ブラジルでも大いに盛り上がっている「日本人移住
100周年」
    
   
桜井 敏浩((社)日本ブラジル中央協会)


  
今年は、最初のブラジル移民がサントス港到着した時からちょうど
100年になる。日本・ブラジル両国政府間で、これを祝って2008年を「日伯交流年」とする合意がなされ、この一年間両国でさまざまな行事が催される。実はこのブラジル日本人移住100周年を「日伯交流年」としたのは、世界各国からの多数の移民で構成されているブラジルが、人口としてはわずか0.8%にすぎない日本人の移住だけを公式に祝うことは出来ないとする建前もあったようだ。事実、はるかに数の多い欧州の出身国の移住周年行事をブラジル政府が公式に取り上げた例はなく、そこで移民史の節目というだけより、これからの交流促進と関係強化を目指すものにしようという発想から、「日伯交流年」が実現したようである。

 
日本でもこのところ新聞やテレビの特集などで、しばしばブラジルについての記事を見かけるようになり、これに合わせて両国で記念切手、貨幣も発行され、日本でも主要都市での経済その他のシンポジウムの開催、図書や各種団体機関誌の記念特集出版から、音楽交流フェスティバル、サンバやボサノバや先住民音楽公演、クラシック音楽コンサートなどなど、ブラジル文化にふれたいという者にとってもまたとない機会に恵まれた一年だ。(まずは「日伯交流年実行委員会」のサイト
http://www.nippaku2008.org/ のイベント・カレンダーでチェックを!)
  
では、多民族国家であるブラジルでは数ある移民出身国の周年祭は日常茶飯であり少数勢力である日本人の移住
100周年などは日系社会だけが盛り上げようとしているだけで、多くのブラジル人はまったく無関心かといえば、実はそうではない。日本にいてはなかなかブラジル関係の報道・情報が少ないので、ごく一部の関係者しか知らないことなのだが、ブラジルの大手新聞、有力週刊誌(Veja等の、日本の週刊誌のレベルよりずっと高く、政経・社会・文化の広範なテーマを深く分析する優れた内容のものがある)、テレビやラジオで、この昨年後半から次々に日本人移住100周年を記念した特集、特別番組が見られ、われわれの予想よりはるかに多くのブラジル人が日本人の移住が始まって100周年であることを知っている。単に日本人移住の歴史や初期の移住者たちの体験だけに留まらず、日系人の存在がブラジル社会に及ぼしている影響、農業、製造業、商業、学術、医療、絵画・彫刻等の芸術など広範な功績、それらの背後にある日本文化の特質などについて、多くの誌・紙面、放映時間を割いているのである。

これには、何といっても長年日系移住者たちが勤勉さ、優秀さ、特に子弟教育面での努力などによって、人口比の割りには多くの人材を出していることに因るが、もう一つブラジルで日系人の代名詞ともいわれる”Japones Garantido”という一般的な評価があることも忘れてはならない。文法的にはともかく「保証付き日本人」という意味で、これは日本人が勤勉で真面目、正直であるため、ブラジル社会で高い信用を得てきたことを表す、日系社会で誇りをもって使われている言葉だが、今ではブラジル人の多くにも知られている。こういった日系人への評価が、その背景にある日本の特質とともにあらためて見直されている。
   
例えば、ブラジルで代表的な新聞のひとつで、34日の紙面10頁を割いて特集を組んだオ・エスタード・デ・サンパウロの『細い目のブラジル』では、日本人が如何に野菜や果物栽培によりブラジル人の食生活を多彩なものにしたか、ブラジル人が農業を諦めていた不毛のセラード地帯の開発に貢献し、世界有数の農業地帯に変えたかなどを紹介しているが文化面のブラジル太鼓協会の和太鼓演奏活動の紹介は、文化の違いからブラジル人が和太鼓を学ぶ際に困難がつきまとうこと、太鼓の起源が洞窟に身を隠した天照大神が太鼓の音楽や踊りに惹かれて顔を覗かせたところ、力自慢の須佐之男命が戻れぬよう入口に巨石の蓋をしたという天の岩屋伝説と混同されているということにまで触れている。また、漫画・アニメを読むために日本語を学んだブラジル人、日本の漫画の発行やアニメの放映、表参道ヒルズで3日間にわたって開催されたブラジル・ファッション・ナウの成功、東京でも取り扱い店舗を拡大させているAlexandre Herchocovitchをはじめとするデザイナーなど、世界で注目されてきたブラジルのモード産業の日本市場への参入も紹介している。今や世界語になってきた”カラオケ”はブラジルでも例外でなく、サンパウロでは日系人だけでなく日本と関係のない多くのブラジル人にも楽しまれているという。
   
もとより、こういった文化だけでなく、1960年代後半からウジミナス製鉄やアルブラス・アルミ製錬、セニブラ紙パルプ、カラジャス鉄鉱山などの鉱工業と資源開発に日本は大きな役割を果たした。つまり、今日のブラジルの経済発展、世界的な資源需要の高まりで潤っている鉄鉱石、アルミ、パルプなどの資源輸出の多くは日本の投融資と技術で実現し、一方でそれらによって日本のアルミやパルプの1割近くをブラジルから輸入していて、ブラジルでも輸入量を急増させている中国の存在感が増しているが、識者の間では高度な技術を提供してくれる日本との関係の重要性を、あらためて指摘する声も多い。
  
また、これまで長くブラジルから資源・食料を輸入し、日本から工業製品を輸出するというパターンだった貿易関係が近年変化しつつあり、近い将来さらにブラジルからも高度な工業製品やソフト産業関係が日本に入ることが予想される。例えば、来年初めにJALが地方間路線に投入する小型ジェット旅客機は、ブラジルのエンブラエール社製だ。ボーイング、エアバスという二強の中大型機より小さい70100人程度の小型機市場で、カナダのボンバルディアを追い抜きそうな勢いをみせている、世界第4位の製造メーカーがブラジルにあることは、日本ではあまり知られていない。IT産業もブラジルはインドと同様国際的に認められるようになってきた。大統領選挙の投票をとっくに電子化し、アメリカのブッシュ、ゴア候補の獲得票集計に1ヶ月以上の時間をかかったことを嘲笑うブラジルだが、特に広大な全国に展開する金融システムは日本のそれより数段優るといわれている。上記のファッション産業も衣類だけでなく、Havaianas ブランドのビーチサンダルは、たかが鼻緒のゴムサンダルだが、日本でも小売り値は3000円から1万円近いものまである高級履き物として、世界のトップモデルや映画スターにも愛用される国際商品になっている。ちなみに、その起源は初期に日本から来た移民が履いていた草履だったというのだが。
  
近年のブラジルの変化の一端しか紹介出来なかったが、まさしく「日伯交流年」の意図でもある「新たな100年の始まり」につながることを大いに期待したい。
   

〔"オーラ!アミーゴス">No.58 2008年8月 日本ラテンアメリカ文化交流協会 掲載〕

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記事写真提供
在ブラジル日本大使館・
在リオデジャネイロ日本総領事館広報文化センター
         

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