ブラジル関係図書紹介


   桜井 敏浩


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<2009年~2010年文献>


文学の心で人類学を生きる -南北アメリカ生活から帰国まで十六年2010/11
2020年のブラジル経済 
2010/11
地域経済はよみがえるか ラテン・アメリカの産業クラスターに学ぶ-シリーズ「失われた10年」を超えて-ラテン・アメリカの教訓 第2巻
2010/12
ロスト・シティ Z -探検史上、最大の謎を追え
2010/6
アマゾンからの贈り物 -矢毒クラーレの旅
2010/4
ブラジル ナショナルジオグラフィック世界の国
2010/12
ハゲとビキニとサンバの国 -ブラジル邪推紀行
2010/10
ブラジルへの郷愁
2010/10
リアル・ブラジル音楽
2010/8
ガリンペイロ( 採金夫)体験記 アマゾンのゴールドラッシュに飛び込んだ日本人移民
ソトコト』 2010年9月号 「特集 環境大陸 ブラジル入門
2010/9
うつろ舟  ブラジル日本人作家 松井太郎小説
2010/8
ブラジルの日系人 2010
最後のアマゾン/天野尚写真集
2010/7
三井のアルミ製錬と電力事業
2010/6
ラテンアメリカン・ディアスポラ
2010/1
ラテンアメリカ 出会いのかたち
2010/3
アマゾン 民族・征服・環境の歴史
2010/5
中南米の音楽―歌・踊り・祝宴を生きる人々
2010/3
コーヒーのグローバル・ヒストリー 赤いダイヤか、黒い悪魔か
2010/2
新興国ブラジルの対外関係 ―世界金融危機を踏まえて 
2010/3
マンガ 平生釟三郎 ―正しく強く朗らかに
2010/3
ブラジルを知るための56章 【第2版】 2010/2
ラテンアメリカ世界のことばと文化  2009/7
アマゾン文明の研究 ―古代人はいかにして自然との共生をなし遂げたのか 2010/3
講座 トランスナショナルな移動と定住 ―定住化する在日ブラジル人と地域社会  2009/12
ゴキブリ経営法 -激動のブラジル社会で生き残った「しぶとさ」
2010/2
ジャポネース・ガランチード ― 希望のブラジル、日本の未来
2010/1
ブラジル技術移住者が見た世界
2009/5
南へ ― 高知県人中南米移住100年 
2009/11
ブラジル紀行 バイーア・踊る神々のカーニバル
2009/10
ラテンアメリカにおける日本企業の経営
2009/3
安心社会を創る―ラテン・アメリカ市民社会の挑戦に学ぶ 
2009/7
ブラジル史
2009/7
ブラジルから遠く離れて 1935-2000 クロード・レヴィ=ストロースのかたわらで
2009/5
移民の譜(うた) ―東京・サンパウロ殺人交点2008/6
「出稼ぎ」から「デカセギ」へ ―ブラジル移民100年にみる人と文化のダイナミズム 
2009/3
ブラジル日系・沖縄系移民社会における言語接触 
2009/6
地球時代の多文化共生の諸相-人が繋ぐ国際関係
2009/3
ラテンアメリカの民衆文化
2009/3
ラテンアメリカ経済成長と広がる貧困格差
2009/3
「帝国アメリカ」に近すぎた国々 ラテンアメリカと日本
2009/6
図説ラテンアメリカ経済 
2009/4
100年 ―ブラジルへ渡った100人の女性の物語
ブラジルの都市問題 ―貧困と格差を越えて
2009/1
21 世紀ラテンアメリカの左派政権:虚像と実像
2008/11
「もうひとつの失われた10 年」を超えて―原点としてのラテン・アメリカ
2009/2

 

 


文学の心で人類学を生きる -南北アメリカ生活から帰国まで十六年 
 

前山 隆  御茶の水書房 2010年11月 313頁 2,800円+税

ブラジル日系人のエスニシティ、異文化接触について多くの著作がある著者の、研究者としての人生を綴った自伝。それぞれ異質な文化と歴史的背景をもつ3カ国、静岡大学で哲学を学んでいるうちにレヴィ=ストロースの『悲しき熱帯』に触発されて独学でポルトガル語を学び、ブラジルへ渡航して社会学を学ぶ。テキサス大学、コーネル大学、サンパウロ大学の共同研究プロジェクト「現代複合社会における文化変容」の調査員として参加し、その経験と人脈から米国へ留学し、テキサス、コーネル大学では文化人類学を学び、学位論文執筆のためにブラジルに調査のため戻り、以後ブラジル、日本、米国での教職と研究に専念した16年半の記録である。特にブラジルでの活動については、1961~67年のサンパウロ大学での給費留学生活、フィールドに出てのブラジル各地の調査旅行、71~73年の地方中都市調査、そして74~77年の軍政下サンパウロ州立大学での教師生活、人文科学研究所(人文研)での活動を経て帰国するまでが詳述されている。

この間、ブラジルの日系コロニアの文学運動に積極参加し、同人誌『コロニア文学』の創刊から関わり、ブラジルの日系エスニック集団が育成した在野の研究施設であるサンパウロ人文研では、『コロニア小説選集』の編纂、第一回移民で戦前邦字紙を発行していた香山六郎の自伝の編纂なども中心になって行い、帰国後はブラジル日系人のエスニシティ、アイデンティティなどを論じた研究を著すなど、日系社会研究者としての業績は大きい。向学心、研究への熱情、そのための行動力、さまざまな社会現象への旺盛な知的好奇心が、読む者にもひしひしと感じさせ研究人生の集大成である。
〔桜井 敏浩〕    

             

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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 2020年のブラジル 経済
   

鈴木 孝憲 日本経済新聞出版社 2010年11月 236頁 2,100円+税

    
40年余の間ブラジルとの金融ビジネスに関わり、現在もサンパウロに在住してビジネス・コンサルタントとして日本企業の進出に助言を行っている著者が、1994年のレアル・プラン以来長年続いてきたインフレを克服し、その経済政策を継承して2期8年の在職期間中高支持率を維持したルーラ政権が実施した所得格差是正策によって貧困層が消費市場に参入してきたこともあって立ち上がってきた大きな国内市場、広大な大地での近代農業と畜産の拡大によって大きな輸出余力をもつ食料やエタノール等のアグロビジネス、深海油田の開発で自給を達成し輸出国に転換しようとしている石油、鉄鉱石からウランにいたる豊富な鉱物資源、ガソリンとエタノールを自在に使えるフレックス車をはじめ工業力をも持つ巨大なポテンシャリティ、それらに着目してブラジルに重点シフトする欧米中韓企業などを生き生きと紹介する。

経済も社会も安定し、成長軌道に乗ったブラジルだが、財政や税負担、まだまだ不足しているインフラやレアル高、労働法制や治安などの課題も指摘し、ルーラの後継者であるジルマ・ロウセフ女性大統領の登場に至る経緯とポスト・ルーラの政治情勢、そして2014年のサッカー・ワールドカップ、2016年のリオデジャネイロ・オリンピックを経ての2020年のブラジル経済の予測と課題にも言及し、欧米等に比べて立ち後れた日本とブラジルとの関係についての提案を述べている。現代ブラジル経済の実情と展望を知る上できわめて有用な解説書となっている。〔桜井 敏浩〕


〔『ラテンアメリカ時報』 2010/11年冬号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕
 

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地域経済はよみがえるか ラテン・アメリカの産業クラスターに学ぶ-シリーズ「失われた10年」を超えて-ラテン・アメリカの教訓 第2巻』
 

田中 祐二・小池洋一編 新評論 2010年12月 430頁 3,300円+税

   
日本で今に至る長期の経済低迷、多くの社会経済的困難とその喪失感を、新自由主義経済の負の連鎖を先に経験したラテンアメリカから教訓を得ようとするこのシリーズは、既に『ラテン・アメリカは警告する』と『安心社会を創る』が出ており、本書が三部作の最後になる。

地域資源を活かした経済の再生とそれに大きな役割をもつ産業クラスター(集積地)の理論、グローバル化を地域開発にどう生かすかを概説し、各地での地域産業クラスターの果敢な取り組みを、メキシコのグアダラハラで「南のシリコンバレー」を創る試み、輸出指向する自動車産業、高付加価値農産物輸出を目指す温室トマト栽培、ブラジルでのバイオ産業、エンブラエル社の発展にともなう航空機製造産業、飼料から畜産加工品の製造、流通、輸出を網羅したアグリクラスター、米国の特恵輸入制度利用から世界のファッションを支える中米・カリブのアパレル、比較優位の活用から競争優位を創出したチリのワイン、協働により急速に発展した鮭養殖、環境や雇用、所得分配などの社会問題への対応を模索しているコロンビアの切り花、農村開発の代替案として取り組みが始まったペルーのアグロツーリズムといった事例で紹介している。最後にこれらラテンアメリカでの産業クラスターによる地域経済の再生に、日本経済の産業空洞化、失業と雇用の非正規化、所得格差の問題解決に学ぶべき点があるのではないかとの示唆をまとめている。〔桜井 敏浩〕  

   
〔『ラテンアメリカ時報』 2010/11年冬号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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ロスト・シティ Z -探検史上、最大の謎を追え
 

ディビット・グラン 近藤隆文訳 日本放送出版協会 2010年6月 338頁 2,200円+税

 

英国の軍人で王立地理学協会の支援を受けて1906年から14年にかけてボリビア東部とブラジル国境のアマゾン河源流地帯を探検し、第一次世界大戦で欧州最前線に従軍後、1925年にブラジルのマットグロッソ州でのアマゾン河支流上流地帯の調査に息子とともに赴いたまま行方不明になった、20世紀前半で最も名声を博した探検家のひとり、パーシー・ハリス・フォーセット大佐((自称であって実際は砲兵中佐)の活動とその人となり、そしてついに最も得意とした熱帯雨林の歩行調査の果てに姿を消した生涯を描いている。

フォーセットの生い立ち、軍人として、家庭人としての生活、アマゾン探検に対する並はずれたの行動力とその成果を軸に、同じ時期に行われた幾多のアマゾン、アンデス探検の辛苦と犠牲者輩出の軌跡とそれらとの競争を詳述しつつ、行方不明後にこれまた数多く赴いたフォーセット捜索隊の失敗や残された消息に関する情報を生涯追い求めた夫人や家族の尽力、虚偽の遺品・遺骨などの証拠発見例、そして著者自身も試みた地理学協会などの記録文書からのフォーセット隊の軌跡(他のライバルに先行されることを恐れ、ルートは隠され、親族等との手紙でも秘された)の推測と現地調査を交錯させている。「ロスト・シティZ」とは、フォーセットが堅く信じ、探検での発見の目的としたアマゾン上流にあったとされる高度な文明をもった古代集落を意味する。〔桜井 敏浩〕


