長。市販本ではないが、協会に申し込めば(電話 043-276-7280 メール piy@ovta.or.jp)入手できる。    〔桜井 敏浩〕


〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト http://www.latin-america.jp/ 「ラテンアメリカ参考図書案内」に収録〕
  

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ブラジルのことがマンガで3時間でわかる本

吉野 亨文 飛鳥 幸子絵 明日香出版社 189頁 2006年5月  1,500円+

   
ブラジルで物流事業立ち上げのため6年間駐在した著者による、ブラジル社会、経済、企業、政治・法律、文化、生活の6章78項目の多岐にわたる解説に、イラストが付けられている。
それぞれの章は、最近のブラジルの実情を知る上で興味深い項目ばかりだが、例えば「企業」では世界で活躍するブラジル企業を、鉱業コングロマリットのリオドセ、石油公社ペトロブラス、中型ジェット旅客機のエンブラエール、食品のサジア、化粧品のナチュラ、菓子のガロートの紹介とともに、「生活」では日常の具体的なセキュリティ対策を解説するなどを示唆に富んでいる。漫画はなくてもよく、その分もっと図表を入れて欲しかったが、「マンガでわかる」という軽薄なタイトルにもかかわらず、内容はきちんとしたブラジル入門書になっている。   〔桜井敏浩〕
      

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「ラテンアメリカ参考図書案内」に収録〕

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海を渡ったサムライたち ― 邦字紙記者が見たブラジル日系社会

ニッケイ新聞編集局報道部  幻冬舎ルネッサンス 192頁 2006年6月  1,800円+税

       
1908年に始まった日本人のブラジル移民によって、現在日系人は約150万人にまでなっているが、この100年は日系人にとっても、日系社会にとっても数々のドラマがあった。初期の開拓移住地での苦闘の記憶、日系社会が最も大きな苦境に陥った第2次大戦前後の敵性国民としての厳しい制約、日本の情報が正確に入りにくい中で起きた同胞間での勝ち組負け組抗争、彼我の経済・生活条件が逆転して生じた棟o稼ぎ伯サ象で味わった日本での希望と失望などを、戦後いち早くサンパウロで発行され始めた邦字紙の流れを汲む新聞ならではの豊富な取材、インタビューにより、5年間にわたって連載した記事をまとめたのが本書である。

日系人の体験だけではなく、日本のサッカーのレベルアップに貢献してきた5人の名選手、平成の世になって、ブラジルで夢を追うべく渡った自由渡航の若者たち、マンガ・アニメやカラオケなど越境する日本文化なども紹介されていて、まさにブラジルは「日本人が世界中の異なる民族が集う社会への適応・順応するための壮大な歴史的実験の場」(同紙深田正雪編集長の序文)であり、「2つの国の間で日本人が果たしてきた役割の重要性、両国民の絆の深さを感じて」欲しいというメッセージを実感させる興味深いエピソード集となっている。  〔桜井 敏浩〕                                           

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「ラテンアメリカ参考図書案内」に収録〕            

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 リオのビーチから経済学 -市場万能主義との決別』 

山崎 圭一 新日本出版社 254頁   2006年3月 1,600円+税

   
著者は気鋭のブラジル研究者で、横浜国立大学経済学部教授。
”高校生向けの経済学入門本”として書いたというが、本書は市場万能主義の是非や途上国経済への取り組みという現代の経済学の課題と、具体的なブラジル経済の変化を、産業立地のサンパウロやリオデジャネイロへの集中の度合いの減少、製靴と自動車産業を例にしての工場の地方移転、セアラ州の零細・中小企業に見る「内発的発展」の可能性、”大きな政府”でも”小さな政府”でもない”良い政府”を作る一手段としての住民「参加型予算」のポルトアレグレでの試行などの実例を詳述しながら、問題点をよく整理して分かり易く解説している。

高校生や大学新入生のみならず、ビジネスマンでももう一度経済学という見地からブラジル経済を通じて幅広く開発経済学を理解する上で格好の概説書であるが、芯には副題の示すように、新自由主義経済万能論への批判的な見方が論理的に示されている。コラム、経済学の用語やキーワードのミニ解説、ラテンアメリカやアジア、南アフリカ等の筆者の訪れた土地の風景素描など、様々な工夫が凝らされ、読みやすい。〔桜井 敏浩〕

〔『ラテンアメリカ時報』 2006年夏号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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大邸宅と奴隷小屋 ―ブラジルにおける家父長制家族の形成 上・下

ジルベルト・フレイレ 鈴木 茂訳 日本経済評論社 2005年3月 上 469頁 4,200円+税、下 380頁 3,800円+税

   
ブラジルの植民地時代において、ポルトガル人の生活と家父制が形成されていく軌跡と分析した、いわばブラジル国民論というべきフレイレの代表作の全訳。20世紀ブラジルを代表する社会史家であるフレイレは、1933年に初版が出た本書をはじめとする作品で、ブラジルの国民性の基盤を成している植民者のポルトガル人の性格、植民地化の過程での農業、奴隷制、黒人や先住民との関わり、混血社会の形成、その結果として育まれたブラジル的な家族制度を考察している。

ブラジルの政治や社会などを分析していると、統計や資料だけでは解明できない、欧米で発達した分析手法や視点では説明しきれない部分があるように思えてならないことがある。本書はまさしくブラジルの国民性の背後にあるものを、その成立の過程から論じているもので、ブラジル史とポルトガル語に通暁した訳者によるこの労作は、丁寧かつ詳細な注記、解説もあって、現代においてもブラジルをより理解するうえで多くの示唆を与えてくれる。  〔桜井 敏浩〕

〔『ラテン・アメリカ時報』 2006年4月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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「ブラジル発見」とその時代 ― 大航海時代・ポルトガルの野望の行方

浜岡 究 現代書館 2006年3月 214頁 2,200円+税

大航海時代にポルトガル領となった、リスボン西方1,500㎞の大西洋上にあるアソレス諸島の人びとは、18世紀に人口増大や火山の噴火などから食糧不足に陥り、政府の植民地ブラジルへの移住奨励策によって、南部のサンタカタリーナに入植した。夫婦、家族を主体とした移住は1748年に始まり、4回で計約6,000人の島民を現在の州都フロリアノポリスの向かいにあるサンタカタリーナ島ならびに最南部リオグランデドスルに送り込んだが、それはスペインの脅威に対抗するための軍事力補強の目的もあり、入植者たちはしばしば軍務に就くことを余儀なくされた。

その後、南部はドイツや東欧からの移住者を加え、現在のサンタカタリーナ州はブラジルの中でも経済、文化、教育などの面で進んだ地域になっているが、それらの礎を造ったアソレス島民の移住を、ポルトガルやブラジル植民地時代の公文書を丹念に検証した、これまでのラテン・アメリカ史に見られなかった切り口からの歴史解説である。  〔桜井 敏浩〕

〔『ラテン・アメリカ時報』 2006年4月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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国際経営文化論   - ラテン系諸国における経営組織文化の多面的考察

大泉 陽一 文眞堂 2005年6月 216頁 2,800円+税


フランス、英国、スペインで学び、メキシコの国立貿易銀行にも勤務した経験を有する著者による、人の国際移動とそれにともなう異文化の中での企業経営を、文化的交流の観点から論じた異色の国際経営の実証的な分析である。 スペイン、メキシコ、ブラジル、フィリピン、フランスを例に、ラテン系諸国における経営文化を、伝統文化と日本文化との違い、企業組織への影響を、それぞれの国の歴史、文化、言葉などから総合的に国民性を明らかにしようとしたもので、アンケートやヒアリング、文献調査によって客観的なデータを取り込む工夫がなされている。      ラテン系諸国に赴く企業関係者や留学生などにとっては、異文化交流における指針を得るうえで、大いに有用な文献となろう。    〔桜井 敏浩〕
                          

〔『ラテン・アメリカ時報』 2006年2月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕
     

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白いインディオの想い出 ― ヴィラ・ロボスの生涯と作品

アンナ・ステラ・シック 鈴木裕子訳・演奏 トランスビュー
2004年10月 229頁 3,000円+税

   
初めてヴィラ=ロボスの交響曲を聴いた時、これが本当にブラジルの作曲家の手になるものか?と驚き、ブラジルのクラシック音楽のレベルの高さに衝撃を受けた記憶がある。訳者も米国留学中にヴィラ=ロボスのピアノ曲を知り、その紹介を心に誓ったという。その後のパリ留学でも帰国後も、ブラジル音楽の演奏活動に力を入れてきたが、ヴィラ=ロボスの直弟子の著者による本書に出会い、その指導を得ることが出来たことから、本書の翻訳を思い立った。
  
偉大な作曲家の伝記と交流の想い出だけでなく、主要作品目録、ジャンル別の曲目解説、演奏解釈まで網羅したヴィラ=ロボスの人物像を浮き彫りにした証言集となっている原書に加え、訳者によるブラジル・クラシックのピアノ演奏のCDも付いており、ヴィラ=ロボスという人物とその作品への愛着がひしひしと伝わってくる。〔桜井 敏浩〕

〔『ラテン・アメリカ時報』 2005年11月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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熱帯の多人種主義社会 ―ブラジル文化讃歌

岸和田 仁 つげ書房新社 2005年9月 268頁 2,300円+税

     
本書は、ブラジルの映画監督やミュージシャンとのインタビュー、近年のすぐれたブラジル映画、北東部(ノルデスチ)を中心にした歴史散歩と題する評論、著者が”ブラジルの表現者”として選んだ作家や詩人、ジャーナリスト、民俗研究者論、そして最近の文学やジャーナリズムなどの話題作の紹介から構成される。中南米などの音楽文化誌『ラティーナ』にここ10年にわたって発表した文化短信に、冒頭章の「ブラジル論の試み」(著者がいかにブラジルに通暁しているかがよく分かる)を書き加えたものだが、どれも深い、幅広い知識と優れた眼識をもった者でなければ書けないものばかりである。

