33カ国リレー通信 <第4回 ブラジル>

 

今度こそ日伯経済関係の再構築なるか?

―第12回日本ブラジル経済合同委員会参加私感−

桜 井 敏 浩


    
1.低調だったここ数年の経済合同会議
 

日本経済団体連合会とブラジルのCNI(全国工業連盟)との間で、ほぼ隔年の頻度で経済合同会議が開催されている。今年は3月6日にサンパウロにおいて第12回会合が開かれ、その後日本経団連ミッション(団長:槍田松瑩 日本ブラジル経済委員会委員長、三井物産社長、副団長:西松 遙 日本航空社長)はブラジリアに赴き政府要人と会談、さらに世界第4位でカナダのボンバルディアを凌ぐ勢いを見せているブラジルの小型旅客機メーカー エンブラエールを見学した。

筆者は1992年以降2005年まで、ブラジルでのいわゆるナショナル・プロジェクト投資会社に勤務していたこともあり、これまで開催されたこの会議の約半数に参加したことになる。ここ数回を振り返ると、1980年代のブラジルの”失われた10年”に続く日本の約15年間におよぶ経済不況によって、低下し続ける両国間貿易の比重と日本の対ブラジル投資傾向が、如実にブラジル官民の対日関心の低下を招き、明らかに「期待されていない日本」という感が拭えなかった。”左派”と目されていたルーラ政権発足直後にサンパウロで開催された2003年3月の第10回あたりから、ブラジル側が米国の主唱するFTAA(米州自由貿易協定)に対抗すべくEUとともに日本もFTAの候補として考えるようになり、日本側も進出企業の中からFTAを望む声が出てきたこと、バイオ燃料エタノールの対日輸出の可能性への期待が高まってきたことが、それまでとは少し違ってきたかもしれない1

続く2005年5月の第11回は、前年9月の小泉首相のブラジル訪問に応えたルーラ大統領の訪日に同行したブラジル経済人を迎えて東京で開催され、ブラジルのエタノール関係者による熱心なプレゼンテーションが印象的だった。しかし、そもそも前年5月にルーラ大統領は500人超のブラジル経済人を引き連れて、日本を差し置いてアジアへの初めての外遊で中国を訪問している。このことに見られるように、巨大な市場、特に鉄鉱石や大豆に代表される資源の大口バイヤーとして躍り出、さらに同年11月の胡錦涛主席のブラジル訪問時に30余の対ブラジル投資を約束した中国に対する官民の”中国ブーム”に比べれば、会議参加者の数や顔ぶれも著しく差がついたのは当然だった。

2.予想外の盛り上がりを見せた今回会合

実は今回も私個人としては、これまでと同じように表面的な議論で終わると予想し、そう期待をもっていなかったというのが正直なところだった。事前に準備された「共同ステートメント案」を見た時も、”目玉”はFTA だけで、付属文書案は日本側がブラジルの投資阻害要因である”ブラジル・コスト”を指摘し、ブラジル側は日本の農牧産品や労働集約的な製品に対する関税・非関税障壁の引き下げ・撤廃を求めるという、従来のそれぞれの主張パターンを大きく超える内容ではなかった。日本とブラジルとのFTAについては、現状ではブラジルはメルコスールとは別に単独で結ぶことは出来ない。日本側にしても、ブラジルだけでも農牧産品等の問題がある上に、メルコスール全体相手ではさらにセンシティブな課題が増大することもあり、交渉中ないし交渉予定のアジアなどに比べて必ずしも機が熟しているとはいえないからである。