〔『ラテンアメリカ時報』 2010/11年冬号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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アマゾンからの贈り物 -矢毒クラーレの旅
 

天木 嘉清 真興交易医書出版部 2010年4月 207頁 2,000円+税

 

アマゾン河流域に踏み込んだ西欧人が先住民の使っている矢毒に異常な興味を持った。狙った小動物を瞬時に動けなくする猛毒であるが、その肉を食べるに問題なく、しかも獲物の心臓は暫く活動しているので腐敗を遅らせる効果まであるその毒の原料は何か、どうやって作るのか、体内でどのように効き目が生じるのかなどについては、多くの探険家や科学者が解明を競った。これがやがて筋肉弛緩と神経の関係を解き明かすことにつながり、手術の際の麻酔に利用出来ることになって、近代医学の発展に大きな役割を果たすまでに至ったのである。

本書は麻酔の専門医が、一般読者に分かりやすく解説したもので、南米熱帯雨林の先住民が作り出し矢毒として使ってきたクラーレの使われ方、作り方、欧米で生理学者がその毒の効能の仕組みについて探求し、筋肉と神経との関係が解明される過程を描き、これが外科手術の麻酔として用いることが出来るようになった医師と患者の挑戦と、その後のクラーレに代わる新薬や筋弛緩拮抗薬の発見に努める研究者の姿を紹介している。

2010年10月には名古屋で第10回生物多様性条約締結国会議(COP10)が開催されたが、このクラーレこそ、世界的に利用されるまで発展したマラリアの特効薬キニーネと同様に、先住民の自然利用の知恵の中からもたらされた恵みの好例であり、同時に多くの未知なるものへの好奇心とその解明に努める人々の飽くなき挑戦のドラマとしても一読に値する。〔桜井 敏浩〕

   
〔『ラテンアメリカ時報』 2010/11年冬号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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ブラジル ナショナルジオグラフィック世界の国』 
 

ザイラー・デッカー著 ディビット・J・ロビンソン、ジョアン・セザール・デ・カストロ・ロチャ監修 ほるぷ出版 2010年12月 64頁 2,000円+税

   
小学生高学年から中学生くらいを対象とした紹介書だが、ブラジルの建築史専攻の学者が執筆し英米の地理学者、比較研究専門家が監修し、ナショナルジオグラフィック誌ならではの素晴らしい写真で構成していて、ブラジルについて最小限知る上では適当な読みやすい参考書になっている。

地理、自然、歴史、人と文化から現在の政治と経済に至るまで簡潔に解説が施され、それぞれにより理解を助ける重要情報を整理した2頁見開きの「見てみよう」やコラムがあり、巻末には基礎情報、歴史年表、用語解説が付されている。地形、生態系、歴史、人口、行政の1頁大のテーマ別地図や小地図、きれいなカラー写真はすべて良質で、単に児童書として大人向け図書の外に置かれてしまうのは惜しい。 〔桜井 敏浩〕

   
〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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ハゲとビキニとサンバの国 -ブラジル邪推紀行
 

井上 章一 新潮社 新書 2010年10月 190頁 680円+税

 

題名は軽薄なブラジル旅行記の印象を与えるが、著者は歴とした京都育ちの建築学者、風俗史家で、桂離宮や法隆寺、伊勢神宮などについて考察した著書多数を出している。

2004年に二ヶ月半ほどリオデジャネイロ州立大学文学部日本語学科でのフェローとしての生活した際の見聞から、日本人の「常套的なブラジル観にまったをかけること」を狙いに、身近なブラジル人の生活、行動様式などから、日本人からみれば意外なブラジル人の常識や発想を紹介している。

ブラジル男性はハゲは女性にもてると信じているのか? リオの海岸ではフィオレ・デンタル(歯間用糸のように細い紐のビキニ水着)の素晴らしい体型の娘は数少なく、ボサノヴァの名曲"イパネマの娘"に代わる中年女性のビキニ姿と海岸から南に逃避する上流階級住居、サンバとともにブラジル音楽の代表と思われているボサノヴァが、ブラジルでは外国人向けと思われているふしがあることなどから始めて、日本人とブラジル人の女性の美、男性の魅力の違い、母親が中心の家族の絆、アニメだけではないジャパン・クール、国民の大多数を占めるカトリックと日系新興宗教を含む諸宗派の奇妙な共存、日本の子供たちは誰でも知っている『フランダースの犬』や『マッチ売りの少女』がブラジルではあまり知られておらず、しかも子供には暗い、救いのない物語だと解されていること、日本人の謙虚さは卑怯だと見なされ世間体が悪くなる社会もあることを思いしらされたことなど、ブラジルについてというよりは「彼の地で自分をふりかえる、日本および日本人を見直す読み物」として面白い紀行随想。〔桜井 敏浩〕
 

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕
 

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ブラジルへの郷愁
 

レヴィ=ストロース 川田順造訳 中央公論新社 2010 年10月 233頁 2,800円+税

   
世界的なフランスの社会人類学者であるレヴィ=ストロースは、アマゾン奥地のインディオたちを調査し、それとの出会いを綴った名著『悲しき熱帯』(中央公論社)で名高いが、本書は1930年代半ばのブラジルの様々な姿を撮影した特異な写真集である。

まだ開拓の最前線都市であったサンパウロに滞在し、市の北東約300kmにあるブラジル最高峰イタティアプ山(標高2800m近い)を訪れ、大部分未開拓地であったパラナ州やゴイアス州への旅、そして鉄道と道無き道を自動車と馬、舟によってたどり着いたマトグロッソ州奥地のナンビクワラ族などのインディオ集落、そこで自然の中で生きる人々の生活の1年にわたる探検調査行の写真が中心だが、帰途立ち寄ったボリビアのコチャバンバ、サンタクルス、そしてバイアやビトリアの古き時代の写真も収録されていて、訳者の懇切な解説によりその現代的な意味も明らかにされている。

本書は、1995年に同じ訳者でみすず書房から出た『ブラジルへの郷愁』を、新たな翻訳出版権によりコンパクトな判型で刊行したもの。   〔桜井 敏浩〕

       


なお、レヴィ=ストロースのこの時のブラジル行きの際には、当時のサンパウロの写真も撮って出版して いるが、それを紹介した下記の訳書も出ている。

 『ブラジルから遠く離れて 1935-2000 クロード・レヴィ=ストロースのかたわらで』 
 『サンパウロへのサウダージ』 
クロード・レヴィ=ストローズ 今福 龍太訳・著
 

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕
   

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リアル・ブラジル音楽

ウィリー・ヲゥパー ヤマハミュージックメディア 20108 239 2,000円+税


ブラジルといえばサンバ、ボサノバが思い描けるが、それだけがブラジル音楽ではないと、様々な分野、地域の音楽を、先住民の音楽からボサノバまで、そして
MPB1960 年代半ばからブームになったポピュラー音楽)から、現代の地方色豊かなリズムや演奏グループの活動など、2010年の今の姿に至るまでの歴史を紹介している。
加えてブラジル音楽の理解を助けいっそう楽しむために、ブラジルの一般事情やインターネット、テレビ、本、映画、デザイン、料理などから日本でのコンサート事情、さらにはブラジルへの行き方と現地でのライブ情報の集め方やコンサートのシステム、現在活躍中のアーティスト、現地音楽スポットなど、現代ブラジル音楽情報を網羅した懇切な紹介書となっている。ただ徹底ガイドというなら、一方のブラジル音楽の至宝であるビラ・ロボスなどのクラシック音楽への言及がないのが残念。 〔桜井 敏浩〕
                               

〔『ラテンアメリカ時報』 2010年秋号掲載 ()ラテン・アメリカ協会発行〕

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ガリンペイロ( 採金夫)体験記 アマゾンのゴールドラッシュに飛び込んだ日本人移民
 

杉本 有朋 近代文藝社 201048 318 1,700円+税


26歳でブラジルに渡り魚卸業などに従事した後、49歳にして「一攫千金」を夢見てガリンペイロ(金掘り人)として1979年から85年の間パラー州の金山で過ごした。その後ペンション(下宿屋)を営んでいる時に滞在した山形大学の在外研究員中川重教授に勧められて書きためた記録を整理したのが本書である。

ロンドリーナの自宅からまずマットグロッソ州を経てパラー州に入り日雇い人夫などをしながらカラジャスに近いセーラペラーダ金山に潜入し、採金の仕事を始める。重労働の日々の中、さっそくマラリアの洗礼を受け一時は家に帰ることも考えたが、どうにか頑張って自分の区画を持ち、人夫を雇って採掘を始める。

近くの基地の町に小さな雑貨店を開くなどして、金を掘り当て大金を掴むという夢を追った苦難の日々が続くが、ついに5年目には資金が底をつき帰郷を余儀なくされる。その後カラジャス一帯はリオ・ドセ社(現VALE)グループの鉱業権支配が徹底し、もはや個人の採金で大きな稼ぎをすることが難しくなったという。本書はこの行状記であるが、これに77話の見聞し体験したガリンペイロの世界のルールや仕来り、人間関係から周囲の自然、行政、警察、政治家などの素描があって、それぞれにブラジルのこの世界の裏が見て取れ面白い。〔桜井 敏浩〕

                               
〔『ラテンアメリカ時報』 2010年秋号掲載 ()ラテン・アメリカ協会発行〕

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『ソトコト』 2010年9月号 「特集 環境大陸 ブラジル入門」
 

木楽舎発行 月刊 2010年9月 170頁 762円+税


「ロハスピープルのための快適生活マガジン」というこの月刊誌は、毎号環境問題などを幅広く取り上げているが、本号は「生物多様性のワンダーランド!」としてブラジル特集を組んでいる。