「ブラジルをブラジルたらしめているものは何か、その文化、歴史的背景はどうなっているか」という広範な知的探求心にもとづく、この優れたブラジル文化論が、これが企業の第一線でブラジルとの関わりに活躍してきたビジネスマンが仕事の合間に書きためたものであることには感嘆するばかりである。 〔桜井 敏浩〕

〔『ラテン・アメリカ時報』 2005年11月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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現代ブラジル事典

ブラジル日本商工会議所編・小池洋一他監修 新評論   2005年7月  502頁  6,000円+税

        
BRICs の中でも群を抜いて農牧生産力と鉱産物資源に恵まれ、グローバル化が進む世界経済の中で存在感を高めているブラジルに対し、欧米や他の BRICsをはじめ多くの国々が投資・貿易相手としての関係の緊密化を進めている。遅ればせながら日本企業もふたたび関心を高めつつあるが、長年経済の病理であったインフレと対外債務問題を克服し、政治・経済の不安定性を脱却して、成長路線を歩み始めたブラジルの近年の変貌は著しい。
    
本書は、155人のブラジル研究者、専門家、第一線で活躍するビジネスマンを動員して、現代ブラジルの全体像を、自然、政治、経済発展、産業、社会と制度、文化、環境と開発、日本ブラジル関係、法制度の9分野に分け、詳細な関連資料も付して網羅し詳述した総合事典である。
ビジネスに関わる者はもとより、文化、社会その他あらゆる面でブラジルを知りたい広範な読者にとって、きわめて有用な情報・資料集となっている。   〔桜井 敏浩〕
     
  
〔『ラテン・アメリカ時報』 2005年9月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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アマゾン -保全と開発

西澤利栄・小池洋一・本郷豊・山田祐彰 朝倉書店  2005年4月 147頁 3,500円+税

      
世界最大の熱帯雨林地帯で、全世界の河川流出量の約20%を占め、世界の気象に大きな影響を与え、また世界有数の生物多様性に富んだ遺伝子資源の宝庫でもあるアマゾン地帯は、開発の圧力により急速に浸食されている。本書は、地理、経済、農業と協力分野に通暁した4人の専門家によるアマゾンの最新の解説であるが、この「経済と環境の対立」 ―アマゾンの「開発と保全」のせめぎ合いと現在の問題を、総合的に明らかにしようとしたものになっている。
     
自然環境と伝統的な資源利用の一方で、進む森林破壊とアグリビジネスの功罪、アマゾンの自然環境を守るため、ブラジル政府や日本はじめ国際協力によって行われている取り組みを紹介している。アマゾンの未来を考えるとき、その生態系のもつ価値、気象と水文環境の価値を明確に認識し、熱帯雨林の保全と持続的利用を両立するため、不断の研究と課題解決のための新たな知識の創造、それに基づく国際的な枠組みの中で、早急に森林伐採の抑制、森林再生に取り組まねばならないと説く。  〔桜井 敏浩〕
     

〔『ラテン・アメリカ時報』 2005年7月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕           

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アマゾン河の食物誌

醍醐 麻沙夫 集英社(新書) 2005年3月 203頁  680円+税

      
長い期間アマゾン流域を旅し、釣りに親しんできたブラジル在住の作家による、アマゾン河に住む人々の食生活誌。
太りすぎでも痩せすぎでもない引き締まった男と適当に脂肪のついたなめらかな女、アマゾン奥地で生活する人々の体型がほぼ同じに感じられるのは、アマゾン料理が原則として油を使わないこともあるが、そこに自然な体型を維持する食事や生活のヒントがあるのではと考える。

河口の都会ベレンから始まり、青き水の町サンタレン、熱帯雨林の中、中流の大都会マナウスに至る各地で、アマゾン河と森の恵みを巧みに活かし、シンプルながら美味しく多彩な料理とその材料や作り方、それらにまつわる背景などを紹介していく。文字どおりアマゾン遡航の旅を満喫させてくれる食物紀行である。 〔桜井 敏浩〕
    

〔『ラテン・アメリカ時報』 2005年6月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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アマゾニア』 

粕谷 知世 中央公論新社 2004年10月 426頁   2,000円+税

     
アマゾン河流域の熱帯雨林に、泉の部族と名乗る女性だけの集団がいた。訓練された女戦士が実力で部族を守り、年1回周囲の部族の男達との宴で子どもを儲けるが、男児が生まれると男親の部族に届け女の子だけを育てる。森に生きるすべての動物や樹木に精霊がいて、部族にはそれぞれの守護霊がいるが、泉の部族のは森の娘という霊だった。はるか昔、旅の青年を恋し、その帰りを待ちながら沼に身を投げた娘の霊が、森の動物や泉の部族が差し出す娘の身体に宿っている。

ある時、アマゾン河を下ってきたスペイン征服者の一分隊の二人が泉の部族に囚われるが、森の娘はその一人こそ待ちわびた恋人だといい張り、男子禁制の部族で介護するよう命じたことから、泉の部族の結束と周囲の部族との微妙な友好関係がおかしくなり、滅ぼした部族の亡霊の襲撃もあって平和が乱される。戦いの果て、やがて森の部族の秩序は回復し、生き残ったスペイン人は森の部族の一員になり、征服史の舞台からアマゾンの森に消えていった。

あらゆる生き物とともに森に生きる先住民の生活、ギリシャ神話のアマゾン族を思わせる女族、それにスペイン征服者のアマゾン河遠征を絡めた幻想的な物語。 〔桜井 敏浩〕                                                           
                    
〔『ラテン・アメリカ時報』 2005年1月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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アマゾンからの手紙 -10歳のブラジル移民』 

山脇あさ子作 宮崎耕平絵 新日本出版社 158頁 2003年12月 1,500円+税


突然、宮城県岩沼の駅前の書店主にブラジルから航空便が届き、開けてみると小学校の同級生でブラジルへ移民した旧友がまとめた 「アマゾン移民物語-ジャングルに散った少女・大野洋子に捧ぐ」と題するワープロでうったノートのコピーが入っていたという書き出しで、かつて駅前のタンス屋の一家がアマゾンに入植し、開拓会社の話しとは異なる過酷
な条件の入植地で弟と姉を失い、サンパウロに脱出するまでを描いた小学校高学年向けの児童書。

この本は、著者が出会った小冊子『アマゾン移民・少年の追憶』(小野 正氏まとめ)に感銘を受けて書かれたもので、「...こんなブラジル移民の人たちの物語を、より多くの人に知って欲しい、と強く思った私は、小野さんの了解を得て、この本を作らせていただきました。エピソードの多くは小野さんが綴られた体験記が基になっています。

ブラジル移民という歴史的事実とその過酷さ、その中で短い命を奪われアマゾンの土になられた一人の少女の、ひたむきな生き方が、みなさんに伝わることを祈ります。」と、作者のあとがきにあるが、この実話が今は豊かになり飽食の日々を過ごす日本の子供たちに少しでも広く読まれることが望まれる。 〔桜井 敏浩〕


〔『ラテン・アメリカ時報』 2004年11月号掲載 (社)ラテン・ アメリカ協会発行〕

〔注〕    小野 正氏は2004年8月に亡くなられたが、この本の基となった『アマゾン移民少年の追憶』は、サンパウロで発行されている邦字紙ニッケイ新聞に連載され好評を博した。同紙のホームページに収録されている。

http://www.nikkeyshimbun.com.br/amazon.html


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テスタメント 上・下』  

ジョン・グリシャム,白石 朗訳    新潮社(文庫) 上467頁  下458頁 2003年2月 
上743円・下705円+税

          
巨大企業グループの創設者が、莫大な資産と奇妙な遺言書を残して自殺し、遺産の分配に与ろうと群がる親族と顧問弁護士たちの争奪戦が始まる。遺言書を執行すべく雇われたアル中の弁護士は、遺産相続人に指名された謎の娘がパンタナール大湿原奥地の文明社会と接触していないインディオ集落でキリスト教の伝道に従事していると聞き、ブラジルのボリビア国境近くの町コルンバに飛び、案内人と河船を雇って広大な湿原にわけ入る。    
            
雨期の大湿原の捜索は困難を極め、やっと見つけた伝道師からは財産には興味ないと法律文書への署名を拒否されるが、その気持ちを汲んだ弁護士は米国に戻る。遺言書を無効とし分け前を狙う親族・弁護士との駆け引きが進むなか、再度訪ねたパンタナールの相続人はすでにマラリアで亡くなっていたが、彼女の住んでいた小屋からは遺産の行方をひっくり返す遺書が..。
 
米国の法廷ものミステリー小説だが、ブラジル最奥地での探索行を絡ませて一気に読ませる。 〔桜井 敏浩〕
   
  
〔『ラテン・アメリカ時報』 2004年9月号掲載 (社)ラテン・ アメリカ協会発行〕

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ラテンアメリカの女性群像 -その生の軌跡

加藤隆浩・高橋博幸編 行路社 365頁 2003年12月 2,800円+税



インカの時代にアンデスの高峰で山の神への生贄に供され、近年発見された少女フアニータ、メキシコの征服者コルテスの通訳としてアステカ攻略を助けたマリンチェにはじまり、アルゼンチン大統領夫人で社会福祉活動から聖エビータとさえいわれたエバ・ペロン、現代のグアテマラの人権活動家リゴベルタ・メンチュウや、コロンビアのテロ組織に誘拐され今なお生死不明の大統領候補イングリッド・ベタンクールに至るまで、500年余のラテン・アメリカの歴史を彩った女性23人の生の軌跡を描いている。
     