しかし、3月6日に会議が始まると、この予想は大きく外れていた。参加者は日本側が約90名、ブラジル側と合わせると約440人と、ここ数年の倍近い参加者があった。数の多寡だけではなく、来賓のフルラン開発商工相やゲジス農務相の挨拶はじめ、4つのセッションにおける日本・ブラジルそれぞれのスピーカーのスピーチが熱の入ったものであった。もとより日本経済がやっと長期停滞を脱して成長の軌道に乗り、ブラジル側も第二期ルーラ政権が発足し1月のPAC(成長加速インフラ整備計画)発表に見られるように、他のBRICs諸国と比べ唯一の弱点であった低成長から高成長への転換の方向に踏み出し、互いに市場、投資元として期待が高まってきたという背景がある。その意味でもタイミングの良い時期の開催となったのだが、それ以上に日本側のスピーチの多くが、ビジネスの実績や計画、検討過程にある具体的な裏付けがあるため説得力があり、ブラジル側にもそれに対応する姿勢があって、互い真摯に貿易と投資の拡大を図ろうとしていることがひしひしと感じられたのである。


日伯経済合同会議070306PICT0347_600.JPG (37866 バイト)

       

3.日本・ブラジル経済関係再構築の実感

会合では双方からFTAに言及は何度かあったものの、主に強い印象を与えた話題はエタノールとブラジルの対日工業製品輸出だった。この3、4年ブラジルは日本に幾たびもエタノール売り込みミッションを派遣していたが、日本側はまず石油業界がエタノールのガソリン混入には末端のガソリンスタンドを含め流通インフラ整備に約3,000億円の投資が必要になると反対した。日本政府も環境問題配慮と業界主張のいずれを優先させるかの態度を保留したまま時間だけが経って、最近ではなかば諦め気味になったと聞く。しかし近年、日本各地でエタノールの製造、混入試験使用などが行われ、石油業界も添加剤(ETBE)へのエタノール使用案を示すなど、もはや方法、比率はともかくエタノール導入は時間の問題であり、日本がかなりの量のエタノール輸入を開始することがかなり現実味を帯びてきたといえる状況に大きく変わってきている。

また、昨年6月のブラジルの地上波デジタルTVでの日本方式採用に続き、直前には日本航空(JAL)のエンブラエール機購入決定があった。ブラジル側にいわせれば、ブラジルの輸出は3割が資源、7割がもはや工業製品であるのに対し、対日輸出の7割が資源、3割が工業製品という構造であり、これが両国間貿易の拡大を阻害しているという。JALがエンブラエール機の購入を決めたことは、日本が他国と同様にブラジルの工業製品輸入を増大する皮切りになりそうだという期待から、我々の予想以上に評価が高かった。

そして、もう一つの要因は、ブラジルの中国への過大な期待の見直しではないかと想像された。中国の対ブラジル投資約束で進展したものがごく一部に留まって全般に一向に進展せず、またその建設を中国側がほとんどを行い、ブラジル企業が絡み対等のパートナーとして関与する余地が少ない。これらが明らかになるにつけ、「日本は意志決定に時間がかかるが、一旦決めれば必ず履行する”信頼出来る真のパートナー”」という認識が高まってきたことも挙げられよう。

言葉を換えていえば、これまでの両国経済関係再構築のかけ声は”金の切れ目が縁の切れ目”だったがゆえに迫力を欠いていたが、今回は投資等案件がかなり具体的な浮上していることを窺わせる状況になったことが、盛り上がった原因だと実感した次第である2

4.重要なのはフォローアップ

とはいえ、これで日本・ブラジルの経済関係は再構築の方向に歩み始めたと楽観視することは出来ない。エタノールにしても、導入が確実視される雰囲気だとはいえ、すでにエタノールの確実な供給のために具体的にブラジルでの製造設備投資を展開しようとしている日本商社からも、「日本政府は早くエタノール導入の基本方針を決定し、その数量、実施時期を明らかにしてくれないと、民間企業では投資のリスクに耐えられない」との意見が強く出されている。周知のように、このところ米国がエタノール使用の拡大政策を打ち出しているが、すでにブラジルのエタノール輸出先の51.2%(2006年)は米国となっている。世界有数のエネルギー資源の輸入国になりつつある中国は、当然エタノールを本格使用する方向にあり、もし日本がその導入決定時期を徒に遅らせると、米国や中国にブラジルはじめ世界のエタノール供給源を押さえられかねないとの焦燥感をもつのは筆者だけではあるまい。