世界最大の氾濫平原パンタナール」の美しいカラー写真から始まり、アマゾンで天然ゴム採取人から熱帯雨林保全活動家を経て政治家となり、現在次期ブラジル大統領選挙に挑戦しているマイア・シルヴァ元環境相をはじめ、そのほか様々な立場で活動している15人のグリーン・ファイターの紹介、アマゾン先住民支援NPO団体の事務局長による現地レポート、リオデジャネイロのファベーラ(貧困層集住地域)での手工芸協同組合、日本人移住者によるアマゾンのトメアス移住地での混植農法、BOVESPA(サンパウロ証券取引所)が世界に先がけて始めた非営利の社会・環境事業への取り引きシステムの紹介、バイオ・チップや自然化粧品事業、オーガニック・マーケット、そしてブラジルから持ち帰ったエコ製品など、この雑誌ならではの新しい視点でブラジルを紹介しており、64頁にわたるカラー写真満載の大特集は、ブラジルは一応知っているという人たちにも一見を薦めたい。  〔桜井 敏浩〕

                    

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書 案内」に収録〕

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『うつろ舟  ブラジル日本人作家 松井太郎小説選』
 

松井 太郎  西 成彦、細川周平編  松籟社  2010年8月 327頁  1,900円+税

 

著者は1917年神戸市に生まれ、19歳でブラジルに渡って数十年もの間サンパウロ州の奥地で農業を行ってきたが、還暦を迎えてやっと好きな文芸の道に入ったという。これまで中短編20以上を、同人雑誌や邦字紙に発表している。

本書には中編「うつろ舟」のほか、4つの短編を収めるが、日系社会の縁や辺境の熱帯雨林、大河の河岸で生きる日系一世・二世が朽ち果て埋没していく姿や、日系共同体内での摩擦、家族や縁者間の因果応報、復讐によって最後を迎える姿など、移民の生活に根ざした題材ばかりである。

奥地の大河のほとりで訳あって漁師になった日本人をめぐるいずれも不幸な女性との出会いと別れを描いた「うつろ舟」、婚前の関係でもうけた息子に狂犬病に罹ったことを知らせようとして殺される父の物語「狂犬」、息子の財産を乗っ取った嫁が、その資産を元手に開業したスーパーマーケットに放火することで復讐する老人の怨念「廃路」、ブラジル北東部のセルトンの荒れた土地に、かつて娘への求婚の勝敗以来の嫉妬と競争意識を引きずって住み続ける二人の男が、ついに殺人と遺児の娘の自死にまで至る伝承談的な「堂守ひとり語り」には日系人は登場しないが、「神童」は、かつて父が仲人をした日系人夫婦の妻の死後、妻の連れ子の絵に才能があるアキオが親譲りの農地を失ってまでも亡き母の青銅像を墓に造り若くして死んだという話しを聞きつけ、亡父の法要に出るための旅の途上でその像を見に行くという物語で、いずれも疎んじられてきた人生の敗残者にも追悼の念をもつ著者の気持ちを彷彿させる。

本書の凄いところは、単に移民の苦労話を取り上げたのではなく、それに説話や滑稽譚のような筋書きを加えていること、自身が開拓に従事し、過酷な自然と闘って農業を営んできただけに、自然描写や労働の実態に臨場感があること、そしてしっかりした日本語と話しの筋の構成によって、一気に読ませる筆力を持っていることである。  〔桜井 敏浩〕

                    



ブラジル在住映像作家の岡村 潤氏のサイト『岡村淳のオフレコ日記』に「孤高の作家松井太郎の世界」というコーナーがあり、そこでは上記のうち「堂守ひとり語り」と「ある移民の生涯」を読むことが出来る。

http://www.100nen.com.br/ja/okajun/000182/index2.cfm
 

  

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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ブラジルの日系人

 原田 清編著 二宮正人監訳 2010年 404頁


移住100周年記念刊行書 “O Nikkei no Brasil” の日本語訳版。

第1章「世界における日本移民の歴史的発展」(吉岡黎明)は、ラテンアメリカ、ブラジル各地域の日系移民の歴史的進展を、第2章「日系人の発展および同化の過程」(原田 清)は、本書の大きな部分を占め、各分野の専門家の協力を得て、戦前、戦後、現在の進化と統合のプロセス、各分野における日系人の役割とその影響を分析、多文化・多人種社会にあって多少の差別が残存する中での日系人の進化の段階、各分野別に活動する協会、組織、人物などについても紹介、第3章「第二次世界大戦がもたらした緊迫状態」(原田清)は、戦中・戦後の日系社会での対立を臣道連盟の事例などで述べている。

第4章「ブラジル社会における日系人の地位」(原田 清)は、日系人の社会学的プロフィール、ブラジル社会のピラミッド型階級制の中における日系の位置づけと将来の日系人像を、第5章「農業における日系人の影響」(山中イジドーロ)は、ブラジル農業のおける日本人移民の歴史を意義、戦前戦後の日本政府の援助、セラード開発を含む両国の協力、日系人の実績を詳述し、第6章「商業、工業、サービス業における日系人の影響」(西田ロッケ・ツグオ)は、サンパウロ市を中心に日本人移民の商業・工業・サービス業活動への参加を述べている。

第7章「日系社会の社会福祉事業」(吉岡黎明)は、マルガリータ・ワタナベの戦中戦後の「救済会」をはじめ「サンパウロ日伯援護会」、知的障害者施設「こどものその」、「希望の家」など日系社会における福祉の将来を、第8章「医療衛生分野への日系人の関わり」(山田レナト・ツネヤス)は、移民を苦しめた風土病、病気・怪我、妊娠にともなう問題などと医療援護の進展、診療施設や病院の建設などを紹介している。

第9章「デカセギ現象の過去、現在および未来」(二宮正人)ではその経緯、日本の入管法改正による影響、CIATE(国外就労者情報援護センター)の活動、在日ブラジル人に対するブラジル政府の支援にまで言及している。第10章「日本における日系ブラジル人」(中川デシオ勇、中川・柳田郷子)は、デカセギの健康問題、ブラジルに残された子供たち、ブラジルに帰国する子供たち、日本で定住化する子供たちの問題にも触れ、一種の二重アイデンティティを作りあげる子供たちの順応への困難などを取り上げている。

第11章「都道府県県人会の貢献」(林アンドレー亮)は、日系人団体と県人会の役割とブラジル社会への貢献、県人会の将来を、第12章「法律分野における日伯交流」(渡部和夫)では、伯日比較法学会の設立・活動、在日ブラジル人就労者問題への取り組みを、第13章「日本政府の日系社会への支援」(大原 毅)は、日本政府のそもそもの海外移住問題の始まりから戦前・戦中・戦後の政策と支援を辿っている。 第14章「日系社会の将来」(上田雅三)は、顔と現在を視野に入れた日系社会とブラジル社会の文化の相互作用から将来展望への前提、日本へのデカセギ現象、日本移民子孫のブラジル人としての自覚、文化の覚醒伝承を分析し将来展望を述べている。第15章は「日系社会の著名人へのインタビュー」、第16章には2008年の「主だった日本移民百周年記念関連行事」を多くのカラー写真とともに紹介している。

ブラジルでの日本人移民の100年の歴史と、様々な問題と課題の断面、過去と現在から将来展望に至るまで、ブラジル日系社会の多くの専門家を動員して纏められた優れた総合解説書であり、関心をもつ日本の読者にも是非一読を薦めたい。〔桜井 敏浩〕

    

  
(二宮正人監訳 2010年 404頁   サンパウロのニッケイ新聞社
 電話+55-11-3208-3977 nikkeybr@nikkeyshimbun.com.br で入手可能、70レアル。日本では(社)日本ブラジル中央協会が受託販売を行っている。 6,000円+送料。連絡先 info@nipo-brasil.org Fax 03-3597-8008へ)  

     

 〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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最後のアマゾン/天野尚写真集
 

天野 尚 小学館 2010年7月 199頁 3,619円+税


自然の風景、航空・水中写真により、世界三大熱帯雨林撮影に取り組んできた写真家が、地球の大気の1/3を生み出すといわれるアマゾン河熱帯雨林が切り開かれ、貴重な生態系が失われつつある地球環境の崩壊を撮した、地球に残された“最後の楽園”の姿。

マナウスとその近郊を紹介した序章、鳥の目になる~上空300フィートからの眺めの空撮、アラグアイア流域の最後の秘境、大湿原パンタナルの生命の楽園、ネグロ川の琥珀色の恵み・ブラックウォーターの世界と原初の風景・無垢の自然の姿、ネグロ川をジャッカミ山からの眺望・原生林に佇む弧峰、そしてアマゾンに暮らす~生きる歓びという章立てになっていて、大判カメラによる迫力あるカラー写真が全ページに展開されている。

撮影者による簡潔な解説がそれぞれの写真に付され、また撮影方法や機材についての説明もあって撮影の困難さも分かるが、これ以上破壊を許してはいけない自然の姿、そこで生活する先住民の姿を残し、少しでも多くの人たちに知って欲しいという意図を強く訴える写真集である。   〔桜井 敏浩〕


〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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三井のアルミ製錬と電力事業
 

宮岡 成次 カルス出版 2010年6月 249頁 1,905円+税

金融と商業が中心の三井グループにあって、アルミ製錬と電力事業を行った三井アルミは、比較的短命で終わったが、九州の石炭火力を使ってアルミ製錬を行い、ブラジルでアマゾンアルミ事業を興す中核になった同社の歴史は、日本の産業史の中でも記憶に留めるべき位置を占める。

著者は三井アルミに勤務し、アマゾンアルミ事業にも深く関わった経験をもつが、社内外の資料を広く収集・解析し、これまでも『黒ダイヤからの軽銀 ―三井アルミ20年の歩み』(牛島俊行氏との共著 2006年 カロス出版)はじめ、業界専門誌に多くの連載を行っている。

本書は、三井財閥が電力事業に手を染めた時から説き起こし、戦前の電力ならびにアルミ事業への関わりについて詳述した後、戦後の財閥解体からアルミ製錬の再開、三井アルミの設立、三井5社による共同事業にアルミ製錬の本格化、そして海外事業に目を向け、アマゾンアルミ計画の中核として立案、出資、技術供与と人材派遣を行ったこと記録している。第二次石油危機後の構造不況による会社再建、高くなった電力料金に耐えきれずに国内製錬の停止、会社解散という劇的な運命を辿った。アマゾン河流域にある豊富なボーキサイト資源と安価な水力発電に惹かれて、遠くブラジルで行ったアルミナ製造のアルノルテとアルミ製錬のアルブラスは、現在も順調に操業していて、わが国のアルミ新地金輸入の約10%を賄っているが、戦前からの日本のアルミ産業の長い歴史の中から生まれてきた経緯と背景が、あらためてよく理解することができる。ほとんど個人の尽力で集大成したこの記録は、極めて貴重な産業史、企業史である。〔桜井 敏浩〕
 