支配階層、政治活動家、社会や宗教の変革者、あるいは反逆者や革命家として、また画家や作家、詩人、歌手として、歴史に足跡を遺したこれら女性たちはそれぞれにその時代の社会に影響を及ぼしたが、その多様な生き様はあらためて歴史に興味を呼び起こさせ、男性優位が顕著なラテン・アメリカ史に新たな視点を示唆する。 〔桜井 敏浩〕
   
〔『ラテン・アメリカ時報』 2004年8月号掲載(社)ラテン・アメリカ協会発行〕
       

〔注〕 ブラジル関係では、18世紀奴隷社会に生きた解放
    奴隷シカ・ダ・シルヴァ(東 明彦 執筆 )と、大衆音
    楽の母シキーニャ・ゴンザーガ(同 住田育法)が
    紹介されています。

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人間都市クリチバ ―環境・交通・福祉・土地利用を統合した
 まちづくり

服部 圭郎 学芸出版社 198頁 2004年4月 2,200円+税

     

ブラジル南部パラナ州の州都であるクリチバ市は、30年にわたって一貫した都市計画を実践してきた。きめ細やかなゾーニングなどの土地利用・住宅政策を、都心部への車の乗り入れ制限に代わる放射状軸と環状のバス専用車線とチューブと呼ばれる独特の乗り換え
停留場を組み合わせた効率的な交通政策と整合性を図ったことはよく知られている。さらに緑地の配置、町並みの色を指定するなどの景観と歴史的建造物の保全に配慮した都市デザイン、ゴミのリサイクルを貧困層居住地区の住民の分別ゴミと周辺農家の余剰農産物との交換により促進するというアイディアなどによって、人口が約60万人から160万人に膨れ上がった現在においても、都市政策の成果が各所に見られる。
   
しかも一方では、地場産業の育成やインダストリアル・シティの創設など、雇用機会を創出する産業の誘致にも力を注いできたのである。  なぜブラジルの一地方都市が、このような魅力ある都市造りに成功したのか? 日本の都市を住みやすくする教訓は何か? 都市のあり方を考える上で大いに示唆に富んだ考察であり、地方自治体など多くの関係
者に是非読んで欲しい1冊である。  〔桜井 敏浩〕
   
   
〔『ラテン・アメリカ時報』 2004年8月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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「蒼氓の92年 ―ブラジル移民の記録」

内山 勝男著
  東京新聞出版局、 205頁 2001年1月 1,5000円+消費税


内山氏は、20歳でブラジルへ渡航、1946年に邦字紙「サンパウロ新聞」を創刊、以後現在に至るまで編集の第一線にあり、社説やコラムを書き続けている。約70年にわたるブラジルでの生活で、常に日系人社会と向かい合ってきた著者ならではの、ブラジル日系移民史。体験、見聞だけでなく、ジャーナリストとしての目を通した見方が、随所に織り込まれている。

著者によれば、戦前、日本人移民は同化しないことが排日の原因になったが、日本移民は同化しないのではなく、排日の下で生活をするために日本人の集団、つまり『ムラ社会』をつくって暮らさなければならなかった。この『ムラ社会』が外部に広がっていくにつれ、いまではどうかと思うほど、同化が激しくなり、日系4世の混血率は61.6%にもなるという。
「約8万人の一世のいなくなった日系社会は、日本語新聞の終焉であり、一方、混血の進行によって従来の日系人社会は形を変えていくことだろう。
その日は目前に迫っている」という、あとがきの指摘に、著者の人生の情熱のすべてが注がれたであろう、ブラジル日系社会の変貌への感慨が込められている。〔桜井 敏浩〕
                         

〔『ラテン・アメリカ時報』2001年7月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会刊〕

 

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ラテンアメリカ経済論 -現代世界経済叢書 7

西島章次・細野昭雄編著 ミネルヴァ書房 278頁  2004年4月 3,200円+税

     
いまラテンアメリカ経済は、大きな変貌をとげつつある。これまでの発展過程と構造的にに抱えている社会問題に加えて、近年移行した経済自由化に時を置かずして到来した地域統合や経済のグローバル化の波が根本からの変容を余儀なくしている。こうした状況下にあって、貧困と所得分配や都市・自然環境、地方分権化などへの対処が、経済・社会改革のための課題となっている。  
      
これらはラテンアメリカが新たな開発戦略を求める上での重要な要素であるとともに、その理解はこれからの日本とラテンアメリカとの戦略的な関係を構築する上でも欠かせない。
  
これまでラテンアメリカ経済全般の流れを論じた著作はいくつか出ているが、近年のラテンアメリカの大きな変容を、グローバリゼーションの進展を軸に13人の研究者が様々な切り口から分析した本書は、内容的にも新鮮な示唆に富み、現在のラテンアメリカを知る上での格好の解説書である。 〔桜井 敏浩〕
  

〔『ラテン・アメリカ時報』 2004年7月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行

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ブラジル新時代 ―変革の軌跡と労働者党政権の挑戦

堀坂浩太郎編著 勁草書房 240頁 2004年3月  2,800円+税

      
この10年ほどの間にブラジルの経済・政治は大きく変容した。1994年のレアル・プラン実施と翌年からの2期8年のカルドーゾ政権によって、インフレを克服し、閉鎖経済による国内産業保護から経済のグローバル化と市場主義に一気に進んだ。そして2002年の大統領選挙によって、1980年からの伝統的な左派である労働者党(PT)からルーラ大統領が登場したのである。これによるブラジルの変革はどのような方向に向かうだろうか? ブラジルとは意外と身近な関係にある日本の対応はどうあるべきだろうか?
   
この劇的ともいえる変革の時代を、政治、経済、金融、産業、中小企業、都市システムの変容、教育開発と社会の変化、積極外交への転換、そしてメルコスール(南米南部共同市場)を核とした通商戦略に至るまでを、長年ブラジルの動静を観察している大学やシンクタンク、貿易振興団体、企業のウォッチャーたちがそれぞれの得意分野を分析した、コンパクトながら内容の濃い最新の解説書である。 〔桜 井 敏 浩〕
     

〔『ラテン・アメリカ時報』 2004年5月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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  『南米の日系パワー ―新しい文化の胎動』

村野 英一 明石書店 244頁 2004年1月  1,800円+税

 
ブラジルでは2008年に140万人といわれる日系人が移住100周年を迎える。1世紀の歴史の中で確たる日系社会を築きあげ、政界、経済界、学界などで活躍する日系人を輩出してきたが、この十数年ほどの間に大きな変化が起きている。ブラジルだけでも25万人と見られる日本への“出稼ぎ”現象と、世代交替による日系人としての意識の変容である。

しかし、多くの県人会の活動が衰退する一方で、日系の若者が集まるパーティが盛んに行われ、日系の新たなネットワーク創りが進められている。移民としての共通の苦労体験での結びつきが薄れてきたが、若い日系人でも彼らの心の襞(ひだ)に近づけば近づくほど、“日系人”という意識が浮かびあがり、たとえ日本語に依らなくても新たな連帯感が出来つつあるというのである。
  
日本は米州の日系社会との交流を深めつつ、その人材育成に協力し、彼らが住む国々と日本双方にとって有益な関係を発展させられると、朝日新聞の前サンパウロ支局長である著者は力説する。      〔桜井 敏浩〕
                

〔『ラテン・アメリカ時報』 2004年4月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕


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ワイルド・ソウル』 

垣根涼介 幻冬舎 527頁 2003年8月 1,900円+税

1960~70年代に多くの日本人がばら色の広報映画に釣られるなどして、家族でブラジルに移住、その中で少なからざる人たちがアマゾン河流域に入植しましたが、いざ着いてみると日本での募集の時の話しと大違いで、まったくインフラ等の整備がなされていない原生林の中に放りこまれ、家族皆が風土病や飢餓、匪賊の襲撃など、過酷かつ悲惨な運命を辿ります。
  
話しが違うと掛け合ったベレーンの総領事館は必死の訴えを無視、日本からの親族による救援金は移住斡旋会社に着服され、多くの移住者が恨みを持ったまま僻地で果てましたが、その生き残りや遺児たちが、当時の外交官、騙した宣伝映画を作った会社、移住斡旋会社の幹部と外務省に復讐を行うというが粗筋で、耐震工事のため現在芝公園のビルに移転中の外務省仮庁舎の銃撃シーンは大変リアルです。また遺児の一人は、入植地から脱出する際に両親を河賊に殺され、コロンビアの麻薬マフィアのボスに助けられてその養子となり、日本での販売支部長を務める挿話があり、ブラジルのアマゾン地帯やサンパウロだけでなく、南米と日本にまたがる綿密な取材による冒険小説になっています。
        

(注)   ドミニカ、ボリビアと並んで、戦後移民政策の中でも現地調査の杜撰さから、入植者 が多大な苦労を強いられた模様は、移住事業団の前身で働いた若槻泰雄氏の著 『外務省が消した日本人 ―南米移民の半世紀』毎日新聞社 2001年 1,800円 に詳しく、本書も参考文献に挙げています。         
(桜井 敏浩)