しかし、上記の議論は決して従前からのブラジル・コスト改善の要望を軽視するものではない。ブラジルが知的財産保護に後れを取り、中国製二輪車や部品のコピー商品の氾濫を放置していることは、技術移転を妨げ投資意欲を阻害するのでブラジル当局の管理強化と特許訴訟の迅速化が必要であること、OECDのガイドラインに沿わないブラジルのTP(移転価格税制)についての両国の税務当局による事前承認制度の適用、租税負担率の引き下げ、労働法の弾力化、法的安定性などを早急に改善する必要があるといった、具体的な事例を挙げたホンダの代表による指摘は、まだまだ投資拡大を阻害する問題があることをあらためて認識させた。

槍田団長も閉会挨拶で述べたように、2008年の日伯交流年を前に今後ますます経済交流が盛んになることを確信出来た今回会合であった。しかし、従前の会議がややもすると報告書を出して一件落着という観があったが、あらためて日本とブラジルの経済関係を再構築し実効あるものとするには、矢継ぎ早に投資や貿易促進ミッションの相互派遣、双方の投資・貿易を阻害する要因の縮小策の具体的実現などのフォローアップを行わなければならない。せっかくの盛り上がり気運も一過性のものに終わりかねないもろさがあることは依然否めないのである。

1 第9回の模様については、拙稿「日本ブラジル経済合同委員会と我が国の対伯経済関係の再構築」『ラテン・アメリカ時報』(社)ラテン・アメリカ協会発行 2000年12月号掲載、
http://www.bizpoint.com.br/jp/reports/sakurai/sk14_00.htm
に収録。
第10回については、「新たなパートナーシップ構築への模索」同誌2003年4月号掲載、
http://www.bizpoint.com.br/jp/reports/sakurai/sk17a_03.htm
参照。

2 会議の各スピーカーの発言は、ブラジル日本商工会議所のHPに詳しい要旨がある。
http://www.camaradojapao.org.br/japanese.asp

 

(さくらい・としひろ 徳倉建設株式会社特別顧問、拓殖大学政経学部講師。(社)ラテン・アメリカ協会理事)

※本所見は、筆者個人が感じたままを述べたものであり、日本経団連ミッションや筆者の勤務先の見解ではない。


ブラジルの主要貿易相手国(2006年)

輸     出

輸     入

  輸出額 2006/05 割合   輸入額 2006/05 割合
百万ドル % % 百万ドル % %
米  国 24,679

9.4

18.0

米  国

14,850

16.5

16.2

アルゼンチン 11,714 19.1   8.5 アルゼンチン 8,057 30.1

8.8

中  国 8,399 23.9 6.1 中  国 7,989

50.4

8.7
オランダ 5,744 9.6 4.2 ド イ ツ 6,503

6.7

7.1

ド イ ツ 5,675

13.9

4.1

ナイジェリア

3,885

47.7

4.3

メキシコ 4,440 10.1 3.2 日  本 3,839

13.7

4.2

チ  リ 3,896   8.7

2.8

韓  国

3,106

34.5

3.4

日  本   3,884 12.6   2.8 チ  リ 2,908

67.9

3.2

イタリア 3,839 19.7 2.8 フランス 2,837

5.9

3.1

ベネズエラ 3,555  61.7

2.6

イタリア

2,570

13.8

2.8

ロ シ ア 3,443  19.0 2.5 アルジェリア

1,976

29.6

2.2

ベルギー   2,994  40.8   2.2 台  湾 1,749 33.3 1.9

出所”Balança Comercial Brasileira −Datos Consolidados”Janeiro-Dezembro 2006 ブラジル開発商工省



【『ラテンアメリカ時報』 2007年春号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行】


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