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕
 

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ラテンアメリカン・ディアスポラ
 

駒井 洋監修 中川文雄, 田島久蔵, 山脇千賀子編著 明石書店  2010年1月 294頁 5,000円+税

 

国境を越えて移動する/した人々を出身地別に分析した叢書で、近代国家の体をなしてきた19世紀後半から現在に至るまでの出ラテンアメリカの状況を、11人のラテンアメリカ研究者が分析している。

19世紀以前のアメリカ大陸をめぐる人の移動を概説した序章に続き、米西戦争でスペイン領から米国の準州となったプエルトリコ、同じく実質的に米国の支配下にあって社会主義革命で独立したものの、そこから脱出した多数の人々が米国に逃れたキューバ、米国にあまりに近いという点で共通点をもち、国土の約半分を奪われたメキシコはNAFTAにより高まる経済の米国依存とメキシコ人としての誇りの相克を抱える。

近年出移民が急増したアンデス諸国の総合的側面として取り上げられたペルー、そしてブラジルとアルゼンチンなどの南米は、移民先が米国だけでなく、欧州を含む環大西洋地域全体に拡散しているという特徴がある。豊かな国アルゼンチンは、進んだ文明人=欧州人としての国民意識形成教育により常にヨーロッパ人としての意識を持ち続けてきたが、これまで大量の移民を欧州・南米から受け入れてきたのが長期経済低迷により2002年に出移民数が入移民数を上回った。ブラジルはポルトガル語圏ということもあり、米国センサスではいわゆる“ ラティーノ” には入れていないが大きな在米人口をもつ。近年は日本の入管法の改定により日系人の出移民の流れが爆発的に増え、日本の地域社会に少なからぬ影響を与えている。

また近隣国に開発フロンティアとして入り込む移民が多いことも特筆される。最終章で、グローバル時代のラテンアメリカ各国政府の国家としての出移民政策、政策の地域・国際協調、米国での多様性をもった“ ラティーノ” のネットワークの動きを紹介している。ディアスポラといっても背景も状況も多様性があり、ラテンアメリカの出移民の実態、そして米国や日本などのラテンアメリカ系移民を受け入れた社会へのインパクトへの理解を助けてくれる。〔桜井 敏浩〕
 

〔『ラテンアメリカ時報』 2010年夏号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕


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ラテンアメリカ 出会いのかたち
 

清水 透・横山 和加子・大久保 教宏編著 慶應義塾大学出版会  2010年3月 427頁 3,500円+税


慶応大学に所属する14 人のラテンアメリカ研究者が、それぞれなぜラテンアメリカを研究対象にし、その何に惹かれたのか、これまでのラテンアメリカに関わる体験、思い、研究者としての自分史などを、自由に綴ったものである。フィールド、政治・経済・法律、スペイン、歴史研究者と一応分けているが、研究の道に入った経緯、研究対象国との出会い、その魅力、研究の方法、現地調査の紹介、研究の課題と悩みなどを、メキシコ、グアテマラ、コスタリカ、キューバ、ボリビア、チリ、ブラジル、アルゼンチン、そしてスペインの研究の過程で得た実例を通じて、さまざまな角度から述べている。

各執筆者の体験や感想、現在進めている研究の紹介などを語りながら、ラテンアメリカ研究を深めていくプロセスや、それぞれの専門分野の問題点が盛り込まれ、実に多くの切り口をもつラテンアメリカ研究の入門書としても読めるし、読者が興味をもつ個々のテーマについて、それを専攻する研究者とともに研究アプローチに入っていくという読み方もできる。 〔桜井 敏浩〕


〔『ラテンアメリカ時報』 2010年夏号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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アマゾン 民族・征服・環境の歴史

ジョン・ヘミング 国本伊代・国本和孝訳 東洋書林 2010年5月   519頁 6,500円+税


アマゾン河口に1500年スペイン人が黄金郷を求めて到達し、以来宣教師が入り、ヨーロッパ人植民者による先住民奴隷狩り、彼らの抵抗、豊富な生物資源を探索する博物学者の活動、自動車の普及に拠るゴム・ブームの到来とゴム採取人の悲惨な生活、ブラジルのロンドニア州の語源になったロンドン大佐をはじめとする多くの探険家が入り込み、これまで存在しなかったと思われていた初期先住民文化の考古学上の発見の歴史を概説している。さらに近代以降、開発によって広範囲に生じた環境破壊問題、世界最大の水系であるアマゾンならではの多様な生物資源の存在を指摘し、いまアマゾンで何が起きているかを、著者(カナダ生まれ英国で活躍する歴史家)の長年のアマゾンでのフィールドワークによって得た知見により明らかにしている。

1970年代から本格化した大型重機など文明の利器を使った大規模な自然破壊は、世界的にも知られるようになってきたが、その背景には500年に及ぶ強欲な侵入者による自然へ冒涜や先住民の犠牲の歴史があったことを知ることができる。 〔桜井 敏浩〕


〔『ラテンアメリカ時報』 2010年夏号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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中南米の音楽―歌・踊り・祝宴を生きる人々

石橋 純編著 東京堂出版 2010年3月 260頁 1,800円+税


日本ではややもすると「陽気で明るい、音楽と踊りを楽しむ中南米の人々」という単純な思いこみが一般的だが、中南米音楽の歌詞に社会批評が込められ、リズムに深い苦悩が秘められていることがある。本書はそういった深い背景とそれを知ることによる中南米音楽の魅力を解説したもので、国際交流基金による2008 年の10回にわたった異文化理解講座の担当講師が、講義内容を発展させ書き下ろしたものである。実に様々なジャンルがある中南米音楽のうち、アルゼンチン、ブラジル、ボリビア、ペルー、ベネズエラ、ジャマイカ、キューバに、サルサやチカーノ音楽が行われている米国を加えた10章から構成されている。

その国の音楽自体がまだ日本ではあまり知られていない国については入門的な解説も付し、特定のジャンルが知られている国にはそれ以外の音楽にも言及し、広く解説書などがある国については特定の話題を深く掘り下げる工夫がなされているが、全般的には高度な中南米音楽概説書になっている。
〔桜井 敏浩〕 
                    

〔『ラテンアメリカ時報』 2010年夏号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕
 

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コーヒーのグローバル・ヒストリー 赤いダイヤか、黒い悪魔か  
 

小澤 卓也 ミネルヴァ書房 2010年2月 332頁 3,000円+税


石油に次ぐ巨大市場を形成する一次産品であり、世界経済がグローバル化した現在、生産を担う開発途上国と主な輸出先で大量に消費する先進国との南北問題の様々な事象を象徴するのがコーヒーである。アフリカで自生していたコーヒーが飲み物用として栽培されるようになった歴史から始まり、輸出農産品としてのコーヒーの特色、生産様式により大きく変わる品質や市場価値、収穫・精製・焙煎という三つの重要な要素などをはじめに解説している。ついで、コスタリカ、ブラジル、コロンビアを主に、グアテマラ、エルサルバドル、さらにベトナムなどで大きくなったコーヒー産業がラテンアメリカの近代化にどのような影響を及ぼしてきたかを明らかにしている。そしてコーヒー消費国の諸相を、世界最大の国民的飲み物とした大消費国米国、そして一大消費国である日本での歴史と缶コーヒーの発明など独自のコーヒー文化を、ラテンアメリカ近現代史専門家が世界視点から整理したものである。

世界的にもっとも一般的な嗜好飲み物であるコーヒーの世界史的意義と現状を知るうえで基本的な知識を提供してくれる。 〔桜井 敏浩〕


〔『ラテンアメリカ時報』 2010年夏号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕
 

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新興国ブラジルの対外関係 ―世界金融危機を踏まえて
 

(財)国際貿易投資研究所(ITI) 2010年3月 108頁 2,000円

目立たないことを良しとしてきたブラジル外交が、カルドーゾ(1995~2002年)、ルーラ(2003~10年)両大統領のそれぞれ2期計16年の間に目立つ外交、その守備範囲を大きく拡げる外交へと変貌した。特に先進国だけで牛耳ってきた国際金融においてもG20などの場で新興国、主要開発途上国のリーダーとしてのブラジル外交は目覚ましい。本書はこの近年のブラジル外交の動向を専門分野の異なる6人の研究者が分析したものである。
    
「国際金融界とブラジル ―対立、協調を経て参画の時代」(大和総研 長谷川永遠子)は、IMF体制のいわゆるワシントン・コンセンサスに象徴される国際金融界との関係が、1982年の債務不履行処理をめぐって対立関係にあったものが、88年より歩み寄りが見られ協調関係になり、さらに2005年にはブラジルの対IMF債務完済、06には全ブレディ債を前向きに償還して以降はG20などへの参加を契機にIMF支援に参画していることを指摘している。

「統合EUとブラジル ―新コロンブス・ルートを形成」(日経新聞 和田昌親)は、ブラジルにとって拡大するEUが“見えない対米カード”になり、欧州からの企業進出や資金流入がかつて収奪されていた時代を逆のいわば“新しいコロンブス・ルート”が開かれつつあり、日本にとってはブラジルと欧州との間の大西洋が“見えない海”になってくることへの警鐘を鳴らしている。

「米国とブラジル ―グローバルな『大人の関係』」(上智大学 子安昭子)は、従前いわれてきたようにブラジルは反米だけではないし、といって親米でもない、南米やアフリカをより重視するルーラ政権の外交政策も、いまや2国間の意見の相違と協力関係だけでは済まない局面をもっていることを、「ポルトガル語圏諸国とブラジル ―共通の言語・文化を活かして」(上智大学 西脇靖洋)は、ブラジルとポルトガルとの関係、アフリカやアジアにあるポルトガル語圏諸国との関係の深化と発展を、CPLP(ポルトガル語諸国共同体)の動きとともに紹介している。

「中国とブラジル ―補完関係と競争関係」(国際貿易投資研究所 内多 允)では、21世紀に急増した中国の頼もしい輸出市場としての存在感だけでなく、中国製品のブラジル国内や第三国市場での激しい競争という面もあることを明らかにしている。

最後の「メルコスールとブラジル ―関税同盟の内憂外患」(上智大学 堀坂浩太郎)は、ブラジル外交の最優先事項というメルコスール(南米南部共同市場)との関係は、関税同盟として問題を先送りしながらベネズエラの加盟を認めたことで、ただでさえ域内に摩擦要因を多数抱えているのに構想どおりに進展するか?ブラジル外交の方向が問われていることを指摘している。