        
【ラテンアメリカ関連Mailing Listへの寄稿(2004年1月)から】

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ブラジルの税務体系 ― 2002年改訂版
   

都築 慎一著、ジャパン・デスク (サンパウロ)発行,257頁、 2002年2月

 
日本企業がブラジルで事業活動を行う際に関わってくる税制を網羅した、有用な解説書。筆者は日本とブラジルの大学で会計学を学び、公認会計士として登録、長く日系企業の税務コンサルタントを行ってきた。

複雑なブラジルの各種税の仕組み、内容から申告上の注意に至るまで、懇切に解説している。日本では、サンパウロ新聞社東京支社(電話 03-3986-6770,Fax 3986-6772)で入手可能 (送料込み価格 12,000円)。   〔桜井 敏浩〕 
  
〔『ラテン・アメリカ時報』2002年4月号掲載 (社)ラテン・ アメリカ協会刊〕

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ブラジルの挑戦 ― 世界の成長センターをめざして

鈴木 孝憲、日本貿易振興会(JETRO)、242頁、2002年3月、1800円+税

    
慢性的な高インフレの国という代名詞が常に付いていたブラジルが、1994年にレアル・プランの実施によって劇的にインフレを収束させ、安定成長の道を歩み始めた。もとより
レアル・プランがその後も順風満帆で、問題が無かったというのではない。その後もプランの基本的手段の一つとして意識的に取られてきた為替高政策は、新興国市場危機のあおりを受け、ついに1999年に大幅切り下げと変動相場制への移行を余儀なくされた。
   
しかしさらなる構造改革を要する問題を抱えているものの、今般のアルゼンチン経済の混乱がほとんど波及していないことに見られるように、ブラジル経済は、21世紀に世界の成長センターになり得るに十分な底力と潜在可能性をもつ。約35年もの間ブラジルとの経済関係の第一線で活躍している著者が、欧米に大きく後れをとっている日本企業に、大きく変わりつつあるブラジルの実情を、詳細に、具体的に、熱意をこめて説いている。  
〔桜井 敏浩〕
     
〔『ラテン・アメリカ時報』2002年5月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会刊〕

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ラテンアメリカの日系人   -  国家とエスニシティ

柳田 利夫編、慶応義塾大学出版会、310頁、2002年4月 3,600円+税

ラテン・アメリカ諸国で、国家とエスニシティ集団との多様な関係という観点から、日系社会はどのような地位を築いてきたのか?を6カ国について、それぞれの国に精通した研究者が、その国の歴史、社会の変遷の中で、日系人のアイデンティティ、生活と生業から出稼ぎに至るまで、個別事例によって検証した7本の論文から構成される。

ブラジルでの知識人の日本人観、シャーマン信仰の宗教世界への国家のインパクト、日本人移住地として始まり、今も様々な「日本性」を維持する特異なバストス市日系社会、ペルー在住日本人のアイデンティティとしてのナショナリズム、メノナイト信徒(兵役と教育への国家介入を拒否するキリスト教の一派)を受け入れたボリビア、パラグァイ政府のナショナリズム観と日本人という外国移民との関係、メキシコの一世と二世の結婚観の変容、アルゼンチン移住者の日本への出稼ぎ現象の新たな視点と、それぞれ興味深い切り口での分析がなされている。桜井 敏浩〕

 〔『ラテン・アメリカ時報』2002年5月号掲載 (社)ラテン・アメ リカ協会刊〕

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情熱のブラジルサッカー

沢田 啓明著、平凡社(新書)、222頁、2002年3月  760円+税

『サッカー狂の社会学 ―ブラジル社会とスポーツ』

Janet Lever著、亀山佳明・西山けい子訳 世界思想社  1996年7月 2,300円+税

       
ブラジルでのサッカーの国民的人気の凄まじさはいうまでもないが、現地の実情は日本人の想像を遙かに超える、いわば社会現象である。『情熱のブラジルサッカー』は、サンパウロに1986年以来在住するサッカー・ジャーナリストによる、数多くの観戦記とブラジルサッカーの詳細な解説だが、内容も新しく、ブラジル社会とブラジル人を知る上で格好な手引き書になっている。
     
歴史、厚い選手層を生み出すサッカー環境と育成システム、ブラジルサッカー特有のプレー・スタイルとテクニック、それらを厳しい批判と愛着の混じった目で、レベルアップに貢献してきたファンとメディアを分析し、いつになく苦しんだ2002年W杯の南米予選試合を振り返って、これからのブラジルサッカーの未来にも言及している。
    
社会現象としてのブラジルサッカーを、米国の大学で社会学を教えている女性研究者が分析したのが、『サッカー狂の社会学』である。丹念にブラジルのサッカーをめぐる社会状況を取材、特にサッカーファンに数多くのインタビューを行い、ブラジル国民にアイデンティティと市民意識をもたらし、サッカーはブラジル社会・文化といっていいとの結論を導き出している。  〔桜井 敏浩〕

     
〔『ラテン・アメリカ時報』2002年6月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会刊〕

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ブラジル「発見」500年 ― その歴史と文化

三田千代子編、上智大学イベロアメリカ研究所、96頁、 2002年3月 700円

  
1500年にブラジルの存在が欧州に伝えられてからちょうど500年経った節目に、上智大学でブラジルの歴史と文化を中心として、3年度にわたった共同研究の報告書。
   
先住民とポルトガル植民者、アフリカから奴隷として連れてこられた黒人、欧州からの移民に加えて日本人などの移住者から構成されるブラジル社会は、実に多様な文化的背景をもつ。常に他の文化や民族の影響を受け、ダイナミックな変化を遂げているブラジル社会を、専門分野の異なる9人の研究者が、独立の経緯と国家の形成、黒人奴隷末裔に負わされた課題という歴史の側面と、言語、建築・美術、音楽、映画によって文化から見ることにより、ブラジル社会の固有性を探ろうとしたもので、興味深い切り口での考察がなされている。
    
市販されたものではないが、上智大学イベロアメリカ研究所(電話 03-3238-3530、
Fax 3238-3229、メールibero@sophia.ac.jp) へ申し込めば、送料込み900円で入手可能。
〔桜井 敏浩〕

    
〔『ラテン・アメリカ時報』2002年6月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会刊〕
     

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ブラジル学への誘い ― その民族と文化の原点を求めて

田所 清克、世界思想社、232頁、2001年9月 1,900円+税

  
30年にわたってブラジル研究を続けてきた地域研究者が、学際的に、いわば「ブラジル学」という視座から、総合的かつ広範囲に社会、民族、芸術、文学、文化を考察したものである。
      
風土的特性、社会史、民族問題、ナショナル・アイデンティ構築等を、歴史と文学の視点から10章に分けて述べている。全体としてはコンパクトなブラジルを知る入門書であるが、それぞれには著者の積年の研究蓄積が背後にあって、内容の深い論集となっている。
     
修好条約が結ばれて107年、多数の日系人がいながら、日本人はブラジルを知らなすぎるし、いわんや大きく変容しつつあるブラジルから何かを学び取ろうという姿勢を欠いているが、まずは社会と文化を知ることにより、理解を深めて欲しいとの著者の願いが込められている。〔桜井 敏浩〕
                                                       
〔『ラテン・アメリカ時報』2002年7月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会刊〕
   

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大自然の楽園ブラジルへようこそ

オスニー・カリスト他著、クラウディオ・ヒロヒサ・アキヤマ訳、(有)イー・ブラジル発行 213頁、2001年 12月 4,762円+税


日本人やその子孫の二世、三世など多くの人々に、ブラジルのことを伝えたい、ブラジルの魅力をわかりやすい言葉で語りたいという著者、企画者、発行者の熱意で出来上がった美しい写真集。

多くのカラー写真とともに、全編日本語とポルトガル語の対訳で、ブラジル全土の各州の美しい自然のみならず、人々の生活、文化、社会についてのていねいな解説が付いている。まさにこの1冊で、ブラジル全土を周遊しながら、各地の大自然の景観にふれつつ、歴史、物産、文化遺産を知ることができる。ブラジルをある程度知った者でも、ブラジルの魅力を再認識するに違いない。

 一般の書店では市販されているものではないが、(有)イー・ブラジル(電話 052-551-0047、Fax 551-0053、同社ホームページ
(http://www.brasil.ne.jp/paraiso/japanese/shop/index.html)へ申し込めば、2002年10月末までなら送料・代金引換料800円込み計4,300円で入手可能。   〔桜井 敏浩〕
  

〔『ラテン・アメリカ時報』2002年8月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会刊〕

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ブラジル学を学ぶ人のために

富野 幹雄・住田 育法編、世界思想社 235頁、2002年8月 2,200円+税

広大で多様性に富んだ現代のブラジルを、複数の視野から基本的な知識を求め、実態を知るする人に手がかりを与えようと、様々な分野のブラジル専門家がいろいろな切り口から接近を試みた、コンパクトながら総合的な内容をもった紹介書。
  
「開発と社会」、「開発と文化」という基本視点から、歴史、政治、経済のみならず、移民と人種問題、教育、映画、言語、さらに日系移民史と出稼ぎ問題に至るまで、広範なテーマを取り上げ、永遠の課題である経済開発の進展とともに、その両刃の剣ともいえる環境や社会問題への取り組みにも触れている。これらから、ブラジルが大きな可能性をもつとともに、その中での生活に私たちを惹きつける豊かな文化があることを教えてくれる。

各章に参考文献リストとその簡単な解説が付され、それぞれのテーマに理解を深めたブラジル学を学ぼうとする人に、有用な手がかりを与えてくれる。  〔桜井 敏浩〕

〔『ラテン・アメリカ時報』2002年9月号掲載(社)ラテン・アメリカ協会刊〕

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BOOKs 疎遠だった二地域の関係に光りを当てる
  
アジアとラテンアメリカ ―新たなパートナーシップの構築

西島章次、堀坂浩太郎、ピーター・スミス編 彩流社 2002年   7月 2,800円

広大な太平洋を挟んで、ラテンアメリカと東アジアの関係は、これまで疎遠といってもよいほどで、世界秩序の中でいわば“輪が欠けた部分(Missing Link)”であった。しかし近年グローバリゼーションの進展によって、両地域の関係はこれまでにない緊密化の方向に向かいはじめている。 ここ10年ほどの間に資源、通商、投資など経済的な相互補完関係はかつてない深まりをみせつつつあるが、経済面のみならず国際政治、外交の分野でも関心事項や利害が共通する場面が増えてきた。両地域の関係が発展することは、今後の世界秩序の形成に重要な役割を果たすことが期待されている。   本書は日本、米国、中国、韓国、タイ、ブラジルの6か国の政治・経済の専門家が、この両地域関係を様々な側面から分析することによって、総合的に現状を知り、将来の関係発展を探ろうとしたものである。
  
まず、両地域での三大パワーである米国、日本、中国の対ラテンアメリカおよび対アジア政策と実際の関係の変化を考察し、続いて両地域の各国が実際に行動を起こした FTA(自由貿易協定)のこれからの可能性、両地域間の経済関係における企業アクターの新たな役割、日本からラテンアメリカ資金へのフローを見ることによって政府開発援助(ODA)、金融、投資関係の貢献などを概観している。 また、アジアでの韓国とタイの経済・通貨危機の経験を紹介することによって、そこから両地域に共通する経済の脆弱性の克服、危機解決に向けての方策を探っている。 これらの分析と検証から、両地域間の関係を緊密化するために、経済・外交・社会などの諸制度における連携や学術・文化交流、多国間での協力関係の強化の必要性を強調する。

その一環として、1998年にシンガポールのゴー・チョクトン首相の提唱から設立された「東アジア・ラテンアメリカ協力フォーラム(FEALAC=Forum for East Asia - Latin America Coopration)の有用性についての期待を指摘している。最後に、米国をはじめとする大国の役割について、各章での提言を踏まえ、世界的なパワーの前途について六つのシナリオを検討している。

各章はそれぞれ多くの示唆を含んでいるだけに、アジア側だけでなく、もっとラテンアメリカ側からの研究成果もほしかった。しかし、様々な側面から各国の専門家が議論に参加し、ラテンアメリカとアジアの関係を政治学、経済学といった切り口を超え、学際的な研究としてまとめようという意図は斬新である。   本書が行った、このほとんど未踏であったといってよい試みが一つの重要な提起となり、今後のさらなる研究の呼び水になることが期待される。 (桜 井 敏 浩)

〔『世界週報』2002年10月1日号掲載 時事通信社発行〕
    

〔注〕   
(1)ブラジルからは、Gilson Schwartz サンパウロ大学高等研究客員教授が、「アジアとラテンアメリカの危機管理の展望 ―解決に向けて」と題して、1994年のメキシコ、99年のブラジルやエクアドル、2001年のアルゼンチンなどの危機と、1996年の韓国をはじめとするアジア危機の、それぞれの回復過程の違い、特に危機からの脱出シナリオの有無を論じている。
   
(2)評者は、FEALAC の中の検討テーマの一つで、我が国が担当する「経済ワーキング・グループ」に関し、2003年のフィリピンでの外相レベル会合で日本が発表する提言案作成のため、2002年に日本国際問題研究所に設けられた研究会(細野昭雄神戸大学教授、鈴木勝也前駐ブラジル大使共同主査)に、外務省中南米局推薦の民間企業委員の一人として参加して
いる。

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ブラジル大豆攻防史 ―国際協力20年の結実

青木 公、国際協力出版会、 219頁 2002年5月 1,800円+税

 
広大なブラジル国土の24%を占めるセラードは、酸性土壌の荒野であるため、その名のとおり“閉ざされた土地”だったが、30年にわたる日本のODA協力もあって、今や大豆やコーヒーその他農産物の一大生産地に生まれ変わりつつある。特に世界の10%を占めるブラジル大豆の半分強は、このセラードで作られている。
  
両国政府とその関係機関、日本のODA協力関係者、フロンティアでの農業に賭けた入植者たち、成功の影には多くの関係者の尽力と相克があった。また営農問題のほか、インフレによる多額の債務返済の行き詰まり、内陸奥地なるがゆえの生産物輸送の難しさ、輸出市場での米国等との競争など、苦労や失敗も数多くあった。そして今は国際穀物メジャーの流通寡占、セラード式大規模栽培のアマゾン地域への拡大、環境や先住民問題への影響など、新たな課題もかかえている。
  
同じ著者・発行所による『甦る大地セラード』(1995年)に続く、日本のODAが大きな役割をはたした壮大な農業開発事業の光と影、発展と問題・課題を描く現地取材である。
〔桜井 敏浩〕
   
〔『ラテン・アメリカ時報』 2002年10月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会刊〕

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カリブ・ラテンアメリカ音の地図

東 琢磨編 音楽の友社 2002年3月 1,800円+税

南はアルゼンチンのタンゴやフォルクローレ、ブラジルのサンバやボサノヴァから、北はカリブのレゲエやアフロ系の様々なリズム、メキシコのマリアッチ、ランチェーラ等々、ラテン・アメリカは音楽の宝庫である。そんなカリブとラテン・アメリカ全域の音楽を、地域やジャンル別に、その多様な音楽文化を知ることができる適切な入門書。

これまでのラテン・アメリカ音楽の解説が、とかくサンバ、ボサノヴァ、タンゴ、フォルクローレ、サルサやキューバン等カリブ音楽が中心で、アーチストとそのレコードやCDの記述に偏っているものが多かった。本書はむしろそれらの“有名”なジャンルの割合を少なくし、ほとんど情報が乏しかった小さな国の音楽や、クラシック、ジャズ、ロックや、はたまた米国の諸都市で、ヒスパニックやカリブのアフロ系等との混交から生まれた最近の新しいジャンルに至るまで、実に広範に紹介している。この1冊で、文字どおりラテン・アメリカの音の地図が眼前に広がる。  〔桜井 敏浩〕

〔『ラテン・アメリカ時報』 2002年10月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会刊〕



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カカオ

ジョルジェ・アマード著 田所 清克訳 彩流社 190頁  2001年10月 1,900円+税

  
北東部バイア州はチョコレートの原料になるカカオの栽培地だが、ここで生まれ育ったブラジルの代表的なストーリーテラーといわれるアマードの、社会派ドキュメンタリー風ともいえる小説。 
  
没落した富裕な農園主の息子がカカオ農園の一労働者になり、過酷な労働と労働者仲間との友情、冷酷な園主のすさまじい搾取、、やがて社会の矛盾に目覚め、農園主の令嬢との恋を捨て、労働運動に身を投ずべく旅立つ姿を描いているが、単なるプロレタリア文学の範疇に入る小説ではない。
 
平易な文章で、ラテン・アメリカ文学にありがちな難解さはまったくない、ブラジル北東部の自然と人々の素朴な生活、農園主と労働者の関わりなど、この地方の風土を生き生きと感じさせる佳作。 〔桜井 敏浩〕
   
〔『ラテン・アメリカ時報』 2002年11月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会刊〕

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ビジネスガイド ブラジル

  JETROサンパウロ・センター編著 日本貿易振興会 (JETRO) 260頁 2002年12月 
 2,500円+税

   
経済活動のグローバル化にともない、国際競争の中で 生き残るためには、北米、アジア、欧州をカバーし得る 生産拠点・販売ネットワークを構築しなければならないが、 欧米や南部・西アフリカの市場にも地の利をもつラテン・ アメリカへの布石が重要になってくる。その場合最も有力 な候補地はブラジルをおいてほかになく、欧米企業は競っ てその企業の将来を担う重要拠点構築のため、中長期的 観点からブラジルへの直接投資を拡大している。
  
この20年近く、日本企業はブラジルへ目を向けることは 少なかったが、その間ブラジル経済は大きく変化し国際化 が進んで、ビジネス環境は様変わりしている。本書はグロ ーバルな生産・貿易の拠点としての現在のブラジルを、 経済基礎情報、企業設立の戦略、税制、労務問題、貿易 手続きから、主要州別のデータや都市別のコストなどに いたるまで、懇切に解説しており、きわめて実践に即した 具体性をもつ有用なガイドブックである。                                   〔桜井 敏浩〕

〔『ラテン・アメリカ時報』2002年12月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会刊〕

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サンパウロ/リオデジャネイロに暮らす(第2版)

サンパウロ/リオデジャネイロに暮らす編集委員会著 日本貿易振興会(JETRO) 215頁 
2002年10月  1,600円+税


世界各国に調査網を張りめぐらせたJETROがまとめた、 海外生活情報のガイドシリーズの最新刊、ブラジル編。 現地にある事務所と日本人会などが協力し、両市に赴任する者に不可欠な情報を提供している。渡航準備、通関から始まる入国後のさまざまな手続きや登録、住居探しから、電話や車の購入、日常の衣食の入手、保健医療、教育などの生活設営情報、快適に暮らすための交通、治安事情はじめ、買い物や外食、スポーツ、観光などの楽しみなどを具体的に示しており、帰国の際にしなければならない手続きや引っ越しの準備、土産の購入にいたるまで、この1冊にすべて網羅されている。
   
さらに盛り沢山な生活必需ポルトガル語、注意事項、生活体験などのコラムもあって、ブラジルでの生活がかなり想像できる工夫がなされている。出張者にとっても、ブラジルでの行動とビジネスの環境を知る上で、有用な示唆を受けることができよう。 〔桜井 敏浩〕
  