21世紀に入って大きく国際的影響力を増したブラジルの対外関係を知る上で、それぞれに興味深い分析である。 (申込先:国際貿易投資研究所 電話 03-5563-1251 メール itipost@iti.or.jp  送料無料)〔桜井 敏浩〕                    

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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マンガ 平生釟三郎 ―正しく強く朗らかに』 
 

平生漫画プロジェクト 幻冬舎メディアコンサルティング 2010年3月 166頁 1,200円+税


慶応2年(1866年)に生まれ、苦学して高等商業学校(現一橋大学)を卒業し、教職を経て東京海上保険に入社、大阪や神戸の支店長、ロンドン支店監督を歴任し専務まで昇るが、他方で育英事業を早くから推進し、現在の甲南学園(大学から幼稚園まで)を創立した平生釟三郎(ひらお はちさぶろう)の伝記を漫画化したもの。

大正海上火災ほか保険会社の役員を歴任し、川崎造船(現川崎重工)の社長としての再建、日本製鉄会長、貴族院議員、二・二六事件後に発足した広田弘毅政権の文部大臣等々、経済界を主に教育界、政界や公的職務など、実に多くの分野で活躍した偉人の生涯を紹介している。

人の一生の第一期は自己を教育する時代、第二期は社会で働く時代、第三期は自己の事業より離れて他人のために尽力する時代という「人生三分論」を実践し、60歳を超えてからは国へ、社会への奉仕に務め、また世間の要請に応えるべく、様々な分野に関わったが、やはり一番力を入れたのは「教育こそが日本をつくる」という信念のもと、長く高等学校長をも務めた甲南学園での理想の学園造りだった。

また海外へも早くから目を向け、大正13年(1924年)にヨーロッパ、米国、ブラジルへ8ヶ月におよぶ視察旅行を行い、昭和9年(1934年)にはブラジルでの憲法での移民制限にともなう日本からの移民受け入れ制限を撤廃させるべく、経済使節団を率いてブラジルに渡り、半年にわたって交渉を行って綿花の大量輸入約束と引き換えに日本の主張を実現している。昭和初期に日本とブラジルの懸け橋ともなったのである。  〔桜井 敏浩〕
  

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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ブラジルを知るための56章 【第2版】
 

アンジェロ・イシ 明石書店 2010年2月 266頁 2,000円+税

     

「ブラジルの魅力に目覚めるための56章」としたいくらいだと著者がいう、ブラジルの面白さと奥深さを伝えたいという意欲あふれる日系三世による解説書。2001年に出て好評だった『55章』を加筆修正し、いくつかの章を書き下ろして差し替えた改訂版。
  
「ブラジルの現在を理解する」では人種、社会格差、治安からサッカーのワールドカップ、オリンピック開催国として背景などを、「ブラジルの魅力を満喫する」では国民性、多民族国家の形成、スポーツやテレビ、映画、音楽などまだまだ日本では知られていない魅力を、「ブラジルの矛盾を解読する」では環境、貧富の格差、先住民問題と多民族国家の実情や日本との関係を、「ブラジルの神髄を堪能する」ではブラジル式問題解決法や日本人のスレレオ・タイのブラジル像、広がる日系人の活躍の場などなど縦横に話題が跳ぶが、全体として確かにブラジルへの理解、魅力、変化が実感され、示唆に富んだ解説集になっている。 〔桜井敏浩〕

  
〔『ラテンアメリカ時報』 2010年春号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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ラテンアメリカ世界のことばと文化』 
 

畑 恵子・山崎 眞次 成文堂 2009年7月 372頁 3,000円+税

  
ラテンアメリカの言葉と文化について、言語、社会の多様性、詩、美術、音楽、先住民史、食べ物、文化や言語の混淆、言語教育、先住民や多民族政策やそれぞれの各国事情、日本でのラテンアメリカ文化などの切り口からの21本の論考を19人の専門家が執筆している。
    
「ラテンアメリカ世界への誘い」でのスペイン語浸透の歴史、ブラジル社会の多様性から始まり、「芸術と文化」はガルシア・マルケスの詩、メキシコの図像、ラテンアメリカ音楽の紹介とその国際化、パラグアイでのグアラニー語の継承を、「先住民言語文化と国民国家」では生き残りをかけた先住民言語、それとも関連があるメキシコ先住民の反乱、1920年代メキシコにおける文化の混淆、ペルーの多言語・多文化世界の選択、エクアドルのスペイン語と先住民言語の二言語教育の実践、チリでの被征服者であるマプチュ族の存在を扱っている。「言語文化の多様性」はカリブ海フランス語圏のクレオール文化と英語圏のジャマイカでの非英語的特徴、ブラジルで進化をとげつつあるポルトガル語、アルゼンチンでの二人称の使い方にみるナショナリズム等を、「越境するラテンアメリカ世界」では日本で紹介されつつあるラテンアメリカ文化と米国におけるメキシコ系住民の言語・公教育問題、スペイン語の標準語とされたカスティジャ語のラテンアメリカからの里帰りによる共通言語化、メソアメリカの主食であるトウモロコシから眺めたグアテマラなどを取り上げている。どれをとってもこの地域のことばと文化には様々な歴史や背景、それぞれの国の事情があることが分かり、ラテンアメリカの見方の幅を広げてくれる。   〔桜井 敏浩〕
  

 〔『ラテンアメリカ時報』 2010年春号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕
 

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 アマゾン文明の研究 ―古代人はいかにして自然との共生をなし遂げたのか
 

 実松 克義 現代書館 2010年3月 374頁 3,800円+税

 

南米の古代文明はアンデス地帯と西海岸だけでなく、アマゾン各地で古代人の大規模な居住地、道路網、運河網、堤防システム、農耕地あるいは養魚場が発見されているが、その他地域の文明との違いはアマゾンの自然環境を大きく改変しながらも、それを破壊することなく自然との共生を図ったことで、その伝統は現在のアマゾン先住民にも伝わっているというのが本書の主題である

本書はまずアマゾン文明の背景となる自然環境、先住民民族の文化と世界観を説明し、アマゾン古代史に関わる一連の発見、偏見と論争の歴史、近年のアマゾンについての一般的な考えが変化したのかをのべ、うち最大級の文明があったボリビア・アマゾンのモホス平原の自然環境とモホス文明の痕跡、独特の構想で創られたこのモホス文明について考察し、著者が行ったモホス平原での発掘と民族調査のデータを分析し、この古代文明の再現を試みる。そしてアマゾン各地の文明の痕跡を概括し、アマゾン地域における農業の発達と古代人の社会構想や自然観を解明し、それが示唆する文明とは何かを考察するという構成になっている。
  
宗教人類学を専門とする著者(立教大学教授)が内外の膨大な文献資料を解読し、ボリビアの地元研究家等との意見交換、そして考古学者と組んだ2006年から08年の3回の合同発掘調査によりモホス文明が存在したこと、民族調査によって現在のモホス先住民の伝統はキリスト教により大きく影響を受けたものの、「自然への畏怖」を引き継いでいること、他のアマゾン地域でも古代農業を始め定着されたという共通点があるとしている。
   
著者がいうように、ボリビア・アマゾンに大規模な古代文明が実在したことを疑う研究者は多い。アマゾン地域はその自然条件から遺物が遺り難く実証的な判断が難しい。モホスに古代の社会があったのは確かであろうが、本書の指摘する多数の土塁、運河網、農耕跡地を人工の建造物であり高度な文明の痕跡といい切るにはさらなる現地調査の成果が待たれよう。
 〔桜井 敏浩〕

  
〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕


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講座 トランスナショナルな移動と定住 ―定住化する在日ブラジル人と地域社会
    
 
第1巻「在日ブラジル人の労働と生活」、
  第2巻在日ブラジル人の教育と保育の変容」
  第3巻「ブラジルにおけるデカセギの影響」
 

小内 透編著 御茶ノ水書房 2009年12月 208,210,189頁 各3,500円+

   
在日ブラジル人の集住地での調査にもとづき、その生活と共生、地域住民意識の現実、行政の対応、労働と社会関係、ブラジル系エスニック・ビジネスの展開を論じた第1巻、日本の公立校あるいはブラジル人学校、保育所に通う子弟と保護者の意識、そこでの日本人との関係、日本の外国人教育問題の歴史と課題、本国政府による在日ブラジル人の教育支援を論じた第2巻、リピーターや定住者が増えたデカセギをブラジル側から見た帰国者の起業や再出発支援活動、ブラジル大都市近郊農村や僻地農村でのデカセギ現象の影響、教育面での帰国子女の現状、デカセギ経験者の意識、そしてブラジル人のトランスナショナルな生活世界と集住地での日本人との共生の現実と可能性を明らかにした第3巻からなる。
  
国境を越えて移動するブラジル人のトランスナショナルな生活、労働、子弟教育と地域社会との共生の現実を、延べ25人の研究者が日本の集住地、ブラジルの送り出し地での調査も交えて真摯に分析している。 〔桜井敏浩〕

   
〔『ラテンアメリカ時報』 2010年春号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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ゴキブリ経営法 -激動のブラジル社会で生き残った「しぶとさ」
 
 

深田 毅二 K&Kプレス 2010年2月 167頁 1,200円+税


著者は1956年に叔父の呼び寄せ移民としてブラジルへ渡航、サンパウロ近郊の叔父の果樹園、そして養鶏場で働きながら学校に通い、1963年に20歳で独立して兄弟と菓子製造のラッキー社を興した。製造業としての当局の許可取得、衛生局や税務署の調査に対応するためには賄賂や脱税が常識だった零細企業時代を経て、1970年代以降は成長し始めたスーパーマーケットへの製品売り込みに注力し、売掛金の山とインフレ、工場拡張にともなう公害発生、税金滞納、幹部の裏切りなど、何度も挫折の危機をむかえ、それを乗り越える度にしぶとい処世術と経営のコツを身につけていった。

長年の経営の経験から、様々な事態に備えて出来る限りの手を打っておくこと、経営者に不可欠な強運、創造性、戦略性という三要素、人の過去の言動や性格、状況を考慮して判断するという思考、業界との競争法、そしてそれらの経験から編み出した“ゴキブリ経営法”やハイパーインフレ下での原価・収益の考え方など、ブラジルでの中小企業の地を這う商売の実態と対応策を詳述している。