〔『ラテン・アメリカ時報』2002年12月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会刊〕

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ラテンアメリカ多国籍企業論 ―変革と脱民族化の試練

堀坂浩太郎、細野昭雄、古田島秀輔 日本評論社 296頁
   2002年11月 4,500円+

   
ラテンアメリカの企業社会は、この10年ほどの間に劇的な変貌をとげた。経済開放、市場経済化への移行にともない、経済ナショナリズムの閉鎖社会から外に向かって国際化が急速に進み、産業の主導的役割を果たしていた公営企業の民営化が徹底的に行われた。それらの中での企業社会の変化を分析した『ラテンアメリカ企業論』、『ラテンアメリカ
民営化論』がすでに同じ執筆陣・発行元により刊行されている。
  
それらに続く本書は、経済開放による多国籍企業の新たな参入によって、世界経済のネットワークに組み込まれることになったラテンアメリカ企業社会の実態を、アメリカ、ドイツ、そして近年目覚ましい進出を見せるスペインといった投資国、メキシコ、ブラジル、アルゼンチン、チリの主要受け入れ国、そして多国籍企業の進出が特に顕著な自動車、鉱業、小売業、エネルギーの4つの産業という、異なった視角と切り口から分析したものである。

経済のグローバル化がもたらす企業環境の変化に対する認識と、その対応に後れをとりがちな日本企業にとっても、大いに示唆に富んだ研究である。      〔桜 井 敏 浩〕


〔『ラテン・アメリカ時報』 2003年1月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕


〔注〕「投資国」3カ国の部分では、それぞれの対ブラジル投資について述べており、「産業」についても自動車製造、スーパーマーケット、電力民営化などについて、ブラジルでの動きを追っている。「受入れ国ブラジル」(Prof.堀坂執筆)の項目は、以下の小節から成る。
       
1.輸入代替工業化を支えた「三つの脚」
2.民営化による政府系企業の退場―「二つの脚」へ
3.多国籍企業の新たな進出と M & A
4.産業別の外資プレゼンス
5.産業競争力の強化
6.業界再編成
7.グッド・コーポレート・ガバナンス
  

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アメリカ大陸日系人百科事典 ―写真と絵で見る日系人の歴史

全米日系人博物館企画 アケミ・キクムラ=ヤノ編   小原雅代訳 明石書店 424頁  
2002年10月 6,800円+税

1998年から3年にわたった国際共同日系研究プロジェクトの成果。執筆陣は日本やそれぞれの国の日系人を主とする研究者で、日本語、英語、スペイン語、ポルトガル語で書かれた解説を集大成し、翻訳した労作である。

全体としての日本人渡航史、移民研究概説と文献解題、統計・年表のほか、アルゼンチン、ボリビア、ブラジル,カナダ、チリ、メキシコ,パラグァイ、ペルーおよび米国のアメリカ大陸9カ国について、それぞれの国ごとに移住史概略と関連の文献解題、補完資料として統計・地図で構成されている。

各国について貴重な当時の写真多数と、人口、地域・職業分布、日本語教育、宗教などの新しい統計資料も載っており、個々の短い記述の背景には、この約130年余の日本人海外移住をめぐる数多くのドラマがあったことが窺えるが、それらをさらに知りたい人のために、充実した文献解説による的確な案内がなされている。 〔桜 井 敏 浩〕

  
〔『ラテン・アメリカ時報』 2003年1月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

   
〔注〕   ブラジルについては、ブラジル日本移民史料館との共同制作で、第4章に「ブラジルの日本移民とその子孫」と題して40頁がさかれている。
「ブラジル日本移民の歴史概略」は二宮正人サンパウロ大学法学部教授が、1908年の笠戸丸での最初の移民の到着から現代の日本向けの日系人就労に至るまでの概観と日系社会の変化、問題などを解説し、文献解題は「日本人移民とその子孫」と「日系ブラジル人」に分けて、それぞれ日本語、葡語、英語の主要文献を簡単な解説を付して紹介している。「補完資料」として、日系人分布、人数推移、教育状況、職業、宗教に関する統計と地図が掲げられている。
   

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風狂の記者 ブラジルの新聞人三浦鑿の生涯』 

前山 隆 御茶の水書房  448頁 2002年6月 3,200円

ブラジルの邦字紙「日伯新聞」の社長にして文字どおり主筆の三浦鑿(さく)の生涯を、黙して自身を語らなかった本人に代わって、膨大な資料と調査で再現しようとした労作。
  
移住者による日本人社会が出来てくると、その生活組織の一つとして邦字新聞が出されるようになる。ブラジルという海外での日本語メディアは、1930年代のそれぞれの国での言論統制からは比較的自由に論陣をはることができたが、三浦が日伯新聞に拠って、世俗・良識を超越して展開した世相の真髄に迫る激しい論説や、「日本人」に留まらない「日系エスニック集団」としての生き方を模索したかのような主張は、日系社会に大きな影響を与えた反面、多くの敵を作り、日本とブラジル双方の官憲から危険視されるに至った。
  
3度もブラジルから国外追放され、最後は太平洋戦争の終戦を小菅拘置所で迎え、10月に解放された直後に栄養失調で東京で客死するまで続いた、三浦の執拗なまでの反世俗性は、まさに“風狂”の記者としての激しい生涯であった。  〔桜井 敏浩〕
  

〔『ラテン・アメリカ時報』 2003年3月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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ブラジルの赤

ジャン=クリストフ・リュファン 早川書房 459頁 2002年12月 3,000円+税

「国境無き医師団」の中心メンバーで、政治学者でもある歴史小説家の手になる、フランス最高の文学賞ゴンクール賞の2001年度受賞作品。大部分は史実によったという、リオデジャネイロ湾内の小島をめぐる、フランスとポルトガルの植民地抗争秘史だが、このようなドラマが歴史の影にあったとはと驚く。

ポルトガルの植民地化が始まって間もないブラジルで、フランスはリオデジャネイロを自国領にしようと、マルタ騎士団の提督を長とする集団を送り込む。インジオとの通訳要員として加えられた幼い兄妹を軸に、カトリックとプロテスタントのカルヴァン派の欧州での宗教戦争を引きづった凄惨な確執、ポルトガル人より早く到達しインジオ集団に君臨する白人との三つどもえの争い、最後はポルトガル艦隊のリオデジャネイロ奪還を背景に、フランス砦の統率者になった兄と、インジオと共感を分かち合う妹のそれぞれの数奇な冒険、実は血を分けていなかった兄妹の間に芽生えた愛などを主題に、厳しい自然環境や流行り病、同じ国民同士の殺し合いでなかば自滅に近い形で歴史の中に埋もれた人々の物語。
〔桜井 敏浩〕

〔『ラテン・アメリカ時報』 2003年4月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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ブラジルの歴史 ―ブラジル高校歴史教科書

シッコ・アレンカール、ルシア・カルピ・マルクス・ヴェニシオ・リベイロ著 東 明彦、アンジェロ・イシ、鈴木 茂訳 明石書店 749頁 2003年1月 4,800円+税


7歳から8年間の初等教育に続く3年間の中等教育、すなわち日本の高校にあたる課程で使われる、ブラジル社会の歴史教科書の翻訳である。

先植民地期からポルトガル帝室の移転、独立しての帝政時代、コーヒー経済の発展、共和制への移行、オリガルキー支配とヴァルガス独裁、ポピュリズム、軍政を経て、現在に続く民政に至る500年を超える歴史を、常にその時代に生きた歴史を名を残していない人々の生活も交えた、ブラジル理解の基礎となる通史。    初版が軍政末期の1979年に出た本書は、ブラジルの歴史をポルトガル人による発見に始まるのではなく、先住民の伝承の中に語り継がれた「白人との出会い」から始まり、歴史を支配者からだけの視点ではなく、先住民、黒人奴隷、貧農やファベーラ(貧困者居住区)の住民、農園の移民労働者など、無名の人々の存在があったことを強く打ち出して記述している。  〔桜井 敏浩〕

〔『ラテン・アメリカ時報』2003年5月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会刊〕 

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日本語から引く知っておきたいポルトガル語 - プログレッシブ単語帳

武田千香,黒沢直俊編 小学館 447頁 2003年4月 1,500円+税

新・教育現場のポルトガル(ブラジル)語

田所清克、伊藤奈希砂監修 国際語学社 184頁 2003年3月 2,000円+税

いずれも最近出版された、ブラジルで使われているポルトガル語の入門書。
    
『日本語から引くポルトガル語』は、シリーズ名の「プログレッシブ単語帳」が示すように、外国語の学習には文法と材料となる単語の習得とのバランスが必要との考えから、基礎語彙を覚えることに重点をおいている。分野別に必須単語計6,500語が2色刷で判りやすく配列され、巻末に日本語索引・葡日小辞典も付いており、使いやすい。
   
日本に長期間滞在する日系等のブラジル人が増大するにしたがい、その子弟を受け入れる小学校等での対応が問題になっている。特にそれら子供たちとその父母とのコミュニケーションの悩みは深い。『新・教育現場のポルトガル語』は、教師も最低限のポルトガル語を身に付けることによって、双方向の意思の疎通を改善するよう、日々教育現場にあって挺身している教員等関係者のための懇切な用語・文例集であり、日本人の内なる国際化を進めるために、かかる真摯な目的意識をもった語学書が編まれ刊行されたことは、大いに多としたい。    〔桜井敏浩〕

〔『ラテン・アメリカ時報』 2003年6月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会刊〕

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航跡 ― 移住31年目の乗船名簿』 

相田 洋 NHK出版 554頁 2003年2月 2,600円+税

昭和43年に神戸、横浜から出航したあるぜんちな丸に乗船した第29次南米移民、その移住後10年目、20年目の姿をテレビ・ドキュメンタリー番組で追ってきたNHKの番組制作者が、その後31年目に再び取材した記録である。

南米定期船あるぜんちな丸を通じて、移住の歴史、期待と不安の交差した船旅、その光と影、特に辛酸をなめたアマゾン開拓の実態とともに、31年目のブラジル、アルゼンチン、パラグァイに移住した乗船者の行方を追い、同船者の今の姿を克明に紹介した力作。

136名の移住者が新天地への夢をもち、単身、家族あるいは呼び寄せの花嫁として、太平洋を越え南米へ向かったが、その後の南米での歳月は成功と失敗、順風と苦労、幸運と悲運、家族の和と離散など、それぞれの人生のドラマが演じられた。国家的な口減らしでもあった杜撰な移民政策により送り出され、それぞれの移住者のやる気と犠牲によって家族の将来を切り開いた移住者たちは、ブラジルや日本の変容はもとより、国際市場や国際政治にも翻弄されてきたが、そのほとんどの人は「移住したこと悔いはない」「一度は夢を描きすべてを賭けて戦った」得難い人生だったという。   〔桜井 敏浩〕

〔なお昭和37年にサントス港についたあるぜんちな丸第12次の同船者 681名による「あるぜんちな丸同船者寄稿集」というサイトもある。 
http://40anos.nikkeybrasil.com.br/index.php 〕 

〔『ラテン・アメリカ時報』 2003年8月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会刊〕

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ブラジルから来た娘タイナ ―十五歳の自分探し

 小貫大輔 小学館 223頁 2002年11月 1,600円+税

   
1988年からサンパウロのファベーラ(貧民街)で教育、AIDS予防などの保健などのコミュニティづくりのボランティアとして、96年から出産のヒューマニゼーション・プロジェクト(JICA事業)にそれぞれ5年間従事した著者(前者については『耳をすませて聞いてごらん ―ブラジル、ファベーラでシュタイナーの教育学を学んだ日々』ほんの木、1991年刊に詳しい)は、ブラジル人の妻と子供を連れて、家族を連れて帰国する。
       
中学3年に編入した娘が、やがて学校に行きたくないといって一人ブラジルに帰っていった。いったい何がいけなかったのか? よその国ではどうなっているんだろう? 娘や妻と話し合うほど、調べれば調べるほどに、それは娘一人の問題ではないということがわかってきた。日本とブラジルの文化、社会慣習などの違いに留まらず、子どもの自主性についての考え方や教師の役割、教育の仕組みなど、根本にところで何か違う日本。それらの中で家族は悩み、娘は自身を見つめなおしながら自分の生き方を模索する。〔桜 井 敏 浩〕
    
   
〔『ラテン・アメリカ時報』 2003年11月号掲載 (社)ラテン・アメ リカ協会発行〕
    

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カーニバルの誘惑 ―ラテンアメリカ祝祭紀行』 

  白根 全    毎日新聞社  223頁 2003年11月 2,500円+税

    
日本で唯一というカーニバル評論家による、ブラジル(リオデジャネイロ、サルバドール,レシーフェ、オリンダ、マナウス)、キューバ(ハバナ、サンチャゴ・デ・クーバ)、メキシコ(ベラクルス)、トリニダード・トバゴ(ポート・オブ・スペイン)、コロンビア(バランキージャ)、ボリビア(オルロ)のカーニバルを訪ねた絢爛たる写真と文の楽しい1冊。

本来の欧州のカトリックの祭典であるカーニバルは、新大陸にきて先住民やアフリカ起源の色彩が加わり、力強く発展した。 貧しい、虐げられた人々が年に一度、一瞬のために爆発し燃え尽きる場に実際に身を置いてみれば、人生がまったく別な見え方をしてくるという。著者のカーニバルに賭ける情熱をひしひしと感じさせる紀行記、踊り手たちの熱気と歓喜が目の当たりに繰り広げられる写真による、現場からの生中継である。〔桜 井 敏 浩〕

     
〔『ラテン・アメリカ時報』  2004年2月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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ドン・カズムーロ』 

マシャード・デ・アシス 伊藤奈希砂・伊藤緑訳 380頁  彩流社 2002年2月 2,800円+税


ブラジル文学を代表する作家であるアシスは、1839年に貧し いムラト(黒人と白人の混血)という社会的に低い階層に生まれ たが、富裕階級の庇護をうけて徐々に教育を受け、16歳の時 から詩作など文学活動を始めた。
      
“Dom Casmurro(陰気な男)”と呼ばれる老人の青春回顧は、 19世紀前半の信仰深い富裕階層の家庭にあって多感な少年 時代の隣家の少女との恋に始まり、神学校進学と中退、この 幼なじみとの結婚へと進む。仲むつまじい夫婦の間に念願の 男の子が恵まれた何不自由ない生活は、やがてシェイクスピア の『オセロー』のように、彼の親友と妻との間を疑う嫉妬によって 狂いはじめる。親友の死にもかかわらずついに長い別居のすえ
に欧州で妻は客死、成長した子供も若くして病死して、いまは 少年時に過ごした家を再現して、孤独のうちに生きている。
  
ブラジルで広く読まれているこの小説によって、上層・知識層 の人々の教養基盤に根強くある家族や友人関係の心理、内省、人生観、カトリック信仰などが窺い知れよう。
〔桜 井 敏 浩〕


〔『ラテン・アメリカ時報』 2004年3月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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『空飛ぶ男 サントス=デュモン
     

ナンシー・ウィンターズ著、忠平 美幸訳、草思社、 189頁、2001年4月   1,600円+税

   
世界で初めて飛行機を飛ばせたのは、米国のライト兄弟で1903年のことだったが、目撃者が5人にすぎず、あまりニュースにならなかった。一方、富裕なコーヒー農園主の家に生まれ、パリに移住したブラジル人サントス・デュモンは、1901年には飛行船でエッフェル塔の周りを飛ぶなど、熱気球と飛行船で数々の実績をあげた後、ガソリンエンジン付き飛行機の試作に挑戦、1906年にパリ近郊で大勢の見物人の前で、距離220メートル、21秒の飛行に成功して、フランス航空クラブから世界初の航空記録樹立を認められた。
 
しかしその後ライト兄弟の実績が評価され、自身が病魔に冒され、また第1次世界大戦では飛行船や飛行機が兵器として使われるようになったことなどから、失意のうちにブラジルに引きこもり、ついに第2次大戦の開戦から間もなく自らの命を絶ったのだが、欧州で多くの人々を魅了した空飛ぶ男は、ブラジルでも英雄として、今なおリオデジャネイロの市内空港にその名を留めている。   〔桜井 敏浩〕
     
〔『ラテン・アメリカ時報』 2002年4月号掲載 (社)ラテン・ アメリカ協会刊〕

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『マリアの半生紀』
  

大岩由美子、新風舎、206頁、1999年11月 1,800円+税


千葉県に生まれ、15歳でブラジルへ渡った童話作家による物語。様々な人種の入り交じるブラジルの貧民街(ファベーラ)で生まれた父子家庭の少女マリアが、上流階級の家庭に女中奉公に出て、主人一族や周辺で働く様々な人々と出会い、成長し、生活を築きあげていく半生記。

心を寄せ合いながら去った日系人の庭師や、東北ブラジル出の先任の女中のぶっきらぼうな表現ながらの思いやりと、次から次へと問題を起こすその孫の同僚女中、警備員の青年との恋と女の子の誕生、そして結婚生活の破局と娘の成長、父親の転職と再婚、最後に庭師と再会し結ばれるまでを、主人一家の変遷とマリアの生き方を交差させ、著者の自身の手になる挿画とともに展開する。ブラジルで底辺に生まれた人々と上流家庭の、生き様と生活を実感させる、ほのぼのとした掌編。  〔桜井 敏浩〕

 〔『ラテン・アメリカ時報』2002年2月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会刊〕

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「恵みの洪水 -アマゾン沿岸の生態と経済」
   

  M.グールディング、N.J.H.スミス、D.J.メイハール著 山本正三、松本栄次訳
  同時代社、 255頁 2001年11月 3,800円+消費税

    
アマゾン河流域には広大な熱帯林が広がり、沿岸の氾濫原や大地、それらの間をぬって流れる支流には、世界で最も多様な生態系がある。近年森林伐採、鉱産物の採掘、ダムの建設、都市の発展や道路網の整備、水銀を使った砂金採取など、人間の経済活動が入るにしたがって、自然環境が変貌し生態系はインパクトを受けているが、反面改変された生態系は経済活動に大きな影響を及ぼすことを、豊富な写真(CDに収録した付録が付けられている)や図版をもって実に分かりやすく解説している。

具体的に例をあげて、豊かな野生動物や有用な植物、生態系の指標ともいえる魚類の重要性を指摘し、魚やエビなどの乱獲やダムの建設、氾濫原での農業や牧畜が引き起こす問題の実態を示して、「ありあまるほどの豊かさ」は神話に過ぎないという。しかしながら、アマゾン氾濫原をいかなる形にせよ開発すべきといっているのではなく、節度と自然への配慮をもって行うべきだとして、具体的な課題を提起している。アマゾンでの生態系の保全は、この地域の安定した経済発展のためにも必要不可欠だというのである。〔桜井 敏浩〕
 
   
〔『ラテン・アメリカ時報』2002年1月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会刊〕

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「異文化接触とアイデンティティ -ブラジル社会と日系人」