創立20周年を迎えた頃、同族会社が二代目、三代目になって成功裏に続く例は少ないと、ブラジル第二位の菓子メーカーに成長したラッキー社の売却を決心し、スナック菓子でも大手のペプシコに持ちかける。それも米国本社を意識してメキシコのウォールマートに売り込みをかけるなど、自社の魅力、存在感を高めて有利に買わせることに成功したのである。

 これまでの大企業の人が書いたブラジルでの経営法に見られない、生々しい具体的な経営体験が述べられていて、面白い経営指南書になっている。  〔桜井 敏浩〕

                    

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕
 

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ジャポネース・ガランチード ― 希望のブラジル、日本の未来
  

丸山 康則 (財)モラロジー研究所発行 廣池学園事業部  発売 2010年1月 351頁 1,700円+税

  

書名は「信頼される日本人」の意味で、ブラジルで日系人が誇りをもって使ってきた言葉である。著者は、交通心理学、事故予防、労働安全分野を専門とする麗澤大学名誉教授で、2008年に同じ出版社から、ブラジルで活躍する日系人とのインタビューなどで構成する『ブラジル百年にみる日本人の力』の著作を出しており、本書はそこで紹介しきれなかった「ブラジルで出会った人々」の紹介と日系人社会と日本人のあり方についての論評を載せたものである。

パラナ州選出の上野アントニオ連邦下院議員、サンパウロ州レジストロでブラジル初の紅茶栽培を成功させた岡本寅蔵・久江夫妻、アマゾンほかブラジル各地へ巡回医療を行った細江静男医師、天皇陛下や皇族方のブラジルご訪問の際の警護武官を務めた西 礼三サンパウロ州軍警察官、洋蘭の大量栽培法を実現させた高梨一男氏、セラード農業開発の本格化以前に入植しコーヒー農園を造った下坂 匡氏や農務大臣特別補佐官として関わった山中イシドロ氏、サンタカタリーナ州の村で果物・野菜栽培の傍ら剣道場を作った尾中弘孝氏、JICAの技術協力でブラジル農務省に派遣され、同じ州のサン・ジョアキンにブラジルで初めてリンゴ栽培を成功させた後澤憲志博士とその教えを受けた日系農家の人たち、サンパウロ州教育局が日本人移民100周年記念取り上げた「ビーバ・ジャポン」プロジェクトを主導し、今は日本から帰ってきた日系人子弟の教育に携わる日野寛幸氏など、様々な分野でブラジル社会に貢献する日系人を訪ねて、聞き取りを行っている。 〔桜井 敏浩〕

  
〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕 

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ブラジル技術移住者が見た世界 

  

山口 正邦 柏企画 2009年5月 281頁 1,800円+税

    
長野県出身の化学技術者で、1961年30歳の時に妻と長女を連れてブラジルへ移住し、幾つかの工場で働いた後に米国への留学を経て、自動車エンジン用プラグ製造のNGK(日本特殊陶業)のブラジル会社へ入り、ブラジル国籍を取得し28年間勤め上げ、定年後は日系社会の諸団体で活動している著者が、これまでサンパウロ新聞等に寄稿した回想とブラジル、南米や世界各地への旅行エッセィ集。

農業やその後商業に転じた者が大半であった日系移住者の中で、日本の大学で化学を学んで来た技術移住者の目から見たブラジル企業や社会、米国の大学生活についての随想に加えて、3年間働いたマタラゾ財閥家の盛衰、日本とブラジルの農地改革の比較、日本移民がブラジルに持ち込んだ柿、リンゴなどの栽培の苦労、そして在住者ならではのブラジル各地の紀行など、多彩な内容になっている。  〔桜井 敏浩〕

   
〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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南へ ― 高知県人中南米移住100年

高知新聞社編集局 高知新聞社 2009年11月 269頁 1,524円+税

 

高知新聞が創刊105年を記念して、2008年に100周年を迎えた高知県人のブラジル移住者の足跡を追った連載記事の集成。

記者を9ヶ月間派遣し、ブラジル各地での同県人の汗と涙の人生から何かを学びたいと取材したが、本書のもう一つの特色は、高知出身で笠戸丸の最初の組織移住者集団を率いた“ 移民の父” といわれる水野 龍の足跡を辿ったことである。

「皇国殖民会社」を立ち上げブラジル移民を募った水野は、当初から外務省への保証金等の資金繰りに苦しみ出航が遅れ(これがその年のコーヒー収穫期に後れを取り、移住者の生活を一層困窮させる一因になった)、転用した移住者からの預り金の返済や困窮者への対応をきちんと行わなかったことなどから、笠戸丸以降12年間に45隻、2万2千人余りのブラジル移住に関わった水野の評判は必ずしも芳しくないが、両国当局との抜群の交渉力を発揮してブラジル移民の道筋を切り開き、日本側の利益だけで送り出した満州移民とは一線を画して、ブラジルでは共存共栄の理想を目指した水野について、移民史の中では正しく評価されているとはいい難いとの指摘を紹介している。

ブラジル各地にいる高知県人移住者の過去と現在、そして今は日本に来ている“ 出稼ぎ” 日系人の現状まで広く取り上げており、地方紙の特色を活かした総合取材の好企画である。 〔桜井 敏浩〕  

                   

〔『ラテンアメリカ時報』 2009/10年冬号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕

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ブラジル紀行 バイーア・踊る神々のカーニバル
 

板垣 真理子 ブルース・インターアクションズ 2009年10月 319頁 2,500円+税


ジャズを撮ることから写真家になり、アフリカ音楽に魅せられてナイジェリアを取材したことから、環大西洋の文化の流れを追って西アフリカから多数の奴隷が送り込まれたブラジル東北部バイーアを訪れた。アフリカ系ブラジル人の間に伝わり、現代においてもなお脈々と行われている歌、リズムや踊り、衣装などの色は、古い時代に大西洋を越えてブラジルやキューバに持ち込まれて根付いたものである。

カトリック化したとはいえ、彼らの間で脈々と伝わり、儀礼が行われているカンドンブレは、ヨルバ(ナイジェリア、ベニンにかけて住む人たち)の多神教、神話とすべて繋がっている。このヨルバの音楽や踊りなどから先に入った著者であるからこそ、サルバドールのカトリックとカンドンブレが融合した祭りやカンドンブレの言い伝え、儀式に入っても、その背景がよく理解できる。サルバドールのカーニバルや多くのミュージシャンとの交流の姿も、ジャズから一貫して音楽、それもアフリカ系音楽に関わってきた著者ならではの肌で感じ取った感覚で見たブラジル紀行になっている。

巻末にバイーア音楽を彩る音楽家たちと、著者を含む6人の日本人評論家が推薦する「ブラジルを体感するためのディスクガイド」も付いている。残念なことに色彩豊かな筈の本文中の写真がモノクロになっているが、アフリカ系音楽のルーツをよく知っている写真家のバイーアの探訪はふつうのブラジル紀行とはひと味違う世界を見せてくれる。  〔桜井 敏浩〕

   
〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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ラテンアメリカにおける日本企業の経営
 

山崎 克雄、銭 祐錫、安保 哲夫編著 中央経済社 2009年3月 269頁 3,200円+税

 

1980年代半ばから2006年に至る間に日本企業の経営・生産システムの国際移動の研究と現地調査を重ねてきた研究グループが「適用・適応のハイブリッド」モデルによる、2000~06年の間に行ったメキシコ、ブラジル、アルゼンチンでの製造業工場とベネズエラでの帝国石油の石油開発事業の現地調査結果から、日本式経営がどのように導入されているか? アジア等他地域での日本企業経営と何が異なるか?などを、14人の経営・企業等研究者が分析している。

日本型生産システムの適用度を、作業組織とその管理運営、生産管理、部品調達、参画意識、労使関係、親-子会社関係の 6項23 の視点から評点を出し、これまで調査してきた世界での平均、アジアや欧米での数値とラテンアメリカの平均を比較し、各論としてメキシコ、ブラジル、アルゼンチンの国別日系工場の特徴を挙げ、自動車産業についてはトヨタ(ブラジル、アルゼンチン、メキシコ)、日産(メキシコ)、ホンダ(ブラジルの二輪・四輪、メキシコ)、デンソーを、電機では東芝(ブラジル)と三洋電機(アルゼンチン)のケース分析を行っており、ブラジル等では欧米企業の新しい生産戦略も紹介している。〔桜井 敏浩〕

                    

〔『ラテンアメリカ時報』 2009年秋号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕 

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安心社会を創る―ラテン・アメリカ市民社会の挑戦に学ぶ
  

篠田 武司、宇佐見 耕一編 新評論 2009年7月 315頁 2,600円+税

 

シリーズ「失われた10 年」を超えて―ラテン・アメリカの教訓3部作の『ラテン・アメリカは警告する』(2005 年)に続く第2冊目。新自由主義経済の負の経験を乗り越えようとするラテンアメリカに、2008 年米国発のサブプライム・ローン破綻に端を発する経済危機が襲い、分断・対立・競争を原理とする「競争」による混沌とした不安社会から脱却するために、安心社会に向けて連帯・参加・協同を原理とする「共生」への模索が始まっている。

第Ⅰ部の新自由主義以後の参加的・連帯的社会形成、社会関係資本への注目、福祉社会の可能性と貧困政策についての理論編と、第Ⅱ部のペルーでの住民参加、メキシコのエンパワーメント、ブラジルの NGO による教育実践、エクアドルの多民族共生、ブラジル南部クリチバ市が行った人間生活中心の都市計画、アルゼンチンの地域通貨、日本への移民労働者の貢献という実践編から構成されている。

ラテンアメリカでの多様な社会の課題とそれらへの挑戦の試みは、現代日本への示唆が込められているという編者、執筆者の意気込みが感じられる。  〔桜井 敏浩〕
 

〔『ラテンアメリカ時報』 2009年秋号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕 

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     ブラジル史

金七 紀男 東洋書店 2009年7月 304頁 2,800円 +税

 

ブラジル植民地史・ポルトガル近世史の研究を続けてきた著者(東京外語大名誉教授)による植民地期から近代を経て現代に至るまでの通史。

第一部「植民地期」では、1500年のポルトガル人カブラルのブラジル到達以前の先住民社会からポルトガル人等の入植と総督制や奴隷の導入、砂糖プランテーションの拡大、内陸での金鉱の発見などによる植民地化の進展を、第二部「近代」では1822 年のペドロ王太子の独立宣言から第一、第二帝政、旧共和制を通じてコーヒー産業が勃興しブルジュアジーが力を得ていく過程を、第三部「現代」は、1930 年から45 年まで続いたヴァルガス独裁政治、第二次世界大戦終結時から1964 年の間の左右ポピュリズム政治、64 年のクーデタから85 年の民政移管までの軍事政権による開発独裁、85 年の民主主義の復活からカルドーゾ、ルーラ政権に至る現在までを、分かりやすく概説している。

大学での教科書を意図して執筆されたもので、政治のみならず、経済、社会、文化面についてもふれることで歴史全体を概観し、現代の問題点の背景が理解できるようになっている。  〔桜井 敏浩〕 
             

〔『ラテンアメリカ時報』 2009年秋号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕 

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ブラジルから遠く離れて 1935-2000 クロード・レヴィ=ストロースのかたわらで』 
 

今福 龍太&サウダージ・ブックス (浅野卓夫)  サウダージ・ブックス発行、港の人発売 2009年5月 133頁 2,000円+税


レヴィ=ストロースは南米先住民の集落での民族学調査から「構造人類学」という方法論を確立した。1955年に刊行された『悲しき熱帯』(邦訳 川田順造訳 中公クラシックス、室淳介訳 講談社学術
文庫 『悲しき南回帰線』)は、その20年前のフィールド調査の紀行である。未開社会を分析し、欧州
文化中心を批判した文芸作品としても高く評価されているが、青年時代にこの著作に出会い、人類学者の道を歩んだ今福は、若きレヴィ=ストロースが社会学の教授として招かれた同じサンパウロ大学に 招聘され、彼が1935年のサンパウロを撮ったスナップ写真集『サンパウロのサウダージ
(今福龍太訳・編著 みすず書房 2008年 )を丹念に辿り、同じアングルでの再撮影を行った。

本書は2007年に東京で開催された映像展示展をドキュメント化したもので、二人のサンパウロ市街の写真の対比を交えつつ、今福が選んだレヴィ=ストロースの『悲しき熱帯』等の文章と彼の文章の抜粋を綴っている。〔桜井 敏浩〕


〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕
 

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移民の譜(うた) ―東京・サンパウロ殺人交点 
 

麻野 涼 徳間書店(文庫) 2008年6月 621頁 914円+税 -『天皇の船』 文藝春秋 2000年刊改題

 

新宿でかつて移民送り出しを行い、その業務を担当していたことのある国際協力事業団の総裁がホームレスの男に刺殺された。 一方サンパウロで警察や司法の手から逃れている過去に悪辣な犯罪的行為を行った者を追い詰め惨殺する秘密私刑組織に日系老人が射殺され、両者とも戦前使われた旧百円紙幣が絡んでいた。

過去のリオ・グランデ河の移住地で起きた一家殺しや、続いて東京とサンパウロで次々に起きる殺人事件の謎をそれぞれ追う日本とサンパウロの新聞記者が、その背景にはブラジルへの日本人移民史の暗部である勝ち組と負け組の抗争と、その混乱期に勝ち組の間で荒稼ぎした偽皇族や無知な移民に旧円紙幣を売りつけた詐欺事件、そして戦後トルヒーリョ独裁時代に送り込まれ惨状をきわめたドミニカ移民が関係していることに辿り着く。

東京とブラジルでのいくつもの事件と、それらに関わる意外な関係者達を登場させながら、日本人移民史の中で暗躍した者達と彼らへの復讐を行っていく過去の被害者の子弟、事件の解明に迫る日系人記者とその恋人などの日本・ブラジル両国にまたがる複雑な交錯を描いて、一気に読ませる長編サスペンスである。

こういった移民や日本への出稼ぎ南米人、ブラジル人の日常生活を交えた題材での描写は、得てして誤解や現実とは違う表現の著作が少なくないが、本書はきわめて正確かつリアリティがある。それは著者が実はブラジル移民を追った『蒼茫の大地』(講談社文庫 1994年)、『日系人 その移民の歴史』(三一新書 1997年)やドミニカ移民のドキュメンタリー『ドミニカ移民は棄民だった』(明石書店 1993年)などの著作のあるノンフィクション・ライター高橋幸春だからである。過去の日本政府の移民政策を絡ませた復讐劇としては、アマゾン移民を扱った『ワイルド・ソウル』(垣根涼介 幻冬舎 2003年)がありこれも面白いが、本書は移民史を本格的に取り込んだ、サスペンスとして一読に値する。

http://www.bizpoint.com.br/jp/reports/sakurai/sk15_01.htm#ワイルド・ソウル 〔桜井 敏浩〕

                     

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕
 

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「出稼ぎ」から「デカセギ」へ ―ブラジル移民100年にみる人と文化のダイナミズム
 

三田 千代子 不二出版 2009年3月 288頁 2,000円+税

     
古から人の移動は文化に計り知れない大きなダイナミズムを及ぼす。日本にとってブラジルは70年にわたって制度的に日本移民を受け入れ、100年の人的交流の歴史をもつ唯一の国である。「ブラジルの日本人―去しり者」では、明治新政府以来の海外移民政策、ブラジルの移民受け入れ政策と日本移民の歴史、1920~50年代のサンパウロ日本人共同体とその経済活動、ブラジルの「国民国家」形成と外国移民、第二次世界大戦後の日本移民の意識の変化とブラジルの「多人種多民族国家」受容を、「日本のブラジル人―来たりし者」では、デカセギ現象にみる両国の新たな関係の展開、神奈川県綾瀬市を例に在日日系ブラジル人社会とその文化の実情、デカセギ・ブラジル人の分布と多様な生活戦略、教育問題、そのデカセギを多く送り出しているサンパウロ州バストス市の「日本人村」の経済活動と社会組織、エスニシティの変化を論じ、最後にブラジルの日本人、日本のブラジル人について、もう一度概括している。

ブラジル社会人類学者である著者が、両国間の移民の社会文化史を追うことにより、ヒトの移動によってもたらされた社会と文化の変容を考察した力作である。 〔桜井 敏浩〕
    

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕
     

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ブラジル日系・沖縄系移民社会における言語接触
 

工藤 真由美、森 幸一、山東 功、李 吉鎔、中東 靖恵 ひつじ書房 2009年6月 447頁 
 8,000円+税

      

ブラジルへの1908年の最初の笠戸丸移民の4割は沖縄県出身者であり、現在日系人の1割を沖縄系が占めるブラジルの日系社会には、ポルトガル語、日本語、琉球語のバリエーションのダイナミックな言語接触があり、またアイデンティティの問題にも錯綜や軋轢が見られる。

現地語の中での生活を始めた移民は、母語日本語(沖縄のウチナと沖縄の人がいう日本本土のヤマトゥグチ)にポルトガル語の単語を混ぜる独特のコロニア語が広まる。この「言語」をめぐる移民史、沖縄系移民の言語状況、日系移民社会での日本語観を概観し、言語調査の実施と談話資料の収集によって見えてきた日系社会における言語の実態からその特徴を明らかにし、これに言語生活調査にもとづく日系と沖縄系移民社会の談話の実例を紹介している(音声資料のDVDが付いている)。

本書は、海外移民社会における日本語の実態を知らしめるとともに、単一言語で均質な言語共同体を前提とする日本語観を相対化させ、日本語・国語問題をあらためて考えさせてくれる、実証による示唆に富んだ研究論文集である。  〔桜井 敏浩〕

                   

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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地球時代の多文化共生の諸相-人が繋ぐ国際関係

浅香 幸枝編著 行路社 2009年3月 373頁 2,800円+税

  
日本における外国人登録者数が2005年に180カ国200万人を超え、ラテンアメリカからも日系人を多く受け入れていることから、多文化共生のモデルを解明するために南山大学の研究者を中心に組まれた共同研究の成果。

「第1部 多文化共生政策」では、日本と移民受け入れ国であるブラジル、アルゼンチンの多文化共生政策の比較、「第2部 多文化共生の諸相」では、実際に試みられている多文化共生教育、在日日系南米国籍者のビジネスへの挑戦、定住化にともなう日本の制度との共生、地域社会の南米出身者による宗教行事の受容に至る過程、日本からの創作民謡のブラジル文化との共生実現、「第3部 多文化共生の歴史と概念」では、インカ、アステカそれぞれの周辺諸民族との関係かの古代国家の特質、メキシコの地方先住民の地域アイデンティティと多文化共生の歴史、江戸時代の国学形成による異相との共生を探求している。

「第4部 多文化共生の懸け橋」は、現在パラグアイ、ベネズエラ、ボリビアと3人いる日系人大使との対話を通じて、多文化共生の中で生きてきた日系人の体験を語らせている。外国人との共生が本格的に始まろうとしている日本が、ラテンアメリカの多文化共生の経験からモデルないし知恵をくみ取る手がかりを得ようとする15本の論考はそれぞれに興味深く、編者の適切な解説がより理解を深めてくれる。  〔桜井 敏浩〕
  

〔『ラテンアメリカ時報』 2009年夏号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕 

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ラテンアメリカの民衆文化

加藤 隆浩編著  行路社 2009年3月 293頁 2,600円+税


ポップ・カルチャーすなわち一般の人が担う文化については、これまで学問的研究分野としてはほとんど対象とされてこなかったが、本書ではラテンアメリカ社会で次々に創造、生産、消費、享受、支持され、圧倒的な影響力をもつ民衆文化に光を当てている。

今やスペイン語圏のみならず世界に輸出され多くの視聴者を惹きつけているメキシコのテレノベラ(TVドラマ)、同じくメキシコのプロレスとは違うという格闘技ルチャ・リブレ、ラテンアメリカ諸国で最も重要な宗教行事の一つ「死者の日」に対して、メキシコ社会に浸透してきたハロウィーン、メインストリームの美術に対するに民衆の間で生まれた美術を対比させる例としてのサンタ・ムエルテ(骸骨像)の図像表現、「強きを挫き弱きを助ける」貧しき者の味方として民衆から支持を受けている義賊伝説、民族衣装を織ること着ることからその意味とメッセージ性を読み取ることが出来るマヤの民族衣装、欧州で広く流布されたギアナやアマゾンの先住民に居るとされた無頭人などの怪物人種イメージ、選手の出身階層や人種がチームの試合運びにも微妙な影響をもたらすペルーでのサッカー事情、ペルー各地の箱形祭壇や焼き物、人形などの民衆芸術、タンゴ専門のダンスホールであるミロンガとアルゼンチン・タンゴの発生から現代に至る変容、かつて戦後の日本でも風靡した米国文化を具現する代表的な雑誌『リーダーズ・ダイジェスト』ブラジル版の日用品広告に見る米国式生活様式導入の考察、カトリックなどと関わり合いの深いラテンアメリカの食文化と地方料理の背景など、12 編の論考は「民衆文化」の名の下に一定の方向性をもっており、これまでに類書の少ないラテンアメリカ文化論になっている。      〔桜井 敏浩〕