前山 隆著
  御茶ノ水書房、 248頁 2001年2月 1,800円+消費税


前山氏は1961年にサンパウロ大学に留学し、以来一貫して40年間、現地での文化人類学的フィールドワークによって、ブラジル日系人の異文化接触、エスニスティ(民族性)およびアイデンティティの問題を追求してきており、日系移民の精神史、米国での日系人との比較、エスニスティの変化など、これまで多くの研究成果を世に問うている。

本書はこれら日系人についての学術研究成果の中から、いくつかの部分を読みやすくまとめ、また文学関係のエッセィを加えたもので、ブラジル社会と日系人のアイデンティティの変化、中間マイノリティとしてのブラジル日系人、日系人のエスニスティとアイデンティティの確執という研究成果と、具体的事象としての日系人の宗教や日系移民文学などまで、幅広い分野から紹介しようとしているが、日系移民と日系人によるエスニシティ問題は、21世紀の主題でもあり続けるというのが結論のようである。〔桜井 敏浩〕
                           

〔『ラテン・アメリカ時報』2001年8月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会刊〕


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「ブラジルを知るための55章」

アンジェロ・イシ著
  明石書房、 265頁 2001年5月 2,000円+消費税


サンパウロ生まれで日本に在住、NHKの葡語ニュースにも携わっている日系ライターの渾身のブラジル紹介。日本で知られていないブラジルの良い点、悪い点、現在の姿や面白さ、楽しさ、抱えている問題を様々な切り口で紹介し、理解して少しでもブラジルを好きになってもらおうという55章。

基礎編「ブラジルの現在を理解する」、初級編「ブラジルの魅力を満喫する」、中級編「ブラジルの矛盾を解読する」、上級編「ブラジルの真髄を堪能する」と、ブラジル人の発想と行動様式、社会の仕組みなどの背景となる文化と国民性を、歴史から風俗、大衆文化、芸能やスポーツ、祭りや小話など、硬軟多様な事例から切り込んでいる。各章ごとに、そのテーマをさらに知るための邦文「お勧めの文献」も紹介されていて、格好のブラジル入門書であるだけでなく、実に楽しい異文化紹介、解説になっている。 〔桜井 敏浩〕                      

〔『ラテン・アメリカ時報』2001年7月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会刊〕

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「ラテンアメリカ世界に生きる」

遅野井茂雄、志柿光弘、田島久歳、田中 高編
  新評論、 338頁 2001年3月 3,200円+消費税


本書はラ米10カ国、16の都市、地域における、ヨーロッパ人の征服・植民、アフリカからの奴隷移入と、先住民との接触によって生成し、変容してきた文化・社会、固有の政治権力構造と社会的関係、人々のつながりネットワークによる水平方向の関係、ラ米の自己あるいは他者のイメージを、認識や噂、文学などからつかもうという4つのテーマについて、18人のラ米研究者が、実に多様な分野を奔放な切り口で、「ラテンアメリカの人々の行き方を知りたい」という動機から、書き下ろした評論集。

研究対象も専門分野も様々な執筆者の共通点は、中川文雄筑波大学名誉教授の薫陶を受けたということだけというが、「ラテンアメリカの人々を理解するために」(本書の当初仮題)、それぞれの専門領域や地域に、特徴的で興味深い題材を選んで、きわめて多岐にわたる研究成果の一端を紹介している。〔桜井 敏浩〕

〔『ラテン・アメリカ時報』2001年4月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会刊〕

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 「日本社会とブラジル人移民」

リリ川村著、明石書店、208頁 2000年5月 2,200円+消費税


外国人労働者問題に関して幾多の図書を刊行している出版社から出された、日本社会のブラジル移住者との関わりについての、日系ブラジル2世の社会学者による真摯な調査研究書。

1980年代以降、生活水準の悪化から国外に仕事を求めたブラジルの日系人は、日本の中小企業等の労働力不足に応えて、旅行社・斡旋業者の仲介によって、父母の祖国へ"帰国"し就労することになった。しかしブラジルでの教育・職歴とは無関係な単純・非熟練臨時労働への就業、それにともなう日本での生活における言葉、慣習、価値観の違い、文化のすれ違いは、外国人との共存の経験を持たなかった 日本社会と様々な摩擦、問題を生じている。それでも地域社会、職場、地方自治体、学校や、在日ブラジル人の情報交換・互助組織などの努力と試行錯誤の中から、ブラジル人労働者の日本化の進展などの変化が生じつつあり、また彼らを取り巻く日本社会のブラジル文化への関心の高まりが
広がり始めたことを、豊富な実地調査と多くの日伯関係者へのインタビューによって解明しようとしている。〔桜井 敏浩〕
                           

〔『ラテン・アメリカ時報』2001年3月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会刊〕

 

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「改訂新版 概説ラテンアメリカ史」

国本伊代著、新評論、 394頁 2001年2月 3,000円+消費税


初学者向け通史と銘打っているが、本書はある程度ラテンアメリカに通じた者でも、手元において参照するとよい歴史概説書である。

コロンブスの到来から、2000年12月のメキシコのPRI政権の交替に至るまで、500年余にわたる歴史発展過程を網羅的に概観している。単に時系列に地域・国別に出来事を述べるのではなく、旧世界と新世界の出会い、イベリア半島を主とするヨーロッパ人と先住民族、奴隷として連れてこられたアフリカ系等の間の対立、共存、混血などを経て、ラテンアメリカという新たな社会、文化が形成されたこと、それは新世界とヨーロッパ世界の諸要素が溶け合ったものではなく、モザイクのように民族的多様性と時代の諸相が混然と混じり合って、今日のラテンアメリカがあることを明らかにしている。
巻末には、年表、索引のほか、各時代や国・地域、事項別に、懇切な日本語文献案内も付されている。〔桜井 敏浩〕
                                                                 

〔『ラテン・アメリカ時報』2001年3月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会刊〕

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『熱帯ブラジルフィールドノート ―地球環境を考える』

西沢 利栄著、国際協力出版会、 239頁、1999年9月、2,500円+税


北東部(ノルデステ)の半乾燥地帯、北部のアマゾンの熱帯雨林など、広大なブラジルには様々な気候風土があり、それぞれが微妙な自然界のバランスの上に存続しているが、そこに生活する人々、特に農地や牧場等の開発の進展によって、そのバランスが崩れ、環境破壊が進み、地球温暖化現象を進展させかねない事態が進んでいる。著者は1971年以来、ブラジルを地理学、環境学の立場から「足で歩いて」、詳細な調査と研究に打ち込んできた成果を、解りやすく、楽しい読み物の要素も交えて説明している。

環境保護と開発を両立させる方策として、ノルデステでは河川灌漑を、湿潤地域アマゾンでの熱帯雨林保護パイロットプログラムを紹介しているが、環境保全といっても、その実態把握には実に地道な調査の積み重ねが必要であり、それらはブラジル内外の研究者や関係機関、それに地元の住民との協力なしには成果をあげられないが、著者のほのぼのとした広範な交流があって長期的な信頼関係が構築されているのが、いくつものエピソードから窺われる。〔桜井 敏浩〕
                            
 〔『ラテン・アメリカ時報』2001年1月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会刊〕

 

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『砂漠化と貧困の人間性 ―ブラジル奥地の文化生態』

丸山 浩明著、古今書院、 522頁、2000年2月、11,200円+税


乾燥地帯で貧困著しいブラジル北東部(ノルデステ)の砂漠化の実態や、それにともなう貧困のメカニズムと防止策を、多角的に究明した、ラテン・アメリカ地誌学・人文地理学を専攻する少壮学者による、実証的研究の労作。
植民から開発時代を経て、独特の社会制度を含めたその変遷を、歴史、人文地理から自然科学と個別学問領域を越えた広い視点から分析しており、砂漠化と貧困のメカニズムを断ち切り、持続的な地域開発を実現するための対応策を論じていて、ブラジルで貧困地帯と同意義になっている北東伯の全体像と環境問題を知るうえで、貴重な研究成果である。
 
大部の緻密な研究書ではあるが、ノルデステ問題を文学、民族音楽、映画に至る幅広い視点からも見ることなどによって、そこに住む人々の生き様を、さらには豊富なフィールドワークによる人々の生業の実態なども紹介していて、読者を飽きさせない。〔桜井 敏浩〕
                           

 〔『ラテン・アメリカ時報』2000年10月号掲載(社)ラテン・アメリカ協会刊〕

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『ブラジル研究入門 ― 知られざる大国500年の軌跡』

金七紀男、住田育法、高橋都彦、富野幹雄 晃洋書房 272頁 
2000年5月 3,200円+税

 
ブラジル史やポルトガル文学を専門とする4人の大学教授によって書かれたブラジル史の概説書であるが、単に通史ではなく、人種関係等社会問題や文学の潮流などの解説もふれ、また戦後の現代史は、経済開発についてもデータを交え詳しく述べている。
植民地時代、帝政時代、共和制時代、そして第二次大戦後から現代に至る新共和制時代と、歴史の流れを追っているが、各時代の文学の潮流や、ブラジルでの人種問題をめぐる歴史と変遷、「人種的民主主義」の実態などにも紙数を割いており、経済発展については、ラテン・アメリカ諸国との比較やブラジルの地域間格差にも触れた、ひと味違う解説書になっている。
巻末には12世紀のポルトガル史から始まる詳細な年表と、日本語・欧文の参考文献リストも収録されていて、ブラジル理解の上で有用な1冊である。〔桜井 敏浩〕

〔『ラテン・アメリカ時報』2000年7月号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会刊〕     


          

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