              

〔『ラテンアメリカ時報』 2009年夏号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕 

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ラテンアメリカ経済成長と広がる貧困格差

丸谷 雄一郞   創成社(新書) 2009年3月 228頁 800円+税


専門書や大学の教材よりも広い読者層に、特定地域の国際情勢の潮流をコンパクトに伝えるシリーズの1冊として書き下ろされたもので、ラテンアメリカ経済に関心をもつ初心者にも分かりやすく、幅広い諸問題を網羅した内容の充実した概説書である。

ラテンアメリカ諸国の経済の多様性、先コロンブス期から新自由主義経済に至るまでの経済発展の歴史的過程、全般ならびに主要国の経済の現状、貧困格差、経済開放にともなう産業構造の改革、再び注目されるようになった一次産品輸出、大規模開発による環境、左派政権の台頭という今日の問題を4つの章で解説した後に、1980 年代後半以降に本格化した民営化の動きと域内だけに留まらず世界で活動する主要企業、注目企業という、変わりつつあるラテンアメリカ経済の実態を紹介し、最終章でラテンアメリカと日本の経済関係について、移民とデカセギ、ODA、貿易を取り上げている。    〔桜井 敏浩〕

 

〔『ラテンアメリカ時報』 2009年夏号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕 

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「帝国アメリカ」に近すぎた国々 ラテンアメリカと日本

石井 陽一 扶桑社(新書) 2009年6月 206頁 720円+税


メキシコの独裁者であったポルフィリオ・ディアスの言葉に「哀れメキシコよ、米国にあまりに近く、天国からあまりにも遠い」から題名を取った本書は、長くラテンアメリカ地域論としての研究を続けてきた著者が、最近のラテンアメリカの情勢を分かりやすく解説したものである。

国際金融危機は人災であると弾じる序章から始まって、1970年代から80年代にかけて先行的に取り入れたチリとメキシコと90年代のワシントン・コンセンサスにより各国が受容した新自由主義経済の経緯と結果を解説し、21世紀に入っての新自由主義への反旗としてのベネズエラのチャベス、ボリビアのモラレス、エクアドルのコレア、ニカラグアのオルテガなどの反米中道左派政権を紹介している。次いでラテンアメリカの安全保障を規定しているリオ条約(米州相互援助条約)と日米安保条約を比較し、これらの状況を踏まえた日本の対ラテンアメリカ政策のシナリオと、ラテンアメリカから示唆される日本のODA、農林業改革、安全保障についての提言を試みている。  〔桜井 敏浩〕

                 

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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図説ラテンアメリカ経済
 

宇佐美耕一、小池洋一、坂口安紀、清水達也,西島章次、浜口伸明  
日本評論社 2009年4月 128頁 2,400円+税

   
同じ出版社から出た小池洋一他編 『図説ラテンアメリカ ―開発の軌跡と展望』(1999年)を引き継ぐ全面改訂版だが、経済問題に絞っている。

内容は、

 1.「一次産品輸出から輸入代替化工業」、2.対外債務危機、インフレ、通貨危機を扱った「マクロ経済の諸問題」、3.ネオリベラリズム、経済改革などの「経済自由化」、4.ポピュリズムと大きな政府、財政、社会保障、左派政権の躍進を採り上げた「経済発展と政府」、5.国営、民族系、多国籍企業を考察する「経済発展と企業」、6.教育、技術を含む「人的資本と技術開発」、7.貧困削減のために試みられた政策を含む「貧困と格差」、 8.「農業と農村」、9.貿易、資本と人の移動から見る「経済の グローバル化」、10.その歴史と1990年代以降の統合、インフラ協力を扱った「地域統合」、11.復権した「新一次産品輸出経済」、 12.危機に瀕する自然、都市環境の悪化、環境保全への挑戦といった重要な課題がある「開発と環境」、13.貿易、投資、ODAで見る「日本とラテンアメリカ」 と、いずれもラテンアメリカ経済の発展と構造の変化の全体像を、簡潔な文章と多数の図表により、分かりやすく解説している。ラテンアメリカ経済を知るうえでの副読本的な資料集として有用である。〔桜井 敏浩〕
     

〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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100年 ―ブラジルへ渡った100人の女性の物語』 

サンパウロ新聞社編 ファイル 2009年2月 215頁 1,500円 +税


ブラジルの邦字紙が2008年の日本人ブラジル移民100周年記念事業の一環として連載した「伯国の大地に生きる日本女性物語」の集成。

ブラジルへの初期の日本移民先駆者の婦人たちがどのような思いで生きてきたかを記録し、国際人として生きてきた日本女性の生き様を知ってほしいという意図から、両国語で刊行されたうちの日本語版。

日本からブラジルへ移民した人々のほとんどは、父が夫が成功を夢見て反対する家族や妻を同行したものである。過酷な労働の中で、家事、育児に苦労を重ねた女性の内助の功によって日系社会は発展してきた。北はアマゾンから南部州まで、100人の女性の証言を各2頁で綴り、日本人移民史年表を付けている。

女性たちの生き様は男性以上に逞しく、日系団体の催しの裏方や農協、文化団体で活躍する行動力と包容力を兼ね備えた姿は、移民史料がとかくこういった市井の側面に触れていなかっただけに貴重な記録である。 〔桜井 敏浩〕

                  
〔(社)ラテン・アメリカ協会 Webサイト「掲示板」→「図書案内」に収録〕

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ブラジルの都市問題 ―貧困と格差を越えて

住田 育法監修 萩原 八郎・田所 清克・山崎 圭一編 春風社 2009年1月 340頁 3,619円+税


ブラジルの都市問題を、3大都市を例に様々な切り口から13 人の研究者が分析、解説している。まず歴史編として、19 世紀から20 世紀にかけてのブラジルにおける都市化の歴史から、旧首都リオデジャネイロの都市形成と土地占有の歴史、ブラジリア建設の成り立ちと衛星都市を概説し、現代編ではまずリオのインフラストラクチャーの不備により生じる断水、停電の改善、ブラジリアにおける都市流入者の増大にともなう土地占拠と路上等でのインフォーマル労働の増加という2つの不法問題、リオとブラジリアの都市住環境開発と公共政策の比較、サンパウロの都市問題に対する州と市の役割分担、サンパウロの東洋街の新伝統行事にみる日本文化表象の形成を取り上げている。

さらに現代ブラジルの貧困問題を政治地理学的に解析し、いくつかの都市で採られるようになった住民「参加型予算」の動向と課題、土地無し農村労働者運動(MST)の事例と教訓、それに対するにサンパウロ州リベイロンプレット市グアタパラの事例といった新しい問題が紹介されている。

昨今のラテンアメリカのいわゆる左傾化という政治の動向が貧困格差の是正、都市の課題解決につながる望ましい動きとは楽観出来ないという編者の意図のとおり、都市問題の複雑さ、立場の違いによる利害の不一致など解決が難しいことの一端が窺える。 〔桜井 敏浩〕 


〔『ラテンアメリカ時報』 2009年春号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕 

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21 世紀ラテンアメリカの左派政権:虚像と実像

遅野井茂雄・宇佐美耕一編  アジア経済研究所 2008年11月 347頁 4,300円+税

21 世紀に入ってラテンアメリカでは左派政権が数の上では主流になった。ここで「左派」というのは、伝統的な左派政党、民族主義とポピュリズム、農民運動や先住民運動等の社会運動にそれぞれ起源をもつ政権を意味するが、現代ラテンアメリカの左派政権はチリ、ブラジル、ペルー、コスタリカといった穏健左派と、キューバ、ベネズエラ、ボリビア、エクアドル、それにアルゼンチンの急進左派に二分できる。

本書はラテンアメリカ全体の左派政権登場の新たな波についての解説とともに、これら9カ国の政権の成立の背景と基盤、その社会、経済、外交政策、課題を、それぞれの地域専門家が分析したものである。

左派政権が多数出現したのは、一向に解消されない貧富の格差や、1990 年代の新自由主義への反動、強大な米国への反発といわれているが、大統領選挙時やその後の言説と実際の政策との間には各国で差違があり、上記二分法では収まりきれない多様性があることが分かる。一人歩きした観がある「左派政権」という虚像に対し、それぞれの国の事情を背景にした現代ラテンアメリカの諸問題の実像を知るために適切な解説書である。〔桜井 敏浩〕

                    

〔『ラテンアメリカ時報』 2009年春号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行〕 

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「もうひとつの失われた10 年」を超えて―原点としてのラテン・アメリカ

佐野 誠  新評論 2009年2月 299頁 3,100円+税


日本はバブル経済収束の経済金融政策の誤りから生じた1990年代の失われた10 年に続いて、1980 年代以来の経済自由化、規制緩和、「小さな政府」推進という構造改革によりさらに失われた10 年を過ごしつつあるが、こういった問題の究極の原点は1970年代以降のラテンアメリカが経験してきたことにみられるとの認識を著者はもつ。

構造改革は何をもたらしたか? という観点から、新自由主義改革より大量失業を生じ雇用対策に追われたアルゼンチン、グローバリゼーションの荒波に翻弄されたフジモリ政権下での小零細企業の経験を、現地調査による事例をまじえて分析している。さらに新自由主義とポピュリズム、ブラジルのレアル・プランに見られる「社会自由主義」の開発パラダイムを比較分析した後、ラテンアメリカからアジアに至るまで広く適用されたIMF モデルを批判し、1970 年から90 年にかけて主要国で実施された労働改革-雇用の柔軟化の理論と現実に近年のラテンアメリカの左傾化の一因を見、経済自由化と通貨・金融政策による資本流入のマクロ経済への負の効果までを解析し、新自由主義とその補正に因る「政治的景気循環」サイクルを批判している。

前書『ラテン・アメリカは警告する「 失われた10 年」を超えて―ラテン・アメリカの教訓』(内橋克人・佐野誠 新評論 2005年)に続くもので、新自由主義サイクルの罠にはまり「低開発」社会への道を迷走する日本や先進工業地域と、膨大な農村の貧困地域を抱える中国のブラジル化、そしてアジアの格差拡大など、これら東アジアの「ラテンアメリカ化」を警告する。 〔桜井 敏浩〕                    

〔『ラテンアメリカ時報』 2009年春号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行

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